── |
ムーンライダーズの話に戻りましょう。
『ゆうがたフレンド』という曲は、
糸井さんが結論のように言った、
プロだからこそできる遊びや冒険がたくさん詰まって、
もう、笑えるくらいになっていて。 |
糸井 |
あのアンサンブルの元っていうのは、
音楽の教養のある人たちが、
余裕たっぷりに個人の思いを
ぶつけ合ってるってことですよね。
あのばらけ方っていうのは愉快ですね。 |
── |
愉快ですねぇ。 |
糸井 |
それは、やっぱりバンドっていうことだろうな。
最古のロックスターっていうのと
最古のバンドって違うじゃない? |
── |
はい。 |
糸井 |
あくまでもバンドだって言っている子の
友だちづき合いみたいものがカギだよね。
だって、やんなくたっていいじゃない、別に。 |
── |
(笑) |
糸井 |
ものすごく理性的に言えばね。
集まってやる必然性って、あんまりないんだよ。
でも、だからこそ、集まることが
一番重要なんだともいえる。彼らにとっては。 |
── |
それは友だちの関係といっしょですね。 |
糸井 |
そうそうそうそう。
友だちじゃない人とは
用事をつくらなきゃ会えないけれど、
友だちだったら「どうよ?」ですみますよね。
その「どうよ?」なものがありますよね。
『ゆうがたフレンド』には。
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── |
「どうよ?」の固まりかもしれない。 |
糸井 |
利害で集っているわけじゃないんですよね。
昔は、そういう、利害で集ってないバンドが
たくさんいたと思うんだけど、
いまやムーンライダーズが最古なのかな。 |
── |
「現存する日本最古のバンド」
という言われ方はよくされますけど。 |
糸井 |
少なくとも、日本でのおおもとのところに
ムーンライダーズというバンドがいるんでしょうね。
だってライダーズのあとに
めんたんぴんとか、サウストゥーサウスとか、
四人囃子とか、いろいろ出てきたんですよ。
でもね、どのバンドも
「こういう音楽やりたいんだ」ってことが
ひと言でいえたんですよね。
だから、終わっちゃったのかもしれない。 |
── |
ムーンライダーズは、それが言えないまま
現在まできてるということですか。 |
糸井 |
いや、逆に言うとそれは、
「ライダーズもちゃんとしろよ!」ってことだな。 |
一同 |
(爆笑) |
糸井 |
だからさ、ハードロックがやりたいんだったらさ、
こういう趣向でこういうバンドなんだから、
どんどんギター練習すれば
どんどんよくなるよ、っていうような
言い方ができるじゃないですか。
もっと大きなホールでやらなきゃ! とかさ。
でもさ、ムーンライダーズには
どうしろよって言いづらいじゃないですか。
あの人たちに、どう言えばいいんだよ。
|
── |
それ、もろに友だちっぽい話ですね(笑)。 |
糸井 |
超利害、超公私だよね。
だからすばらしいと言えるのは事実だけどさ、
やっぱり、友だちとしてはね、
そこに、やるせない部分もある(笑)。 |
── |
(笑) |
糸井 |
あっこちゃん(矢野顕子)も
同じようにマイペースでやっているけど、
ムーンライダーズよりも
グリッドに沿ってるんですよね、
自分の考えてることを言うにしても、そう。
慶一くんは、いかにもそういうことができそうだけれど
できてないですよ。 |
── |
もう、鈴木慶一さん個人に言ってる(笑)。 |
糸井 |
だからさ、こういういい曲ができたときに、
「いいじゃん! よし、行け!」と
ことが素直に運ばないのはそういうことで。
ひと言でいえば、大変な思いをするという
覚悟をする誰かがいないとだめだよね。
それは、曲のよさとは違う別枠のところで。
自分たちのことを言うのはなんだけど、
「ほぼ日」はそれをやってるもの。
どうしようもないじゃんこれじゃ、
と思ったところからはじまって、
こっち側の人には英語でしゃべりかけ
こっち側の人にはゼスチャーでアプローチし、
みたいなことをやりながらさ、
全体の広場を少しずつ広げていっているわけでしょ。 |
── |
その努力が足りない(笑)? |
糸井 |
足りないのよ! |
── |
思わぬ展開になってきちゃったなぁ(笑)。
でも、ほら、「ほぼ日」と違って
ムーンライダーズはロックですから。
ロックンローラーに別枠で努力しろと言っても
そういうわけにはいかないじゃないですか。 |
