「 ありがとうが爆発する対談」(全)

1曲目
「キャッチコピーそのままの気持ち」
矢沢: “ありがとうが爆発する夜”ってコピー。
どっから出てくるのかなと思うけど、
俺すごくうれしかった。
なぜかって言うと、今ホントにその気持ち、
“ありがとうが爆発する夜”なんだよ。
このタイトルそのままがコンセプトですよ。
糸井: うれしいねぇ。
“爆発”と“ありがとう”って合わないんだよ、普通。
エーちゃんだとできるんだよ。
矢沢: いや、でもねぇ、僕はうまいと思った。
だって“ありがとうが爆発する夜”だよ。
みんなも言ってるよ、
「キャッチコピーすごいね!」って。
「これ考えたのって、糸井重里さんだろ?」
「いや、糸井重里“氏”だよ」って。
俺もあっちこっちで言ってるもん。
うん、いいタイトルだよ、いいキャッチコピーだよ。
あれ以上のものはないね。
糸井: 今年の9月15日にしか使えない、
ってものにしたかったから。
矢沢: うまい! やっぱり、うまい!
俺は言いまくってるんだよ、「あいつプロだね」って。
ま、それがあってね、今もう取材すごいんだよ、俺。
ボコボコ、やりまくってる。
新聞にだって、ばっかばか出てるだろ。
糸井: 取材100件とかあるんじゃない?
矢沢: うーん、そりゃオーバーだけどさ。
でも考えてみりゃ、50歳になるってときにラッキーだね。
こうやって、俺みたいに言いたいこと言って、
やりたいことやって、思うことやってきてんだもの。
普通、消されるよ、途中で。
糸井: 5回や6回、消されてもおかしくないよね。
矢沢: そう、消えるよ。それが消えないんだもの。
むしろパワーつけちゃってるんだもの、ガンガン。
それはねぇ、幸せなことだと思うね。
冗談ぬきで、もともとが僕はぜったい真面目だからね。
糸井: クソがつくくらい。
矢沢: クソがつくくらい真面目よ。
人間の基本ラインなんて、若い頃と変わんないじゃん。
変わらないけど、まあ、見方が幅広くなってくるよね、
歳とってくると。
歳とるっていうか、経験積んで。
昔は矢沢のあの頑固さがよかったのよ。
「俺はこう思う、ほかはクソ! 認めない!」みたいなさ。
エッヂが立ってるみたいな。
糸井: ちょうど建築現場みたいな時代だよね。
矢沢: そう。
今はねぇ、それをやってきて言えることなんだけど。
ああいう道があってもいいんじゃない、って。
糸井: あのとき思い切ったのが、ぜんぶよかったよね。
矢沢: そう。思い切ったのがよかったのよ。
ところで、イトイが今やってるホームページ、
毎日? 信じられないねえ。
なに? ほぼ日刊イトイ新聞?
でもさぁ、こういうことやろうと思ったイトイって
おもしろいキャラクターしてるね。
結局、イトイのすごい素晴らしいところはね、
僕、つくづくわかるんだけど、
やっぱり、ずーっと遊んでるじゃん。
糸井: 遊んでる? うーん?
矢沢: いや、遊びっていうけど、真剣ってことだよ。
遊びが真剣なんだよ。で、遊んでるじゃない。
それを何人の人ができるかな、って考えたら、
ある種、すっごく大事なことやってるよね。
埋蔵金の話あったじゃない、あれ大好きなのよ。
それで最終的に「エーちゃんあれないよ」ってときに、
「おー、そこまで掘った!」みたいなさ。
そーいう人間はいなきゃダメよ、日本に。
糸井: オレなんかは、エーちゃんみたいに、
ちゃんと積み重ねていくものに憧れるのよ。
乱暴やりながらも、ちゃんと。
矢沢: いや、だから、俺がしょっちゅうイトイに
「なんかアイデアない?」って訊くのはそこよ。
イトイが急にいろんなことパーンとやるじゃない、
あーいうものはぜったい必要なの。
それと、矢沢のバチーンって決めるとこあるじゃない、
あれで勝負をかける必要性ってのもあるんですよ。
そりゃ、俺はああいうことしたい、
こういうことしたいってことがバンバンあるけど、
ちょっと「うーん」と迷うときは、
「あの遊び人の天才のイトイはなにをするんだろう?」
「またバス釣り行こうっていうのかな?」
「なんて言うか訊いてこい」って言うの。
そしたら“ありがとうが爆発する夜”ってタイトルだよ。
ひじょうに、いいんじゃないですか。
人間の世の中ってのは赤い色ばっかりじゃいけないし、
黄色も黒もなきゃいけないでしょ。
そういうことで、成り立っていると。
糸井: ぜんぜん違うんだろうね、いる世界がね。
水生動物と陸生動物みたいにね。
矢沢: そうなんですよ。それが必要なの。
糸井: 俺はさ、逆にさ、いろんな若い人が出てきたり、
引っ込んだりしてるの見てて思うんだけど、
人が引っ込んでいく理由はいくつだってあるじゃない。
矢沢永吉が潰れる理由なんて、もう100回もあったよね?
矢沢: あったよぉ。
糸井: だいたいの人は何回か大きいパンチくらったら倒れるし、
いなくなるのか、いらなくなるのか、ね。
だけど「このオッサンはどうやったら倒れるんだよ」
みたいなさ(笑)。
矢沢: ますます、大木がでかくなっちゃってさ(笑)。


2曲目
「固定観念をぶっとばせ!」
糸井: で、今まで誰かに頼ったことないんだよね。
エーちゃんね。
矢沢: 頼らないね。
糸井: 「経営は俺は専門じゃないから」とか言って、
「それはアイツに任せてる」ってしてないよね。
ライブの構成も人任せにしてないよね。
「それは、なに?」って思うんだよ、今頃になって。
矢沢: それは、形こそちがうけれど、
矢沢もやっぱりずーっと、いろいろ考えるのよ。
「なんかねぇのかな、なんかねぇのかな」って。
表から見たら矢沢のイメージってのは
「いいからどかんかい!」
「カンケーねぇよ、気分、気分!」って言ってるように
映ったわけよ。それがかえってよかったからね。
今頃は、もうみんな気づきはじめたね。
「あの人は、ああいうイメージだけど、
ホントは、コチョコチョいつでも考えてるよ」って。
僕はまた構成とか演出に興味があったからね。
糸井: 考えてるのがおもしろいんだ?
矢沢: おもしろい。考えてるよぉ。
だから、かなり早くからステージの演出を
しはじめたでしょ。
ライティングがどうした、こうしたと。
ピン当てるタイミングまでも指示するじゃない。
こうやれ、って。
好きなんだね、プロデュース的なことが。
だから、イトイのそういう部分がすごくわかるのよ。
埋蔵金ってのはおもしろいだろうな、って思うのよ。
イトイは存在として日本に必要だから、
「おーい、一気に掘ってくれ!」と、言いたい。
だから俺、バス釣り行こうって誘われたとき、
「行こう、行こう!」ってホントに行ったじゃん。
やっぱり、そういうことをしてみたいと思ったし。
だから矢沢のイメージってのは、
世間が見てるイメージじゃなくて、
ホントは、矢沢って、神経質で、細かくて、わかる?
ホントは几帳面なんだよ。
糸井: ある意味では、弱気とさえ言えるかもね。
矢沢: そうかもわかんない。
糸井: こわいから、やる、とかねぇ。
矢沢: だって俺、近くなった人によく言われるもの。
「矢沢さんって繊細ですねぇ……」ってみんな言うよ。
それがおもしろいのはさ、
「矢沢さんって繊細ですねぇ」って言われるってことは、
繊細ではないと決めてかかってたからだよな、みんなが。
ステージで、ウォーッてやって、ロックンロールイェー!
ってリーゼントしてるヤツは繊細じゃないのよ。
だから今、そのへんの戸惑いが
世の中におきてきてるわけだ。
わかる?
あれ、あるじゃん、
矢沢の大ファンがやってるレストラン。
西麻布の……。
今、バカッ流行りしてるじゃん、若者に。
知らないの?
もうテレビはバンバン出るわで、
若者、ギャルの間で大人気のレストラン。
糸井: ……?
矢沢: そこに“YAZAWA”って部屋がある。
「矢沢さんに来てもらうのが夢でした」って、
部屋つくっちゃったんだよ。
で、メディアもマスコミもバンバンとりあげてる。
その部屋に、EIKICHI YAZAWAってバーンって入ってる。
糸井: エーちゃんの部屋なわけ?
矢沢: うん。その部屋、なんで作ったかっていうと、
自分はサクセスしたから矢沢さんに来てもらいたい、
そのために部屋をつくりたい、ってつくっちゃったんだよ。
今度、アイツ新宿にもビル建てて店出すって言って、
矢沢の部屋つくって、大阪にも店があって、
「大阪にも矢沢永吉の部屋つくりましたから」って。

