第3回
神さまのこころに適うもの。
- 三國
-
編みものをはじめたとき、
私にとっては、ものを作って人に渡すことが
ゴールなんだとわかりました。
- 皆川
- それはぼくもそうです。
- 三國
-
おいしいごはんを作って食べて、
人としゃべって笑って幸せに生きて、
それがミトンになって出てくる、
それを人に返す。
そういうことで循環すると思います。
- 皆川
- ええ、そうですね、おもしろいな。
- 三國
-
でも、今日、クートラスの絵を見ていて
ひとつ思い出したことがあるんです。
それは、アイルランドの民話をもとにした
童話のことです。
虹のふもとに妖精が埋めた壺があって、
そのなかに金の鍵が入っているというお話。
- 皆川
- 虹のふもとの?
- 三國
-
はい。
虹が消えないうちに壺を見つけたら、
鍵が手に入る。
それは、虹の向こうの世界に行くための鍵なんです。
- 皆川
- へぇえ。
- 三國
-
物語のなかで、ちいさな男の子が
おばあちゃんに聞くんです。
「その鍵、いくらで売れるかな」
そうすると、おばあちゃんは
「売るくらいなら、
見つけないほうがずっと上等だ」
と言うんですよ。
自分の作品を画廊で売りたくなかった
クートラスにとって、きっと「鍵」は
売れないものだったんだろうなと思いました。
- 皆川
- きっとそうですね。
- 三國
-
でも、私にとっての鍵は、たぶん
売っても売っても
なくならないものだと思います。
それを今日、クートラスの絵を見ながら
考えていました。
そして、どちらもきっと嘘じゃないんだと。
- 皆川
-
そう思います。
ぼくは、最終的に手にした人が
喜んでくれることが完成だと
思っているほうです。
特にクートラスと絶対的に違うのは、
ぼくたちは求められたぶんをすこし作る、
ということができますね。
だから、アートピースとはちょっと
違うかもしれない。
ぼくはやっぱり人の手に渡ることを喜びにしています。
- 三國
-
でも、私がクートラスに
共感できることがあるとすれば‥‥
ミトンを作りはじめたとき、
いつも思っていたことがあるんです。
それは
「神様の気持ちに適うものだけできたらいい」
ということでした。
どういうことだったのかと振り返れば、
たぶん、そうすることが、
人に渡すための条件であったのだと思います。
- 皆川
-
その考えは、
スピードをちょうどよくする
考えでもありますね。
- 三國
-
ああ、そうですね。
スピードって
その人独自のものだけど、
いろんな意味で大切なことだと思います。
- 皆川
-
とても大事ですね。
ぼくは、ある部分で自分は
いまのスピードにはついていかなくていいんだな、
と思うことがあります。
ついていかなくても成立していたものが
当然、過去に事実としてあったわけです。
それをそのまま「成立する」というふうに
いまも残したいです。
速くなければいけないという錯覚が
ないようにしたい。
- 三國
- そうですね。
- 皆川
-
つまり、なんというか、
速すぎて幸福感が入りきらないんです。
さきほど三國さんが
『神様の気持ちに適うもの』とおっしゃったことが
ものに幸福感が入ってることだと思うんです。
作り手に幸福感がないものを
使い手に渡してはいけない。
その考えが、ぼくにはあります。
- 三國
- 私もそう思います。
- 皆川
-
ものを作るスピードを速めすぎたら、
それが入り込めないんですよ。
ですから、ペースはとても大事だと思います。
ぼくらが「量産」という、
数を作る仕事だったとしても、
たくさん作るなら、早くから作りはじめればいい。
いっときにたくさんじゃなくていいんです。
三國さんがやってらっしゃる
「手編み」なんて、機械じゃないから、
ほんとうに、
人間のスピードでしか作れないですもんね。
(つづきます)
2017-02-28-TUE