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| 刈屋 |
オリンピックがはじまる前の段階では、
ぼくは荒川静香がメダルの可能性が
いちばん高いと思っていたんです。
日本でメダルをとれるとしたら、
たぶん荒川静香しかいない。
でも、おそらくそれは、銅メダルだろうと。
というのは、おそらく
これはあくまでもぼくの予想ですけれど、
10回やって平均を取ったら
スルツカヤが金で、コーエンが銀で、
荒川が銅なんですよ、たぶん。
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| 永田 |
あああ、そうですか。 |
| 刈屋 |
でも、オリンピックは、
４年に１回、一発勝負です。
極端な言い方をすると、
その日だけ調子が最高であれば、
その人が勝てるわけです。
もちろんそれだけの力が
あればということですけれども。 |
| 永田 |
はい。 |
| 刈屋 |
荒川はメダルをとる可能性が高いだろうとは
トリノに行く前から思っていました。
でも、金を取れるかもしれないと思ったのは
ショートプログラムが終わった日です。 |
| 永田 |
さっき、おっしゃった理由ですね。
荒川選手の調子のよさと
第二採点における高い評価。 |
| 刈屋 |
はい、そういう理由です。
でも、スルツカヤがそれに対して
なんらかのことをしてくれば点を出せますし、
もしサーシャ・コーエンが
最高の出来であれば金をとるかもしれない。
だからやっぱり、
「金をとれる可能性が出てきた」というだけに
過ぎないんですよね、まだそのときは。 |
| 永田 |
はい。 |
| 刈屋 |
そういう状態で、
フリーの前日の練習を見ても、
やっぱりこの３人なんです。
で、この３人のうち、失敗をした人から脱落して、
そこのあいだに入ってくるのは村主だなと。
だから、うまくすればニッポンは
メダルをふたつ取れる。
でも、銅メダル１個かもしれない。
冷静に考えれば、
銅メダル１個の可能性がいちばん高いともいえる。
そう思いながら前日の練習を見て、
当日の朝の公式練習を見ても
‥‥わからないんですよね、誰がいいのか。 |
| 永田 |
ああ、なるほど（笑）。
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| 刈屋 |
解説の佐藤有香さんと話していたら
やっぱり有香さんも
「荒川さんが金かもしれない」と言うんですね。
アメリカのスコット・ハミルトンという
すごく有名な往年の名選手も
「荒川が金を取るんじゃないか」
って言うんですよ。
でも、ぼくにはやっぱりわからない。
スルツカヤの強さというのをよく知っていますし、
彼女の金メダルにかける思いをよく知っています。
サーシャ・コーエンも
２年くらい前までの、ひ弱なもろい
サーシャ・コーエンではないですから、
これは誰が金を取るんだろうと。
過去、ぼくは長野とソルトレイクで
女子のフィギュアを見てきましたけど、
長野のときはミッシェル・クワンが
絶対、金を取ると思ったんです。
練習を何度見ても、
ミッシェル・クワンで間違いない。
と思ったらタラ・リピンスキーが金をとった。
ソルトレイクのときは、どう考えても
スルツカヤが金をとると思っていたら
サラ・ヒューズが金を取った。
８年間に、２回のオリンピックを見ていて、
オリンピックの「勝利の女神」は、
すごくいたずら好きだし、
気まぐれなんじゃないかなというふうに
ぼくは感じたんですよ。
いちばん強い人に金メダルをあげるんじゃなくて
ほんとうにその４分間、最高だったひとに
「今回はあなたね」という感じで。
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| 永田 |
なるほど、なるほど。 |
| 刈屋 |
「はい、今回はあなたよ」
という、そんな感じで
ほんとうに気まぐれで指名する。
そういうふうに感じるんですね。 |
| 永田 |
たしかにオリンピックの女子フィギュアは
その大会の直前に伸びてきた出てきた感じの
若い女の子がひょいっと
金をとっちゃうという感じでしたよね。
ぼくはにわかファンなのですが、
あの、アメリカで、
ミッシェル・クワンの代わりに出た、
サラ・ヒューズの妹さんがいましたよね。
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| 刈屋 |
エミリー・ヒューズですね。 |
| 永田 |
そうそう。
ああいう人がとっちゃう印象があるんです。
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| 刈屋 |
そういうこともありますよね。
エミリー・ヒューズが
ほんとうにそれだけのものを持っていたら
いきなり来て、そのまま
さらっちゃうというケースもあるし。
あるいは、先日の世界選手権で
キミー・マイズナーという
アメリカの16歳の女の子が
世界チャンピオンになりましたよね。 |
| 永田 |
ああ、そう、あの感じですよね！
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| 刈屋 |
あの子なんて見てると、
すごくまじめだし、練習をするし、
受け答えもしっかりしてるから
こういう子がもしかすると
選ばれちゃうのかなって。
だから、女子フィギュアの金メダルというのは
「選ばれる」っていう印象なんですよね、
ぼくの経験してきた、
それまでのスポーツのなかでは
ひじょうに特殊な‥‥なんて言うんですかね、
とくに女子のフィギュアは「選ばれる」。
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| 永田 |
受動態。 |
| 刈屋 |
はい。
「勝ち取る」「勝つ」というよりも、「選ばれる」。
「あなたが、このオリンピックの女王よ」
っていう感じでね。
「選ばれる」という印象がすごく強いんですよ。 |
| 永田 |
はい。 |
| 刈屋 |
そういう印象をぼくはずっと持っていて
朝の練習で３人を見ていても
誰が勝つかまったくわからないんです。
それこそ、さっき言ったように
10回やったらスルツカヤが金で、
コーエンが銀だなと。
じゃあ、荒川が勝つとしたら
どういうことなんだろうと考えてみると、
もしかしたら、サーシャ・コーエンが
少しミスをするかもしれない。
スルツカヤが思ったように滑れないかもしれない。
‥‥でも、そういうことは、あるのだろうか？
あるとしたら、それこそさっき言った
いたずら好きのオリンピックの女神が
「今回はあなたよ」というふうに
指名したとしか思えない。
荒川静香に、金メダルを取る力はある。
でも３人のなかでは、いちばん確率が低い。
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| 永田 |
荒川選手が金メダルをとるとしたら、
「選ばれる」しかない。
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| 刈屋 |
「選ばれる」しかない。
そう、思ったんですよね。 |
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| 永田 |
はい。 |
