ライフ・イズ・マジック 種ありの人生と、種なしの人生と。 |
『マジシャンたちの近未来・最終章』 〜解放〜 10年も続いてしまったタネ明かし禁止法は、 ある日唐突に消滅した。 アメリカとヨーロッパのマジシャンたちで 組織されている世界マジシャンズ・ユニオンの幹部たちが 突如来日し、日本のマジック事情について 猛烈に抗議をし始めたのである。 タネ明かしを指摘され、長く投獄されていた 日本のマジシャンたちは、 解放後祖国を追われるようにして アメリカやヨーロッパの各国に移住するようになった。 そうなると、欧米のマジシャンたちと 日本人マジシャンたちとの、 いわゆる貿易摩擦のような状況を呈してきたのであった。 優秀かつ勤勉な日本人マジシャンは欧米に溢れ、 次々と仕事を獲得し始めたのに、 欧米のマジシャンたちは 日本で仕事をする機会を失ってしまっていたからである。 それもこれも、すべては日本だけの悪法である タネ明かし禁止法によるものと、 彼らは連日政府、法曹界、マスコミ等、 あらゆる分野に向けて 終わることのない抗議を続けたのである。 これらの運動の陰に、 日本のマジック界のドンと呼ばれる 小坂南氏の水面下での活動があった。 小坂氏は、日本でマジック・ショップを 経営するかたわら、欧米は無論のこと アジアにもマジシャン人脈を 広げていった人物である。 その人脈を、個人の利益のみに活用するのではなく、 日本の優秀なマジシャンたちを 広く世界へ紹介する手だてとしたのであった。 小坂氏の人柄を慕う海外のマジシャンは多かった。 そんな海外のマジシャンたちが、小坂氏の、 日本のマジシャンの窮状を救うべく、 一斉に立ち上がったのである。 今も昔も、外圧にはからきし弱い日本である。 欧米の有力政治家も次々と来日し、 マジシャンたちの抗議の後ろ盾となって 各方面に働きかけた。 こうなると、一気に風向きは変わるというもの。 直ちに各国の経済、貿易担当閣僚たちのトップ会談が 東京で開催され、タネ明かし禁止法の 見直しとなったのである。 「主文、これまで長きに渡って維持されてきた 奇術の秘密厳守法、いわゆるタネ明かし禁止法を 破棄いたします」 長き暗黒の時代から、 ようやくマジシャンたちが解放される時を 迎えたのであった。 〜エピローグ〜 「はい、皆さん、素晴らしいマジックを見せてくれる マジシャン、知ってますよね? とっても不思議なことを見せてくれる人たちですよ。 本当に長い間、私たちは見ることができずにいましたが、 やっとマジックを楽しめるようになったのですよ。 さぁ、不思議の国の遊園地にやってきてくれたのは、 あの・・・」 私はステージ袖に待機し、司会者の紹介を聞いていた。 そうなのだ、日本でマジックを見ることができなくなって、 もう何年もが過ぎてしまった。 今、客席を埋めている子供たちの多くが、 生まれてこのかたマジックを見ていないかもしれない。 そういう私だって、はて何年ぶりのステージだろう。 そう思うと、妙に緊張し、体がこわばっているようだ。 私は軽く首をぐるぐると回し、得意技である 『あったま・ぐるぐる』に備えた。 「は〜い! それではご紹介しますよ〜、 カメレオンズさんで〜す!」 マジックを見つめる子供たちに、 懐かしい笑顔が浮かんでいた。 (終わり) ※このエッセイは、私が『プリあらMagicクラブ』の 機関誌に寄稿したエッセイに加筆したものです。 ※この物語はフィクションであり、実在する個人、 あるいは団体等とは一切関係ありません。 |
このページへの感想などは、メールの表題に
「マジックを読んで」と書いて、
postman@1101.comに送ってください。
2010-06-06-SUN
戻る |