「帰ってきた松本人志まじ頭」(後半3/4まで)



★第11回 テレビに自由は、あるのだろうか。

高須 本来、テレビは、粘土作りのような
作りかたをしなければいけないと思うんです。
誰かのイメージで、
「こんなんやねん、わからんけど」
と言いながら、みんなが粘土をこねて、
「じゃあ作ろう」と、何も計算をせずに
イメージのまま作っていると、いつのまにか、
ピタッとサイズがあっていたりもする。
ほんとにこれが奇跡的なんですよ。

そんなように作られた1時間なり
30分間じゃないと、ほんとはダメやと思います。
無心に作っていたら、自然に
60分の枠にはまっていたというか。

そんなに意識してはいなかったけども、
編集も、この時間ではまるなあ、
できるべくしてできたんや、みたいな
そんな意識で作らないとダメなんですけど、
もうそれは、できないんですよね。

もちろん規制もあるし、
視聴者の好き嫌いっていうところで、
これはダメ、ダメって、
要素が省かれてしまうんですよ。

ダウンタウンDXというトーク番組ですらも、
子どもに見せられない番組になってるんですよ。
「ガキの使い」もそう・・・。

子どもに見せちゃいけないという団体がいて、
そういう団体は、今までは
あんまり言ってこなかったんですけども。

昔は、局に文句を言っていたくらいでしたが、
今は直にスポンサーに苦情が来るんです。
スポンサーに行かれると、
局のほうも、文句言えないんですよね。
局は「わかりました、その企画やめます」
と言うしかなくなる。
糸井 それは、小さい企画ごとに
つぶされていくわけですか?
高須 はい。そしたら、
できる範囲が決まってしまうんです。
・・・まあ、その制約はそれで、
おもしろいところもあるんですが。
糸井 うん。ルールとして遊べばね。
高須 上にコンクリートがあったぶんだけ、
変なかたちで雑草が生えたというか。

それによって、ひょっとすると
違うものができるんですけど、
ただ、ゴールデンに関しては、
雑草すら出さへんぐらいに整備してしまうから、
昔のように、馬鹿みたいな番組は、
作らなくなりましたよね。
糸井 やらなくなったね。
松本 うん・・・。
糸井 そのしみじみ感は、怖いくらいだ。
高須 いま、腹かかえて大笑いすることないですもん。
テレビを見て大笑いすることないし。
糸井 「ごっつええ感じ」みたいなのは、できない?
松本 けっこう無茶してましたからね。
高須 ぼくはたぶん、できないと思いますよ。
松本 無理かなあ。
糸井 できないんだろうね。
今の話を、きいてると。
高須 できないと思います。局が怖がって。
松本 「ガキ」で、山崎のどっきりが、
封印されてるんですけど、
山崎が沖縄でトイレに入ってる時に、
黒人が来て強姦されるやつですけど、
あれは、めちゃめちゃおもしろかったんですよ。
・・・でも、いま絶対に無理ですよね。
糸井 無理。
松本 ケツにソーセージ入れてましたからね(笑)。
高須 (笑)
糸井 (笑)もう、テレビっていう
範囲から、逸脱してますよね。
松本 あれは、いつでも無理だったんですよ。
糸井 (笑)
高須 (笑)空気感では
まだよかったんですよ。
深夜帯がめちゃくちゃな時代だったから、
深夜なら、自由奔放だったんですよ。
ちょっとまだ「ガキ」も
深夜っぽい意識を持てていた時期だった。

