ほぼ日刊イトイ新聞 フランコさんのイタリア通信。アーズリにいちばん近いイタリア人の生活と意見。

2009-06-02-TUE

比類なきチャンピオン、マルディーニの引退。


adriano

「もう充分だ」と、彼は言いました。
パオロ・マルディーニ、40歳。
彼がいなくなれば、イタリアサッカーのみならず、
サッカーそのものも、
今までとは違ってくるでしょう──。

ウルトラスの批判。

マルディーニが、
サッカーフィールドに、シャツの汗に、
更衣室に染み付いた消毒液の匂いに、
数々の絶食や犠牲など、25年間にわたって
彼を常に若々しく保っていたものたちに、
別れを告げました。
比類無きチャンピオンのひとりであり、
永遠にその名を残すであろう偉大な選手、
マルディーニの引退。
しかし、それは、そうすんなりとは行きませんでした。

先週の水曜日、
ローマのオリンピコ競技場で、
UEFAチャンピオンズ・リーグ決勝戦が行われました。
その時、マンチェスターUを下して勝利した
バルセロナのグアルディオラ監督は、
ヨーロッパで最も価値ある優勝の
銀のカップを掲げながら、
こう言って人々を驚かせました。
「この勝利をパオロ・マルディーニに捧げる。
 サッカーに近寄った全ての若者たちにとって、
 だれも真似の出来ない手本であった男に‥‥」

それにもかかわらず、マルディーニは、
その数日前の5月24日の午後の出来事を、
ずっと忘れないでしょう。
サン・シーロ競技場の
「curva sud(南カーブ席)」は
ACミランのウルトラスが集まることで有名ですが、
いつものようにそこに陣取ったウルトラスたちが、
彼を酷く批判したのです。

adriano

マルディーニは驚くべき勝利の数々を誇ります:
国内タイトルだけでも、セリエA優勝7回
【1987-88、1991-92、1992-93、1993-94、
 1995-96、1998-99、2003-04】、
コッパ・イタリア優勝1回【2002-03】。
イタリア・スーパーカップ優勝5回
【1988、1992、1993、1994、2005】。

それに加え、UEFAチャンピオンズリーグ
(UEFAチャンピオンズカップ)優勝5回
【1988-89、1989-90、1993-94、
 2002-03、2006-07】、
UEFAスーパーカップ優勝5回
【1989、1990、1994、2003、2007】、
インターコンチネンタルカップ優勝3回
(うち1回はFIFAクラブワールドカップ2007)
【1989、1990、2007】。

adriano

でも、これでは足りなかったというのでしょうか。

ACミランのロッソネーラ(赤黒)シャツで、
リーグ戦や数々の大会など
902試合に出場したにもかかわらず、
ACミランのウルトラスたちが
彼を愛したことはありません。

最後まで毅然と。

adriano

彼らがマルディーニを愛さなかったのは、
ウルトラスと呼ばれる暴力的な傾向のある
ティフォーゾたちとの関係を、
マルディーニ自身が強めようとしなかったからです。
イタリアサッカーのチームの多くにおいて
ウルトラスの存在は容認されており、
金銭や試合のチケットなどの
経済的供与を受けている事実もあるのですが、
マルディーニは彼らと仲良くしようとはしませんでした。

パオロ・マルディーニは
ティフォーゾたちの賞賛に慢心したことはありません。
彼はただひたすらACミランだけでプレイし、
そのことで、チームへの完璧な献身の、
桁外れなお手本を築いたのです。

事実、彼は、
やはりACミランの選手だった父
チェーザレを見ながら育ち、
子供心に誓ったACミランへの忠誠心を
裏切ったことはありません。
その誠実さと優秀さにおいて、
まさにお手本といえる選手です。

adriano

彼の現役最後の試合となった
対ASローマ戦に負けただけでなく、
南カーブ席には酷い事が書かれた
プラカードが数枚現われ、
パオロ・マルディーニの繊細な人柄と、
並ぶ者のいないチャンピオンとしての
誇りを傷つけました。

adriano

彼がいつもの「ご挨拶」の
グラウンド一周ランニングをしながら、
南カーブ下にさしかかった時です、
そこに陣取ったウルトラスたちが、
ACミランの前の歴史的キャプテンである
フランコ・バレージを褒め讃えて
マルディーニを侮辱したのです。

その直後に、マルディーニは、
テレビやラジオの何本もマイクの前に進み、
手厳しいコメントを静かに語りました。

「ぼくは、
 自分が彼らみたいではないことを、
 誇りに思います」と。

ACミランが2対3でASローマに敗れた
この試合の後で批判されたのは、
マルディーニだけではありませんでした。
ベルルスコーニ会長も、
カルチョメルカートにひらめきが無い、
使える金額が少ない、そして、
たぶんカカがレアル・マドリードに
売られるのではないか、などについて、
非難を浴びました。

あまりに気分を害したベルルスコーニは
しまいには、自分へにしろ
マルディーニに対するものにしろ、
これらの批判に反応しようともしませんでした。

それから数日後に、
バルセロナのグアディオラ監督が、
UEFAチャンピオンズ・リーグの優勝カップを
パオロ・マルディーニに捧げると、
観衆の目前で明言した時、
ACミランサイドの人間の中には、
ウルトラスに対して
明確な態度を取らなかった事を、
後悔した人もいたはずです。

それにしても、
今やイタリアサッカーは、
まるで、最も暴力的なティフォーゾたちの
人質にとられたかのように見えます。

そこで犠牲になるのが
マルディーニのような人物なら、
これはこの選手に対する侮辱ではなく、
人というものに対する侮辱だと、
ぼくは思います。

adriano


訳者のひとこと

横断幕は、
いずれもベルルスコーニに宛てたもののようで、

DEVI SPENDERE!!!
金を使え!!!

長い文章の方は
何年も役立たずや小わっぱ連中を買って
ことしは誰を買う‥‥ティッシュペーパーか??
(役立たずと訳したbidoneという単語は、
 直訳するとフランス語のビデの“大きいもの”
 という意味で、それで「役立たず」なのですが、
 最後のティッシュペーパーは、
 これにひっかけてあるようです。)

うららさんイラスト

翻訳/イラスト=酒井うらら



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