糸井 |
いや。
努力っていうと違うかもしれないけれど、
なんていうんだろう、
音楽産業という船は沈んでんだからね。 |
── |
わあ(笑)。 |
糸井 |
音楽産業に限らず、
だいたいの船というのは沈んでいくんだよ。
そのときに、泳ぐのか、泳がないのか
浮き袋をつけるのか、つけないのか、
あるいは岸壁に向かって大声をあげるのか、
なにか信号みたいなものを打ち上げるのか。
やっぱりね、そういう、
「このままじゃよくない」
って思う気持ちが必要だと思うんですよ。
その点、矢野顕子も大貫妙子も考えてるからね。
あのふたりの冷静さというのはすごいもので。 |
── |
てな話を、実際に
鈴木慶一さんに言うとどうなるんですかね? |
糸井 |
(慶一さんのモノマネで)
めんどくさいんだよねぇ〜。
みんな勝手なこというしさぁ〜。
まとめるの大変なんだよぉ〜。
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── |
あはははははは。 |
糸井 |
だからね、ムーンライダーズみたいなバンドが
グレートフルデッドみたいに
場所をただで貸してくれるところを探してさ、
ただでずっと演奏してたらきっと流行るよ。
でも、ミュージシャンって、そういうことしないんだよ。
たとえばオレが慶一くんだったら、
いろんな小劇場に毎日行って、
休憩時間にオレたちのバンドに
歌わせてくれないかって交渉して、
「スズナリ劇場、OKだそうです!」
みたいなことになったら、お客さんの前に出て行って、
「ご迷惑かもしれませんが
私たちは、ムーンライダーズと申します」って言って
「♪にっびいっろ〜のそらのした〜」って演奏するよ。
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── |
そりゃ、無理でしょう。 |
糸井 |
実際、オレは慶一くんに
「漁師町でコンサートをやれ!」って
真剣に言ってみたことがある。 |
一同 |
(爆笑) |
糸井 |
無理でしょうって言ったら全部無理でさ、
チンパンジーだって、司会やれって言われたら
「司会はちょっと無理です」って言うよ。
でも、ちゃんと司会やってるじゃないか。 |
── |
‥‥って言われても。 |
糸井 |
いや、うん、無理だという気持ちはわかる。
わかるし、オレもじつは、
そりゃ無理だろうって思ってるの。
でも、ひとつだけちゃんと言いたいのは、
「ダメなあなた」だから好きなわけじゃない、
ということなんだよ。
つまり、その甘さがいいよねっていう人、
だから好きなんだっていうファンも
たくさんいるだろうとは思うけど、
ぼくはちょっと違うんですよ。
慶一が、ものすごく一所懸命に走るんなら、
彼の手伝いを一所懸命したくなると思うんですよ。
「何考えてるのかわかんないのがいい」とは言うものの、
好きな男が一所懸命になってるのを見たら
わたしが働いて食わせてあげるわ!
みたいになるわけですよ。
そこはね、彼らにはわからせたいな。
「それがいいんだよね」って笑って
まわりの人たちも終わりにしちゃうから、
その循環になっちゃうんで。
それ以上のことは望まないっていう気持ちもわかるよ。
でもね、この『ゆうがたフレンド』を聴いてみろよ。
こぉ〜んなに愉快に遊べるんだからさ、
ちょっと、分不相応にがんばってさ、
爆破シーンでも見せてくださいよ!
みたいな気持ちになるんだよね。 |
── |
ええと、うん。はい。
話の展開が完全にお説教モードになってますけれども、
それはそれでおもしろいかも。 |
糸井 |
単にほめてても信じてもらえないと思うから。
ただほめててもさ、循環していくだけですから。
だって、この『ゆうがたフレンド』にはさ、
なにかこう、「バーンッ!」ってはじける
かけらがあるからこそ、こう言いたくなるわけで。
まあ、がんばれ! ってことですよ。
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── |
がんばれ、『ゆうがたフレンド』、と。
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糸井 |
うん。あと、いろいろ言ったけど、
音楽業界がムーンライダーズを
ずーっと置いといてくれてるのは
すごくいいことだと思うな。
(ぜひ一度、『ゆうがたフレンド』をお聴きください。
どうもありがとうございました) |