今やその11時台がゴールデンですから、
11時台までもが、
「おいおい、そんなことやってどないすんねん」
っていう自主規制が、すごいですもん。
昔は11時台なんか何やっても別によかったのに、
今はゴールデンの面子が11時台にいますから。
糸井 今は逆に、8時台で
やれっていわれたら、イヤでしょ?
高須 嫌ですね。やりたくないですね。
松本 7時台なんて、
ほんとにわからないです。
糸井 無理だっていうしかないよね。
松本 7時台はもう、ゴールデンじゃないです。
高須 ゴールデンは10時台くらいからかなあ。
糸井 9時台が今、銀座かなあ・・・。
松本 でも、おかしいですよね、
「11時台だからいい」とかいうのが。
だったら「11時台でもやるな」って
言って欲しいと思うんですよね。
末永 今、多チャンネル時代ですから、
自由なはずですし。
糸井 その、自由なぶんだけ、
コストがひとつずつ分散するから
ほんとに知恵を使う人が山ほどいないと、
やっていけないんだよね。
高須くんがこんなに売れっ子であるようじゃ、
チャンネルが増えた時に思いやられるというか。

・・・えっと、そう言ったのは、つまり、今、
「高須さんとおなじくらいのいい仕事のできる
 作家がいっぱいいるから、
 今の仕事量の半分で大丈夫ですよ」
と言われているなら、まだ番組が増えても
おもしろいものをたくさんつくれそうだけど、
いまのままじゃあ、おもしろい作家が
めちゃくちゃ少ないことは、明らかで。

しかも、高須さんはすでにもう
たくさんの番組を抱えている。
そうしたら、番組が増えたら
作家が足りなくなっちゃうもん。
高須 ええ。



第12回 服装がヤバくなるのは、なんでだろうか。

高須 ぼく、日本で優秀な放送作家って
十数人くらいしかいないと感じます。
たぶん、15人くらいかなあ。

ちゃんとバランスも取れて、
それでいて、実現可能な
奇抜なアイデアを出せる放送作家って。

どこかで、不安材料を
持っていたりするんですよね、作家同志でも。
やってて、楽な作家って、本当にその
15人くらいですよね。

ああ、わかってるなあ、
しゃべらんでもええなあ・・・って。
何か問題が起こった時とか、
視聴率が思うように上がらなかったりした時、
おんなじところで、何か原因がわからないけど
止まっている、と感じたり、
逆に「何かあるな」っておんなじ場所で
ヒット企画の鉱脈を感じられる人は。

企画のおもしろみを感じ取れる作家というか
方向音痴じゃない人は、何人もいないです。
糸井 15人ですか・・・。
高須 そのくらいだと思いますね。
糸井 リアリティあるなあ、変にねえ。
松本 15人・・・。
糸井 単位が、「5」だもんね。
高須 そんな感じすんねんなあ・・・。
それが入れ替わったり、
はじかれたりする時もあり、
自分が方向音痴になってくると、
だめになっていく。
糸井 今さあ、古い放送作家だとかさあ、
古い「おもしろい」というような人で、
それこそベレー帽をかぶって
ループタイをしてるような奴が、
いるじゃないですか。
ああいう人たちも、ある時期は、
こういうことを、言ってたのかな?
松本 うーん・・・。
高須 言ってたんじゃないですか?
糸井 そこらへんをすごく知りたくて。
「いやあ、キミねぇ」
と言ってる人たちのことを。

テレビ局にでもどこにでもいるけど、
自分はそうならないようにしよう思うだけで、
ほんとうに、気苦労が絶えないよね。

自然になるんだとしたら、
俺、気づいてないうちに、ループタイを
しているかもしれないじゃないですか。
松本 (笑)
糸井 知らず知らずのうちに、
親父たちのジーパンに
折り目が入りはじめたりさあ。
高須 (笑)
糸井 「知らず知らず」というところで、
どんどん変化していっただろうけれども、
「それ、『そっちに行く』と
 決めた時があったんじゃないか?」
と思ったりもするんですよ。

「襟なしより、ポロシャツを選ぶようになった」
だとか、そのへんを注意深く考えていれば
わかるんじゃないかなあと思って、
そこで「危険だなあ」と思うところには
なるべく行かないようにしていたら、
俺、若年寄になっちゃった。

それも変だと思うんだけど、
年相応とか、「相応」というところに
自然に行くというのは、実は結構、
「家庭持ち」という要素があると思います。
「奥さんが買ってきちゃった」とかいうのが。
高須 なるほど。
松本 おばあちゃんが
着物を着てたりするじゃないですか。
そのおばあちゃんは、
若い時から着物を着ていたのかなあ?
糸井 それも、怪しいよね?