それでね、彼、元暴走族なのよ。
暴走族で、昔「成りあがり」読んで泣いて泣いて、
狂って狂って狂いまくって、リーゼント、バンバンして。
そういうヤツは何も考えてないって固定観念あるだろ?
それが今じゃ従業員500人だ、何店舗もやって、
今度ニューヨークにも店出すって、バカ当たりしてるわけ。
それで社員500人全員に「成りあがり」読ませるんだって。
読んで、ちゃんとマスターしろと。
それ朝礼みたいよ、「成りあがり」読めってのが。

もともとはリーゼント、そういう人間が500人雇って、
店舗展開して、ニューヨークに進出して、年商いくらで、
ということを、やると思ってないというか、
「やらないでしょ」っていう固定観念なんだよな。
だからたとえば、
矢沢が演出をぜんぶやってるとかなんとかって言うと、
「え! なんで?」ってことになるわけじゃない。
そういう固定観念から脱却しなきゃいけないんだよ。

それが今、日本人はこういうレールで行きましょう
っていうフォーマットがぜんぶ崩れてきてるから、
リストラがあったりなんだかんだって、
今みんなパニックおこしてるんだな。
「だって私、このレールに乗って受験して、
いい大学入って、大企業入ったらいいって言ってたのが、
なんでこうなっちゃうの?」ってことで、
パニくっちゃってんだな。
わかる?

やっぱり、今までは、こうだからこうでしょっていう
フォーマットどおりやってこれたんだけど、
それが一気に崩れてきてるからなんだよね。
だから、イトイみたいな人がやっぱり必要なんですよ。
世の中を斜めから見られるような人。
“社会の糸井重里”みたいなプロデューサーがいないと
ダメだよね。この後、文部省かどっか入ったら?
糸井: (笑)人のことだと思って勝手にしないで。
でも、それはすごく感じるよね。
つまり、なにがヒントになるかなっていうのを
みんなが一生懸命探してるけど、
周りの友だちのなかにはないってわかったんだね。


3曲目
「なにをしたいんだ? どうなりたいんだ?」
糸井: こないだエーちゃんのコンサート行ったら、
お客さんが20代だったっていうことに気づいて、
「どーやってお客さん入れかわっていったのよ?」って
ものすごいびっくりした。
まいった!
矢沢: 若い人多いだろ?
ウチって上と下、すーごいんだよ。
上は65歳くらいのおじいさんから手紙来るんだよ。
達筆な字でね。矢沢永吉殿……殿だよ。
「あるきっかけで矢沢さんのことを知って、
家内と来ました。涙が出ました」とかさ。
そうかと思うと、会場見たらわかるように
主流は20代じゃない。ワーォってやってるじゃない。
その横で、65歳がグッと観てくれてて、
「涙が止まりませんでした」って。
糸井: いっしょにいるんだよねぇ。その人たちぜんぶねぇ。
矢沢: いいことですよぉ。
糸井: それは、計算じゃできなかったでしょう?
サウンドでちょっとずつ変化させていった、
ってのは感じたけどねぇ。
矢沢: だから、おもしろいねぇ。
トレンディドラマがぼんぼん流行って、
トレンディだ、オシャレだ、なんとかだ、ってことで
メディアの力とテレビ局の力でバーッとやって
オシャレ路線ってものを創ったんだよね。
だけど、人間どこかには必ず防衛本能みたいなものが
あってね、もっと現実世界の部分で、
「なあ、おい、矢沢の唾ってのは、カッコイイよな!」
って言うやつもちゃんといたんだよね。
「ああいうものも必要なんじゃないか?」みたいな。
でも、パーセンテージで言うと、メディアとともに、
圧倒的にオシャレ路線がガーッと広がってた。
で、今こうやってバブルはじけて、
リストラだ、不景気だ、ってなんだかんだしてきて、
なんかこう、こないだまで臭い言葉だったものが、
今、臭いどころかすごく新しくなってきた。
糸井: そうなんだよねぇ。
矢沢: さっき取材受けた雑誌でも、俺言ったよ。
「根性決めてこうしなきゃいけないんじゃん!」
って言って、
「あ、根性って言うと、また臭いか?」
って言ったら、
「いや、臭くないっス!
矢沢さんの口から“根性決めて”っていう、
それ絶対書かせてください!」みたいな。
おもしろいねぇ。
「今、本当に戸惑っている男が多いんですよ。
30代とか。気力も薄いんです。
矢沢さん、どうしたらいいですか?」って。
いや、べつに僕は、
どうしたらどうなるとかはわかりません、と。
わからないけど、なんなんだろうなぁ、って。
僕は言ったのね。
やっぱり人参買いにいったら、全部まっすぐで、
日本の教育レベルは他国よりも圧倒的に高くて……、
それが不自然なんだってことを僕は感じる、って。
人参ってホントは曲がってるでしょ?
それが店先に並んでるのは、みんなまっすぐだよね。
それと同じような教育できたんだよな。戦後から。
今日、ホントによくわかったんだよ。
糸井: 工業製品つくってるのと同じなんだよね。
矢沢: そーなんだよ、だから教育レベルは
アメリカよりどこよりも日本って高い。
で、みんなだいたい高いとこで平均。
糸井: 同じようなこと考えてるよね。
矢沢: でも、これでいいとされてきたものが崩れたんだな。
なんでかって言ったら簡単だよ、
“会社が永久就職じゃなくなってきた”からだよ。
「アレ、アレ?」って戸惑いがでてきた。
なんなのかねぇ……。
で、今日受けた取材で俺が言ったことで、
「それ当たってる」って俺が思ったことがあるんだよ。
それは、教育レベルが上がって、いい高校、いい大学、
一流企業に入ることがいい人生だってやってきたのはさ、
ハンコ押してきたんだなと思ったの。

そういうことしてて、もし身体が蝕まれるときには
2とおりある、って言ったわけ。
たとえば、老化して動脈硬化とか云々かんぬんで
血が固まって血管ふさいだりして血管爆発して死んだ。
ま、そういうのもある。
歳をとるといろいろな病気を併発してくる。
でも、そのなかで最近、ストレスが
すごいウエイト占めてることがわかったんでしょ。
ストレスってのは“気”の問題だよ。
フィーリングだよね。
それ、このあいだまでわからなかったよね。
ストレスは実はあれ、気から来てるよね。
老化とともに身体がダメになっていくときに、
実は気から来てるダメージが、
もっと大きなウエイトを占めてるんじゃねぇかってことが、
わかってきたんだよ、だんだん。今頃だよ。

ダイオキシンもそうだよ。
燃やした煙のなかにとんでもないものがあるんだ、って。
ゴミは燃やせばいいと思ってたよ。
それが今問題になってる。
ちょっと待てよ、じゃあ身体がボロボロになるのは
老化してダメになるだけだとずーっと思ってたけど、
実は、そうじゃないんだと。
フィーリングってのがどれだけ大きな
ウエイトしめてるのかってことがわかってきたんだよ。
俺、今日わかったんだよ!
糸井: しゃべっててわかったんだ?
矢沢: そうだよ。「あ、なるほど」って。
だから、今なんでそういうことが
問題になってきたかって言ったら、わかる? 
受験をがんばって、いい学校と、いい就職先と、
それをやってればいいっていう……はずだったんだけど、
みんな方向がわからなくなってきた。
納得できなくなってきた。
ハッピーじゃなくなってきた。
大企業に入ったのに、ハッピーになってない、
なんで? どうしてよ?
スピリッツ、“気”の部分を置き去りにしてきたのよ。
糸井: 「なんで一生懸命やるのか」っていう理由がないままに
一生懸命やってきたんだよね。
矢沢: そうなのよ!
気の部分を考えに入れてこなかったんだよ。
本当の話、教育に取り入れないといけないんだろうな。
じゃあ“気”の部分とはなにか?
どういうことかって言ったら、
「なにをしたいんだ?」とか、
「どうなりたいんだ?」ってことだよ。

