第5回 頼まれた仕事と自分発の仕事。
アンリ 僕が続けて来たこと、
そして続けていきたいことは、
1つ、1つに魂を吹き込んでいくことなんです。
もちろん買ってくださることは歓迎なんですけれども、
僕にとっていちばん嬉しいことは
くすっと笑ってくれて、使って、
優しい気持ち、幸せな気持ちになってくれることです。
僕はそれをとても幸せに感じます、
糸井 アンリさんの作品を持ってると、
人が、それなあに? とか、
いいね、って言ってくれるのって、
同じ小説を読んでるときの反応と近いんですね。
世界観が、同じなんでしょうね。
アンリ ベリーシモ、すばらしい、とてもうれしいです。
自分でも、自分でつくったものを見て、
で、わあ、可愛いじゃん、と思ったりします。
自分がやったものじゃない
みたいな気がするんです(笑)。
作ったら忘れちゃうんですよ。
で、次に行かなきゃいけないと思うんです。
糸井 ああ、よく分かります。
僕もそうですよ(笑)。
それ、理想ですよね。
つまり何だろう、忘れていくべきですよね(笑)。
アンリ 重要なのは明日何をするかです。
ほんとにいい作品は明日できる。
もっといい作品は次の作品だから。
糸井 今、思いついた質問なんですけど、
絵を描いたり、音楽を作ったりすることと、
それから実用に使えるものを作るっていうことの
その違いって何なんでしょうね?
アンリ 難しい質問ですね。
その違いは、ちょっと分からない。
なぜかというと、僕にとっては、
作ることはまるで音楽を奏でるか、
それとも詩を書くかっていう、
その気分であるので、
僕にとってはもしかしたら同じかもしれない。
糸井 ああ。いや、そんな気はしますね。
  henri
アンリ たとえばバッグとか作ってるときに、
実用性ということを考えない作品があるんです。
それは僕の魂がそうさせているんです。
糸井 そうしろと。
アンリ そうしろと(笑)。
で、そのときの感情であったりとか、
そういうものが時々‥‥、
糸井 出ちゃうのね。
アンリ 時々っていうか、結構出ちゃうので(笑)。
その葛藤が難しいときがあります。
なぜかっていうとバッグは
使ってもらわないと置物になってしまうから。
糸井 オブジェではない。
でもオブジェも作るんですよね。
アンリ オブジェも作るんですけれども、
オブジェはほんとにもう自由ですから。
糸井 爆発してるんですね。
ポピュラーソングを作るっていうのも、
バッグを作るみたいなことと近くて、
要するにただアートじゃなくて、
みんなに使ってほしいっていう思いが
あるみたいな気がするんです。
アンリ はい。
糸井 僕は、元々はコピーライターなので、
依頼があって作るとか、
実用の言葉を仕事にしてきたんだけど、
それだけだともう嫌なんですね。やっぱり。
アンリ たとえば何か書かれるときに、
何をまず思って書かれるんですか?
それはたとえば、依頼した方の、
もちろんリクエストがあると思うんですけれども、
どういうような入り方で書かれるんですか?
糸井 中心に何か素敵なものがないと
頼まれたものにしても自分発で出すものにしても
意味がないんですね。
だから素敵なものっていうのが見つかっていたり、
自分の中から引き出して来たり、
どっちかが出発点ですね。
アンリさんは多分、
バッグっていうメディアを見つけたんですね。
絵描きさんがカンバスを持ってるように、
アンリさんはバッグとか、
人が使ってくれて身に付けてくれるものを
メディアとして見つけたんですね。
 
アンリ で、やっぱり僕の中にも葛藤があると。
自分はもっとこういうものを作りたいんだけれども、
やっぱり肩にかけられなきゃいけない、
長さは、肩にかけられるように
10センチ長くしてくれとか(笑)、
日本は安全な国なんですけど、
アメリカとかヨーロッパでは、
口が空いたままのバッグはスリに遭うから
ジップを付けてくれとか、
こんなの商品化したらだめだよ
っていうような意見との、葛藤があるんです。
糸井 今、ほんとに僕が興味のあるものって、
お客さんが作る部分と、作家が作る部分と、
両方が仕事してる部分だと思うんですね。
だからジッパーがなくて持ってるってこと自体が、
お客さんが参加してるんですよね。
アンリ もちろんバッグは実用的なものだから、
やっぱり使ってもらわなきゃいけない、
それはもちろんそうだと。
で、実用的プラス、ほとんど毎日使うものだから、
やはりパーソナリティが出ているもの、
それを持って幸せなものを作るっていうことに、
僕は参加したいと思うんです。
この、戦争や、環境破壊で、
いろんなことが壊されてってる中で
やっぱりいちばん大切なのは愛情です。
何かを愛すること。
僕のつくったもので、
気持ちがそういうような状態になるのならば、
僕はすごくそのことに参加したい。
 
  (つづきます。)
協力:Henry Cuir 青山本店

2008-11-06-THU