そういう時代のおばあちゃんもいた。
ぼくは、昭和23年生まれなんですけど、
幼稚園くらいまで、寝巻って、
ほんとの寝巻で、パジャマじゃなかった。
で、着物で、袖をたたんで寝てた。
ネルとかで作ってあって。
それが、ある時にパジャマになったんです。

ぼくはそういう時代から生きてるから、
着物で育ったおばあちゃんがいるというのには
リアリティがあるんですけど、でも、
ぼくぐらいの年でもおじいちゃんがいるけど、
その人は、着物では育ってないですから。
松本 それはぼく、
子どもの頃から気になってたんですよ。

ばあちゃんは、
年取ったから着物を着てるのか、
ばあちゃんだから着物なのか・・・。
糸井 年取ると、着物が背中から生えてくる?
松本 で、しょうがないから
着物を着てるのか・・・。
高須 俺こないだ服屋行った時に、
「高須さん、昔、古着を着てましたよね。
 今、似あわないでしょう?」
と、嫌なこと言われたんですよ。
「はあ」とか応えたら・・・。
松本 そういや、やめたな、自分。
高須 それで、いつも行ってる服屋の兄ちゃん、
「何でやめたか、わかりますよ。
 老けると、古着は映えなくなる。
 若いからこそ古着は映えるわけで、
 それは、人間としてわかってる」って。
年とると、だんだん古着は
おしゃれになってこない。
「高須さん、気づかないうちに
 そうしてるんですよ〜」
って言われて、そうなのかなあと思った。
末永 センスがあると、
そこがずれていかないのかな?
糸井 それはね、気持ちですよ。
ミックジャガーを見なさい。
ミックジャガーはいくらでも服を買えるのに、
ぼろぼろのTシャツ着てステージに上がんのよ。
・・・でも、楽屋では似あわないと思います。
松本 そっかー。
高須 そこらへんを歩いてたらだめで、
ステージでなら、映えるんでしょうね。



★第13回 ぼくたちは、着るものをどう変えるだろうか。

糸井 年がイッていておしゃれをしていても、
「まるで老けたオカマのように見える日」
「何でもなくおしゃれしてると見える日」
には、明らかに違いがありますよね。
でもたぶん、その差は、心の状態の差なんです。
着ている側の魂なんですよ。

着るものに自分の売り物を決めて
そこを押し通そうとすれば、それはそれで
すごく効率がいいんだろうけれども、
そこに居続けようとすると
絶対にハズしますよね。
だから売り物は作らずにいくほうが
やっぱり、長く楽しめると思います。
松本 そっか。だから高須は古着をやめたんだ。
高須 いや、ぼくは本人では気づいていなくて、
知らずにやめていた時に、服屋の兄ちゃんに、
理由を説明してそうだなあと思ったんです。

また古着がよくなる時期も、あるんだって。
古着を着ていておしゃれに映る年齢が、 
50歳を過ぎたらまた来るって言われたから、
ビンテージのジーンズとか
とってあるんですよ・・・。
そこらへんは、ダッフルコートとおんなじですよ。
糸井 おお、ダッフルコートねー!
高須 ダッフルコートは、
中途半端に着てると浪人生みたいに見える。
だけど、40歳くらいになると、
ダッフルコートがかっこよくなるでしょ?

要は、時代を間違えると、
とんでもないことになってんねんけど、
その時代を越すとかっこよくなるという。
それは、古着を着ないのは、
自分でわかってるんだ、って(笑)。
今着るとサイアクだって・・・。
松本 (笑)防衛本能が働いたんだ。
高須 (笑)やばい、って。
「やばくなってまうから、
 ちょっときれいにしようという
 心がはたらいているんです」と言われて、
なるほどなあと思った。
松本 アンテナは受信してるんだ。
高須 そう、やばいやばい、っていうのを。
糸井 うん、あるんだろうね。