昔の小学生のガキに会って、
「キミ、なにになりたいんだ?」って訊いたときの、
「王さんになりたい!」、「長嶋になりたい!」
的な気持ちをもういちどさ……。
高度成長の頃かな、
「今の小学生にインタビューすると
“大蔵省に入りたい”と言うんです」ってことで、
それを嘆いたって話を聞いたんだけど、
俺に言わせりゃ、社会がそうさせたんだよ。
その過ちが今出てきてるんですよ。


4曲目
「ハッピーにならなきゃいけないんだよ」
矢沢: 人間がハッピーに暮らすってことが
どこで完結するかって考えたときに、
レールを信じて頑張ってきたはずなんだけど、
もうひとつ、“気”が必要なんだよ。
“気”があって、
フィーリングがあってハッピーなんだよ。
それで初めて人間は幸せになれるんですよ。
迷わないんですよ。
納得して死んでいけるんですよ。
ここんとこずっと、その“気”を忘れてきた。
その“気”はなにかって言ったら、なに?
「なにになりたいの?」
「どうしたら気持ちいいんだ?」
「僕は○○になりたい!」っていう
子供の頃にやってた会話が
実はとんでもなく大事な
意味を秘めていたってことが
はっきりするんだね、これでね。
糸井: 今みたいに、親とか周りの人が
自分がどうなりたいのかわかってないときには、
子供だってわからないよね。
矢沢: そうだよね。
だから、なんていうのかな、教育のなかで
自然にそういうことが意見交換できるような環境を
つくらなきゃいけないってことなんですよ。
わかります?
糸井: 青臭い話ができる環境がほしいんだよね。
矢沢: たとえば、これも言ったんだよ。
モーツァルトだ、シューベルトだ、って教えてて、
音楽の時間どうだよ、みんな寝てるよな。
わかるわけねぇじゃんそんなの。
モーツァルト? シューベルト? だからどうしたよ!
だけど、キャンバィミィーラーヴ! ってやってくれて、
「あれはCマイナーと転調でFコードだよ」
ってやったら、そのほうがよっぽど入るよ。
というようなね。

だから僕思うけども、そういう環境づくり?
今、そういう環境ないわけじゃない。
だって、ウチは特別講座を
受けてでも次の受験には勝つ
っていうやり方をずーっとやってきたんでしょ。
大学が絶対じゃないんだよ、
大企業が絶対じゃないんだよ、
っていう前提で、それでもキミが大企業に
絶対行きたいんだったら、それが答えだよ。
そしたら、大企業に入るように全力でやれよ。

青臭い話をすることは恥でもなんでもないんだよ。
もっと子供の心ひらいてあげて、
子供の気持ちを聞く。
子供がサッカーしたいなら、
サッカーのサークルにぼんぼん入れりゃいいんだ。
「さて、塾の時間とサークルの時間があるけれど、
うーん、ま、塾はいいわ、サークル行け!」
みたいな。
「まあ大学でもいろいろ種類あるけど、
まあ、いいじゃん、サッカー行く?」
みたいな環境がもし日本にあったら……。
糸井: どっちでなにを学ぶかわかってれば、選べるんだよなぁ。
矢沢: 必要なのは、そういう環境があるかないかじゃん。
もしあったら、将来いろんなヤツが出てくるよね。
だけど、もちろん最低限の教育はぜったい必要だよね。
それをね、今日感じたの、俺。
糸井: 仕事で日本とアメリカを行き来してるのが、
すごく影響してるでしょ?
矢沢: すごく影響してるね。
糸井: 何日か前にNHKでハリウッドの歴史をやってたのよ。
その番組観てたら、今トップクラスの人が
元郵便配達係だったりするんですよ。
会社のなかで郵便物配る人いるじゃない。
ああいう人がトップクラスになってるんだよね。
矢沢: アメリカに発明家がなぜ出るか?
改良は日本でやるけど、発明はアメリカで、
パテントはほとんど握られてるよね、
携帯電話でもなんでもそうだけど。
アメリカにはそういう環境があるんだろうな。
理にかなってんだと思うな。
俺、日本大好き、だって自分の国じゃん。
でも、理にかなわないことが日本は多すぎるんだね、今。
糸井: エーちゃんの理ってのが、
今までの日本の理じゃなかったんだよ。
矢沢: そうだよ。
だから、今考えたら「成りあがり」の本ってあれすごいよ。
あれはすごいこと言ってるんだ。
今考えるとあらためてそうなんだな。
糸井: あのときに、相談して、ああいう本にするかどうかって
ちょっと悩んだじゃん、みんなで。
だけど、あそこで選択したことが、
今の時代にぜんぶつながってるんだよね。
矢沢: つながってる。
だから、人間ってのは本当はシンプルでいいのよ。
糸井: その人の生き方なんだよねぇ。
矢沢: そうなのよ。
それを勇気をもって社会とかメディアとか周りの人が
「大学行かないことは恥でもなんでもない。
むしろ目的をもたせることのほうが
もっと大事なテーマなんじゃないの」
って言える環境ができることのほうが、
本当は正しいんだと思うよ。
勇気いるけどね。

人間ってのはどうならなきゃいけねぇかって言ったら、
幸せにならなきゃいけないんだよ。
ハッピーにならなきゃいけないんだよ。
だから、悩んで、うだうだしてたら
こんなつまんないことはないよね。
まあちょっとこう七面倒くさい話になってるけど、
今日、俺は感激してるのよ!
糸井: わかっちゃったんだね。
矢沢: こないだまでわからなかったなぁ。
糸井: え、そうなの? わかってやってたじゃない。
矢沢: いや、そうでもないんだよ。
糸井: エーちゃん、身体が先にわかるんだよね。
矢沢: 結局ねぇ、一流大学出て一流企業入って
ホワイトカラーやることがいいんだというのはね、
これはね、トリックだよ。
ある種のトリックだよ。
まあ、面倒くさいから、まとめちゃったんじゃないの。
ああだこうだって言い分をぜんぶ立てると、
いろんな言い分があるから、
「こういうラインが、まあ手堅いんじゃないの」
っていうことで、やったことが、
いつのまにか絶対になっちゃったんだよ。
糸井: そういうことだね。
いつのまにか「みんな同じにやれよ」になっちゃった。
そこから外れたときの冒険とか勇気とか
いろんな苦労がくっついてくるじゃない。
で、それを乗り越える前にだいたい倒れちゃうから、
まとめられたところに戻っちゃう、
っていうことの繰り返しですよね。


5曲目
「まず自分のために楽しもうよ!」
糸井: エーちゃんさぁ、あの話したっけ?
もともと生き物は水の中で育ったわけじゃない、
地球ができてから。
で、魚だとかタコとか水の中で安定してたわけですよ。
水ってぜんぶの栄養素あるし、生き物がすむのに
最高の環境だったんだけど、どういうわけか
陸に上がったやつがいたんですよね。
それまでって、生き物はぜんぶ水の中にいたんですよ。
それなのに、陸に上がる理由ってホントはないんですよ。
だけど、陸に上がって何かになって、
今、ほ乳類として僕ら人間がいる。
陸に上がる理由がなかったことだけに、
生きるのがすごいつらかったらしいんですよ。

で、それと同じことが、母親の子宮のなかで
赤ん坊が成長するときに起きてるんですよ。
つまり、最初は精子、微生物ですよね。
それが水の中、羊水の中で暮らしてる。
で、だんだん形が変わっていって、
魚の形からサルの形になるまでに、
ちょうど今までの人間の進化の過程を
ぜんぶやってるんだって、子宮で。
で、陸に上がるときってのがツワリなんだって。
いちばん苦しいんだって。
つまり、生き物として、
そこで死んじゃうかもしれないっていう大冒険を、
陸に上がった経験を全員子宮でやってるのよ。
人類そのものがやってきた勉強を、
もう一回子宮の中でそれぞれの人間がやってるのよ。
その話を最初に聞いたときにね、気が遠くなったねぇ。
みーんなそれやってきたんだって。
矢沢: それを考えた人もすごいねぇ。
糸井: 日本人。三木成夫さんていうね、
もう亡くなっちゃった解剖学者でね、
早く亡くなっちゃって、3冊くらいしか本出してないのよ。
その人が発見したのよ。
単純に、胎児をタテ方向から観察する研究したのよ。

