ITOI
ダーリンコラム

<週日の昼間のゴーストタウン化。>

これはもう、暴論といえば暴論なのかもしれないが、
ひとつの考え方として、書き留めておこうと思う。

週日(月火水木金)の午前中から夕方までの時間を、
なんとかデザインしなおす
必要があるのではなかろうか。

映画館にしても、デパートにしても、遊園地にしても、
本屋にしても、レストランにしても、
ファッションの店にしても、理容室にしても、
美容院にしても、スポーツジムにしても、魚屋にしても、
週日の昼間は、商売にならないくらい空いている。

しかし、休日の土曜と日曜になると、
週日とはちがって、混雑が激しくて、
入りきれないお客さんたちは、入店をあきらめたりする。

週日の昼間に、店を開けているせいで、
その分だけ赤字になっている店や施設もあるだろう。
また、土日の混雑に対応するためだけに、
特別な雇用システムを
組まなくてはならい例もありそうだ。

ある意味、日本のサービス施設は、
一週間のうちの2日間だけ機能するようにできている。
そりゃ、もちろん、企業努力で
週日の昼間のお客さんを集めるような工夫もしてますよ。
お客さんにとって
コストパフォーマンスのいいランチとか、
さまざまな割引のしくみとか、
仕事になりそうなことは、
せいいっぱい考えていそうだ。
けっこう高級なレストランのランチに、
ある程度お金に余裕のある奥さんたちが、
たくさん集まったりもしている。

夫たちだって、それくらいのランチに出かけるだけの
資金力はあると思うのだけれど、
ゆっくりランチで
おいしいものを食べている余裕がない。
これからの日本は、ソフトで商売をしていくんだ、
とか言われちゃっているけれど、
よく例にでてくる輸出産業の、
アニメにしたってゲームにしたって、映画にしたって、
お父さんたちがそれを遊んで
楽しんだり研究したりするような時間が、
なかなかない。

冗談みたいに、
「日本の文化はおばちゃんとニートが支えている」
なんて言うけれど、冗談とも言いにくい。
だって、「消費」を実践できる現場には、
会社員は近づけないのだから。
週日の昼間から夜まで、ずっと、
会社員たちは会社で「生産」に関わっているのだ。

いまの時代って、「消費」が(つまり市場が)なければ、
いくらたくさん生産できても、仕事にならないわけで。
その意味で、「生産」の側にいて、
「生産」のことばかりを専門化している人々が、
「消費」をしている人たちの気持ちがつかめなくなって、
先が見えなくなっちゃうことって、当然だと思うのだ。

で、ここからは暴論と言われそうな提案なのだけれど、
「月曜日の朝から、金曜日の夜まで、
会社員たちが、同じ時間帯で働くということを
やめちゃったほうがいいんじゃないか?」
そうやって、同じ時間帯で働くことで、
都合のいいことがいっぱいあることもわかる。
しかし、一週間の5日間の日中が、
これほど「サービス業」のための
空白になっているという
この現実のほうが、よっぽど都合悪いんじゃないか。

企業によって、いろんな対応ができると思うのだ。
昼間の休み時間をあえて
開発時間として認める方法もある。
(かつて土曜が休日になったときにも、
「そんなに怠惰になっていたら日本はつぶれる」
という意見が、たくさんあった)
また「うちの会社は木曜と金曜が休み」というような
休日をずらしてしまう方法もある。
(理容室や美容院は、そういう休み方をしているが、
これで大きな不都合もないと思う)

こんな工夫をして、なにが得られるかといえば、
個人としては「消費」の現場に触れられる。
社会としては、週日の昼間の「消費」が、
会社員たちの動きが活発になることで、活性化する。

そんなの無理だよ、と言われるかもしれないけれど、
いま現在の「週日の昼間」が、
かなり異常なのだと、ぼくは考えている。

お店とかの個人経営者とか、農業やってる人とか、
職人さんとか、「会社員」でない人々の場合は、
週日であろうが昼間であろうが、
自分の自由になる時間をある程度は持っていた。
そりゃもちろん「貧乏ひまなしでね」なんて具合に、
いまの会社勤めよりもハードな時間の使い方を
していた人だって、いっぱいいたかもしれないけれど、
「みんなが同じ時間帯に同じように会社で働いている」
というようなことではなかったと思う。
(京都に行って、たまに喫茶店に入ると、
 「自由時間」を使っているおじさんたちが、
 いっぱいいる。
 たぶん商店主などだろうと思う)
みんながみんな、仕事といえば「会社勤め」で、
その会社員たちが、同じ時間に同じように働いている。
こんなことは、かつてはなかったんだと思う。
しかも、共働きが当たり前のようになってくると、
「女性の会社員」も、週日の昼間を
「生産」の現場で過ごすことになる。

ダメだと思うのだ、こういう状態のまんまじゃ。
おまえの会社でやってみせろ、と言われそうだから、
真剣にそれについては考えてみるけれど、
いまのまんまじゃ、ほんとにマズイと思っている。

週日昼間のテレビを観られる人が、
ごく限られた人だから、昼間のテレビは
活気のある場でなくなる。
それと同じようなことが、街で起こっている。

インターネットの通販が
かなりの伸びを示しているのも、
みんながほとんどの時間を
消費に費やすことができてないせいだ、とも言える。

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2006-04-03-MON

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