ただ、やっぱり、ぼくたちは、
こういう話をしているという時点で、
残念ながら、ファッションには
縁のない育ち方をしたっていうことですよね。

例えば、イギリス風の育ち方をして、
お父さんもお母さんもおしゃれで、
という子どもだったら、
ごく普通に古着も着ないで
親父のような格好をしてても、
若い時には若く見えて・・・ってなるだろうし。
末永 日本には、そういうの、ないでしょう?
糸井 ないかー。あ、末永さんなんて、
坊ちゃん坊ちゃんしてるけど、どうですか?
末永 あんまり、考えたことがないですね。
古着を着ようとかいうのって、
ある種のアピールですよね。
そういうのは、なかったですね。
ファッションで自分を主張したいとは。
糸井 皇族のひとたちの服装って、
やっぱりたいしたもんだなあと思うんですよ。
ああいう人たちを見てるとさあ。
あの人たちって、やっぱり
俺たちには絶対にないものを持っているよね。

似合うだの似合わないだの
ダサいだのといろいろ言っている奴は
そういうところで
自分を出さないといけない人で、
皇族の人なら「失礼のないように」と
ただ思っていればいいわけですから。

割とみっともないのは、
急にファッションリーダーになるやつで、
だから、松っちゃんが坊主になった時に、
俺、やった!と感じたの。
「これで、何にも似合えへんやろ!」
って言いたかったのかと思って。
松本 そうですね。
糸井 スタイリストの借り着を着てるのに、
「じぶん、それどこで買ったの?」とか
お笑いのタレントが言うのを聞いていると、
でも、あなたは、
それを言う資格ないかもしれないよ、
と思っていたから。

いい悪いは別にして、
昨日はじめたようなやつらが
他人にああだこうだ言うっていうのが、
何か貧乏くさいですよね。

でもさあ、年とってから
カジュアルと言えばチノパンというところで
落ち着かないとすると、苦労するよね。
高須 (笑)苦労しますよ。
糸井 明らかに単なる「無理な人」というのが、
見本としていっぱいいるじゃないですか。
俺も、いつでもそこになる可能性があるし。
高須 坊主ってずるいですよね。
いいとことったなと思ったな。
考えたやろ?それについていろいろと。
なりたいという気持ちもあったやろうけど。
松本 うーん・・・。
そうだな。
雑誌でもいろいろ聞かれたし、
いろんな理由をいっぱい言ったから、
まあ、ぜんぶが何%かはほんとうだし、
100%はぜんぶほんとではないんだけど、
何でやろうなあ・・・?
でも、よかったと思う。
糸井 坊主って、さっき言った、ダンボールで
家を建ててみせるというのに近いよね。
松本 うん。
糸井 俺に坊主を載せたら、坊主が変わるぜ、
というくらいの気迫を感じるよね。
松本 『HEY! HEY! HEY!』をやっていて、
すごく感じたことがあったんですよ。
それもどっかで言ったと思うんですけど、
まず、ダウンタウンが出てきて、
「キャー」って言われるんですよ。
その次にミュージシャンが出た時にも、
やっぱり「キャー」で・・・。

「おんなじキャーか?」
それすごい嫌やったんです。

別にミュージシャンが悪いことはないんですけど、
でもまあ、坊主にしたら変わるのかなあと思って。
結果、まあ、思ったほどは
変わらなかったんですけど。
糸井 俺も坊主に近いくらいのことをしたことがあって。
「みんな、過剰にかっこいいんじゃない?」
と思っていたから。青山あたりで、
全員がかっこいい5人くらいの飲み会を
よく見かけたりするじゃない?

