糸井 |
簡単に「逆転の発想」って
言われたくないですよね。
だって、逆転で考えたわけじゃないですもんね。
これしか材料がなかったから。 |
横石 |
そうやね。
これしかない、という状況なのに、
おばあちゃんたちには、この木が
そういうふうに見えてなかったわけや。
世間からは、おばあちゃんたちが
そういうふうに見えてなかったわけや。
逆に見えよったわけや。 |
山田 |
柿の葉を毎年掃くのが面倒だった、と。
それはごもっともですからね。
「農業指導がだめだ」と思ったときに、
何かほかの作物を、というふうには
思われなかったんですか。
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横石 |
やったよ。実際にやりました。
ほうれん草、わけぎ、
いろんなものをやりました。
でも、この地域では、
葉っぱがいちばんだったんです。
葉っぱが、この地域の人たちの
気持ちを変えたけん。
結局、ほかのものは、
ある程度までは成果をあげることはできても
「気を変える」というところまでは
いかなかった。 |
糸井 |
レタスじゃ旗印になんないんだよね。 |
横石 |
ならない。
レタスやネギはならない。
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糸井 |
ただの葉っぱは、なる。 |
横石 |
ただの葉っぱやけん、なる!
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山田 |
だからこそ
おもいしろいんじゃないか、と。
それは誰も気がつかないですね。 |
横石 |
都会の人は気がつくかもしれないけど、
田舎の人は気がつかないです。 |
糸井 |
いや、都会も気づかないですよ。
都会の人は公園に
せいぜい桜を折りにいくだけです。
横石さんは、
困っている生産地と現場の
両方をつかんでいたからわかったんですね。 |
横石 |
店に通って、
現場の成熟度を肌で知り尽くしていた。
それが強かったです。 |
糸井 |
すでに「つまもの」が
どんどん必要とされていく気配は
ちらほらとあったわけでしょう?
桜の枝が箸置きになっている、
ということくらいまでは。 |
横石 |
そうです。昔は料理人が
山からみんな取ってきよった。 |
糸井 |
横石さんは、農業指導する立場にいたもんだから、
自分ひとりで
桜の枝を売る商売になったんじゃなくて、
おばあちゃんたちに声をかけた。 |
山田 |
そう! そこなんですよね。
ふつうだったら、そこで
自分で事業をつくるんですよ。
この事業を、横石さんご自身がやられてたら
どうなったでしょうか。 |
横石 |
‥‥ものすごい儲かっていたでしょうね。
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山田 |
はははは。 |
横石 |
正直言わせてもらうと、
億の利益が出たでしょうけど、
それはやろうと思わなかった。 |
糸井 |
自分でやってたら、
気分がちがうでしょう。 |
横石 |
おっしゃるとおりですね。
ふつうの会社とは思いが違うのかな? |
糸井 |
「企業は利益を上げることが目標である」
というのと、
種類が違いますよね。 |
横石 |
ぜんぜん違います。
ぼくは、自分があの人たちを
従業員として使うより、
ひとりひとりが事業家になるほうが
ええと思たんです。
それがあたりましたね。
一か所に集めてやったほうが効率がええ、
とアドバイスをくれる人がおるけど。 |
糸井 |
それは、昔の人の発想ですね。 |
横石 |
そう! 昔の発想。
同じような人をひとつのところに集めたら
みんな喧嘩するだけや。 |
糸井 |
しかも、おもしろくない! |
横石 |
そう、ぜったいにおもしろくない。
だからうちは、強いんだと思います。
見えないようだけど、強いですよ、うちは。
ぜったいにつぶれない。
「いまどうしてもこれが必要」
という注文が入ったら
100人が100人、
ぜったいにやってくれますよ。
それはわかる。
これは、簡単に言ってるけど、難しいことです。
個人的に儲かることや、
いま採っているものをやめて、
「よし、こっちやろう!」という気持ちに
させることができるのは。
会社で社長が命令するんやったら
ほら、できるかもわからんけど、
こういう形の中でできるというのは
なかなかないです。 |
糸井 |
「いろどり」と同じことを
似たような山でやっても
できないでしょうし、
300円のものをこっちは350円で買うよ、
というふうに言っても
かなわないんだよ、おそらく。
横石さん、不思議なことがはじまっちゃったね。
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横石 |
不思議‥‥そうやね、
ある意味では、不思議なことかもわからんね。 |
山田 |
経済はお金だけでは動かない、という
証明ですね。
会社もお金だけでは動きません。 |
横石 |
「いろどり」のことが最近話題になるのは、
そこの部分が
ほんとうはみんなが
わかってきた、ということがあるんちゃうかな?
「会社はつぶれてもいいんですよ、
またやればいいんですから」
「買えばいいんですよ」
という考えがあります。
ここのところ、そういった
会社絡みの事件があったりして
「会社って何が大事なんかな?」ということも
社会全体が、少し
わかってきた部分もあると思う。
ぼくは社員によく言うんです。
どんなにパソコンが使えてもあかんのや、
おばあちゃんの肩をちょっとたたける、
そのほうが大事で、
そういうことができる人なら、
ぜったいにやっていける、と。
(つづきます!)
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