YAMADA
おとなの小論文教室。
感じる・考える・伝わる!

Lesson23 自分を発見する part1

人は何か自分なりのいいものを持っている。
そうした自分の価値を発見し、
世界とつながっていきたい。

その時、何が大切か、考えてみたいと思います。

いきなりですが、あなたは、
才能ある人に接していて、落ち込んだことありませんか?


●…だから何なのか? 

すごく頭のいい人
ルックスのいい人
経験が豊富な人
私は、それだけでは「すごい!」と思うことができない。

だから、何なのか?

それが肝心だと思うからだ。
例えば、すごく経験豊富な人がいて、
その人が、経験のない人を縛ったり、威圧するなら、
「そんな、社会の重石みたいな経験、いらねー!」と思う。
経験のない人も、どうしたら自由にしてあげられるか?
それを考えるのが経験ではないだろうか。

私が、小論文で脳死とか環境問題とか、
様々なテーマを扱うようになったころ、
付け焼き刃だけど、いろんな知識や観点を勉強できて、
うれしくていろんな人に話した。
受け売りの知識を、完全にひけらかしていたと思う。

相手にとっては関心のないテーマだから反応はどんより。
するとテーマについて相手より勝ったような気になる。
あげく、日本人の意識が低いとか
やっぱり今の教育はなってないなど、ぼやくようになる。

そんな風に、一つテーマの知識をつけては、
一歩、優越感に浸る、「世の中なっとらん」とぼやく
ということを繰り返していたある日、
だれの詩だったか、

犬はいい目を持っていたので、
すべてのものが灰色に見えた。


というのがどうもひっかかって、考えた。
そのころ知識人・文化人と言われる方々と仕事をし始め、
中には、ひどく人を見下した人がいて閉口したものだ。

何のための知性だろう?
ひとつ賢くなって、ひとつまわりを見下し、
あげく世の中が灰色に見えるような、
そんな孤立した世界観を描いていくための勉強は、
どこかベクトルが違うんではないだろうか。
なんだか腹が立ってきて、自分で自分を叱りたおした。
人をばかにするための勉強なら、勉強すんな!
だったら、何にも知らない方がましだ。

知性は、人に対して垣根や階層を生むためではなく、
人に対して橋をかけるためのものではないだろうか。

同様に、自分の中のいいもの、
それだけではまだ価値と言えない。
自分の優位性を確認するためだけのものなら寂しすぎる。
頭がいい人、美人、絵がうまい、ダンスがうまい…
だから、どうなのか?

人に歓びを与えられるか?

が問題なのだと思う。
こればかりは、人の反応、手ごたえを
実際に確かめるしかない。
そこで「伝える」という作業がどうしても必要になってくる。
さまざまな分野の仕事人が、
知恵をめぐらせ、人との関係性を考え抜き、
2歩も3歩も歩みよりながら、
「伝える」ことに心をくだいているのも、
実は自然なことだ。
「人に伝わる」ことと、「自分の価値を発見する」ことは、
ほとんど同義なのではないかと思う。

私が、編集の仕事を通して、
自分の役割を発見したのは、すごくおそかった。
最後にあげる散文は、その時のことを書いたものだ。

次週は、この経験もまぜながら、
どうやって「自分の中の世界」という殻を破って、
「世界の中の自分」をつかんでいくか、
「伝える」ということをキーに、探ってみたいと思います。

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「自分を発見する」

新しいことに挑戦する
自分の好きなことで、
自分の外の世界にも歓んでもらえることに。

「次々と新しい世界が開けて、新しい自分が見えてくる」
そう本人が思っているとき、
実は新しいことをやってはいない。
自分がすでにやったことを焼き直しているか、
誰かがすでにやったことを新しいと思っているだけ。

本当に新しいことをやるのは苦しい。
周囲の抵抗。
だれも、いいか悪いかを判断できない、
だれもほめてくれないことこそが新しいのだから。
そして自己嫌悪。
知らないことだらけ、
できないことだらけ、
すっぽりと抜け落ちている自分の能力領域の確認。
抱いてきた「自己像」がバラバラとはがれていく。

進まず、とどまれば、自己像は傷つかないままだ。

ぽろぽろとはがれ落ちていく
「自己像」を進んでいく人を、
私は勇気ある人だと思う。
はがれてはがれて、たらたらと、
はがれたとき見えてくる自分。
受け入れられず、あがいて、もがいて、その果てに、
おそるおそる正視する。

「なーんだ、<私>じゃないか」

ほっと肩の力が抜ける。
その時差し込んでくる光が「発見」だ。
それは、世界と自分の関係性がつかめた瞬間。
何かを発見することは、自分を発見することだ。

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(つづく)

2000-11-01-WED

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