糸井 |
「精一杯、これ以上できないよ、
というところまでやっている人がいい」
というお話は、とてもよくわかります。
藤田さんも、そう言えるだけのことを、
これまで充分、やってこられたでしょう。
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藤田 |
ぼくは、いいかげんなんです。
選手時代は、途中でいつも、
「あ、これくらいでいいや」と思うほうでした。
だから、それが悔しくて、監督になったあとは、
「もう一度現役に戻って、精一杯やってみたい」
という気持ちになって、やっていました。
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糸井 |
へぇ‥‥いつごろから
そんなことを思ってらっしゃったんですか。
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藤田 |
もう、ずいぶん前からです。
自分は選手としては、典型的な「サボり」でした。
ランニングひとつ取っても、そうですし。
投げる練習だけは、けっこうやりましたけど、
その他の、いまの選手のような、
裏へまわったトレーニングなんていうのは、
まず、しなかったですから。
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糸井 |
「それで通用しちゃう時代だった」
ということですか。
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藤田 |
ええ。時代もそういう時代でした。
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糸井 |
昔の野球のビデオとかやると、フォームから、
プレーから、みんな意外に穴だらけですよね。
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藤田 |
そうですよ。昔はいいかげんですよ。
ぼくが入団した時、
明石でキャンプをやったんですけど、
だいたい、ピッチャーの練習は2時間かからない。
グラウンドへ行ってから帰ってくるのに2時間。
出ていって、全体と一緒にランニングをやって、
軽くピッチングをやって、
軽く走って‥‥それで帰ってくるんですから。
あとが、ヒマだったんです。
麻雀でもするしかない。
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糸井 |
同時にそれは、そのころは、練習にしても、
「何をやっていいかわからなかった」
という時代だったわけで。
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藤田 |
ええ。
練習全体が、そういう風でした。
チーム全体が、
どこのチームもそうですけど、
全体に「体ならし」でしたからね。
キャンプだから特別どうこうするでもないし、
時間で区切って全員がガンガンやるという
キャンプでも、なかったんです。
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糸井 |
じゃあ、今の普通の選手は、
昔にタイムマシンで戻ったら、
大活躍しているかもしれないですね。
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藤田 |
そりゃあもう、レベルがぜんぜん違います。
だから「昔はどうのこうの」だとか、
「我々の時代は‥‥」なんて言うのは、
アレはぜんぶ、大ウソですよ。
だって、ピッチャーが投げる球にしても、
真っすぐとシュートとカーブがあれば
1試合できたんですから。
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糸井 |
そう言えば、藤田さんは、
「昔はよかった」って言わないですね。
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藤田 |
ええ。昔は悪かった!(笑)
いいかげんだった。
あれでよくメシを食っていたと思う。
「プロでございます」と言ってね‥‥。
大酒飲みの選手がバッターボックスへ入って、
キャッチャーに「フーッ」とやると、酒臭い。
そういうのが「英雄」扱いだったんですから。
「二日酔いなのにホームランを打った」だとか。
そんなものは、えらくもなんともないですよ。
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糸井 |
その時、選手というのは、人間的には?
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藤田 |
我が強くて、わがままで、
自分だけよければいいというような集団でしたよ。
だからチーム内での争いが絶えないんですね。
ケンカをしたり‥‥。
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糸井 |
プライドだけが高い人ばかりの、
そのうちの1人だったわけですね。
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藤田 |
ええ。ぼくもそのうちの1人だった。
そういうものが変わってきたのは、
長嶋が入って何年目か、ぐらいからかな?
まわりで「長嶋、長嶋」と言われ出されまして、
やっぱり、人の目によって育てられた。
おおぜいの人が選手を認めることによって、
自分でそういう気運を感じて、
「きちっとしなきゃいけないな」
ということで野球に入っていきましてね。
選手には、立ちあうコーチも大切ですけど、
試合を見ているお客さんの認め方、
そういうものも、とてもだいじだと思いますよ。
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糸井 |
期待されることで、
その期待されたことに合わせていくんだ。
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藤田 |
ええ、それが、人間だと思うんですよ。
強く期待をされているのに、
「そんなもん、知るかい!」と
いいかげんなことをやる人は、少ないと思う。
みんなが期待して認めてくれると、人間は変わる。
今の若い子たち、
どうしようもない子たちなんかも、
そういうものを早く何か見つけて、
気の入るものを見つけられるといいと思うんです。
どうしようもない子たちが、多いでしょう?