思えば長生きしてる人って、
ぜんぶ安定した水のなかができたときに、
たとえば自分はサメでもマグロでもいいよ、
ここで安定したって時に、
ぜったい陸に上がろうとするじゃない。
で、陸にもうひとつすみかを作って、
次はあの山に行ってみようとか、
安定したところをぜったい出るじゃない。
あれを繰り返した人だけが長く生きてるんだなぁ
って思うと、おもしろい。

エーちゃんも、ぜんぶ安定してるのよ1回ずつ。
で、ぜったい捨ててる。
創って「もういいんじゃない」って平気で壊して出ていく。
捨ててるのか、留守番させてるのかしらないけど、
自分はいなくなってるよね。
矢沢: 俺、そういうところ、あるよね。
俺ね、ワーッって行くとこまで行くと、
パッとそこから出ちゃうとこあるよ。
広島から出てきてよ、あるもの創ったら壊す、
壊すっていうか出ていく。
糸井: 一生家出人みたいなやつだね。
矢沢: で、それは、マイナスじゃなくて、
プラスとして残っていかんがために出ていったのね。
だから、そういう運命なのかな、って。
糸井: だから、結局何回冒険したかだけが経験で、
ただ生きてたっていうか、
ただ漠然とこれでいいやってなったら、
あとはおもしろくないよね。
矢沢: おもしろくないよぉ。
前にイトイに言ったっけ?
むかーし、友だちの家に遊びに行ったら、
友だちの同級生ってのが2人来てて、男と女で。
で、「あ、どうも」って言って、俺のこと見て、
「あ、矢沢さん、テレビ見てます」ってそこまで普通で、
「えーと、どちらに?」って話したら、
2人とも区役所勤めてて、
区役所いいじゃない、役人だよね。
歳はあのころまだ、25歳くらいよ、お互いに。
俺、キャロルでデビューして間もない頃で。
で、なんだかんだ話してたら、2人は夫婦なんだよ。
それで、恩給がまともだとか、実働は6時間しかないし、
スリッパも支給されるし、どうのこうの言ってる。
……こいつらバカじゃねぇか、と思った。
なーんつうのかな、ホントつまんないよねぇ。
そうやって、25歳でレール決めちゃってんだもの。
糸井: それをバカにするつもりはぜんぜんないんだよ。
その暮らしの中で、何か見つけようとしてる人ってのは、
動きとしては見えないけど何かあると思うから、
なるべくその人たちの「何か」を
見たいなとは思うんだけど……。
矢沢: だから、役所でも、大企業でも、
彼らの世界のなかにもちゃんとスピリッツはあると思う。
ふたつにわかれると思うよ。やってる人はやってるよ。
だけど、もうその彼らの場合は話聞いてると、
もうレールぜーんぶひいて、
それが安心だからいいよねって、女房も「うん」って。
その職場だけでなく、どのジャンルにも
そういう人はいるんだろうけど、
人生ぜんぶを考えたら、今イトイが言ったように、
生まれてから死ぬまでのひとつの映画じゃない。
そしたら、いろいろな経験したり、抜けたり、
新しいこと始めてぶつかったり、
結果的に、ぜんぶ自分がやって自分で納得していったら、
そのほうが人生おもしろいよね。
糸井: 「俺が生きていることを、俺がいちばん楽しむ」
っていう気分が、たぶんいちばんおもしろいんだろうな。
みんなが喜ぶからってしたことって、
そんなにないんだよね。
わがままな話だけどさぁ(笑)。
矢沢: だから、知らぬ間に、僕はよく、
「自分を楽しませるために俺はやってる」とかさ、
たとえば“ありがとうが爆発する夜”もそう、
「自分自身に感謝したい」とかさぁ(笑)。
そういうことポーンと言ったりするわけよ。
俺ってけっこう素直なんだと思うなぁ。
糸井: 俺はあのコピーは、
エーちゃんのイタコやって書いてるわけだから、
自分がエーちゃんだと思ったら
こういうこと言いたいだろうなと想像して書くから、
不思議はないよ。
でも、俺自身のことであれは書けない(笑)。
矢沢: ホントそうなのよ。
「自分がどのくらい人生のオルガスムスを感じたいか」
っていうことなんじゃない、結局は。
だからそれを言い切って、やりきってるやつのほうが、
本当は人のこと考えられると思うよ。
糸井: 結局さ、海でつくる砂の城みたいなもんでさぁ、
ぜったい壊れるってわかってるじゃない。
だけど、「ここまでスゴイのできた!」ってのを
一生懸命つくればつくるほど、大波がバーンって来たとき、
ウワーって気持ちいいじゃない。
あれをやってるのかね。
永遠になくならないものなんて、
エーちゃん、創ってる気持ちないでしょ?
矢沢: ないね。ないない。
そういうおセンチになった時期はあったよ。
あったけど、すぐに違うもんだとわかったもの。
「そういうもんじゃねぇな」と。
その場その場を、強いて言えば
自分のためにバーッとハッピーにやってたことが、
ファンたちへのメッセージにもなっているし、
だから「まず自分のために楽しもうよ」と。
糸井: それがライブの感覚ってやつかねぇ。
矢沢: そうよ。それをやることだけですよ。
糸井: 今日のショーは今日しか観られないっていうねぇ。
明日はちがうんだもんなぁ。


6曲目
「俺もコンピュータで曲を作る!」
矢沢: ところで、訊きたいんだけど、
このイトイ新聞ってのは俺わかんないんだけど、
どういうことを新聞にしてるわけ?
糸井: たとえば、僕の周りの人たちに原稿を頼んで、
ただいろんなものを毎日毎日載せてるんですよ。
僕がいちばんいっぱい書く。毎日。
矢沢: どういうこと訊いてくる? イトイ新聞の読者は。
糸井: 読者はねぇ、
ちょうどみんな苦しい時期なんだよね。
で、なんか言葉とかヒントがほしいんですよ。
僕はエーちゃんとは生き方がちょっとちがうから、
僕は迷いをそのまま表に出しちゃうタイプなんですよ。
「こう迷いました、今こう思いました」
ってことを書いてると、
読者とピタッとジャストフィットする時があるんですよ。

