第1回 そんな仕事、聞いたことない。

伊賀泰代さんです。

糸井

こんにちは、伊賀と申します。
よろしくお願いします。

伊賀

なにせ、このかたの蓄積がすごいので
僕は聞き役に徹するつもりです。

マッキンゼーの採用マネージャーとして
これまで
どのくらいの人に会ってきたんですか。

糸井

1年間で、新卒の学生さん500人以上、
中途採用の人が数百人ですから‥‥
年間1000人弱でしょうか。

で、その「かける12年」です。

伊賀

どうですか、みなさん(笑)。
今日の話は、もうこれだけで十分ですね。

糸井

かなりの数ですね、そう考えると。

伊賀

その「年間1000人弱」という数って
ぜんぶ、
「マッキンゼーに入りたい」という人の
面接なんですか。

糸井

ええ、少なくとも学生さんの場合には
「マッキンゼーに入りたい方」です。

中途採用の方の場合は
かならずしも「入りたい」だけではなくて
その可能性も含めて
「自分のキャリアをこれからどうしようか」
と考えている人たちも混ざります。

だいたい「100人以上」は
「悩み相談に乗る役」という感じでしたね。

伊賀

「相談に乗る」‥‥という面接?

糸井

はい。

「相談に乗ります。
 必ずしもマッキンゼーに応募しなくても
 結構です」という。

伊賀

へぇー‥‥。

糸井

マッキンゼーという会社のことを知りたい、
選択肢のひとつとして検討したい、
ということであれば
いくらでも情報をお話しますというふうに。

伊賀

面接にくるのは、どういう人なんですか?

糸井

ひとつ、大きな母集団としては
「留学中の学生さん」ですね。

伊賀

つまり、外国へ勉強しに行ってる日本人。

糸井

ハーバードビジネススクールをはじめ
メディカルスクール、
エンジニアリングスクール‥‥
さまざまな大学院に留学中の方に会うために、
弾丸ツアーを組むんです。

伊賀

つまり「会いに行く」んですね。

糸井

長い時ですと3週間から4週間、
たったひとりで大きなスーツケースを抱えて。

ホテルとかキャンパスのひと部屋で
朝から晩まで、
1時間ごとに学生さんが順番に入って来て、
私はひたすら質問に答える‥‥。

伊賀

ものすごいこと、やってましたね。

糸井

密室で「1対1」で会うわけですから、
みなさん、とっても正直に
「はたらきかた」についての考えを教えてくださる。

ですから、採用担当者ではあるんですけど、
評価をする前に
「この人にとってのベストアンサーって何?」
みたいなことを
一緒に考えるモードに入るんです。

「人生相談を1日に何回もやる」みたいな
仕事だったような気がします。

伊賀

何を見て、伊賀さんのところに来るんですか。
大学に貼り紙でもしておくんですか?

糸井

インターネットですね。

私自身も同じようにして採用されたんですが
外資系の企業は
学校のある町を回るロードショーというのを
毎年やっているんです。

伊賀

ロードショー。

糸井

あちこちの町を回っていくことを
採用の場面でもロードショーと呼んでいます。

マッキンゼーという会社はね‥‥みたいな話を
あちこちでして回るんです。

伊賀

なるほど、なるほど。

糸井

ビジネススクールは
「MBA」つまり経営学修士というコースですけれど、
私は当時、アメリカにMBA留学してる日本人の
7~8割には会ってたんじゃないかな。

伊賀

すごい。

糸井

週末も、朝の9時から夕方の6時まで、
志望者の話を延々と聞く‥‥。

伊賀

それって、伊賀さんが発明したんですか?

糸井

発明? まあ(笑)、そうですね。

欧米のオフィスを参考にはしたんですけれど、
アメリカとかイギリスの人の場合は
自分でキャリアを考える癖がついているので、
志望する会社の人事担当者に
悩みを相談するなんて、ほぼないんです。

伊賀

そうでしょうね。

糸井

でも、日本は転職がそこまで普及してないし、
不安感ばかりが大きい。

そこで、別に受けなくたっていいですよ、
いつでもお話うかがいますので‥‥
というやりかたを、はじめたんです。

伊賀

つまり「採用」についての場なのに
入社しなくてもいいですって話をする、と。

糸井

他の会社を勧めたりもしてました(笑)。

みなさん、
ほんとに真剣に考えてらっしゃるので、
これから
どうはたらいていくべきか、
聞いてるこっちも、ほだされちゃって。

いちばんベストな解は何だろう、
私がこの人の奧さんだったら
どんな仕事を勧めるだろう‥‥みたいな。

伊賀

そんな仕事、聞いたことないです(笑)。

糸井

はい(笑)。

伊賀

<つづきます>
2013-08-29-THU