フランコさんのイタリア通信。
アズーリにいちばん近いイタリア人の生活と意見。

季節外れのサンタクロース。

「ありがとう」という気持ちでいっぱいのとき、
人は、人に、何かをしてあげたくなるものです。
誰かを喜ばせてあげたい、って。
さあ、そんなとき、誰を喜ばせてあげましょうか‥‥?

僕は、この世でいちばん素晴らしいものは
子供の笑顔だと思っています。
(自分の子供じゃなくてもね。)
見事なゴールや試合での勝利も素晴らしいけれど、
子供の笑顔に勝るものはありません。
それを見るたび、これは人生に欠かせないものだって
思うんです。

アズーリのこんなエピソード、
ごぞんじですか?

ローマの選手であり、イタリアのナショナル・チーム、
アズーリのメンバーでもあるダミアノ・トマージ は、
名声や地位や富という、
この世で素晴らしいと思われていることを、
サッカーによって手に入れました。

トマージはピッチにいる時は
「頑固一徹」といわれる選手のひとりです。
とにかくサッカーのルールで許されている
あらゆるプレイを駆使し、
その全根性を使いはたすまでプレイしますから、
試合のあとはもうへとへとで、
歩くのさえ大変そうなほどです。

でも、ひとたび試合を離れれば、
彼はとても優しい人です。
彼は、その優しさで、
彼よりアンラッキーに見える人たちを
助けようとしているんです。

いま彼の心の真ん中には、子供たちがいます。
すでに人生の試練をたくさん受けて
笑うことを忘れてしまった子供たちが。

去年の夏、アズーリはW杯に備えて仙台にいました。
そして時間をつくって、
「鶴ヶ谷養護学校」という
障害を背負った子供たちの学校を訪問しました。

アズーリの選手たちは、そこの子供たちといっぱい遊んで、
とうとう彼らから笑顔を引き出すことに成功しましたよ。
希望、喜び、ありがとうの気持ちのこもった笑顔をね。

その笑顔が、ダミアノ・トマージ をつかんで
離さなくなったのです。

トマージの腕時計を携えて。

そのとき、ミラノでは、
日本でのW杯に向けて、
有名な貴金属宝石商であるグリモルディが、
アズーリ仕様の限定ナンバー入りの時計をつくり、
選手たちはそれを持ってW杯に参加しました。




文字盤はアズーリ色(青色)に
イタリア国旗の色、緑、白、赤の縞が入っています。
文字盤の裏には各選手の名前が彫られていて、
それぞれの選手に届けられました。

ところが選手の中のひとりが、
彼のためだけに作られたこの宝物のような時計を、
受け取れないと言いました。
ダミアノ・トマージ です。

トマージはグリモルディ氏にこう言ったそうです。
「プレゼントには感謝します。
 でも僕は人生からたくさんの贈り物をもらっていますから、
 この素晴らしい宝物をだれか他の人にプレゼントして
 喜ばせたいと思います」

さあ驚いたのはグリモルディです。
彼はイタリア首相のシルヴィオ・ベルルスコーニとも
交友があるほど、V.I.P.な人たちを相手にすることに
慣れていましたから、
すんなり受け取ってもらえて当たり前と
思っていたんでしょうね。
でもグリモルディは、
「せっかくお前のために作ったんだから・・・」
と怒ったり、押し付けたりはしませんでした。
それどころかトマージの言葉に感動した彼は
「じゃあ、君のこの時計をだれに贈ろうか?」
と聞いたのでした。

その答えを見つけるのに、1年かかりました。
トマージはやっと見つけた答えを、
グリモルディに送りました。

「一年前に日本の仙台にいた時に、
 僕らアズーリは障害のある子供たちの学校を訪問しました。
 その学校に僕の分の時計をプレゼントしてください。
 僕からはアズーリのシャツをいっしょに贈ります。
 あの子たちの笑顔が忘れられないんです。 
 僕の人生の中で、僕がずっと心に持ちつづけていきたい
 思い出なんです」

グリモルディは、僕、フランコが
今年のバカンスを過ごしに
仙台へ行くことを知っていましたから、
このプレゼントを持って
日本へ行くようにと頼んできました。
 
僕は本当に感動して、この役を引き受けました。
グリモルディのような金持ちはみんな欲が深い、とか、
トマージみたいな有名サッカー選手は
みんな甘やかされていて
我が儘だとか言われることもありますが、
そんなことは断じてありません。

僕は去年、この学校に行きませんでしたから、
トマージの心に焼きついた
「子供たちの笑顔」を見ていません。

裏にトマージの名前が刻まれた
イタリア色の文字盤の時計と、
アズーリのシャツをしっかりと抱えて、
僕は日本に行きます。
感動を携えて。

トーマゾの時計とシャツを届ける時に、
ほんの一時でも子供たちが微笑んでくれることを、
いまから楽しみにしています。
だれもを幸せにしてくれる
「子供たちの笑顔」をね。


訳者の一言

イタリア人というのは、人間の持っている
良いところも悪いところも
隠さない人たちと思います。
矛盾、とは違うのです。
どちらも確かに人間は持っている、
という単純なことなのです。
人生をややこしくすることに慣れてしまうと、
親切もなかなか表立ってはできなくなります。
とても単刀直入なイタリア人たちと友達になると、
ふりまわされることもありますが、
それ以上に、人生が楽しくなりますよ。

翻訳/イラスト=酒井うらら


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2003-07-07-MON

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