いちばん多いのは20代、30代の女の人じゃないかな、
会社にいると女だからってことで、
いろんなことさせてもらえないよね。
だけど、学校のときには女の人のほうが
できたりするじゃない。
もっとこうしなきゃ、これじゃ会社ダメになっちゃうよ、
って思いながらも、相変わらず楽なことさせられたり、
なにか文句言われるときには自分も言われたりしてる。
今、迷ってる人が何か見つけたってことを
僕は毎日やってるつもりなんで、それを読むと、
歌聴くのと同じで、気持ちがいいんですよ。
たとえば、エーちゃんの話を、
公式のコメントで聞くことはできても、
俺が訊くエーちゃんの話って、またちがうじゃない。
それが伝えられる場所なんですよ。
矢沢: イトイは今日僕と話してて、いろいろ思うじゃない、
わかったことをイトイなりに書くんだよね。
こういう生き方もあるんだよね、とかさ。
糸井: だから俺もやってておもしろい。
原稿書いてくれる人たちも、
みんな会社で仕事してる人なんですよ。
だけど、手伝いたいって言ってくれて、
タダで書いてくれるんです。
いずれは、銀座通りみたいな場所にしたいんですよ。
で、僕は大勢の人にいつでも問いかけることができる。
だけど、俺ってビジネスにしていく才能がないんですよ。
弱点だよねぇ。
矢沢: でもさ、それでイトイがビジネスバリバリだったら、
イトイじゃなくなってくるから。
糸井: それは、もう公言してるの。
ボランティアで楽しいからやってるだけじゃなくて、
ちゃんとビジネスにしていくつもりです、って。
でも、なんか俺に欠点があるんですよ。
矢沢: イトイは道を創ってるわけだ。
それはひとつのメディアになっていくよね。
俺はタダで載っけてね(笑)。
糸井: エーちゃんはバーター(笑)。
やっぱり「ウチはタダですよ」って言いながらも、
出てくれたり、書いてくれる人がいてくれるってことは、
今まで考えられなかったと思わない?
矢沢: やっぱ発想がよかったんじゃないのかな。
そこに魅力を感じてくれてるんだろうね。
糸井: エーちゃん、どのくらいインターネットやってる?
メールはやってるよね?
矢沢: うん、やってるよ。
俺は仕事で情報交換バンバンやってる。
あと、音楽創ってるから。
糸井: コンピュータには、もうなじんでるんだよね。
矢沢: 音楽やったから。
僕はコンピュータで音楽やったの3年前だよ。
3年前に「よしっ、俺もコンピュータで曲作る!」って。
糸井: いや、そういうときは早いねぇ。
矢沢: 必死だったもん、俺。
目の下まっ黒よ、クマで。
「だいたいオタクがカタカタやるんだろ?
まともなやつはいねぇんだ」
ってあれだけ言ってた俺が、カタカタやってんの(笑)。
もう、しょっちゅう間違えたよ。
でもやったおかげで、
コンピュータってものがわかったよね。
糸井: こわくないしね。
矢沢: うん、コンピュータは必要だよ(笑)。
矢沢の考え方がいいのはね、
コンピュータオタクにはならねぇ、ってのがどっかにある。
もうひとつ。
コンピュータで何をやりたいのか、ってことを
はっきりさせてから入ったのがよかったね。
音楽をやろう、と。
俺はグラフィックはやらない。
俺は音楽だから、音楽についてはマスターしよう、と。
あと、仕事の書類のファイルうんぬんはやろう、と。
でも、わからなくなることばっかりよ。
そしたらすぐ電話して
「あそこどーなってんの?」って訊いて、
そーかそーか、パタパタ、なるほど、直ったじゃん!
で、必要なことだけ取り入れる。
そしたらコンピュータはすごく身近なものになっていく。
糸井: ウチの新聞、毎日やってるから、ぜひ観てよぉ。
「毎日やっててエライなぁ」とか、
「イトイはどーしてるかなぁ」とかたまには思うじゃない。
矢沢: (笑)わかった、わかった。
ところで、イトイ新聞に携わる時間って
1日どれくらいかかる?
エブリデイでしょ。
糸井: 間接的な時間含めたら5、6時間かなぁ。
ある意味、24時間。
矢沢: サイテー。そんなんだったらしないよ、俺(笑)。
たいへんじゃない。
糸井: でもさ、そーやって人に言うけど、
エーちゃんが腕立て伏せしてる時間もステージだよ。
自分のことを考えてごらんよぉ。
矢沢: ……いっしょだね。
でも、たいへんだね、毎日毎日、ネタ考えて、書いてさ。
イトイさ、毎日オレのアルバムのタイトル入れといて。
「矢沢永吉ニューアルバムいいよ!」って。
言葉、毎日変えるの。
「矢沢永吉ニューアルバム聴いたほうがいいかも!」
2日目。
「聴くべきだ!」3日目。
「すごいみたいよ!」4日目、とかさ(笑)。
オレ書くから、パタパタって(笑)。
糸井: ホントにやるなら、本当にコーナー作るよ(笑)。
矢沢: いやいやいや(笑)。
糸井: (笑)毎日やるつらさって、わかるでしょ。
矢沢: わかる、わかる。
でもまあ、イトイらしいよね。


7曲目
「アーティストとしての戦い」
矢沢: 俺、若い頃に堂々とメディアと戦ってきた。
「オマエら家族撮ったらただじゃおかねぇぞ」って
はっきり言ってきてるタイプだから。
連中もやっぱり「あの人はヤバイよ」って
思ってるんじゃないの。
そりゃ姿勢の問題じゃないですか。
なかには撮って下さいっていう芸能人いるから、
だから混乱するんだけど、やっぱりわかれるよね。
「ほっといてくれよ。今、仕事じゃないんだから」
って言う人もいるけど、
「家族、観て下さい」って人もいるから。
糸井: 身をかわしながら、
言いたいこと全部言ってきたって感じだよね。
矢沢: めんどくさかったと思うよ。
「アイツはヤバイよ」って。
だって、バリバリ言っちゃうんだもの。
そういえば、こないだ俺、
あるミュージシャンとばったり会った。
「ああ、エーちゃん、どうもー」、
「久しぶりー!」って言ったけど、
かなり時間がたってたからオッケーだった。
俺、一時期、彼はすごくいいやつだと思ってて、
信じたんだけど、結局、ある事件があって、
「あ、こいつダメだ」と思ったの。
  どういうことかっていったら、
当時('72〜'75年)契約してた
フォノグラムっていうレコード会社と
もめたことがあるんだよ。
考えてみたら、俺って昔からいつも
体制と正面から大喧嘩してるんだよね。
「フォノグラム? クソったれ!
あんなレコード会社潰れれりゃいいんだ!」
ってことを雑誌とかラジオではっきり言っちゃったわけ。
そしたら、マジに影響あったみたいね、当時。
新人ロックバンドがフォノグラムに行かなくなってきた。

どういうことされたかと言うと。
結局、アルバムの曲順かえて、タイトルかえて、
何とか盤っていうのを、バンバン作ったわけよ。
彼らはやる権利があるからやったって言うけど、
俺はそういうことはやめてくれって言ったわけ。
わかるだろ?
たとえばファンキーモンキーベイビーってアルバムが
あったら、なんとかゴールドなんとか盤とかってのを、
曲順をかえて、タイトルをかえて出すわけだよ。
これはある種、ファンに対してはだましだろ、と。
だから、それはやめてくれ、と。
でも、レコード会社は儲けたいからやると。
それで大もめしたわけだ。
結局、俺ソニーに移籍した。

