フランコさんのイタリア通信。
アズーリにいちばん近いイタリア人の生活と意見。

モラッティの義妹が中止させた、
ある展覧会のこと。


Arte e Omosessualita`

芸術の秋に、芸術の国イタリアで、
ある展覧会をめぐる議論が勃発しました。
その展覧会のタイトルは
「アートとホモセクシャリティ
 グレーデンからピエール&ジルまで」です。

イタリアでは多くの人々にとって、
ホモセクシャリティは、
いまだ脅威に思う人もいるほどで、
まだまだタブーとされるテーマです。

この展覧会はミラノのパラッツィオ・レアーレで
長期にわたり開催される予定でした。
それを中止させたのはミラノ市長であり、
インテルのモラッティ会長の義妹である
レティツィア・モラッティでした。
レティツィア・モラッティは、
ベルルスコーニ政府では教育省大臣をつとめ、
イタリア国営放送局であるRAIの会長もつとめた、
ばりばりのキャリアウーマンです。
これらのキャリアののち、
政治家としてミラノ市長選挙に立候補し、勝利しました。
このときレティツィアが闘った立候補者たちの中には、
モラッティ会長のミリー・モラッティ夫人もいました。
(以前、こんなふうに書きましたね。)

中止の理由は
「風俗上の常識を侮辱するものである」
というものです。
展覧会がオープンしてすぐ、
いくつかの作品が撤去の命令をうけ、
さらに数作品の撤去を求めてきた
モラッティ側に対し、
すべて展示できないのなら結構です、
ほかの会場を探しますという主催者と
激論になったのです。

この「アートとホモセクシャリティ」
という展覧会を企画したのが、
イタリアで最も高名な芸術評論家であり、
ミラノ市の文化評議員を現役でつとめる
ヴィットリオ・ズガルビだったことで、
議論はさらに大きくなりました。
ズガルビは事実上、モラッティ市長の
親密な協力者のひとりでもあり、
政治的な同盟者なのです。

Arte e Omosessualita`

ふたつの都市で、ことなる見解が。

ともかく「アートとホモセクシュアリティ」展は
途中で閉展となりました。
しかしこれは“ミラノで”中止となっただけで、
ズガルビ側は、いまも、
会場をもとめて各地をさまよっています。
受け入れ態勢がととのえば、
どこでも開催可能だというのです。
たとえばローマ市は、
企画を自由にして良いと、すでに言っていますから、
イタリアでもミラノ以外の他の街で
この展覧会が開かれる可能性はあります。

そうこうするうちに辿り着くのは、
同じイタリアでありながら
都市によって芸術面での分け隔てがあるという、
パラドックス、つまり矛盾をはらんだ事態でしょう。
ミラネーゼたちが見ることを禁止された展覧会を、
ロマーノたちは見られるということになりますからね。

さて、この展覧会を企画したヴィットリオ・ズガルビは、
レティツィア・モラッティ市長に抗議すべく
テレビに出演しました。
「レオナルド・ダ・ヴィンチやミケランジェロなど、
 偉大な天才芸術家を生んだルネサンス時代は
 どうっだったのか?
 もっとおおらかだったのではないか?
 イタリアにはそういう偉大な伝統があるでしょう」
というわけです。

Arte e Omosessualita`

数年前になりますが、じつはミラノは、
ホモセクシャルをテーマにした日本の映画、
大島渚監督の「ご法度」を、
イタリアで最初に放映した街でした。

その時は、まずローマで放映禁止になったのです。
ローマにはカトリックの総本山である
ヴァチカンがありますから、
道徳に反しスキャンダラスであると言う理由で禁止され、
上映されたミラノでは観客の好評をはくしました。

今回はその逆の現象がおきました。
ミラノがホモセクシュアルをテーマとする
アートの催しに扉を閉じ、
世界中で最もカトリック的な街であるローマこそが、
ミラネーゼたちが見られない絵画や写真を
招待するかもしれないのです。

まったくイタリア的な矛盾が続いているということです。
ただ、それは宗教や政治を芸術に混ぜ込みたがったり、
どんな絵や写真などが猥褻で罪深いのか、
その微妙な境界線を区別できない人に起きる矛盾です。
そういう人たちが「芸術たる物かくあるべし」と言う物に、
多くの人が安心するかもしれませんが、
すべての人が賛同するとはかぎりません。
「表現の自由」、
言ってみれば単純にそういうことなのですが‥‥。

Arte e Omosessualita`

訳者のひとこと

イタリアは見事なまでに矛盾だらけだと、
わたくしは思いますよ。
山ほど矛盾をかかえているのは何処も同じとしても、
むしろ表面的な辻褄合わせをしないままに、
優れた「作品」にしてしまうエネルギーと美意識が、
ほかに類を見ないわけで、
それがイタリアの魅力そのものだと思うのです。

urara

翻訳/イラスト=酒井うらら

2007-10-10-WED

BACK
戻る