カワイイもの好きな人々。
(ただし、おじさんの部)

11月のとある月曜日、夕刻6時。
東京メトロ有楽町線・銀座一丁目駅から
徒歩数分の場所にある、人気のケーキ屋さん。
その2階のカフェの片隅に、僕たちはいます。

吉本宏さん(40)は、
一息つかれてネクタイをゆるめると、
カバンからアルバムをとり出し、
大きさ数センチの紙片を指さすのでした。

第48回
フルーツシールは
カワイイ。

山下 これが、フルーツに貼られていると‥‥。
吉本 そう、それはたしかシトラス系かな。
好きな1枚です、かわいくて。
山下 はあー(アルバムを見つつ)、驚きました。
フルーツシールって
こんなにいっぱい種類があるんですねえ。
吉本 ええ、世界各地に。
多いのはスペイン、メキシコ、エクアドル、
あとはフロリダのオレンジとかですね。
吉本宏さん(既婚)は、
某アイスクリームメーカーで
企画開発のお仕事をなさっている40歳。
幼稚園に通うお嬢さんのパパでもあります。

ちなみに、この日の取材場所となったお店は
吉本さんのご指定でした。
「キルフェボン銀座」。
人気のタルト屋さんは女性客で大にぎわい。
男性はたぶん、僕たちふたりだけ。
オレンジ色の柔らかな照明が、
スーツ姿の吉本さんと山下をやさしく包みます。
お話、うかがってまいりましょう。

山下 このアルバムが、また‥‥。
吉本 切手を整理するスタンプブックですね。
友だちからもらったのですが、
神保町で見つけた古い物だそうです。
山下 そうですか‥‥。ではあらためまして、
中身を拝見させていただきます。
吉本 最初のページなので、
とくに好きなのを集めています。
山下 ポップだなあ‥‥、きれいです。
吉本 グラフィカルでしょ?
そこが僕にとっては最大の魅力なんです。
山下 あ、これは知ってます、ドール。
吉本 給食の時このシールがついているバナナ、
奪い合いになりませんでした?
山下 なりましたなりました、
なんだかとくべつ美味しそうにみえて(笑)。
しかし、吉本さん‥‥。
よくここまで集まりましたね。
吉本 そうですね、すこしずつ。
山下 どうやって手に入れるのですか?
吉本 基本的には、買います、フルーツを。
山下 日本でも売ってますか?
吉本 ありますよ、普通のスーパーでもよく探すと。
‥‥でも海外で買ったのが多いかな。
山下 海外にはよく行かれるんですか?
吉本 いやそんなにはいきませんよ。
あ、そうそう、集めるコツがあるんです。
山下 コツですか。
吉本 それは人に言うことです、
「僕フルーツシール集めてます」って。
すると会社の人が海外出張なんかいくと
がんばって探してきてくれるんですよ。
山下 なるほどー。
‥‥いやはや、それにしても、
きれいに整理してますねえ。
吉本 でもこれ、別に種類別に並べているとか
そういうわけではないんです。
山下 そうなんですか。
吉本 男性のコレクターって理路整然と分類したり
いろいろ分析したりするのが好きでしょう?
僕はあんまりそういう興味はないんです。
単純に、並んでる状態がうれしい‥‥。
その意味では女性的なんですかね。
山下 コンプリートを目指したりはしないんですね。
吉本 しないですねえ、
オークションなどで買うこともないですし。
出会ったものを集めていく感じです。
山下 それでも、こんなになっちゃったと。
‥‥20ページほどのこのアルバム、
最後のページはこれ、
もう、ぎゅうぎゅう詰めですね(笑)。
吉本 ええ(笑)、結局そこにも入りきらなくて
ぜんぶで800枚くらいになってます。
山下 は、800枚!
店の人 お待たせしました。栗のタルトと
季節のフルーツのタルトでございます。
山下 ‥‥あ、季節のフルーツが僕です。
店の人 失礼します(タルトとコーヒーを置く)、
ごゆっくりどうぞ(去る)。
山下 ‥‥おいしそうですね。
吉本 いただきましょう。
山下 いただきましょう。
いただきながら、お話を聞かせてください。
‥‥集め始めたいきさつは、どのような?
吉本 さかのぼること高校時代なんですけど、
まずこのボニータバナナという、
この1枚が僕のコレクション第1号なんです。
山下 これとの出会いがきっかけですか。
吉本 はい、こんな小さな中にも
ちゃんとデザインがされていることに
素直に感動したんですね。
山下 それから集めだした。
吉本 ええ、バナナのシールなどを見つけては
ぽつぽつと手帳に貼ったり、
そういうことをちょっとずつやってました。
山下 そうですか、おひとりで。
吉本 そう、ひとりで。
でも、やがて決定的な出会いがあるんです。
山下 コレクション仲間に出会うのですか?
吉本 ええ、80年代の終わり頃に知り合った
グラフィックデザイナーなんですけど、
フルーツシールを見せたら
すごく気に入ってくれたんですね。
それからお互い意識して集め出して‥‥。
あれは93年だったかな、
ふたりでヨーロッパまでいったんですよ。
山下 熱いですねえ(笑)。
吉本 当時28、青春ですよね(笑)。
早朝から市場や蚤の市をまわって、
夜になるとホテルの部屋で
シールを交換し合うんです、少年のように。
山下 少年のように(笑)。
‥‥そのかたとは今も仲良しで?
吉本 ええ、相馬くんとはもう長い付き合いです。
山下 ‥‥ん? ‥‥相馬さん?
グラフィックデザイナーのお友だちって、
もしかして相馬章宏さんのことですか?
ちょっとした偶然でした。
吉本さんの親友の相馬さんは、
「カワイイもの好きな人々」の単行本
デザインしてくれたかただったのです。
思いがけないつながりに
僕たちは少年のように盛り上がるのですが、
テーマをフルーツシールへと戻しましょう。