で、フォノグラムはもうなっとらん、と。
まあ、どこのレコード会社でもやってんのよ、当時は。
やってるけど、フォノグラムはやり方がエグかったのね。
で、俺はあの会社潰してやるってことで、
あの会社の手口をラジオでばっかばか言い出したのよ。
で、そのミュージシャンが出てる深夜放送に
ゲストで俺が出るってときに、そいつに言ったわけ、
こうでこうで俺は頭きてるんだ、って。
「エーちゃん、それはよくあるよね、うん」
と言ってたんだけど、
それを深夜の生番組でやろうとしたら、
そいつはその情報をディレクターに売った。
この、なんつうのかな、ディレクターとしては
そういう話は当番組でやってくれては困る
ってことになったわけだ。
で、今夜の矢沢さんの出演はとりやめる、と。
俺、頭きて。
「二度とこのラジオ出ない」って言ったんだもの。
普通アーティストが干されるのに、
アーティストのほうから干しちゃうんだもん。
それで本人が消えないからすごいよね、矢沢。
糸井: (笑)本人そんなこと、忘れて生きてるんだよね。
矢沢: そうよ!
で、そのときに、そいつには言ってないけど、
俺は心の中で、
「ああ、こいつは芸能人だなぁ」と。
「アーティストじゃないなぁ」と。
俺たちは共にシンガーソングライターなんだから、
お互いにミュージシャンの俺たちとしては、
改革をしていかなきゃいけないのは、
共通のテーマじゃないかと。
だから、当時、
「ミュージシャンはもっと印税をとって、
豪邸に住まなきゃいけないんだ」ってことを
バンバン言ってたのは、そういうことがあったからよ。
糸井: もう、キャンペーンみたいに言ってたよね。
矢沢: そうだよ。
だって、今ロックシンガーが一発当てれば
メルセデス乗れるようになったラインって、
オーバーな言い方だけど、俺が作ったラインですよ。
あの頃はプロダクションが上前全部はねた時代だよ。
それふざけるな、と。
あと、評論家に対しても俺言ったよね。
評論家がだいたいギター1本も弾けないくせに、
右だ左だ、そのレコードはああだこうだ書くな、って。
糸井: 「俺のことほめるな!」とまで言ってたよね(笑)。
矢沢: ふざけるな! って言ったわけ。
「矢沢さん、評論家とはどういう関係ですか?」って
訊かれたことがあったんだよ。
「評論家とは……そうだなぁ、
雨がザーッと降ってるときに、俺たちアーティストが、
メルセデス乗ってバーッと走って行こうとしたら、
雨のなかコンコンコンって窓ノックして俺のとこ来る。
『矢沢さーん、ニューアルバムに対して一言!』
俺は窓2センチだけスッと開けてやって、
『グレイトって書いといて!』、『おい、行け』
ってクルマ、スッと走らせる。
このくらいの関係じゃないの、
評論家とオレたちアーティストの間は!」
って俺言ったよはっきり。
このくらいの関係だから、評論家に言っとけって、
「生意気なこと書くな!」って。
そしたら評論家ビビッちゃってさ(笑)。
糸井: (笑)だってエーちゃん、
中上健次さんが書いたときでさえ文句言ってたもんね。
矢沢: いや、それは……。
糸井: だれでもカンケーない(笑)。
俺はね、「アイツわかってねぇよ」
って言ってるの聞いたよ(笑)。
矢沢: いや、中上健次さんはそーでもなかったよぉ……。
でも、そういえばこんなこともあったな。
ある評論家がいてさ、
あの人が書いて動かしてるみたいな時代あってさ、
それがもうカチンときたから。
それで、その人が出る番組の出演依頼が
テレビ神奈川からきて、
「生番組です、矢沢さん出ますか?」って話だったから、
「生?」って念押しして、「生です」って言うから、
「生なら受けます」って俺言ったんだもの。
それはつまり……生だから。
それで、リハーサルだよ。
「どうも、矢沢と申します、よろしくお願いします!」
ってな感じでリハーサルやって、いざ本番だよ。
4、3、2、1、スタート!
「……俺、評論家って嫌いなんだよ」。
糸井: (笑)ひどい!。
矢沢: (笑)そのセリフから始まったんだよ。
「俺って評論家嫌いなんだよ」って、そしたら
「は……!?」ってびっくりしてるわけよ。
「だいたいねぇ、ギターの1本弾けないヤツが、
ペン1本で右だ左だって、なんだよ。
俺たち意地賭けて、根性決めてから
ニューアルバム作ってんですよぉ」。
……もう、彼、顔サーッってまっ青になって、
何言ってるかわかんなくなっちゃって、ディレクターも
カメラどっちに向けていいかわかんない。
「やっぱりアーティストってのは、愛をもって、
信じて、アルバム売っていくんだよねぇ」って言って、
「それやっぱり、ギターの一丁くらい覚えて、
エレキ、ポーンとキメるくらいの人に
書いてもらいたいですねぇ」。
……終わっちゃったよ、話。
糸井: (笑)どうもありがとうございました、って。
矢沢: (笑)で、終わって。
ちょっとやりすぎたかなぁ、と思って。
さすがに俺も若かったから。
糸井: 今はしないだろぉ(笑)。
矢沢: しないしない。
それから、1カ月しないうちに
あるパーティーがあったのよ。
もう、俺、酔っぱらって……大酔っぱらいだからね。
でまあ、みんなズラーッと並んでて。
そしたら、見たんだ。彼がいたんだよ。
それで俺、謝ろうと思ったのよ。
糸井: (笑)それもすごい。
矢沢: さすがに、ちょっとやりすぎたと思ったのよ。
で、謝らなきゃと思って、近づいていって、
「あ、○○さーん!」って言ったの。
「……あっ! はあ〜」って帰っちゃったよ。
糸井: (笑)まっずいなぁ。
矢沢: で、それから月日が10年。
その間、会わなかった。
で、彼、ぜったいに俺のこと書かなくなった。
わるいことは書かない、いいこともぜったい書かない。
触れないのよ、もう。
触れたら何言われるかわからないと思ったんじゃない。
やっぱ、俺も「やりすぎたなぁ」って思ってて、
で、10年後に寿司屋でバッタリ会ったんだよ。
「あっ!」って気づいたら向こうも「あぁ……」って。
彼ともうひとり知り合いがいて、
その人は俺よく知ってたから、
「いや、どうもどうも」
「ああ、どうもどうも」ってやってたら、
その人の後ろに隠れてんだよねぇ。
糸井: (笑)かわいそうに……。
矢沢: びっくりしたんじゃない、いきなり矢沢入ってきたから。
ま、寿司屋の雰囲気だから、俺も丁重に。
俺はそのころいろいろがんばってて、
ドゥービーズ連れてきてなんだかんだやった後よ。
彼の顔がちょっとこうチラッと見えてて、
「……矢沢さん、いろいろがんばられてますね」
って言うから、
「いやいや、ありがとうございます!」って丁重に。
そして、別れたんだよ。
で、その後でスタッフに、
「○○さん、武道館に招待。
矢沢が来てくれませんかって言ってると伝えてくれ」と。
うれしかったんじゃない。
だって矢沢ってバリバリ毎年決めてるじゃない。
糸井: 評論家として、
エーちゃんに触れちゃいけないってのもいやだよねぇ。
矢沢: で、彼、来てくれたんだよ。
そしたらその年は、ちゃんと書いてくれたよね。
自分は観たと、男一匹がここまで根性決めてやるのは、
やっぱさすが、すごい、と。
そこで、なんにも言わないうちに和解よ(笑)。
でもねぇ、どれを見ても矢沢が言ってること、
まちがいじゃないんだよね。
だから、今までは、そういうことは言っちゃいけない、
言えないものだっていうレールをひいてただけの話よ。


8曲目
「10回は殺されてもおかしくはなかった」
矢沢: だけど、まあ、こういろいろ言ってきたわけだけども、
よく消されなかったよね。
まぁ、イトイなんかよく知ってるように、
もう堂々と言ってたもんね。
糸井: 要するに、
何回死んでもいいようなことをしてきてるよね。
矢沢: (笑)してきてるよね。
森進一さんがレコード大賞とったとき、
俺、ラジオ出てさ、
「なーんで森進一がレコード大賞よ?」
矢沢さん、どういう意味ですか?
「あんなもんテレビ局が裏で大ウソこいて、
だれかスターをつくりあげてるんだろぉ!」
って言ったわけよ。
矢沢さん、じゃあ誰だと思いますか?
「そりゃあ、井上陽水に決まってんじゃん。
“氷の世界”今100万枚売れてんだろ、
陽水にレコード大賞あげなきゃダメじゃん!」って。
「このラジオ聴いてる人に言いたいけど、
ホントにウソばっか、ウソばっかよ、
みんなセンズリこいてんだもん」。
それでおしまい。

