アンリ | 僕が続けて来たこと、 そして続けていきたいことは、 1つ、1つに魂を吹き込んでいくことなんです。 もちろん買ってくださることは歓迎なんですけれども、 僕にとっていちばん嬉しいことは くすっと笑ってくれて、使って、 優しい気持ち、幸せな気持ちになってくれることです。 僕はそれをとても幸せに感じます、 |
糸井 | アンリさんの作品を持ってると、 人が、それなあに? とか、 いいね、って言ってくれるのって、 同じ小説を読んでるときの反応と近いんですね。 世界観が、同じなんでしょうね。 |
アンリ | ベリーシモ、すばらしい、とてもうれしいです。 自分でも、自分でつくったものを見て、 で、わあ、可愛いじゃん、と思ったりします。 自分がやったものじゃない みたいな気がするんです(笑)。 作ったら忘れちゃうんですよ。 で、次に行かなきゃいけないと思うんです。 |
糸井 | ああ、よく分かります。 僕もそうですよ(笑)。 それ、理想ですよね。 つまり何だろう、忘れていくべきですよね(笑)。 |
アンリ | 重要なのは明日何をするかです。 ほんとにいい作品は明日できる。 もっといい作品は次の作品だから。 |
糸井 | 今、思いついた質問なんですけど、 絵を描いたり、音楽を作ったりすることと、 それから実用に使えるものを作るっていうことの その違いって何なんでしょうね? |
アンリ | 難しい質問ですね。 その違いは、ちょっと分からない。 なぜかというと、僕にとっては、 作ることはまるで音楽を奏でるか、 それとも詩を書くかっていう、 その気分であるので、 僕にとってはもしかしたら同じかもしれない。 |
糸井 | ああ。いや、そんな気はしますね。 |
アンリ | たとえばバッグとか作ってるときに、 実用性ということを考えない作品があるんです。 それは僕の魂がそうさせているんです。 |
糸井 | そうしろと。 |
アンリ | そうしろと(笑)。 で、そのときの感情であったりとか、 そういうものが時々‥‥、 |
糸井 | 出ちゃうのね。 |
アンリ | 時々っていうか、結構出ちゃうので(笑)。 その葛藤が難しいときがあります。 なぜかっていうとバッグは 使ってもらわないと置物になってしまうから。 |
糸井 | オブジェではない。 でもオブジェも作るんですよね。 |
アンリ | オブジェも作るんですけれども、 オブジェはほんとにもう自由ですから。 |
糸井 | 爆発してるんですね。 ポピュラーソングを作るっていうのも、 バッグを作るみたいなことと近くて、 要するにただアートじゃなくて、 みんなに使ってほしいっていう思いが あるみたいな気がするんです。 |
アンリ | はい。 |
糸井 | 僕は、元々はコピーライターなので、 依頼があって作るとか、 実用の言葉を仕事にしてきたんだけど、 それだけだともう嫌なんですね。やっぱり。 |
アンリ | たとえば何か書かれるときに、 何をまず思って書かれるんですか? それはたとえば、依頼した方の、 もちろんリクエストがあると思うんですけれども、 どういうような入り方で書かれるんですか? |
糸井 | 中心に何か素敵なものがないと 頼まれたものにしても自分発で出すものにしても 意味がないんですね。 だから素敵なものっていうのが見つかっていたり、 自分の中から引き出して来たり、 どっちかが出発点ですね。 アンリさんは多分、 バッグっていうメディアを見つけたんですね。 絵描きさんがカンバスを持ってるように、 アンリさんはバッグとか、 人が使ってくれて身に付けてくれるものを メディアとして見つけたんですね。 |
アンリ | で、やっぱり僕の中にも葛藤があると。 自分はもっとこういうものを作りたいんだけれども、 やっぱり肩にかけられなきゃいけない、 長さは、肩にかけられるように 10センチ長くしてくれとか(笑)、 日本は安全な国なんですけど、 アメリカとかヨーロッパでは、 口が空いたままのバッグはスリに遭うから ジップを付けてくれとか、 こんなの商品化したらだめだよ っていうような意見との、葛藤があるんです。 |
糸井 | 今、ほんとに僕が興味のあるものって、 お客さんが作る部分と、作家が作る部分と、 両方が仕事してる部分だと思うんですね。 だからジッパーがなくて持ってるってこと自体が、 お客さんが参加してるんですよね。 |
アンリ | もちろんバッグは実用的なものだから、 やっぱり使ってもらわなきゃいけない、 それはもちろんそうだと。 で、実用的プラス、ほとんど毎日使うものだから、 やはりパーソナリティが出ているもの、 それを持って幸せなものを作るっていうことに、 僕は参加したいと思うんです。 この、戦争や、環境破壊で、 いろんなことが壊されてってる中で やっぱりいちばん大切なのは愛情です。 何かを愛すること。 僕のつくったもので、 気持ちがそういうような状態になるのならば、 僕はすごくそのことに参加したい。 |
(つづきます。) | |
2008-11-06-THU