山下 |
タコのヌイグルミって、
人生で初めて見たかもしれません。 |
羽部 |
珍しいですよね。 |
山下 |
あの、もしかしてこれ、
ドリームペッツっていうのじゃありません? |
羽部 |
ああ、やっぱりご存知でしたか。
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アメリカの古いマグカップだけを
ひたすら集めた本を出版するために
各地のショップを巡っていた僕は、
行く先々で、その古いヌイグルミを
目にしていたのでした。
さて羽部さん、
僕がドリームペッツを知っていたことで
少し安心なさったのか、
紙袋から次々とヌイグルミを出していきます。 |
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羽部 |
こんなの、ご存知ですか。 |
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山下 |
や、初めて見ます。カメですか。
あー、これはまた、いい表情ですねえ。 |
羽部 |
あとは、これとかね、こんなのとか‥‥。 |

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山下 |
このくたびれ具合がいいですねえ。
ん? あれ? ドリームペッツって
ずいぶん固いんですね。 |
羽部 |
おがくずが詰まってるんです、ぎっしり。
カチカチだし、ズッシリしてるでしょ。 |
山下 |
UFOキャッチャーのとは違いますね。 |
羽部 |
そりゃそうです、一個ずつ手作りですよ。 |
山下 |
ああ、前から気にはなってたんですが、
これ‥‥いいです。
実際手に取ると、こう、グッときます。 |
羽部 |
そうですか、グッときますか。 |
山下 |
あ、ラベルがついたままのがありますね。 |
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羽部 |
厳密にいうと、ドリームペッツっていうのは
このラベルの商品だけをさすんです。 |
山下 |
あ、そうなんですか。 |
羽部 |
こういう日本から輸出してたヌイグルミは
ほかにもいろいろあったんですよ、
ドリームペッツじゃないのも。
まあ、その手のヌイグルミをさすときに
わかりやすいので、ドリームペッツと
総称している感じですね、現状は。 |
山下 |
日本から輸出? これ、一度輸出されて
戻ってきたものなんですか。 |
羽部 |
そうです、タグに、ほら‥‥。 |
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山下 |
ほんとだ、MADE IN JAPAN。 |
羽部 |
1950年頃から、たしか70年くらいまで、
アメリカの企業が日本の工場に
つくらせてたんですね。 |
山下 |
なるほどー、ちょうど今の日本の企業が
中国の工場に発注しているように‥‥ |
ここでしばらく
“経済”みたいな話題になるのですが、
これといってかわいい話ではないので、省略。
やがて、
羽部さんとドリームペッツの
出会いについてのお話になりました。 |
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羽部 |
アメリカに買い付けに行ったとき、
このペアを見つけたのが最初でしてね。 |
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山下 |
これ、ペアですか。 |
羽部 |
探偵と助手。 |
山下 |
え? ははは、
ちょ、ちょっと待ってください、
た、探偵と助手って、はははははは。
ええと、探偵は右? |
羽部 |
正解。 |
山下 |
いっかにも、駄目コンビですねえ。
あ~、いいなあ、このコンビ。 |
羽部 |
昔のアニメの地味なキャラクターなんですよ。
もともとこういうキャラクターものが
好きだったもんで、これがきっかけですね。 |
山下 |
なるほど~、いやほんと、いいですわこれ。
ところで、あれ? ドリームペッツは
お店のどこに並べてるんでしたっけ。 |
羽部 |
あ、店には出してませんよ。 |
山下 |
え? そうでした? |
羽部 |
はい。 |
山下 |
出さないんですか、これも全部? |
羽部 |
出さないですねえ、これは。 |
山下 |
はあ、そうですか‥‥。
でもこれ、お店の雰囲気にピッタリですよね。
ほら、探偵と助手とKEEP LEFT。 |
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羽部 |
ああ、いいですねえ。 |
山下 |
でしょ? いい感じですよね。 |
羽部 |
ええ、いいですね。 |
山下 |
そう‥‥並べればピッタリだ、ほんとに。 |
羽部 |
まあ、ディスプレイ用に
並べてもいいんですけどね。 |
山下 |
ディスプレイ‥‥。
でもきっと、そうするとお客さんに
値段を聞かれたりするんでしょうね。 |
羽部 |
ええ、そうでしょうね。 |
山下 |
例えばの話ですが、
この探偵と助手の値段を聞かれたら
ペアでおいくらって言います? |
羽部 |
いやあ‥‥‥‥それは‥‥‥‥‥‥。 |
山下 |
‥‥‥‥‥‥。 |
羽部 |
‥‥値段つけられないです、やっぱり。 |
山下 |
売れない。 |
羽部 |
はい‥‥‥‥ごめんなさい。 |
山下 |
いや例えばの話ですから‥‥‥‥‥あ。 |
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羽部 |
こら、チャコ、向こう行ってなさい。 |
山下 |
羽部さんには、ドリームだけじゃなくて
リアルなペットもいるんですね。 |
羽部 |
え? |
山下 |
あ、すいません変なこといって。
きょうはありがとうございました。
じゃ最後に、
その売れないものたちの写真、
まとめて撮らせていただいていいですか。 |
羽部 |
はいはい、では、ここに並べますね。 |
山下 |
ほんと、申し訳ありません、
いろいろお願いばかりして‥‥‥‥‥‥‥‥
あ、あれ? あの、羽部さん。 |
羽部 |
はい? |
山下 |
その、うしろのほうの
チワワとかウッドペッカーみたいなのは、
ドリームペッツではないですよね。 |
羽部 |
はい、かわいくて売れない物ってことで‥‥。
そういうの、まだ奥にけっこうありますけど、
どうしましょうか。 |
山下 |
あ、や、すみません、一応、
ドリームペッツ特集ってことにしたいので。 |
羽部 |
あー、じゃあ関係ないのはどけないと。
でも、これをどけると前のやつが
ひっくり返りますね、ええと‥‥。 |
山下 |
いや、それは、もう、そのままで。
それ以上足さなければ。
では、撮りまーす。
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帰りの総武線、僕の頭の中では
探偵と助手がグルグル飛び回っていました。
「売ってください!」と羽部さんにはっきり
お願いすればよかったのでしょうか。
いいや、気持ちはすっかりバレてたはず。
それでも駄目なのだからしょうがない‥‥。
時刻は、すでに6時を過ぎています。
あれこれ探している暇はありません。
売っているお店の目星はついています。
探偵と助手は見つからないでしょうが、
それでもどうしても、
きょうのこの気持ちのうちに、
一匹手に入れたい!
西荻窪で電車を飛び降りると、
僕は、とある雑貨店へと走りました。
よかった、お店はまだ開いています。
そして‥‥‥‥‥‥いました。
探偵と助手に負けないくらい、
マヌケでカワイイのが。 |
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