フランコさんのイタリア通信。
アズーリにいちばん近いイタリア人の生活と意見。

ユーヴェの薬物疑惑、リッピの進退。


サッカーのイタリア代表チーム
「アズーリ」の新監督に、
マルチェッロ・リッピが予定されていると、
ぼくは先週ここに書きました。
リッピはユベントスの監督を引退したばかりですが、
実は今、トリノで、
そのユベントスによる不正に対する
裁判が進行中です。

訴えによれば、
1994年から1998年まで、
ユーヴェは運動能力を改善する薬物を使い、
それによって不正な成績を得ていたかもしれない、
とのことです。ドーピング疑惑です。
じつはこの時期、
ユーヴェを監督をしていたのがリッピでした。

スポーツ上の不正ということになりますが、
進行中の裁判はスポーツ裁判ではなく、
通常の司法府によるものです。

これは刑事裁判なのです。

ユーヴェに対して
トリノの裁判所で展開されている事態は、
細心の注意を払って追うべきものです。

最高だったあの時期のユベントスが
薬物まみれだったのかもしれないって?

裁判所には
専門家がふたり呼ばれました。
「最高権威」である著名な医師たちです。
このふたりが、ユーヴェの選手何人かに、
ドーピング検査の中でも最も悪名の高い
EPO(エリスロポエチン:Erythropoietine)を
使用していた可能性があると、言っています。

名前があげられた当時の選手たちの中には
ディディエ・デシャン、ディマス、タッキナルディ、
モンテーロ、デル・ピエロ
ヴィアッリ(ヴィエリではありません)らがいます。

法廷では、
すでに葬り去られたEPOの亡霊を呼び起こすかのように、
過去が掘り起こされ、真実が追求されています。
ぼくらは、そこでの展開から目をそむけることなく、
細心の注意をはらって追いかけるべきなのです。

判決がくだるのは数カ月後、
検察側と弁護側の双方の弁論がすんでからになります。
この薬物疑惑事件は、
ひとりの選手だけではなく
チーム全体を巻き添えにしたことを考えても、
かつてなかったほど大規模に、
ネガティブな要素をふくんでいます。

ナンドロロンも禁止薬物ですが、
EPOは重大さで、この比ではありません。
そしてこの疑惑が、
イタリアのみならず
ヨーロッパや世界をも支配した時期の、
あのユベントスの、
まるまる4年間の成績をすべて、
ひっくりかえすかもしれないのです。

できるだけ早い判決が待たれるところです。
それは、ユベントスにとってばかりでなく、
イタリアサッカー全体にとっても有益だと思います。
このところ続けてお伝えしているように、
イタリアのサッカーは今や海外でも、
あまりに多くの良くないレッテルを貼られています。

アズーリの新監督と、
イタリアサッカーに落ちる不吉な影。


ことの真偽はわかりません。
しかし実際に裁判が進行中だということは、
ともかくも疑惑は存在するわけで、
その疑惑の光の下で見れば、
マルチェッロ・リッピを
イタリア代表チームの監督に選んだのは、
まだ間違いとは言い切れないまでも、
少なくも危険な選択だったということになります。
専門家たちのくだす結果が
この恐ろしい疑惑を解いてくれるでしょう。
ぼくは、すべてが誤解で、
遠い彼方へと追いはらわれることを願っています。

でも、もしも有罪の判決が出たとしたら、
どうでしょう?
考えてもみてください、
ユーヴェがチームとして有罪となる期間の
監督としての勝利の手腕を買われて、
サッカーフェデレーションに選ばれた人物を
ベンチにすわらせた「イタリア」が、
世界をめぐり歩くことになるんですよ。

もちろんアズーリの選手たちが被告なのではありません。
それだけは勘弁してほしいですが、
幸いリッピも被告ではありません。
「被告」は医者のアグリーコラと
代表取締役のジランドです。

でも、ユーヴェの勝利と名誉と栄光が帰したのは
監督のリッピに、です。
(当然といえば当然ですが)

くりかえしますが、
もし有罪判決であれば、
被告ではなかったとしても、
アズーリの新しい監督に
不吉な陰が落ちるのも確かです。

これは危険です。
なにごとにも鈍感なフェデレーションは
置いておくとして、
ぼくの愛するイタリアサッカーは、
このリスクを自らに許して良いのでしょうか?
ぼくは大変に心配です。



訳者のひとこと
つぎつぎとイタリアサッカーの
イメージを悪くするような記事を
訳すのも、つらいのですが、
フランコさんは、現実は現実として
ごまかさずに正視して、
そこから先へ進む道を探るしかないと、
冷静に、そうおっしゃりたいのでは
ないでしょうか。


(編集部追記)
EPO(エリスロポエチン:
Erythropoietine)は
本来は、腎性貧血治療薬として
たいせつに扱われている薬です。
残念なことに、スポーツの世界では
持久力が増強する効果をねらって
使われることがあるため、
国際競技大会では
厳しく、ドーピングの取り締まりの
対象になっています。
ある人にとってはたいせつな薬が、
ある人にとっては不正な、
使ってはいけないものとなる、
ということは、とても残念なことですが、
フランコさんは
スポーツジャーナリストとして
スポーツ界の現状を伝え、
不正を糺したいという気持ちで
今回の原稿を書いてくださいました。

*追記
デル・ピエロについての訳に
間違いがあることを、
この記事をアップしたあとに発見しました。
訂正するとともに、お詫びいたします。
翻訳/イラスト=酒井うらら

2004-07-05-MON

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