山下 さて、吉本さん、
いちばんお好きなのはどのシールですか?
吉本 ‥‥それ、ぜったい聞かれると思って
昨日からずっと悩んでたんですよ(笑)。
ええと‥‥どうしよう‥‥これかなあ。
山下 こちら。
吉本 バナナのシールなんですが、
カタチ、色合い、配色、レイアウト、
すべてにおいてフルーツシールの
基本をおさえている1枚です。
山下 なるほど、バナナの‥‥。
バナナに貼られた時の姿がよさそうですねえ。
吉本 ‥‥あの、もう1枚いいですか?
山下 え? ああ、はい(笑)、どれですか?
吉本 これなんですが。
山下 こちら。
吉本 相馬くんとヨーロッパで探したときの
思い出の1枚なので‥‥。
山下 ああ、それははずせませんよね(笑)。
吉本 山下さんは、どれがお好きですか?
山下 僕は‥‥これかな。
吉本 やはりかわいいやつが。
山下 ええ、これがリンゴなどに貼られているのを
手にしたら、かなりうれしいと思います。
‥‥それと僕ももう1枚。これも好きです。
吉本 ほお、これですか
山下 はがしにくいシールを
一生懸命はがした跡が残っている。
はがす吉本さんの様子が伝わってきて‥‥。
そこが好きです(笑)。
吉本 きれいにはがれないのもあるんですよ(笑)。
山下 あと、こういうのが気になるのですが‥‥。
吉本 このタイプは、オレンジのシールですね。
これをオレンジに貼るとちょうど‥‥。
山下 あ、葉っぱ! これ葉っぱになるんだ!
店の人 こちら、おさげいたしいます。
山下 ごちそうさまでした。
‥‥‥‥あ、あのお。
店の人 (素敵な笑顔で)なんでしょう?
山下 お、お願いがあるのですが‥‥。
お店のかたのご好意で、僕らは
本物のオレンジを貸していただけることに。
吉本さんがシールをアルバムからはがします。

吉本 ‥‥(ゆっくりはがす)‥‥あ。
山下 どうしました?
吉本 ‥‥やぶれてきました。
山下 だ、大事なコレクションが‥‥。
もういいです、はがさないでください!
吉本 いいんですいいんです(はがしている)。
‥‥よいしょ。はがれました。
山下 よれよれにしてしまいました‥‥。
吉本 せっかく山下さんが勇気を出して
本物のオレンジを借りたのですから。
山下 吉本さん‥‥。
吉本 べつにやぶけたってシールはシールですしね。
山下 吉本さん‥‥。
吉本 さあ、貼りましょう(貼る)。
吉本 ‥‥こいつ、まさかこうしてまた、
フルーツに貼られることになるなんて、
思っていなかっただろうなあ‥‥。
山下さん、ありがとうございました。
山下 吉本さん‥‥。


ジューシーに、かわいかった。

とてもよくしてくださった
「キルフェボン銀座」の場所は
こちら↓をクリック。

ぜひ、メニューの項目も見てみてくださいね。
取材の日、どれだけ僕らが目移りしたかが
わかろうかというものです。

2005-11-30-WED

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