カワイイもの好きな人々。
(ただし、おじさんの部)

7月下旬の日曜日、午後9時。
千葉県安房(あわ)郡丸山町の、
とある宿泊施設を僕は訪れていました。

大原則彦さん(48)は、
山下が宿泊中の部屋へとにこやかに上がり込み
慣れた手つきで金属製の台を設置すると
画用紙のたばを、そこにのせるのでありました。

第43回
紙芝居は
カワイイ。


山下 こ、これは‥‥‥。
大原 えー、それではさっそく、
「クラゲ骨なし」という民話をひとつ。
‥‥このお話、ごぞんじですか?
山下 いや、しらないです。
大原 そうですか。
それでは、お話いたしましょう‥‥。
夏休みということで、
家族旅行に行ってまいりました。
行き先は千葉。
僕はうさぎを飼っていますので
ペットと泊まれる宿を探しました。
そして、みつけました。
車に乗って行ってみましたら、
これがもう「ものすごい」宿だったのです。

宿の名前は「ログキャビンナチュレ」。
それは旅館でもペンションでもありません。
コテージ型のログキャビンが並ぶ、
まるで「集落」のような施設です。
ログキャビンといっても
キャンプ場のコテージとは異なり、
各棟にバス・水洗トイレがついています。
テレビもエアコンも冷蔵庫もあります。
僕らが泊まったのはこんなログキャビンでした。

原木を積み上げたログハウスのなかには
このようなロフトもあります。

しかし、
ほんとうに「ものすごい」のはここから先。
なんと、敷地内に並ぶ10棟ほどの
こうしたログキャビンはすべて、
オーナーが「独力」でつくられたのだとか。
誰の手も借りず、重機も使わず、
たったひとりでつくりあげたのです。
こんな手づくり、みたことありません!
しかも、宿の運営も「独力」なのだとか。
フロント業務も、料理も、配膳も、
各部屋の掃除も、予約の管理も、建物の修繕も、
すべてをおひとりでなさっているというのです。

ペットと一緒に泊まれる宿を独力でつくる‥‥。
そんな思いにあふれたオーナーならばきっと、
何かカワイイものを紹介してくれるに違いない!
‥‥山下の予測は当然ながら的中しました。
この宿のオーナー・大原則彦さんは、
希望があれば有料で(大人200円)、
宿泊客のキャビンをまわり
「紙芝居」を上演してくれるというのです。
もちろん「独力」でつくった紙芝居を。

食事を終えた午後9時過ぎ、
大原さんが僕のキャビンにやってきました。

大原さん、衣装に着替えています!
昼間お会いしたときは作業ズボンにTシャツで
かなりシャイな印象だったのですが、夜は別人。
まさしく「語りべ」のたたずまい。
水色の作務衣に身を包んだ凛々しい姿に、
大原さんの「やる気」がみなぎっています。

