このことばは、斎吉商店の和枝さんが、
新聞で読んだどなたかの挨拶にあった文章から引用して、
書き写したものなのだということですが、
ダーウィンの『種の起源』の翻訳者の方から
以下のようなご指摘をいただきました。

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はじめまして。翻訳業を営んでおります。

「最も強い者が生き残るのではなく、
 最も賢い者が生き残るのでもない。
 唯一生き残るのは変化するものである」

という言葉自体は素敵だと思います。
文章の主旨にもとてもマッチしていて感動的です。
ただ、一つ問題があります。
『種の起源』にそういうくだりは ないのです。
ダーウィンの主張とも微妙に合致しません。

ダーウィンの説は、後世、
主として権力者に曲解、悪用され、不幸な結果を招いています。
曲解の最も重大なポイントは、
「進化」を「良いこと」と解釈することです。
ダーウィンは、どの生物が良くて、どの生物が悪い、とは言っていません。
「たまたま生じた変化がその生物を有利にすれば、その変化は保存される。
 その結果、長い時間が経つと生物は多様化していく」と言っているだけです。
「唯一生き残るのは変化するものである」は、警句としては素敵ですが、
生き物(人間)に優劣をつけたい人に曲解、悪用される隙のある言葉です。
進化論が優生学を唱えた人たち、ユダヤ人を差別したナチスなどが
思想の基盤として悪用する時にも、そういう曲解が行われました。

それはダーウィンの本意ではないでしょう。
なので、この言葉がダーウィンの言葉として
紹介されてしまうのは大変困ったことです。

単に、「誰が言ったかしらないが、そういう警句がある」
ということで紹介されるのなら、まったく問題はないと思うのですが…
言葉に力があれば、ダーウィンという権威の力を借りる必要はないでしょう。

この警句はすでに広まってしまっていますし、
ダーウィンの言葉だと誤解している人がすでに多くいますから、
どうして欲しい、ということは言うつもりはないのですが、
ただ、発信した側の人たちには知っておいていただきたい、
と思ってメールを書きました。

※お名前や挨拶の部分、表記など、
 最低限の編集を加えさせていただきました。
(2012年6月1日 17:30 ほぼ日編集部)