でも、それはちょっと、
フカシが強すぎないか・・・?と思った。
松本 (笑)
高須 フカシが強いって(笑)。
糸井 それで、例えばの話、静岡とかに出張に行って、
「東京から来たんですか?」とか聞かれて
「うん、そう」とか言ってるのは、ちょっと、
そこでトクしすぎてるんじゃないか?と思って、
その流れがちょっと嫌だったの、俺。
で、何か無理してるなあ、
みたいなのじゃないところで探したら、
選択肢に坊主は、あるもんなあ。
松本 うん。むつかしいですよ。
今着ているのも、毎年、
冬になると買う、ものなんですけど。。
左官屋ハイネックみたいなので、
ポケットがついてて、
1000円ぐらいのやつなんだけど。
これは、何か俺っぽいなと思ったんです。

でも、あんまり行き過ぎて、
「そればっかり」になったら、
今度はまた、やばいでしょ?
糸井 そうなの。裏表なんだよね。
高須 そっちいってるやつと思われる。
松本 ね?
「こいつ無理してんなあ、
 なんかフカしとんなあ〜っ」
になってきたりするから、
そっちだけに意識がいくと、かっこ悪いし。

第14回 ジェラシーに、どうやって反応するのだろうか。

(※高須さんはお仕事があるので、ここで退席されました)
糸井 アメリカにも、成功した人に対する
早くつぶれろという流れの人々もいますか?
末永 たぶん、アメリカ人は
日本人に比べると嫉妬が少ない人たちですし、
嫉妬よりも憧れの強い人たちですから、
それをストレートに出して
「よーし俺もやるぞ」と考えますよね。
糸井 そこが知りたいんですよ。
それは、なんでそうなるんでしょうか?
松本 ぼくは、それ、最終的には
アメリカが戦争で勝ったからだと思います。
日本はやっぱり負け国なので、
強いものに対する反感が強い、
というような気がしてならないんですよ。
糸井 もしぼくが神様の目から見ていたら、
成功したひとがいたほうが
市場も大きくなるし景気もよくなるし、
だからどんどん成功しなさいと思うよね。

でも、地面から見た時に、
なんか、やきもち焼きになる。

日本では、成功すればするほど
「思ったことをそのまま言ってはいけない」
という状態になりますよね。
つまり、ほんとに成功しちゃった人が
「俺はこう思っている」と言ってしまうと、
一方ではベストセラーになるけど、
もう一方では・・・。
松本 すごい叩かれますよ。
糸井 本の時は、どうでしたか?
たくさん売れたといっても、
全国の人口から言ったら
何百万部とかは、少ないよね。
そうすると、反感を持った人も多いんですか?
松本 それは、かなり叩かれましたよ。
ぼくのやることなすことについて、散々。
新聞から何から。ひどいもんでしたね。
今でもそうですけど。
糸井 (笑)ものすごく正直に書いたじゃないですか。
あれ、どういう効果があるとか
そういうことを全然考えずに書いたんだよね。
松本 全然考えなかったですよ。
「週刊朝日」でしょう?
そんなもん、週刊朝日を読んでいる人間が
ぼくのこと知ってるとは思ってなかったし、
それが本になるつもりもなかったので、
週に1回、とりあえず書いていただけです。

今考えると、正直に書きすぎたぐらいに
すごく正直に書いていますよ。
糸井 総理大臣になったとたんに
ニコニコしなければいけないようなのは、
ほんとは変だと思うんですよ。

自分の意見が通って総理になったんだから、
もっと全体を変えていけるようなことを
やらなければ、それこそがほんとうに
総理の価値ないように思えるのに、急に
「みんなのもの」とかを
意識しはじめるじゃないですか。
あれを、誰も突破できた人がいないですよね。
松本 むつかしいですね・・・。
糸井 いまだかつていないですよね。
正直にそのまま言えた人って。
末永 ビルゲイツだって
「俺は金持ちだ」とは言いませんよ。
敢えて言えば、カリギュラとかですか。
糸井 ネロとかも。
・・・あ、でも失敗政権ですよね。
末永 だから楽しそうに見えるんですよ。
えらい王様なんて、窮屈そうじゃないですか。
糸井 前に教育テレビに塩野七生さんが出てて、
昔、独裁政権だったというけれど、
ローマ帝国で王様をやるというのは
民主主義みたいなようにみんなで相談するよりも
ずっとむつかしくて、要するに
これだけ大勢の人をひとりの力で
不満なくおさめるというのは、どれほど大変かと。
そういう王様って、もう、いないですよね?