‥‥いろいろなことに驚きすぎて、
こんなに前置きが長くなってしまいました。
さて、
そんな状況のなかで(うさぎもいます)、
いよいよ大原さんの紙芝居がはじまります。
まずはご堪能ください。
大原 (講壇調で)えー、鴨川に伝わります、
「クラゲ骨なし」というお話でございます。
山下 (ぱちぱちぱちと拍手)。
大原 昔々、クラゲは
海の中の「クラゲの王国」というところに
住んでおりました(紙をめくる)。
パンク (紙芝居の前をうろうろする)
大原 ‥‥‥‥‥‥あの、
それは、うさぎでしょうか。
山下 あ、はい、そうですうさぎです。
おいパンク、おとなしくな。
大原 かわったうさぎですね。
山下 耳がたれた種類なんです。
‥‥すみません、気にせず進めてください。
大原 えー、王国というからには王様がおります。
ところがこのクラゲの王様、
あるとき重い重い病気に
なってしまったのであります(紙をめくる)。
大原 「ああ〜、腹がいたい頭がいたい、
 なんとかしてくれえ〜」
ご覧のように、王様はもう七転八倒。
クラゲの家来があれこれ手を打つんですが、
さっぱりよくなりません。
さあ、クラゲの病気、どうしましょう?
どうしたらいいと思います?
山下 ‥‥ちょっと、見当もつかないです。
大原 ねえ、わかんないですよねえ。
えー、クラゲさん一生懸命考えまして、
とうとうこんなことを思い出しました。
「そういえばどこかで聞いたことがある、
 サルの生き肝がいいにちがいない」
えー、サルの生き肝、わかりますですか?
山下 ん? イキギモ? ええと‥‥。
大原 まず、サルはわかりますよね。
山下 はい、わかります。
大原 サルはわかっても、生き肝がなんだか
みなさんわからないんですねえ‥‥。
じつは、このクラゲさんもおんなじでしてね、
生き肝がなんだかよくわかんない。
まあ、正解を言いますとですね、
生き肝というのは、肝臓のことなんです。
山下 なるほど肝臓‥‥。
大原 生き肝がなんだかはわからないけれど、
ともかくサルを連れてこようと、
そういうことになりまして、
一匹のクラゲが猿ケ島へと、
どんどんどんどん泳いでいきました。
やがて猿ケ島につきますとクラゲさん、
大きな声で叫びました(紙をめくる)。
大原 「おーい、サルさーん! あなたは、
 動物の中でもいちばん頭がいいそうですね。
 うちの王様がお話を聞きたいそうです。
 どうかわたしと一緒に来てもらえませんか」
と、なにせサルさんね、おだてられまして、
気持ち良くなっちゃいまして、
ぴょーんとクラゲの頭にのっかりました。
クラゲはくるりと向きをかえまして、
どんどん沖へと泳いでまいります。
パンク (ちょこんと、紙芝居の前へ座る)
山下 パンク、おとなしく!
大原 ‥‥‥‥‥もしかすると、
この紙芝居をみているのでしょうか。
山下 ど、どうなんでしょう、
かなり気にはしていると思いますが‥‥。
大原 ‥‥お話を続けます(紙をめくる)。
大原 やがて島がみえなくなってきますと、
サルさん急に不安になってくるんですね。
「クラゲさん、もう一度説明してください
 なぜわたしを連れていくんですか?」
聞かれたクラゲさんは、こう答えます。
「じつはうちの王様が病気でして、
 病気にはサルの生き肝が
 いちばんだということになりまして、
 それであなたを連れてきたというわけです」
まあ、これを聞いたサルさん、
びっくりしちゃいましてね。
『はあ〜、困った困ったどうしよう、
 このまんまじゃ生き肝をとられてしまう』
‥‥どうしたらいいと思います?
山下 ‥‥え、いや、ど、どうしましょう?
大原 サルさんはこんなふうに言ったんです。
「ああ生き肝ですか!
 今日は天気がいいもんですからね、
 猿ケ島に干してきてしまったんですよ。
 あんなもの、いくつでも差し上げますから、
 ちょっと島に戻してもらえませんか」
ま、なにせクラゲさん、
生き肝がなんだかわかりません。
言われるままにくるりと向きをかえますと、
また島へ戻っていったそうでございます。
さてさて、島へついたら、
今度はサルの逆襲でございます(紙をめくる)。
大原 「やい! このクラゲめ!
 よくもおいらをだましやがったな!」
山下 おお‥‥。
大原 むんずとクラゲをつかまえますと、
骨を、ぽきり! ぽきり! ぽきり! と、
ぜんぶ取ってしまったそうでございます。
‥‥えー、それからというもの、
クラゲには骨がなくなってしまったという、
「クラゲ骨なし」というお話でございました。
