糸井 |
横尾さん、どうも、こんにちは。 |
横尾 |
いま、大雨だったでしょ? |
糸井 |
いえ、ぜんぜん。 |
横尾 |
ぼくがここ(世田谷美術館)に着いたときは
大雨で、落雷で、すごかったよ。
もうちょっと前に着いてたら、
さなかだったのにね。
じゃ、さっそく絵を見て回りましょうか。 |
糸井 |
お願いします。 |
横尾 |
まず、この展覧会で唯一、
気に入らないところが
いちばん最初にあります。
見て、あの矢印を。
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糸井 |
あっち向いちゃってる、ってことですか?
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横尾 |
あれじゃあ、お客さんが
向こうに行っちゃうでしょ?
入り口は2階なんだから、
矢印が真上に向いてれば
階段を上がる気になる。
どうしてあんなことになったのか。
あそこがこの展覧会の唯一の欠点です。
ほかに汚点は一切ないのに。
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糸井 |
(笑) |
横尾 |
じゃ、行きますよ。 |
糸井 |
うわぁ‥‥!
こりゃ、たいへんだ。
最初っからこんなにいっぱい
絵があるんですか?
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横尾 |
これで終わりじゃないですよ。
これからもっといっぱいあるんだからね。 |
糸井 |
おもしろい!! |
横尾 |
糸井さん、その距離じゃ、
このおもしろさは見えないよ。
もっと、ほら
絵のほうに寄ってみて。
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糸井 |
‥‥‥‥これは、
ルソーの絵の模写、というか
オマージュなんですね。 |
横尾 |
元のルソーの絵を小さく展示しているので、
見比べてみてよ。 |
糸井 |
見比べます。
(ルソーの絵と横尾さんの絵を見比べる)
ええっと、ここがなくなって、
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横尾 |
ああ、そんなことやってると時間かかる! |
糸井 |
‥‥どうすりゃいいんだよ(笑)。 |
横尾 |
この絵のどこがどうなってるか、
パッと見て、わからないかな。 |
糸井 |
横尾さん、こういう人が、この前
僕の家の近所でつかまってましたよ。
つまり、ズボンを履いてない人が。
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横尾 |
そういうふうに
批判的に見ないでくださいね。 |
糸井 |
批判じゃありませんよ。 |
横尾 |
色の特徴に気づかない?
これ、全部2色で描いたんだよ。
どの絵も2色。
この絵は青と赤で描いたの。
黒い部分は、2色を
何度も何度も塗って、出したんです。
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糸井 |
‥‥それは、聞かなきゃわかんなかったですね。 |
横尾 |
見てわかってもらわないと。 |
一同 |
(笑) |
糸井 |
すごいですね。
しかし、横尾さんですからね、
嘘もついてると思います。
2色を基本にしてるってだけで‥‥ |
横尾 |
なに言ってるの、2色だよ。
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糸井 |
ムキにならずに。 |
横尾 |
このとき使ったブルーは、
スカイブルーのなかでも
濃いブルーなんです。 |
糸井 |
よし。 |
横尾 |
よし?
その、もともとの濃いブルーに
赤をかけると、茶色ができるわけ。
そのかけ方と重ね具合は
錬金術ですよ。 |
糸井 |
‥‥だって、緑があるじゃないですか。
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横尾 |
これは、緑じゃないの。
緑に見えてるだけなんだよ。 |
糸井 |
‥‥ほんとだ!
ちょ、ちょっと‥‥うわぁ、そうだ!
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横尾 |
ルーペで見ても
緑はどこにもないわけ。
もともとのスカイブルーの色も、
この絵の中には見つからないし。 |
糸井 |
横尾さん、これはほんとにすごいですね。
そんなことに
感心させたいわけじゃないんでしょうけどもね。 |
横尾 |
いやいや
そこに感心させたいわけ。
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糸井 |
いやあ、これは、
すごいものがはじまった。
これは、見るのにそうとう
時間がかかるよ。
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(続きます!) |