そしたら、森進一さんのファンから
「なんてふざけたことしゃべらせてるんだ!」
って局に抗議の電話があって、
ディレクターからメモ渡された。
「あっ、今このラジオ聴いて、すぐに、
反論の電話がかかってきた。なんだ?
ふざけたことをべらべらしゃべらせるんじゃない?
オマエは許せん?
あ、こういうこと言ってきたらしい。
俺が言ってること事実だろ!
オメー電話でぐちゃぐちゃ言わないで、
ちょっといいから局まで来い!」
糸井: (笑)わっかりやすいなぁ。
矢沢: 「局まで来い! すぐ!」って、
「俺はいつでも受けてたってやるから、
事実俺が言ってること、筋とおってるんだから」って。
来ないよね。
糸井: 俺、今こういうシーン思い出したよ。
広島の会場かどこかで、演奏中に目の前で
お客さんどうしのケンカが起こったときに、
いっかい曲止めて、「ちょっとやめて!」って言って。
何事もなかったように、もう1回はじめたの覚えてない?
矢沢: いや、そんなのしょっちゅうあったよ。
糸井: あれやってるかぎりは、何も怖くないよねぇ。
矢沢: いやぁ、でも考えたら二度と出てこないと思うよ、
矢沢みたいなの。
糸井: だって、目の前で血流してるやつとかいたからねぇ。
あんな時代だったんだよぉ。
今のお客さんは、アベックでさ、
今日はデートだわ、みたいな感じだよね。
矢沢: 俺らが京都の円山公園でやったときは、あーた、
7人意識不明で倒れてさ、
救急車きたとき、ちょっとヤバイと思ったよ。
こん棒で頭殴ってんだもの。
糸井: それ、ステージから見てるわけ?
矢沢: お客さんいなくなったら、7人重体で倒れたままよ。
で、担架が来て。やっぱ会場拒否になるよね、
ああいうことばっかりやってると。
糸井: (笑)でも、エーちゃんのせいじゃないんだよなぁ。
矢沢: だからさぁ、今振り返ってみるとね、
やっぱり純粋だからできたのよ、純粋だから言えたのよ。
糸井: あと、やっぱりさぁ、
弱い立場だったんですよ、長いこと。
矢沢: そうだよ。
糸井: 大きい芸能界のなかの、
小さい島が戦ってるみたいな感じだから、
ちょっといろんなこと許されるんだよね。
やっぱ弱い側だったからね。
今はもうエーちゃんっていったらねぇ。
矢沢: そのとおりよ。
「あれは許せない!」「これどうよ? 納得できない!」
ってことが言えた立場だったんだよ。
今度は、矢沢のひとつひとつの発言が
やっぱり責任が出てくるでしょ。
だからねぇ、つらいよぉ。
糸井: そうだよね、創っていかなきゃならないからね。
矢沢: 立場が逆になった。
糸井: 今ちょうどさ、ルールがぜんぶ壊れて、
当時のルールに反発してた時代の矢沢がいて、
今は、エーちゃんがもしかしたら新しいルールを
ひとつずつ創っていくんじゃないかって感じが、
矢沢のところに話をききに行こうって流れに
なってるんじゃないですかね。
矢沢: 矢沢がバリバリ言ってたときには
なにも前例がなかったから、
いろんなエピソードが残っているんだけど。
ホントに今はそのとーりになったよね。
今のロックバンド、ニューバンドにしても、
ニューシンガーにしても、
オレが言ってたとーりになってきたよ。
本当に今はひらけてますよぉ。
ロック部門はひらけてますよ。
一攫千金夢じゃないっスよ、当たったら。
糸井: でも、エーちゃんさぁ、そうは言うけど、
長い時間もった人はいないよ、その後。
今の若い子がそれこそエーちゃんが言ったように、
反抗的な姿勢もとるし、いろんなことができる、
で、ここまで来たか、ってとこまでは行けるけど、
3年経ったときに、その人たちが
同じことやってるかなって考えてごらんよ。
いないよぉ。
矢沢: 考えたら28年ってすごいね。
5回殺されてもいいようなことあったから(笑)。
糸井: 「こいつは5回殺されてもよかった」って。
矢沢: でも、そういう書き方はあっていいと思うよ。
矢沢は本来だったら10回は死んでる、と。
糸井: (笑)増やした?
矢沢: 10回くらいあったと思うよ。
10回は消されてもおかしくない、事実そうだよ。
でも考えたら、
10回消されてもしょうがないくらいのことってのは、
やっぱ革命的なことだったんだよ。
それは誰かがやらなきゃいけないし。
自惚れじゃないけど、ある雑誌で言ったことあるよ。
俺は日本の芸能界には出現しなきゃいけない男だったって。
出なきゃ行けない男だった、ぜったいに。
糸井: 芸能界だけじゃないんじゃない。
今でもこの人の言うこと聞いてみたい
って思うミュージシャンって
そんなにないみたいじゃない。
矢沢: これが矢沢だったんだよね。
ぜんぶあの時につながってるじゃない。
俺、文化放送かどっかに初めて行ったときに、
「これが放送局か!」って。
向こうが「おはようございます!」って挨拶してきたとき、
俺ナメられてんのかなってマジで思ったのよ。
「あの、すいませんけど」
「はい?」
「夜は“こんばんわ”って言うんじゃないんですか?」
って言ったら向こうが「は?」って言ってて。
矢沢さん、ちょっと、こっちこっち、って。
「昼でも夜でも“おはよう”って言うんだよ
この世界の人は」って教えられて。
「あ、そうなの? バカにしたわけじゃないんだ。
あ、どうも、よろしくお願いします」なんてよぉ(笑)。
そっからぜんぶきてるんだよね。
糸井: 野武士だよね。
ひもで腰に刀しばってるようなオジサンだよね(笑)。
矢沢: 知らないんだもの、業界(笑)。
だから、ぜんぶ、そっから始まってるんだよ。
糸井: 「なんか変だな」っていうまんまで
そのまま生き抜いてきたんだよね(笑)。
矢沢: なんにも知らないくせに、
ナメられることは許せないみたいなさ、
「ナメられちゃいけない!」というのはあるんだけど、
知識なんにもないんだよね。
糸井: だけど、それに見合うだけの努力もちゃんとするじゃん。
矢沢: いや、それはね、矢沢、勘がいいのよ。
「あ、これちがう」ってことはパパッとやめる。
これはもともともってるもんなんだね。
ただ、あなた、根性だけじゃこられないですよ。
ススッ、ススッと変えるものは
意外と几帳面なんですよ。


9曲目
「ツッパってるだけじゃ虚しいぜ」
糸井: 思ったんだけど、
エーちゃんに“ツッパリ”ってタイトルは似合わないね。
“ツッパってるだけじゃ虚しいぜ”ってタイトルだね。
矢沢: あー、いいこと言うねぇ。
糸井: 当時、「成りあがり」の時代に
それこそツッパリだったわけじゃない、人から見たら。
あの本“ツッパリ”ってタイトルだったら、
一時的にはもっと売れたかもしれないよね。
でも、ツッパリってタイトルの人だったら倒れてるよね。
矢沢: 倒れてるよ、ホントだって。
ツッパるだけじゃ限度あるもん。
俺つくづく思うね、今28年やっててさ、
矢沢は根性でやってきたとか、
根性で俺はここまで来た、とか、そんなのウソだよ。
根性じゃ来られないって。
根性は、矢沢のひとつの背景であるし、
モチベーションだし、気持ちであるんだけど、
なんでここまで来たかって言ったら簡単だよ。
「ニューグランドホテル」「ラスト・シーン」を書ける
才能があったからよ。そりゃそうだよ。
「アイ・ラブ・ユー,OK 」を書けるからよ。
「A DAY」とか「親友」とか、
あのメロディを書けるものがなかったら、
ぜったいここまで来ないよ。
だけど、メディアから見るとさ、
ツッパリのほうが扱いやすいじゃん。
どうやら根性らしい、とかさ。
糸井: まとめたがるってのあるからね。
矢沢: そのほうがレッテル張りやすいじゃん。
なんか“反抗”みたいな。
広島のカッペが、東京タワーを見に出てきた、とか。
糸井: それはもう、自分で映画にして売ってた部分だから、
このへん写真撮っておいてよ、みたいなもんだから。
矢沢: やっぱりどっかで音楽をもうちょっと
背中合わせに入れときゃよかったよ(笑)。
糸井: (笑)今になって。
矢沢: “川崎の不良”みたいなイメージが
やりやすかったんだろうね。
4人組の川崎の電気楽団、とかさ。
でもね、それを入れながらも、
となりにちゃんと入れとけばよかった。
“才能もすごいらしい”ってのを
常につけてもらいたかったね。
“才能は深い”とかさ(笑)。
それがなかったから。
後からその紐解きをやるのがたいへんだったこと。
だからその後で「ちょっと待てよ」と。
もう「成りあがり」とか、不良、暴力、
そればっかりでレッテルはらないでよ、と。
俺のメロディーラインと、コード進行、
分解してみてよ、深いから、ってこと言っても、
聞いてくれなかったよ。

それで、なんかしらないけど最近やっとだよ、
「矢沢のメロディーは……」って言われるの。
いや、同じ業界のやつはとっくに知ってたよ。
俺がそれよくわかったのは、あのバンド……
ミスターチルドレン、ミスチルが本出したのよ。
「矢沢さんの名前がしょっちゅう出るので届けました」
って本屋が持ってきた。で、読んだ。ミスチル知ってるね。
矢沢のコード進行におけるなんとか、ってように、
しょっちゅう矢沢が出てくるわけ。
彼ら矢沢の音楽、ぜんぶ分解しちゃってるよ。
たとえば、Aマイナーからの転調は、
よく矢沢が使うんだけど、それはこうでこうで、とかさ。
糸井: なにより強いのは、エーちゃんはさ、
無理やり新しぶらないで、変化してきたでしょ。
それって勇気いるんだよね。
エーちゃんは、受け手に仕事させたよね。
矢沢: そうかもしれないね。
なんで「アリよさらば」が、ヘボなりの演技だけど、
あれなりに温かかったのか、とかさ。
俺の別な面が出てるよね。
そういや音楽、けっこういい曲書いてるんじゃないの?
メロディー、けっこうわるくないよね?
本読んでると、いちばん最初にアメリカ行って
外国人ミュージシャン連れてきたの矢沢さんじゃないの?
洋盤に近いことやったのあの人なんじゃないの? とか。
わかる?
ひとつずつ、ポロポロ出てきてるわけよ。

