第2回 会社なんて大嫌い。

ぼくは明治大学の商学部で
「ベンチャーファイナンス」という講義を担当しています。
ベンチャーファイナンスとは、
「これを成し遂げたい」という目的があって
事業を興したベンチャー企業に、
その企業の賛同者が集まって
知恵やお金や情熱を出し合うことです。
つまり、ベンチャー企業に投資することが
ベンチャーファイナンスなんですね。

あるとき、ぼくの授業を受けている学生に
ベンチャーのイメージを訊いてみたところ、
8割の学生が「ダーティー」だと答えました。
続いて、ファイナンスのイメージを訊くと、
同じく8割が「ブラック」だと。
総合すると、

ベンチャーファイナンスは「ダーティでブラック」。

商学部でビジネスを学んでいる学生でさえ、
こういうイメージなんです。

ぼくはいつも、
10~40代前半くらいまでの
若い人に向けたセミナーで、
「株式投資の意味は会社を応援することだ」
と、お話しします。
そうすると、半分の人は納得した顔になり、
もう半分の人は首を傾げます。

首を傾げた人たちは、きっと、
会社が好きではないのでしょう。
ご飯を食べたり、お酒を飲んでいたりすると
自分がはたらいている会社の
愚痴や文句をいっている人、いますよね。
そもそも会社にいいイメージがないから、
その会社を応援する、ということがわからないんです。

実は、日本人は会社が嫌いだということは、
いくつかの統計から、はっきりと結果が出ているんです。
「今はたらいている会社が好きですか?」
と質問をしたら、
アメリカや中国では80%の人が「大好き」と答えましたが、
日本で「大好き」と答えた人は、だいたい15~20%で、
「どちらかといえば好き」という人が25~30%くらい。
残りの50%の人は「嫌い」もしくは「大嫌い」なんですね。


このような背景には、

「労働とは、ストレスと時間をお金に替えること」

という考え方があります。
よく、ブラック企業について問題になりますね。
たしかに、長時間労働を強いるような悪い会社は存在します。
そういう企業を擁護するわけではないのですが、
その一方で
「労働そのものがブラックである」
と思っている人たちがかなり多いのも事実です。

会社は労働を提供する場なので、
このような価値観の人からすると、
はじめからすてきな場所ではないんですね。
けれども、はたらかないとお金はもらえません。
ですので、ストレスを感じながらも
6時間とか8時間という時間を費やして
上司の言うことを聞いてタスクをこなしていく。
これが「はたらくこと」。
今、こういう考え方が
常識になりつつあると思っています。

労働が嫌いだから、会社も嫌い。
嫌いな会社が売買する株式がいいと思えない。
こういう考えになるのは、当然のことなんですね。
そして、この考えが常識として、
無意識に刷り込まれているんです。

さらに、「リスクをとること」も
善悪の問題として捉えられることがあります。
リスクをとることは、
なにかに挑戦した場合に成功するかわからない状態、
自分の期待どおりの結果が出るかわからない状態です。
善悪や損得の問題ではないんですね。

けれども、今、
リスクをとるのは悪いことだと考える人が
たくさんいらっしゃいます。
リスクをとる人間は悪人だと。
そうすると、
企業家は悪人ですし、投資家も悪人です。
その論理でいくと、ぼくは、
レオス・キャピタルワークスという会社を
立ち上げた投資家なので、大悪人なんです(笑)。

(笑)

ぼくは、そういう世間の見方、
常識と戦っているところがあります。

ぼくが思うに、

学生がもつ経済のイメージとは
「マネープリンター」なんです。

まず、会社に所属してはたらくと、
預金口座に一定のお金が振り込まれていくので、
会社は「お金を稼ぐマシーン」である。
それと同時に、
会社は資金を投入して運営するものなので、
「お金を投入したらお金が出てくるブラックボックス」
でもある。
そして、ブラックボックスである会社どうしが
連結することで、巨大なマネープリンターになっている。
これが、経済の仕組みである、と。

この考えだと、就職とは、
そのマネープリンターの中の一部になることになります。
「はたらくことはおもしろくない」と考えてしまうのも
もっともなんですね。

ここで、
いちばんはじめに答えていただいた質問に戻って、
日本の学生がもつ経済のイメージに合わせて
考えてみましょう。

答えは③の「自動車会社の生産機械」です。
日本では、④の「銀行に預けられているお金」を
選んだ人がいちばん多かったんです。
さきほどのマネープリンターの論理で考えると、
お金を投入したらお金が出てくると思っているので、
生産資源は「お金」、回答は④となるわけです。
答えは②番。
けれど、日本の常識としては
リスクを負うことは悪いことなので、
それが正解になるわけがない。
この問いでいちばん多く選ばれた項目は③でした。
投入するお金がないとお金が出てこないので、
この回答になるんですね。
答えは③です。
この問いでも多くの学生は③ではなく
②の「労働者の最低賃金の額はいくらか」を選びました。
いくらもらえるのかが大事だということは、
マネープリンターの考え方から導きだされているんですね。

ようするに、
会社はなんらかの「機能」を
提供していると思っている学生が
とても多いということなんです。
あの会社は物をつくるという機能を提供している。
この会社は物を運ぶという機能を提供している。
そして、自分がその機能の一部に
組み込まれてはたらくことで
自動的にお金が振り込まれてくる、と。

多くの人は、社会人になったからといって
経済を学ぶ機会はなく、
学生のころの知識のままなので、
実際、ご年配の方でも
経済の仕組みをマネープリンターだと
考えている人は、多いのです。

アメリカとの差が深刻なこと、
また、大人になっても
経済の知識が増えるわけではないことから、
学生のときから経済学を教えることが
たいへん重要なんですね。
とくに少子高齢化を迎えるこれから、
世界と競争して付加価値を出すことができる人材を
育てなければ、日本の未来は暗いと言えます。

 

(つづきます。)

2014-05-15-THU

星海社新書 820円(税別)
Amazonでの購入はこちら。
20年以上プロの投資家として活躍されてきた
藤野英人さんが、
「お金の本質とはなにか」について考えた結果を
1冊にまとめた本です。
この本を読んだ糸井重里は、
「非常におもしろかったです」と社内にメール。
希望者を募って本を配りました。
糸井重里の
「これは、いい参考書です。」いうつぶやきは
この本の帯にもなりました。

「ほぼ日」の創刊12周年記念の特集で、
テーマは「お金」でした。
なぜ、お金について「あえて」取り上げるのかという
糸井重里のイントロダクションからはじまり、
芸術家の赤瀬川原平さんや、みうらじゅんさん、
日本マクドナルド会長の原田泳幸さんなどにうかがった
お金にまつわるお話をまとめています。

日本・台湾の実業家、作家の邱永漢さんの
2000年から2002年まで連載したコンテンツです。
「金儲けの神様」と呼ばれた邱さんが
お金や経済を中心に、人間、人生についても執筆。
全900回の連載になりました。

「もしもしQさんQさんよ」を連載していた
邱永漢さんと糸井重里との対談が、
同タイトルでPHP研究所から出版されました。
このコンテンツは、対談本の立ち読み版です。
本についてはこちらをご覧ください。

就職すること、はたらくことについて
あらためて考えたコンテンツ特集です。
ミュージシャンの矢沢永吉さんや
ディズニーの塚越隆行さん、
マンガ家のしりあがり寿さんなど、
さまざまな職業や肩書きの方に話をきいたり、
読者にアンケートしてもらったりしました。