投票なんかしても、
結局は代議制になって、
声のでかい奴が勝つんだったら、
独裁的な奴が、
「いつ俺は殺されるんだろう?」
と思いながら政治をやっていたほうが
よっぽどうまくいくという。
松本 なるほどなあ。
末永 多数決というのは、
そんなに信用のできるものではないと
ぼくは、思いますよ。
でも、大事なのは、自由を確保することで
多数決は、その自由を守るためには
まあ、割といいシステムなんです。
独裁者も、えらい独裁者ならいいけど、
そうでない独裁者は圧政を敷きますから。

多数決は、圧政を敷かせないためには、
割と優秀な制度だと思いますね。
糸井 例えばの話、前に松本さんと会った時に
話したんですけど・・・
ぼくはいろいろな人たちみんなに、
のびのびしてもらいたいんですよ。

でもその時に、
「圧政を敷こう」と考えること自体が
不自由そうだなあって、思うよね。
末永 頭の中が平和じゃない人って
やっぱり、いるんじゃないですか?
松本 ぼく、ドラマでもちらっと言ったんですけど、
結局、ちょっとずつ不幸なのが
みんなの幸せなんですよねえ・・・。
それしか、たぶん、ないと思う。
糸井 うん。
何かをコントロールする力が
つけばつくほど、自分の自由は
売り渡さざるをえなくなりますよね。
末永 でも、陰険な人って、いますよね?
糸井 いますよ〜。
末永 「やっぱは、不幸じゃないとだめだ」
とぼくが思ってしまうくらいに
陰険な人って、いますよね。
糸井 結局、ぼくはとても地味なんですけど、
強姦を、ものすごく憎むんですよ。
せっかくみんなが楽しくやってんのに。
松本 (笑)
糸井 そういう人がいると、
みんなを硬くするじゃない?
で、どれくらい嫌かはわかるだろ?と。
そういうのが、一個あるだけで、
もっとみんなを自由にできなくする。
「いいわよお?」と思っている人が
「え、こわい」と思ったりするなら・・・
松本 他の男は、被害者になりますよね。
糸井 そう。だから、
「お前のやってることはどれだけ犯罪か、
 ・・・もう、あらゆる意味でだ!!!」
って言いたい。
松本 (笑)
糸井 だから、レイプが嫌なんですよ。
でも、そんなことを考えずに
すっ飛んでいっちゃう人たちが
おられるじゃないですか・・・。
やっぱ「欠け」みたいなものが
すごい出てしまっているんでしょうね。

★第15回 頂点に行ったあと、人はどうなるのだろうか。

糸井 ある程度、名前が
世の中に出てしまっている人と話すのは、
そうでない人と話すよりも、
ラクな時が、ありますよね。
その理由のひとつは、
お金持ったり有名になると、
妙なコンプレックスが減るからだと思います。

コンプレックスを持ちつづけた状態ではなくて、
「そういうことを考えていた時代」だよねえ、
というところで、話をすることができるでしょ?

無名な人が悪いとは全然思わないけど、
有名になると、少し余裕が出るから、
ラクになるんですよね。

そこで逆に言うと、
力を持ったのに、まだ悪いことをする人って、
やっぱりいるじゃないですか。
その業の深さは、なんだろうなあ。
何かが怖いのかなあ、とか、思います。
末永 ビルゲイツなんて、
絶対に一生使い切れないお金を
持っているんですよね。
でも、彼も今でも
非常に忙しい思いをして働いていますよね。
なんでかなあ?と素朴に思います。
糸井 それも不思議だよねえ。
でも、ふつう、「そうじゃない人」って、
ぼくは、末永さんにしか会ったことないよ。
末永 ぼくはそんなにたいしたことないですけど。
糸井 いや、年齢が。
30代だったら、割と、
「これをもとにして、どうしてああして」
と、マッチョに考える年齢じゃないですか。
松本 ぼくは小学校くらいの時に、兄貴がね、
欽ちゃん全盛の頃ですよ。
兄貴がぽろっと言ったんですよ。
「欽ちゃんって、もう何もしなくても
 一生食べていけんねんて」
「・・・え!
 じゃあ何で、欽ちゃんは仕事してるの?」
そう聞きたくなりますよね。
兄貴は「・・・わからん」って。
そこで「うーん」って、
兄弟でしばらく悩んだんですけど、
ある種ぼく、今は
自分がそれになってるんですよね。
そこは、わかんないんですよ・・・。
糸井 やっぱり、足りなさを感じているのかなあ。
ぼくも「食うため」とかいろいろ言うけど、
ほんとに「食うため」がいちばんだったら、
違うことをしていると思います。

