第1回 かたちをつくらないデザイナー


山崎 島根県にある島の
海士町(あまちょう)という町の
総合計画をつくることになって、
うちのスタッフのひとりがずっと
駐在していたことがありました。
境港からフェリーで
4時間くらい北上する離島です。
糸井 島の町の、総合計画づくり。
山崎 そこでも、島の人たちに集まってもらって、
「みんなでワークショップをやりながら
 これから先10年の計画をつくりましょう」
ということにしました。
人口2300人の島のうちの
100人くらいの人に参加してもらって。
糸井 すごいね。
山崎 みんなで話していって、総合計画のタイトルを
「島の幸福論」というものにしたんです。
これは、
「島のわたしたちならではの幸福から
 いろんなことを考えていこう」
という意味なんですね。
なぜそのテーマにしたかというと、
あるときみんなで、
「島の幸福と都市の幸福って、
 ちょっと違うんじゃない?」
という話をしたからなんです。
もう、おもしろくて(笑)。
糸井 あ、おもしろかったんだ。
山崎 ええ。話して整理して、
違いがはっきりと見えてきたんです。
たとえば、
海士町の人から見る東京や大阪の人って
「学歴高いよね」というふうに
見えるそうなんです(笑)。
「どうしてあんなに大学卒の人が多いんだろう」
というのが、島の人たちにとっては謎。
「なんでそこまでするんだ?」
「中学卒で何の不都合があるのか、わからない」
と。
糸井 いいですね。
山崎 そのまま彼らに話してもらっていると、
「たぶん、すこしでも良い職場に入って
 すこしでも所得をあげたいんじゃないか?」
「それはわかる」
というふうになってくる。
糸井 ええ、ええ。
山崎 「でも、なんでそんなに
 たくさん金がいるんや?」
「ちょっとでも安全な場所とか、
 自然がある場所に住みたいんちゃうか?
 そのために金がいるんじゃないか」
「‥‥そらそうだろうなあ!」
というようなことになったりして。
糸井 うん、うん。
山崎 でも、
「じゃあ東京の人って広い家に住めてんのか?」
「あんまり広くないらしい」
「自然はあんのか?」
「あんまりないらしい」
「安全か?」
「物騒らしい」。
そういう話になって、
みんなで結局
「‥‥ようわからんなあ」って。
糸井 はははは。
山崎 海士町の人から見ると都市部の人たちは
「いろいろなところで、
 自分たちと価値観のまったく違う人たち」
です。
糸井 はい、はい。
山崎 そして、ひるがえって
海士町はどうかいうと‥‥まず、家は広い。
家賃2万円くらいで一軒家を借りられるし、
自然はとにかくたくさんある。
そうとうに安全、安心で、
車を停めた時にキーを抜くと、
怒られるほどです。
「車のキーは抜くな。差したままにしとけ。
 何かあったとき誰が運転するんだ」
と言われる(笑)。
どうせ車を盗んだって、次のフェリーまで
島の中にいなきゃいけないですからね。
糸井 はぁあ、すごいな。
山崎 そんな海士町の総合計画をつくるんだったら、
「所得を伸ばす」とか「学力を上げる」とか
都市の幸福みたいなことを目指す計画では
だめでしょう。むしろ、
「自分たちが手に入れているものを
 抜群に活かして、
 他の地域がうらやむような生活を
 どんどんやってったらいいんじゃない?」
ということを、
総合計画の基礎にすることにしたんです。
だから「島の幸福論」。
その計画をもとに
行政とともに具体的な計画をつくって、
いま、彼らは動き出しているところです。
糸井 ああ、おもしろいですねえ。
山崎 島でも都市でも、
それぞれ長所と足りないところがあります。
もちろん地域によってさまざまでしょうけど、
「どうつながると、双方にとって幸せか」を
いまの時代は模索しているんじゃないかな、
という気がしています。
糸井 まったくそう思います。
ぼくがいま、さかんに考えているのは
「交流」ということなんですけど‥‥。
山崎 ああ、わかります。
糸井 数ヶ月前、山形の芋煮会に行ってきたんです。
畑の真ん中にテントが立ってて、
車を停めるところがなくて、
手前で車を置いて歩くか、
あぜ道に列で停めるかしないと
いけないような場所です。
そこまで芋煮を食べにいって、
おみやげのリンゴジュースなんかを買ってるのは
都会の人たちです。
山崎 うん、うん。
糸井 パンフレットのデザインなども
よく考えられていて
都会の人が見て「いいな」と思うようなものに
してあったり、
芋煮以外にも、都会から来た人が
「ほしいな」と思いそうなものを
一緒に販売していたりします。
そうやって、ちゃんと都会から
人を呼んでいるんですよね。
地域と都会をうまく交流させている
ひとつのモデルケースだなあ、と思いました。
山崎 へえ。いいですね。
糸井 この芋煮会が、
利益を出しているかどうかはわからないです。
でも、すくなくとも、行った人がその後
インターネットで買い物をしたりして、
いくらか循環を活性化させるでしょう。
そのイベントを支えているのは、
ひとりのデザイナーと、
その地域で何代もつづいている
ひとりのやる気のある地元の農家なんです。
山崎 ああ、その混じりかた、大事だなあ。
糸井 その農家のほうには、本当に何代も守ってきた
ねっとりとしたサトイモがあるんですよ。
そんなイモ、ほかにないんです。
だからまず「それを食べませんか?」ということで
芋煮会がはじまったそうです。
そしてそこで「米もいいんです」
「お酒もあります」みたいに
ほかのいろんな生産物も一緒に並べられて、
全体の生産物が活性化している。
山崎 その農家の方と、デザイナーの方、
おそらくどちらも必要なんでしょうね。
デザイン的な部分で効果のある
いろいろな事例を知っていて
あたらしいことに挑戦しようと思う人は
すばらしいんですけれども、
おそらくその人だけで
地域で芋煮会をやろうと思うと
けっこういろんな反発もあるし、
難しいんじゃないかと思います。
糸井 そう、絶対できないと思う。
山崎 やっぱり何代もつづいてるような
地域で信頼を得ている人が
「やる」と言うからこそやらせてもらえる、
という関係性もあるでしょう。
糸井 そうなんですよ。
しかもその芋煮会には、いい感じで
おじいさんが主催側に混じっているんです。
山崎 そういう人が
睨みをきかせることもできるから、ですか?
糸井 それもあるかもしれないけど、
よそ者がそこに遊びに行ったとき、
「ありがとうございます」と言ってくれる
おじいさんと抱き合わないと、
そこに行った感じがしないんじゃないでしょうか。
山崎 ああー! そっか。なるほど。
「そこに行った感じ」。
糸井 地方では、人口が減っている地域も多くあります。
「新しい商売を考えよう」ということだけでなく、
「人を呼ぼう」というはっきりした意欲があるから
そういう形のイベントができるのかもしれません。
「呼んでこないと、うまくいかないぞ」という、
「交流」の重要性に気づいている地域が
きっといくつもあるのだと思います。
山崎 そうかもしれないですね。
(つづきます。)
2013-01-15-TUE