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糸井 |
もう、話しているとおもしろくて、
ほんとうにきりがないんですけど、
やっぱり、バントの話もしておきましょう。 |
川相 |
はい(笑)。
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糸井 |
あえて乱暴に訊きますけど、
いま、バントについて、どう思ってますか?
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川相 |
うーん、監督を1年経験してみると、
やっぱり、戦略的に非常に重要なものだ
ということがよくわかりましたね。
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糸井 |
あ、なるほど。
選手のときとはまた違った考えが。
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川相 |
そうですね。
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糸井 |
じゃ、たとえば選手のときは、
川相さんにバントのサインが出て、
「ここはバントじゃなくても
いいんじゃないか?」って
思うようなこともあったりしたんですか?
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川相 |
あります。
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糸井 |
あっ、ありますか。
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川相 |
それは何回もあります。
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糸井 |
はーーー。
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川相 |
そう思うけど、その気持ちをぐっと抑えて、
気持ちを切り替えてバントする。
そういうことは何回もありました。
というのは、気持ちを切り替えずに、
中途半端に疑いながらバントすると、
やっぱり、失敗するんです。
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糸井 |
ああああ。
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川相 |
そういうことが何回かあって、
あ、やっぱりこういう気持ちでやると
いけないんだな、っていうのが
自分のなかではっきりわかって。
だから、どんな場面でも
もうサインが出たら忠実に、
自分がどう思っていようが
必ず気持ちを切り替えて、
バントに徹してやらなきゃ成功しない、
って自分に言い聞かせてやってました。
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糸井 |
ご自分が監督になってからは
今度はそれを教える立場になりますよね。
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川相 |
そうですね。
ですから、徹底的に気持ちを切り替えて
バントしなきゃ成功しない、みたいなことは、
練習のときからかなりしつこく言ってました。
あと、バントとかサインプレーって、
練習のときはたくさんやるんですけど、
試合ではあんまりやる機会がない、
っていうことが多いんですね。
それって、せっかく練習してるのに
もったいないなあとぼくは思ってたので、
勝っていても負けていても、
点差が開いてる場面であえてやらせてみたりして、
なるだけ実戦のなかで、
やらせるようにしましたね。
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糸井 |
やっぱり実戦でやらないとダメですか。
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川相 |
ダメです!
もう、いっくら練習してても、
実戦でやらないとうまくならないです。
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糸井 |
はー、説得力あるなぁ(笑)。
あの、川相さんは、すごく簡単そうに
バントを決めてましたけど、
実際、簡単に思えるような
時期もあったんですか。
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川相 |
うーーーん、まぁ、
バッティングよりは簡単ですね。
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糸井 |
おお、その答え方は、いいですね。
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川相 |
いや、もう、確率からして
バッティングよりはぜんぜん簡単ですよ。
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糸井 |
つまり、バッティングは、
3割打てれば一流だから。
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川相 |
そうです。
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赤坂 |
川相選手が引退したときに
生涯犠打成功率っていう数字が出たんですけど、
9割ちょっとあるんですよ。
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糸井 |
9割!
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川相 |
それでも10回やって1回失敗してるんで、
ぼくは納得いかないですけど。
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糸井 |
はーーーー。
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川相 |
でも、それくらいの気持ちで、
大事に大事にバントをやっていても、
10回に1回は失敗するわけですから
いい加減な気持ちでやってる人は
2、3回どころか
4、5回失敗すると思うんですよ。
そこはもう、意識の問題だと思うんで。
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糸井 |
ああ、そうですね。意識かぁ。
もう、どっちが先かわかりませんけど、
川相さんはバントを重ねながら、
バントについてそうとう考えたんでしょうね。
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川相 |
そうですね。
でも、真剣に考えはじめたのは、
自分がレギュラーじゃなくなって
からかもしれないです。
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糸井 |
ほーー、それもリアルだ。
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川相 |
だって、レギュラーで出てるときは
4打席か5打席のうちの
1打席か2打席、バントすればいいんです。
ピッチャーの投げるボールを
ほかの打席で見てるし、
ゲームの流れのなかでバントができる。
ところが、レギュラーから外れて、
途中から代打で出場とかになると
1球もピッチャーの球を見ないで
いきなりあの打席に入って
バントしなきゃいけない。
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糸井 |
そうですね。
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川相 |