でも、ああいう人たちも、
いくらでも、いい子になると思うんですね。
いちばん早いのは、一人一人に、
「おまえ、こういうものがあるけど、
どれかを、やってみるか?」
「じゃあ、これやってみましょうか」
というような機会が与えられることですよね。
ひとつのことをバッとやってみて、
ダメなら次へ行ってみるというふうに、
選択をしながら、自分がいちばん好きで
得意なものを見つけて、
その道をやっていくと、早いと思うんですね。
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糸井 |
そこでもやっぱりアイデアが要りますね。
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藤田 |
要りますね。
言い方も「やれ」じゃなくて、
「これ、どうだい?」だとか‥‥。
おもしろみを見つけさえすれば、
もうけものですよ。
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糸井 |
9回失敗しても、
10回目があるかもしれないし。
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藤田 |
おもしろみを見つけたら、
今度はそれに熱中できますから、
そこまで来たら、もうしめたものです。
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糸井 |
長いレンジで、
「そんなに簡単にうまくいくものじゃない」
というぐらいに、捨ててもいいから、
ということで、指導者は見てなきゃダメですね。
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藤田 |
糸井さんの釣りも、最初から
好きになったわけじゃないだろうし、
「やってみたらおもしろかった」わけですよね。
で、だんだん、のめりこんでいくんでしょう。
同じようなことが他にもあると思うんですね。
やってみているうちに、
「やたらとおもしろいなぁ」
「自分に合っているな」
と思えるなら、それが何でもいいんです。
自転車をこいで走るのに
おもしろみを感じる人もいるかもわからない。
だから、そういうものを、ひとりずつ、
指導の立場にいる人たちがまず見つけてね。
自分で見つけるのは、むずかしいですから。
きっと、暴走族の子なんか、あれ、
おもしろくてしようがないと思うんですね。
熱中していると思いますね。
ただ、人に迷惑をかけているからあれですけど、
あれがレース場へでも行って
ボンボンやっていれば、
もっと違ったかたちになると思うんですよね。
レースだって、好きでやっているわけですから。
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糸井 |
藤田さんの場合、困った時に、
アイデアがいつでも用意されていますね。
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藤田 |
ぼくはどちらかというと、
そういうことを考えるのが好きなんです。
これがダメならあれ、だとか。
何を見ていても、それを
ひねったらどうなるか、その結果を見たいんです。
店にものが一つ売っていても、
「これ、こうしたら、こうならないかな」だとか。
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糸井 |
ぼくも同じなんですよ。
それと、さっき藤田さんがおっしゃったけど、
ぼくも、自分がいままで仕事をしていて、
「若い時は、真剣じゃなかったなぁ」
と思うことがあるんですよ。
「できちゃっていた」ということなんです。
いま思えば、藤田さんの時代の野球と同じで、
ぼくのやっていた仕事全体が、遅れていたんです。
だから、何とかなっていた。
「もう一度やり直したい」とは思いませんが、
たとえば、ぼくがあんなに
野球を見ていたことだって、おかしいですよ。
年間70試合、オープン戦から日本シリーズまで、
ずっと巨人の後をついてまわっていたんですから、
仕事している人間としてはマズイです。
あんなことができていて、しかも、
「糸井さん仕事してるね」「忙しそうだね」
と言われていたのは、どう考えてもおかしいです。
‥‥というようなことに
ぼくは、40歳半ばを過ぎて気がつきました。
藤田さんと頻繁にお会いした時期のあとに、
ぼくは1回もそれを伝える機会がなかったから、
ぜひ「そのことに、わかったんですよ」と
言って、藤田さんとまたお会いしたかったんです。
でも、遅いんですけどね。
前のことは、もう取りかえせないですから。
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藤田 |
いや、遅くないんです。
気づいた時がスタートで、いいんですよ。
ムダじゃないですよ。
経験したことは、みんな生きますから。
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糸井 |
たしかに、人の仕事を見ていると、
「まだ9割の力しか出してないな」
という状態は、自分がやってきたことだけに、
とてもよくわかってしまうんですけど。
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藤田 |
あれ、ほんと、よく見えるんですよね。
自分のあとを同じように歩いてくる人が
とても、よく見える‥‥。
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糸井 |
だからこそ、「精一杯やる人」というのは、
やっぱり、かわいいですよね。
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藤田 |
そうなんです。
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糸井 |
いま、仕事をすることがおもしろいんですよ。
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藤田 |
糸井さんは、根がまじめなんでしょうね。
仕事人なんですよ。
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