重松 | ほんとにね、俺は今度、かっぱ橋に来るときは、 「ひとり鍋」をね。 |
飯島 | はい(笑)。 |
── | 何でそんなにひとり鍋がいいんですか(笑)。 |
重松 | いや、何かね、無性に。 無性に惹かれるんだよ。 |
── | 無性に惹かれる。 |
重松 | もう抗えない。 |
飯島 | あの小さいカセットコンロで。 |
重松 | うん。だからまさにさ、 日本人の縮み志向じゃないけどね、 こじんまりとワンセット揃う、 だからほんとに固形燃料と鍋とさ、 目玉焼きだけのフライパンとかね、 これ、全部揃えてさ、 単身赴任セットみたいなさ(笑)。 |
飯島 | ああ、いいですね。 ちょっと贅沢な単身赴任セット。 |
重松 | 俺、単身赴任のルポ、 やってたから分かるんだけど、 離れて暮らしている奥さんが いちばん心配してんのが、 「火」なんですよ。 |
飯島 | あぁ! |
── | へえ。 |
重松 | ガスとか酔っぱらってやると危ない。 |
飯島 | 「火事を起こさないかしら」 |
重松 | そうそうそう。だからね、 固形燃料がいいんだ(笑)。 消えるから。 |
── | その固形燃料を消す道具も 一緒に売っていましたね。 |
重松 | あったね。 だからさ、火をつけたら 消さなきゃいけないときもあるよねっていうんで 消す道具があるわけだ。 必ずさ、何かニーズがあったら、 1つずつさ、答えを出していくような、 そういうところも、いいよね。 |
飯島 | 関連商品があるんですよね。 コップがあればストローがあってみたいな。 |
重松 | そう、そうなんです。 |
── | プロの調理人が フグの肝を入れる容器がありましたね。 鍵が付けられる。 |
飯島 | そうそう、あれ、面白かったですね。 |
重松 | 面白いね。だからああいう本格志向もあり、 時々ね、まさにミジンとかさ、ネギーみたいなさ、 まぬけなネーミングのものがあったりね。 |
── | そういう専門的な電化製品は 概して高価でしたね。 大量生産できないからですかね。 |
重松 | ああ、そうか。 ロットがいかないもんね。 |
── | 単機能に特化してて、 しかも丈夫だろうし。 |
飯島 | そうですね。 |
重松 | でもすごいよね、 ほんとにスライスだけで勝負っていう。 やっぱり、道具を極めれば単機能? |
── | 単機能なんですかねえ。 |
重松 | これしかできませんと。 でもやるよ、っていう(笑)、 かっこいいよな。 |
── | マルチなものは少なかったですね。 かっぱ橋で、見ててもあんまり 興味持てなかったですね、マルチなものって。 |
飯島 | そうですね。 |
重松 | 道具の持ってる潔さってあるのかな、プロの。 カメラなんかもそうかもしんないけどさ。 |
── | iPodも、最初、音楽を聴く道具に特化して 流行った気がしませんか。 |
重松 | そう、最初のウォークマンなんか、 ほんとそうだったんだよね。 録音ができない? スピーカーがない? ありえない、って言ったら売れちゃったもんね。 じゃあ何、携帯電話とか 反対の方向に行ってるわけ? 道具というのは。 |
── | 携帯電話、反対方向ですね。 何かいろんなことできちゃってて、 よく分かんなくなっちゃう。 |
重松 | 今から減らしていっちゃうのかね。 |
── | 実際持ってて使いやすいのは 単機能のものですよね。 |
重松 | うん。単機能の洗練てあると思うんだ。 チボリ・オーディオってさ、 ラジオのメーカーがあるんだ。 それ、ほんとに単機能。 今どき珍しいラジオだけで、 ぼってりしてんだけど、 俺、すごく好きなのね。 で、何かね、いろんなものを付けちゃうと 変な方向に行っちゃうような気がして、 だからすごくね、チューニングなんかの ツマミの触感がいいの。 |