目も慣れてない、
ゲームのなかで動いてもない、
そんななかで、ベンチに座ってた人が、
パッと打席に入って140キロのボールを
いきなりバントするっていうのは、
そうとう準備しなきゃムリです。
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糸井 |
うん、うん。
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川相 |
あと、レギュラーで出ているときは、
4打席とか5打席のうち、
たとえば1回バント失敗しても
ほかの打席で取り返せるかもしれない。
だけど、この1打席のためだけに
バントしに出てきてるのに
そのバントを失敗するとなると、
もうほかになにもないわけですよ。
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糸井 |
あああ。
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川相 |
もう、純粋に
「失敗」っていう結果しか残らないんで。
これは、やっぱり、
ものすごいプレッシャーでしたし、
正直、怖かったですね。
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糸井 |
じゃあ、代打で出て、バントだけして、
それでもうれしそうな顔をして
ベンチに帰って行ったりするときは、
ほんとうにうれしかったんですね。
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川相 |
ほんとうにうれしかったんです。
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糸井 |
以前、イチローさんにインタビューしたとき、
あんだけ打ってる人が
「その都度、1本のヒットが
どれだけうれしいか!」って
本気で言ってるのを見て
ちょっと感動したんですけど、
いまの川相さんの話聞いてると同じですね。
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川相 |
ええ、もう、ほんっとに、
ほっとしますよ、はい。
逆に、これ、失敗したときは、
ほんっとにキツいです。
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糸井 |
誰のせいにもできないですもんね。
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川相 |
誰のせいにもできないですし、
なにより、その、
チームをしら~っとさせるじゃないですか。
あれは、たまらんですね。
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糸井 |
ヤジも聞こえますね。
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川相 |
はい。もう神宮のおじさんに
ヤジられまくりですよ(笑)。
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糸井 |
「バントしかできねえくせに
バント失敗しやがって」って(笑)。
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川相 |
そうそうそう(笑)。
あのプレッシャーはやっぱり‥‥。
だからこそ徹底的に準備しなきゃいけない、
っていうのがほんとうにわかりました。
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糸井 |
「準備」ってことばが
すごく重く聞こえますね。
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川相 |
ぼくがいつも心がけていたのは
試合の流れを初回から
常に目を離さないで見る、ということです。
ですから、試合がはじまったら、
よっぽどのことがないかぎり
ベンチ裏には行きません。
攻撃も守りもずーっと見ておきたいんです。
ゲームの流れをずっと見ていって、
「ああ、今日はこのままの展開で、
6回か7回にくらいに
ピッチャーのとこ回ってきたら
もしかして、バントあるな」って
気持ちを高めていくんですよね。
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糸井 |
それが、なによりの準備。
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川相 |
はい。
そうやって、ゲームの流れを
ずーっと見ておかないと、
バントは成功しないと思ってるんで。
だからもう、試合が中盤くらいになってくると
ベンチに座ってるだけなのに
だんだん緊張感が高まってきて、
「くるぞ、くる、くる!」
って思うんですよ。
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糸井 |
はあーーーー!
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川相 |
で、そこまで準備しても、
最後のシーズンは、
バントしに出て行くのが
けっこう、怖かったです。
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糸井 |
世界記録を持ってる川相さんでも、
怖いんですね。
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川相 |
怖いです。
だって、それのためだけに行くんですから。
そこで失敗はできん! っていう
プレッシャーは、すごいです。
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糸井 |
勝手な予想ですけど、
きっと、その怖さを、
おもしろさということもできますよね。
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川相 |
ま、そういうことですね、裏返せば。
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糸井 |
うーーーん、そんなおもしろさ、
誰が想像したか、ですね。
だって、そんなことしてるのは
「オレ」しかいないんだもんね。
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川相 |
ああ、そうですね。
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糸井 |
あと、ついでのように聞きますけど、
川相さんはバントが大好きで
バントの人になったわけじゃないですよね?
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川相 |
そうですね。
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糸井 |
高校時代はピッチャーですし。
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川相 |
はい。だから、まぁ、
「川相=バント」みたいになってますけど、
バントがめちゃくちゃ好きで
やってきたとは思わないですね。
役割として、っていうことですね。
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糸井 |
うん。
なにかを徹底的にやってる人っていうのは、
それぞれにたいへんだし、
観ていておもしろく感じるんですよ。
なんていうかな、人そのものよりも、
そのひとりのやっていることが
リスペクトを生んでいくっていうのが
スポーツを観てるときのおもしろさなんです。
(続きます) |
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