あるいは、例えば、どこか勤めてて
食えるようにしていたほうが、ラクですよね。
こうやって無理なことばかりしたがるのは、
何か、せつないですよね・・・。
末永 達成感を求めているということなのですか?
糸井 それもね、一応そう言うと、
自分では説明したような気になるんですけど、
でもやっぱり、達成感でもないんですよ。
松本 ちょっと何か違いますよね。
それも何%かはありますけど、何か・・・。
糸井 うーん、何だろうなあ・・・。
そういうことを考えると、
俺がよく思い出すのは、
野球では川上哲治のことなんですよ。

みんな「嫌なやつだ」ぐらいに思っていて、
あんまりあの人については語らないけど、
日本一になって、その都度一回ずつ
最高の気分でシーズン終わってるはずなのよ。
なのに、それを9年連続でやった監督なわけで、
頂点に行った後って、どうやって
動機を作ってやっていったのかなあ・・・。

そういう意味で、お笑いで言うと、
欽ちゃんは、どうなんだろう?
松本 ・・・うーん、微妙ですねえ。
でもまあ微妙っていうことは、
正解やったのかもしれませんけど。
末永 そんなにはずれてはないっていう?
松本 うん。
糸井 あの歳になっても、
手塚治虫さんとかと同じように、
若い人に負けたくないような気持ちが、
たぶん、まだあるんですよね。
なければ、うまく年を取ったはずですよね。

明らかにお客さんの受けを狙って
ぜんぶすべったことがあって・・・。
すべりにすべってることを、
本人が感じないはずないわけです。
ぼくは、それをテレビで見てるの、
きつかったんですよね。
だからほんとに引退してくれていたら、
最高だったんでしょうね、ある意味で。

でも、筋肉が落ちてきてるのに
腕相撲には出たいみたいな気持ちを感じた。
お笑いって、一見、
筋肉の問題ではないように思えそうから、
けっこう本気で「闘える」と
思えてしまうのだろうなあ・・・。
でも、それにしては欽ちゃんの世界には、
さっき言ったような「移民」とか
「新しい血」が入っていなかったですね。

あの欽ちゃんが、本当に野放図に
外人を入れているというか、
外の世界の人をずっとつきあいつづけていれば、
筋肉は落ちなかったんじゃないかと思う・・・。
そういうのって、あるよね?
松本 うん。
糸井 ある流れのところで安定していたら、
外の人と交わりつづけるのは、無理ですよね。
末永 権威になっちゃう。
競争と権威って、対立概念なんです。
同じ平等な立場で競争して決めるのか、
偉い人がいてその人が決めるのか。
それは、ふたつのうちひとつしか選べない。
糸井 競争の対立概念は権威かー・・・。
そうだよね。

でも、思えば、欽ちゃんぐらいまで
行ったひとって、お笑いでは
その後は、あんまりいないんですよ。

日本そのものが豊かじゃなかったから
すごい高視聴率だったこともあるけど、
やっぱり、欽ちゃんって、すごかったよ。
ピンクレディよりは欽ちゃんの方がイったし。
萩本さんていうのは、ものすごかった・・・。

若い子たちはたいしたことない、くらいに
思うかもしれないけど、絶頂期の欽ちゃんは、
ほんとにすごかったですよね?
松本 うん。すごかったです。
糸井 ドリフは違うでしょ。
欽ちゃんですよね・・・
新しかったし。



(もとのページに戻る場合はこちらへ