山下 (しばしの間のあと、大きな拍手)
いやあ、ありがとうございました。
大原 おそまつさまでございます。
山下 おもしろかったです。
その絵は、大原さんが描かれたんですか。
大原 まあ、そうですね。
山下 かわいらしいですよね。
大原 そうでしょうか(苦笑)。
山下 かわいいですよ!
これだけの施設を自分のからだひとつで
建ててしまった男性が‥‥あの大原さん、
すばらしい肉体ですよね。
大原 まあ、原木を削ったり穴を掘ったり、
しょっちゅうやってますからねえ‥‥。
山下 ショベルカーとか、重機をつかわずに。
大原 ええ、重機が入れない斜面などににも
施設がつくれるんです、自分が重機になれば。
山下 じ、自分が重機に! すごい‥‥。
その重機のように鍛えあげた屈強な肉体で
こうした絵を描かれたのかと思うと、
一層かわいらしく思えます。
大原 そうですか(苦笑)。
山下 はい、たまらなく。
‥‥紙芝居のときは、その衣装に?
大原 え? ああ、そうですね。
山下 ちょっと写真を撮ってもいいでしょうか。
大原 ええ。じゃ、立ちますか(立つ)。
山下 (撮る)ありがとうございました。
ええと、お話はだいたい民話なんですか?
大原 そうですね、房総に伝わる民話で、
レパートリーは30本ほどあります。
山下 そんなに‥‥。
紙芝居はいつごろから?
大原 ええと‥‥6、7年前からですね。
最初は民話の「語り」をやってたんですよ。
そのうちに絵があったほうが
わかりやすいかな、と思いまして。
山下 それで紙芝居方式に。
大原 ええ、ですから本格的な紙芝居よりは
絵の枚数が少ないんです、私のは。
山下 なるほど、あくまで語りが中心なわけですね。
‥‥ほかにはどんなお話が?
大原 きょうは短い民話を中心にご用意しましたが、
ご当地ものということで他にも
「南総里見八犬伝」があります。
これなんですけど(分厚い紙束を出す)。
山下 あ、八犬伝。昔NHKの人形劇でみました。
大原 60分程度の紙芝居になります。
山下 ‥‥あの、せっかくですから、
八犬伝の山場だけでも。
大原 山場ですか、わかりました。
まあ、八犬伝ですので
こんな犬も出てきまして、それで‥‥‥‥。
山場だけをうかがうつもりでしたが、
結局大原さんは「南総里見八犬伝」の
ぜんぶのあらすじを話してくださいました。
大原 こうして、里見はすべての戦いに勝ちました。
‥‥おしまい。
山下 あ、ありがとうございました(拍手)。
やっぱり随所にかわいい絵が出てきましたね。
大原 そうでしたか(苦笑)。
山下 はい、出てきました。
大原 えー、それでは民話のほうに戻りまして、
「たこのうらみ」というお話でございます。
こうして僕は、ぜんぶで5本の
房総地方に伝わる民話を聞いたのでありました。
山下 (拍手)ありがとうございました!
やはり、やはり大原さん、
僕は随所でかわいいと思いました。
大原 そうですか(苦笑)、そうですねえ。
あの‥‥‥‥子どもたちがですね‥‥。
山下 は、はい、子どもたちが。
大原 やっぱり子どもたちがいちばん真剣に
話を聞いてくれるんですよ。
真剣な顔でみてくれると、うれしいです‥‥。
ですから子どもたちがわかりやすいように、
かわいい絵を描くようにしてるっていうのは
あるかもしれませんね。
山下 そうですか‥‥。
‥‥あの、立ち入ったことを聞くようですが
大原さん、お子さんは‥‥。
大原 ‥‥‥‥‥‥いやあ、独身です。
変人はなかなか結婚できないんですよ(笑)。
山下 い、いやそんな、失礼しました‥‥。
そうですか、子どもの真剣な顔のために‥‥。
大原 真剣なまなざしは、かわいいですよね‥‥。
山下 はい。
‥‥ああ、大原さん、
この子もわりといま、真剣な目になってます。
大原 ああ、ほんとですね(笑)。


男手ひとつで、かわいかった。

大原さんの宿、
「ログキャビンナチュレ」
のHPは下の画像をクリック!

「ログキャビンナチュレ」は
とても特殊な宿泊施設です。
周囲にはたくさん虫も出ます。
近代的な設備も整ってはいません。
ですが、オーナーの熱い創意工夫と
自然をリアルに感じられる
ほかにはまったくない宿だと思います。
僕はせがれと一緒に有頂天で楽しめました。
リンク先のHPに「お客さまの声」
という項目があります。
ご予約はそちらを熟読して決めてくださいね。

2005-08-03-WED

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