── | 木の箱みたいなデザインの? |
重松 | そうそう。 ほんとにサイコロみたいな形で ぼってりしてるんだけど、 ツマミなんかがすーごく気持ち良くて、 他の機種だったらプリセットできるんだけど、 それもできないようにしてんの。 チューニング、 自分で合わせなきゃいけないんだけど、 「回す」っていうのって あまりないじゃない、今の時代。 |
── | はい、はい。 |
重松 | それが、気持ちいいんだよ。 「指で感じる幸せ」ってあるじゃない、 持ったときの重さとかサイズとか。 |
飯島 | 確かにチューニングが合ったときに、 「あ、合った」っていう、 口に出すまでもないような嬉しさみたいなこと、 きっと今、デジタルでぴっとなってるから、 微妙に感じなくなってるかもしれないですね。 そのときにラジオがぴたっと合ったときに、 「おー」っていう、ちょっとした嬉しさが かっぱ橋の道具に、ある気がしますね。 |
重松 | ほんとはさ、そこにいくと、 今度は微妙なズレとか違和感てのがさ、 結構ストレスになるよね。 |
飯島 | はい。 |
重松 | だからぴたーっと決まったときの気持ち良さと、 微妙にずれてる心地悪さ。 昔ね、うちのお袋がね、左利きなんだけども、 ずっと引っ越しばっかりやってて、 ある町でね、ほんとに機嫌が悪かった。 半年間しかいなかったんだけど、 その間中、機嫌が悪くなった。 何でかっていったら、水道の蛇口がね、 こう、右側に付いてるやつだったから。 |
飯島 | へえー。 |
重松 | 左利きのお袋からすれば、 上についてればいいものを 右で回さなきゃいけない。 それがものすごいストレスだったんだろうね。 |
飯島 | へえー。 |
重松 | 動線てあるじゃない、 それで全然変わるんだよね。 |
飯島 | はい、大切ですよね。 しかも水道って、 1回料理するごとに1回使うっていうわけじゃなくて 10回も20回も使うわけだから、 余計それはストレスですね。 |
重松 | 結局そうやってさ、ちょっとしたストレスが そのまま機嫌を悪くするように、 これを持つときの気持ち良さが好きだから 包丁を持つってあるじゃん? 俺、半年ぐらい前に料理やってて、 どうも包丁がね、切れなくて、 とり肉なんか全然切れなくて必死だったよ。 それでさ、新しい包丁買ったんだ。 こんなにすーって行くのーって思った。 |
── | 感動ですよね。 |
重松 | 料理が楽しくなるよね。 |
飯島 | そうなんですよ。 ほんとに包丁が切れるだけで、 何か他の食材も切りたくなりません? |
重松 | そうそうそうそう。 何か、人間の本能が目覚めてね、切りてえー。 |
飯島 | 何か切るもん、ないかなあなんて。 |
── | 研いでます? |
重松 | 研いでる、研いでる。 |
── | 研ぐの、楽しいですよね。 |
重松 | 楽しい。また集中してね。 |
飯島 | 楽しいです。 |
重松 | あれはほんとに面白いなあ。 |
飯島 | 研げたかなあなんつって、親指の爪で確かめると、 みんなが、うわ、うわっとかって見るから。 |
── | 爪に刺すって! |
飯島 | 爪にこう刺したときに、 いい具合に食い込んでたら、 OKなんですよ。 |
重松 | うわ‥‥。 |
── | 恐いですよね。 |
飯島 | でも全然痛くないんですよ? |
重松 | はい。 |
飯島 | ちょっと当てるだけですよ、 ちょっとあててずれなければ、 研げたしるしです。 |
── | でもできないです。 おすすめもできません。 たしかに、板さんもそうやってますけれど。 |
飯島 | そうです。 |
── | 包丁づかいの得意な人はやるんですよ。 (次回が最終回です。つづきます!) |
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