島根県にある島の 海士町(あまちょう)という町の 総合計画をつくることになって、 うちのスタッフのひとりがずっと 駐在していたことがありました。 境港からフェリーで 4時間くらい北上する離島です。 |
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島の町の、総合計画づくり。 |
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そこでも、島の人たちに集まってもらって、 「みんなでワークショップをやりながら これから先10年の計画をつくりましょう」 ということにしました。 人口2300人の島のうちの 100人くらいの人に参加してもらって。 |
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すごいね。 |
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みんなで話していって、総合計画のタイトルを 「島の幸福論」というものにしたんです。 これは、 「島のわたしたちならではの幸福から いろんなことを考えていこう」 という意味なんですね。 なぜそのテーマにしたかというと、 あるときみんなで、 「島の幸福と都市の幸福って、 ちょっと違うんじゃない?」 という話をしたからなんです。 もう、おもしろくて(笑)。 |
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あ、おもしろかったんだ。 |
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ええ。話して整理して、 違いがはっきりと見えてきたんです。 たとえば、 海士町の人から見る東京や大阪の人って 「学歴高いよね」というふうに 見えるそうなんです(笑)。 「どうしてあんなに大学卒の人が多いんだろう」 というのが、島の人たちにとっては謎。 「なんでそこまでするんだ?」 「中学卒で何の不都合があるのか、わからない」 と。 |
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いいですね。 |
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そのまま彼らに話してもらっていると、 「たぶん、すこしでも良い職場に入って すこしでも所得をあげたいんじゃないか?」 「それはわかる」 というふうになってくる。 |
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ええ、ええ。 |
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「でも、なんでそんなに たくさん金がいるんや?」 「ちょっとでも安全な場所とか、 自然がある場所に住みたいんちゃうか? そのために金がいるんじゃないか」 「‥‥そらそうだろうなあ!」 というようなことになったりして。 |
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うん、うん。 |
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でも、 「じゃあ東京の人って広い家に住めてんのか?」 「あんまり広くないらしい」 「自然はあんのか?」 「あんまりないらしい」 「安全か?」 「物騒らしい」。 そういう話になって、 みんなで結局 「‥‥ようわからんなあ」って。 |
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はははは。 |
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海士町の人から見ると都市部の人たちは 「いろいろなところで、 自分たちと価値観のまったく違う人たち」 です。 |
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はい、はい。 |
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そして、ひるがえって 海士町はどうかいうと‥‥まず、家は広い。 家賃2万円くらいで一軒家を借りられるし、 自然はとにかくたくさんある。 そうとうに安全、安心で、 車を停めた時にキーを抜くと、 怒られるほどです。 「車のキーは抜くな。差したままにしとけ。 何かあったとき誰が運転するんだ」 と言われる(笑)。 どうせ車を盗んだって、次のフェリーまで 島の中にいなきゃいけないですからね。 |
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はぁあ、すごいな。 |
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そんな海士町の総合計画をつくるんだったら、 「所得を伸ばす」とか「学力を上げる」とか 都市の幸福みたいなことを目指す計画では だめでしょう。むしろ、 「自分たちが手に入れているものを 抜群に活かして、 他の地域がうらやむような生活を どんどんやってったらいいんじゃない?」 ということを、 総合計画の基礎にすることにしたんです。 だから「島の幸福論」。 その計画をもとに 行政とともに具体的な計画をつくって、 いま、彼らは動き出しているところです。 |
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ああ、おもしろいですねえ。 |
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島でも都市でも、 それぞれ長所と足りないところがあります。 もちろん地域によってさまざまでしょうけど、 「どうつながると、双方にとって幸せか」を いまの時代は模索しているんじゃないかな、 という気がしています。 |
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まったくそう思います。 ぼくがいま、さかんに考えているのは 「交流」ということなんですけど‥‥。 |
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ああ、わかります。 |
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数ヶ月前、山形の芋煮会に行ってきたんです。 畑の真ん中にテントが立ってて、 車を停めるところがなくて、 手前で車を置いて歩くか、 あぜ道に列で停めるかしないと いけないような場所です。 そこまで芋煮を食べにいって、 おみやげのリンゴジュースなんかを買ってるのは 都会の人たちです。 |
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うん、うん。 |
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パンフレットのデザインなども よく考えられていて 都会の人が見て「いいな」と思うようなものに してあったり、 芋煮以外にも、都会から来た人が 「ほしいな」と思いそうなものを 一緒に販売していたりします。 そうやって、ちゃんと都会から 人を呼んでいるんですよね。 地域と都会をうまく交流させている ひとつのモデルケースだなあ、と思いました。 |
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へえ。いいですね。 |
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この芋煮会が、 利益を出しているかどうかはわからないです。 でも、すくなくとも、行った人がその後 インターネットで買い物をしたりして、 いくらか循環を活性化させるでしょう。 そのイベントを支えているのは、 ひとりのデザイナーと、 その地域で何代もつづいている ひとりのやる気のある地元の農家なんです。 |
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ああ、その混じりかた、大事だなあ。 |
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その農家のほうには、本当に何代も守ってきた ねっとりとしたサトイモがあるんですよ。 そんなイモ、ほかにないんです。 だからまず「それを食べませんか?」ということで 芋煮会がはじまったそうです。 そしてそこで「米もいいんです」 「お酒もあります」みたいに ほかのいろんな生産物も一緒に並べられて、 全体の生産物が活性化している。 |
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その農家の方と、デザイナーの方、 おそらくどちらも必要なんでしょうね。 デザイン的な部分で効果のある いろいろな事例を知っていて あたらしいことに挑戦しようと思う人は すばらしいんですけれども、 おそらくその人だけで 地域で芋煮会をやろうと思うと けっこういろんな反発もあるし、 難しいんじゃないかと思います。 |
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そう、絶対できないと思う。 |
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やっぱり何代もつづいてるような 地域で信頼を得ている人が 「やる」と言うからこそやらせてもらえる、 という関係性もあるでしょう。 |
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そうなんですよ。 しかもその芋煮会には、いい感じで おじいさんが主催側に混じっているんです。 |
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そういう人が 睨みをきかせることもできるから、ですか? |
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それもあるかもしれないけど、 よそ者がそこに遊びに行ったとき、 「ありがとうございます」と言ってくれる おじいさんと抱き合わないと、 そこに行った感じがしないんじゃないでしょうか。 |
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ああー! そっか。なるほど。 「そこに行った感じ」。 |
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地方では、人口が減っている地域も多くあります。 「新しい商売を考えよう」ということだけでなく、 「人を呼ぼう」というはっきりした意欲があるから そういう形のイベントができるのかもしれません。 「呼んでこないと、うまくいかないぞ」という、 「交流」の重要性に気づいている地域が きっといくつもあるのだと思います。 |
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そうかもしれないですね。 | |
(つづきます。) |
2013-01-15-TUE |