MAGIC
ライフ・イズ・マジック
種ありの人生と、種なしの人生と。

第11回
「超能力って、信じる? 」


超能力者と称する人物を、検証する機会があった。
我々は「たけしのTVタックル」の
ディレクター(Tさん)、カメラマン(Sさん)とともに、
ロシアのモスクワを訪れた。

我々はレポーターを務めるコメディアンという役割。
いつものことながら、超能力者と称する方々は、
絶対にマジシャンの前で何かを見せることは無い。
マジシャンは
「トリックがマジシャンに見破られるのが怖いから」
と言い、超能力者は
「疑ってばかりの人物の前では、精神集中できない」
と言い訳する。
どこまで行っても平行線。
故に、今回はコメディアンという身分での
検証となったのである。

謎の「超能力者」(Gさん)は、
幾重にも目隠しをした上で、
書かれた文字を透視してみせた。
やはり間近で見ると、マジシャンとしては
ひとつひとつが興味深い。
もちろん超能力では無いけど、素晴らしい芸になっている。

さて、同行のデイレクター、Tさんの反応が
これまた実に面白かった。
事前にGさんの資料VTRを一緒に見て、
怪しい部分や要注意事項を話し合っていたにもかかわらず、
どんどん引き込まれていく。
そして時々つぶやく。
「すごいすごい。こりゃぁ本物だよ。」
マジシャンの目で見れば、明らかなトリックなのに、
一人の大人が信じきってしまう、それ程熟練の芸であった。
Tさんも、我々と同様に検証しようとしていたはず。
疑いの目を持ってGさんの一挙手一投足を
見つめていたはずであった。
ただ、マジシャンではないTさんは、
疑問点を多くは持ちえなかった。
その少ない疑問点が次々に解消されてしまうと、
後はもう吸い込まれるように結果を見つめ、
「本物だぁ・・・」
とつぶやくしかないのであった。

ある「超能力者」が行った実験では、
船の羅針盤を念力で動かして見せる。
針は確かに彼の手からのパワーを
感じているように揺れ始める。
ここで
「この現象を見せるとマジシャンは必ず叫ぶ。
 このTシャツの裏に磁石を隠し持っていると。
 さぁ、皆さんに見てもらいましょう」
と言いつつ、誇らし気にTシャツを脱ぎ捨てる。
その瞬間、観客の全てが、彼の信者になってしまう。
しかし、ちょっとお待ち下さい。
確かに、Tシャツを脱いだ彼の身体に
怪しい部分は皆無である。
だがその後、つまりTシャツを脱いだ後、
彼は羅針盤を動かしてはいないのだ。
トリックを全て終了させた後で
「さぁ調べて見ろ」
と言っているのだ。
科学者を実験に立ち合せることも多い。
だが、トリックに関しては素人である科学者は、
トリックを脱ぎ捨てた後の彼の身体をせっせと調べ
「まったく怪しい部分は無い」
などと宣言させられてしまうのだ。

さて、Tディレクターである。
Gの行った実験VTRを見ながら、
我々の指摘を聞いている。
Gの実験がトリックらしいとは納得しつつも、
再びつぶやく。
「しかしなぁ、マジシャンは疑り深い、イヤな人種だなぁ」
そうですよ、どうせイヤな人種でございます。
悪うございました。

でもね、実害がなければ
マジシャンの出番は無くても良いが、
善良な信じやすい人々がコロリと騙されてしまうのは
あまりに危険過ぎるし、無防備過ぎるのだ。
交通安全のお守りが実際に有効かどうかを疑って、
ケチをつけている訳ではない。
五百円で占ってくれるおばさんに、
当たらなかったと反論もしない。
マジシャンだって信心深かったりするのである。
ただ、一般の人々がトリックに疎いのにつけ込んで、
悪さをする人物が不愉快なのである。

本音を言いますとね、
超能力者と称する人がマジシャンには絶対に注がれない
畏れのような眼差しを受けつつ、
一生懸命練習して得たマジシャンの技術をあざ笑うような
トリックでマジシャンの何倍ものギャラを取るのが
絶対に許せないのだ!
でも、絶対にバレないトリックを得たら、
明日から僕も「超能力です!」
と言ってしまうかも。
いやぁ皆さん、超能力って本当に怖い、こわいですね。

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2000-10-04-THU
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