『夢の色々』
先輩芸人さんの名作ギャグに、
『金もいらなきゃ女もいらぬ、
あたしゃも少し背が欲しい』
というのがあるが、僕は、
『金もいらなきゃ女もいらぬ、
あたしゃも少し夢が欲しい』
僕は長くマジシャン生活を続けてきて、
何でも楽天的に考えるクセがついている。
ハンカチからハトが出るマジックをやろうとして、
「でもなぁ、ハトが出てこなかったらどうしよう。
その前に、ハンカチを忘れたらどうしよう」
なんて悲観的な考えに囚われたら、
とてもじゃないが
ニッコリ笑顔でステージに立てやしない。
そこで、
「まぁ、なんとかなるさ。
ハトが出なきゃ、
『今日は、ハトお休み〜』
てなこと言ってゴマかすか、
謝っちゃえばいいんでないの」
などなど、めちゃ楽観的に考える。
いいんだか悪いんだか。
でも、夢見て生きるってことは幸せなことだろうし。
ただ、あくまで周りの人々も
幸せでなくちゃいけません。
周りの人がほぼ幸せで、
多くの人が夢を語るような状況でないと困る。
周りの人が寂しくて、悲しくて、
あるいは怒っているような状況だと、
とてもじゃないが楽観的に夢など語れやしない。
つまり、
『みんなが幸せでないと、おいらの幸せままならぬ』
なのでありますよ。
先日、久々に知人の老女に会った。
80歳を過ぎてなお、
その笑顔は好奇心に溢れていて、僕にしきりに、
「ねぇ、箱に人が入って
剣を刺すというマジックがあるでしょ。
あれって、不思議でしょうがないのよ。
どうなってるの? 」
そう無邪気に聞いてくる。
仕方ないから、
「あれはですねぇ、なるべく丈夫な人、
剣が刺さっても死なない人に
入ってもらうのですよ」
そんないい加減な返答にも、彼女はめげず、
「人間が浮いたりするでしょ。
あれは、どうなってるの?」
「周囲からちょっと浮いてる人、
軽い、軽薄だねぇと言われている人を探しましてね、
その人に浮いてもらいます」
老婆は少女のような表情になって、
「あたしね、いつかあの不思議なマジックの秘密をね、
知りたいと思ってるの」
マジシャンに質問するのはタブーだったりするのだが、
子供のような笑顔で質問されるのは、なんだか嬉しい。
夢も色々、あっていいよね。
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