柳瀬 |
山形さんが訳された
ローレンス・レッシグ著の
インターネット上の知的著作権に関する本、
『CODE』『コモンズ』(どちらも翔泳社)が、
両方とも、ものすごくおもしろかったんですよ。
著者のレッシグって、まだ若いんですよね? |
山形 |
40代に、なってるか、
なってないかというぐらいです。 |
柳瀬 |
そっかぁ‥‥我々と変わらない世代なんですね。 |
山形 |
ええ。 |
柳瀬 |
すごい。
レッシグの、サイバー系に対する
豊富な知識って、どこから来ているんですか。
もともと、ロースクール系の人ですよね?
法律が専門の。 |
山形 |
ええ。
一生懸命、自分で吸収しているとは思います。
それに、好きなんでしょうね、やっぱり。 |
柳瀬 |
レッシグ、いま、日本にいらしてるんですね。
コミケ(コミックマーケット)に行かれてるとか? |
山形 |
アメリカの著作権法では、
パロディ系のコミックは
すべて著作権法上は違法になります。
日本でも、もちろん違法ではあるんですが、
大目に見られている。
この「大目に見られている」ということに、
日本のマンガ文化の
魅力の一端があるはずだと‥‥。 |
柳瀬 |
なるほど。
アメリカではコスプレパーティーはあっても
コンテンツをみんなが持ちよって
あんな晴海の大きな会場で
即売会をやるなんて、ないですもんね。
さて、本題に入ります。
今回は、2003年のはじめの
「ほぼ日・留守番番長」を、
わたくしがおおせつかりまして‥‥で、
まあ、日経グループで禄を食んでいることもあり、
「一日だけ、ほぼ日を経済新聞にしよう」と。
で、そのなかの「書評コーナー」として、
ここでは、この1年、経済・社会関係の本で
もっとも面白くかつ重要な内容について
記された本だと思うこの『コモンズ』の翻訳者の
山形さんにご登場いただき、
著作権と創造性、市場と規制、
そして「自由」についての問題を、
ぜひ「腑分け」してもらおう!
‥‥というのがもくろみなんです。
実は、
ほぼ日の読者には
じつは、「経済」だとか「科学」に対する
『知的好奇心』が高い人々が多いのではないか?
とぼくは推測しているので、この話は、
きっとたのしんでいただけるのではないか
と思っております。
そこで、『コモンズ』という本を
まずはざっくり、
山形さんにご紹介していただきたいんですけど。 |
山形 |
もともとの英語のタイトルは
「アイデアの将来」となっているのですが、
本人も実際英語版のタイトルも
『コモンズ』にしたいと言っていましたから、
たまたま、日本語タイトルがうまく決まりました。
世の中には、
昔なら自由に使えた資源というものがあって、
"コモンズ"というのは、公園だとか空き地だとか、
そんなようなものです。
人が犬を散歩させたり、勝手に使ったりと、
そういうところがあることで、
社会全体が豊かになった面がある‥‥。
許可を得なくても、
いろんなことをすることができる。
そういう話を拡大したのが
この『コモンズ』という本なんです。
いま、知的財産がどうしたこうしたという話が
あちこちに出ています。
違法コピーがいけないだとか、
何をしてはいけないとかいう主張がありますが、
誰でも自由に使えるものが
世の中にあるということは、
実はけっこう便利なものなんです。
いちいち許可を取らなくても
いろいろなことができるということは、
けっこう、よいことなんだというのが、
この本の基本的な話です。
「本書の議論は、いつでもどこでも、
フリーなリソースが
イノベーションや創造性にとって
きわめて重要だった、というものだ。
そしてそれなしには、
創造性はゆがめられてしまうというものだ。
(『コモンズ』p.32より)」
一方的にいろいろなことを
しめあげようという世の中の風潮は、
よろしくないのではないか、という話ですね。
特に、インターネット上の著作権の
保護のしすぎは、まずい、ということです。 |
柳瀬 |
著者のレッシグ氏が
こういう本を書くということは、
アメリカでは、すでに、さまざまなかたちで
「著作権」だの「特許権」だのを
強化していこうという
方向になっているわけですか。 |
山形 |
著作権法をのばそうだとか、
コピーガードを排除することも
違法にしようだとか、
コピーガードがどういう仕組みかを
調べるだけでも違法にしようだとか、
異様な締めつけが増えてきているというのが、
背景にあります。 |
柳瀬 |
たしかに本書の話を読んでも驚きですよね。
あらゆるモノの著作権が幅を利かせてるから、
アメリカでは映画も自由にとれなくなっている。 |
山形 |
画面にちらっと
「某有名清涼飲料水」や
「某有名キャラクター」が出てきただけで
「著作権料よこせ! 無断で使ったら訴えるぞ!」
っていうのがもはや実話としてあるわけです。 |
柳瀬 |
となると、
看板だらけの街角でロケをすると
エライことになりますね(笑)
要は、あらゆる商品の
「既存の著作権やアイデアを持っている人」
が、自分の
「俺がこの商品を考えついたんだ!
だから勝手に使うな!
使うんだったらカネよこせ!」
という権利を守りたいというのが、
その締めつけのベースなんですか? |
山形 |
当然、そうですね。
この中では、そういう人たちを総称して
「ハリウッド」と呼んでいますけれど、
まぁ、そういう人たちです。
例を挙げれば、
ミッキーマウスを独占的に使いたいだとか‥‥。
今の著作権法は、一定期間が過ぎれば、
みんなが使えるようにしようとなっています。
「なぜそうなっているのか?」が、
実は大切な問題なんですけれども、
ともかく、そうなっていて、しかし、
そろそろ期限が切れるぞと思った瞬間に
「あと20年、のばそう」という話になるんです。 |
柳瀬 |
そうか。
それにしても、
「ハリウッド」って力があるんですよね。
レッシグの話では、
もともと著作権の有効な期限が
50年だったものを、
どんどん延長して
80年や90年にしたり……議員を動かして、
法律を変えてしまっているわけですというのだから。 |
山形 |
そうです。
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