第4回
満足するしごと。
- 三國
-
編む時間を考えると、
ミトンをひと組1万円で売ることになっても、
ふつうのアルバイトで働く時給の
何分の1のお金しか手に入りません。
けれども、それでもやり続けるのは、
作ることに喜びがあるからだと思います。
- 皆川
- そうですね。
- 三國
-
自分で考えて、作っていく権利があるからこそ、
私はミトンを作ることができます。
私は気仙沼ニッティングの
製品デザインを担当させていただいているのですが、
気仙沼のみなさんが
喜びをもって作り出し続けるには
どうすればいいんだろう?
ということをよく思います。
- 皆川
-
気仙沼ニッティングは震災後ですから、
5年ほど、ずっとやられてるんですね。
- 三國
-
はい。
生活のリズムに入りこむように
みなさんが編んでくださっているという
話も聞きますが、
たのしんでくれてるんだろうかということが
気になります。
- 皆川
- 何人くらいで編んでらっしゃるんですか?
- 三國
-
メインの編み手さんが30人ほどで、
講習に通ってくださっているのが30人くらい。
ぜんぶで60人くらいでしょうか。
- 皆川
- そんなにいらっしゃるんですか。
- 三國
-
手で作ったものを売っているところで、
もしかしたら日本でいちばん
人数が多いかもしれない。
- 皆川
-
そうかもしれないですね。
いまほんとうに、手編みのニッターさんは
いらっしゃらないから。
- 三國
-
でもきっと全国にぽつぽつと、
上手な方がいらっしゃると思います。
- 皆川
-
そんなたくさんの人数でやっても、
注文に足りてないでしょう?
- 三國
-
はい、時間がかかりますから。
私は、編んでくださる方にとって
編み飽きないようなデザインに
したいと思っています。
- 皆川
-
編み方で飽きない仕掛けを
なさってるんですね。
デザイナーとは、
作る人が満足することと
着る人が満足することが
イコールになるようにどうするかを考えて、
それを考えている自分も同じように満足する、
という仕事だとぼくは思っています。
その3つの関係性がきれいになることを
考える仕事です。
- 三國
- その関係も、デザインしてるんですね。
- 皆川
-
いつも「それができてるかな?」と
考えるようにしています。
ある製品を作ったとする──着る人は喜ぶ。
それが生まれるプロセスで、
作る人は満足か?
時間は満足か?
作る人の生活の糧として満足か?
それを考えて、どこかが足りない場合はただす。
お客さまが使う満足を測って、それを
ぼくらは受け取ればいいだけなのかも
しれないけれども、
ほんとうはデザイナーは、
過程で発生する価値もあわせて
作らなければいけないと感じます。
- 三國
-
ミナ ペルホネンの服作りに関わるみなさんが、
喜びを持って仕事をしているかどうかを
皆川さんはいつも気にしてらっしゃるんですね。
- 皆川
-
気にします。
「仕事がありますか?」
というよりも、
「この仕事どうでしたか?」
「やりがいがありましたか?」
「チャレンジがありましたか?」
そういうことを知りたいです。
- 三國
-
チャレンジがあったかどうか‥‥
それはほんとうに大事なことです。
- 皆川
-
そうなんですよね。いくつになってもそうです。
どんなにベテランの人も
「あぁ、自分はこんなこともできたんだ」
と気づくきっかけになる仕事があります。
そういう仕事で暮らしができている、という状態が、
ものを作ることの
いちばんの意味のような気がします。
ミナのスタッフもそうですし、
自分たちの仕事を必要としている工場が何軒かあって、
その方たちのことも当然考えます。
1年間でこの仕事を出せば、
この人たちの生活がまず達成される、という目標が
あったとします。
そのあとに、
いまどんなところまでが技術的にできていて、
次の段階は何ができるかというチャレンジと、
チャレンジしなくてもよい生活の糧とのバランス、
そういうのをなんだかいつも(笑)、
考えてしまいます。
でも、できあがった服を着てくださる方は
そんなことは気にせず満足いただくことが大事。
そのポイントを探します。
ぼくたちから渡っていく線にあるポイントは、
ある意味明確です。
それを見つけて、接点をつないでいけば、
やるべきことが見えます。
ですから、デザインは
しやすいとも言えるんですけどね。
(つづきます)
2017-03-01-WED