だから、ブラックだの、暴走族の教祖だの
レッテル張られてきたけれども、
そりゃそうだよ、言われるよ。
あれだけのこと、ラジオでばかばか言って、
芸能界クソ食らえって言ってたから。
あの人危ねぇ、みたいなこと言われるよ。
でも、そのスタンスがよかったのかもね。
なぜかって言ったら、ぜんぶわかりえないから。
「なんか不思議だ」って。
アイツ暴走族の教祖だったんじゃないの?
それにしちゃ、なんで「お受験」出てハマるの?
みたいなさ。
今になってみたら、ぜんぶオッケー。
気づいたら28年、オール現役よ!
糸井: エーちゃん、今まで1回も利口ぶらないんだよ。
「わかんないけど俺はこう思う」ってことだけ言ってる。
意見は言ってるけど、自分以上のことは言ってないんだよ。
矢沢: だから、まあ偶然なんだろうけども、
いろんなこと考えたら、最近自分のこと、
おもしろいなぁ、と思うよ。すーごくおもしろい。
糸井: 運もよかったのかもねぇ、見えないところでねぇ。
矢沢: 僕、誰かに言ったことあるけど、
ぜったい何かに守られてるんですよ。
なにかには守られてる。
しかし、俺たち元気だよね。
なぜかって言ったら、イトイにしても、矢沢にしても、
やっぱりどっかで純粋だもん。
純粋だし、どっかでドリームちゃんと忘れてないもん。
イトイにしても、矢沢にしてもホント冒されてませんよ。
ホントにまともですよ。
糸井: 両方ちゃんと気が弱いしね(笑)。
矢沢: そう、気弱いし……気弱いよぉホントに。
糸井: で、コツコツやるしね。
矢沢: 遊び心もってるし。
いや、でもまあ、ホントに矢沢の28年、
あと何年やるかわからないけど、おもしろいよねぇ。


10曲目(最終回)
「俺たちモテるって!」
糸井: 50歳になってもやる、って言ってた頃には、
「まさか」って気持ちちょっとあったでしょ?
若いときそういうことばっかり言ってたじゃない。
「オレは白髪になってもハゲてもやる!」って。
矢沢: だからぁ、そんなもんねぇ、
言葉に酔う時期もあるじゃない。
「いやぁ俺は50歳になってもやるよ!
ハゲになってもやるんだぁー!
どうだい? 根性あるだろ?」って言ってやってきたよ。
ところが、50歳が来ちゃったんだよ(笑)。

どうしようかなぁ、まずいなぁ、って思ったときに、
まあ歳も歳だし、今思うことは、
人間はなんで生きられるんだろうなぁ、
ってことを素直な気持ちで、考えたりするわけだよ。
そうすると、やっぱり、
やり甲斐があるものを持ってるか持ってないか、
手に職を持ってて、俺にはやるべきものがあるかどうか、
そうじゃないと生きられないじゃない。
みんなそうなんだよね。

どこでボーダーをつけるかと言ったら、
やるもの持ってるヤツと、
さまよってるヤツに分かれるんだよね、歳とってくると。
だから、なにしていいかわからない人は、
もう死んじゃうんだよ、心が。
そんな苦しいことないよ。
だから、俺、たまに思うときあるよ、
俺がもし矢沢永吉じゃなくて、やるものがなかったら、
俺このまま老けていっちゃうのかなぁって。
それ怖いなぁーと思ったときに、
今やってることが幸せなことなんだなと思えるよね。
糸井: 50歳ってホントになっちゃうんだよねぇ。
若いときに、50歳になるときが来るって話聞くじゃない。
「へー、いつかそういう日がくるんだろうなぁ」って
漠然としか思わないじゃない。
それで、50歳、60歳のことを
勝手にもっと老けさせて考えてなかった?
だけど、同じじゃん。
35歳と今のちがいってないでしょ?
矢沢: でも、逆にね、ちがうんだよ。
なんか妙に、今週……、今週って言い方おかしいな。
今回、いろんな取材を受けていくなかで、
なんか新たな気持ち? またちょっとちがうんだよ。
なにかちょっと抜けたんだよね。いい感じなんだよ。
もう50歳を堂々と受け入れちゃおうっていう
スタンバイができたみたい。

で、オッサンの道があるんだよ。
オッサンゆえに、またおもしろいことができるオッサン。
その幕開けをバーンとやろうと思えば、
できないことないな、と。
めっけもんの50代に入れるかなぁ、というスタンバイが
できちゃったんだね。
糸井: オレもその気分。
矢沢: だから今、気分いいんだよ。
あなた今50歳なの?
糸井: 去年なったんだよぉ。
矢沢: イトイ50歳に見えないよねぇ。
糸井: 気持ちいいよぉ、50歳が。
40歳もよかったけど。
矢沢: そうか。
いや、俺たちモテるよ。
糸井: オレはモテないねぇ。
矢沢: またぁ〜(笑)。
50代入ってね、バリバリケツ振るヤツはもっとモテるよ。
イトイ、俺たちモテるって。
もうなんでも来いよ、みたいな感じ?
女はそういう開き直ってる男が好きなんだもの。
糸井: 業界違いですから(笑)。
矢沢: そんなことないっスよぉ、
ライターもいいじゃないっスかぁ〜(笑)。
糸井: なんかもう、こんなことで励まされて寂しいなぁ(笑)。
矢沢: いいからイトイ、女遊びしに行こうよぉ〜。
警察問題がおきる一歩手前でやめるっていうの、どお?
やろうよぉ、カミさんに隠れて(笑)。
まあ、そういうことも元気にやろう!
イトイ飲まない? また今度。
糸井: いいよ。うん。
俺いちばん楽なのは、メールで連絡もらうことなのよ。
矢沢: オッケー!
糸井: 急に思いついたらメールくれればいいから。
矢沢: わかった、メール入れるよ。
糸井: エーちゃんさぁ、60歳になったらさぁ、
エーちゃん学校ってやらない? 私立の。
よくほら、野山の教室とかあるじゃないよ、
あれ、ダメよ。だってそこ無菌状態なんだもの。
今は都会がジャングルじゃん。
エーちゃん学校って発想どうよ?
矢沢: 60歳になったら?
……エーちゃん(笑)。
学校法人エーちゃん。
糸井: それ創ってエーちゃん自分で遊べばいいじゃん。
「ようこそ校長でーす、ヨロシク!」って。
矢沢: 教頭はだれ?
糸井: 俺、なんかやるよ(笑)。
矢沢: じゃ、教頭だ(笑)。
糸井: で、いろんなことやりたいヤツが集まる寮があって、
ちがう種類の人がいっしょに遊ぶのよ。
校長先生がたまに来て、ごきげんでさ、
給食食ってるのよ、どお?
矢沢: (笑)イトイだったらやりかねないね。
糸井: 俺ね、エーちゃんがほしい、その場合は。
矢沢: イトイ学校創ったらいいじゃん、マジに。
糸井: そうだね、どっちになってもいいよ、その気分。
で、ホントはいろんなこと大丈夫なんだよ、って
教えてあげたいんだよ。子供に。
矢沢: なんか、今日のイトイの話は、
ぜんぜんタッチがちがう、おもしろいよこれ。
糸井: 俺ら、前向きだからね。
矢沢: あと、9月15日の横浜は、
“ありがとうが爆発する夜”これにつきるよ。
なんかうれしいんだよ、今が。
で、50代に入れば2つに分かれるよね。
そのままただのオッサンになっていく道と、
オッサンならではの色気の道。
それだけのことよ。
そういう意味じゃ、うれしいことよ。
ありがとうが爆発する夜、だよ。
糸井: エーちゃんの「ありがとう」と、
お客さんからの「ありがとう」がバーンと、
花火みたいにさ。
矢沢: そっから行くんですよ、また。
50歳の色気ってあるのかなぁ?
っていうドアを俺は開けるのよ。
糸井: またなにか壊すんだろうね。
矢沢: それでいいのよ。
50代の色気はぜったいありますからね。
糸井: まだモテたい?
矢沢: モテたいね。
それは男女のモテたいじゃなくて、
やっぱりそれくらいの根性もって生きたいよね。
ひとつ大事なことじゃない、モテたいってのは。
結局、モテたいって感覚があるかないか、って
おーきなちがいよ。
それがあるから新しいドアを
ばかばか開けるってことだよ。
じゃ、イトイ、そういうことで。
ありがとうございました!
仕事ぬきで、また会おう!


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