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雑誌『編集会議』の連載対談
まるごと版。

1.ひさしぶりです、原田永幸さん篇。

第3回 「Think different.」について

糸井 まちがってても、
未来ではまちがっていないものがあるってのは
ぼくたち、いっくらでも知ってるじゃないですか。
それが今の状態ではもうできなくなっちゃう。
チェックしおわったものがぜんぶ出てくるから。

アップルが「Think different.」を
しつこく言ってるけど、普通はあれを、
お題目としてしかきいていない。
でも実は、えらい乱暴なことを
言ってるわけですよ。
原田 そうですね。
世の中変えるって言ってるんですから。
糸井 クレイジーという言葉も使っていたよね?
あれはすごい逆説のものですよね。
それを、みんな逆説じゃなくて、
お化粧だと思っているんですよ。
ほんとは「この会社やばいぞ」とか、
「こんなのを許してていいのか」って
アップルに対して怒ってくれなきゃ困るのに、
誰も怒らないで、全然聞き流すじゃないですか。
そこに何かこう、つまんないなあっていう。
あれアメリカできこえたときは違ったでしょ?
原田 アメリカでは、けっこう衝撃的だったと思いますよ。
ああいうアプローチというのは、
アメリカではないですから。
アメリカの広告宣伝っていうのは、
勝つか負けるかなので、商品を語って、
This is the best product!
どうして買わないんだ、
それならおまえはstupidだ、
こういうアプローチがアメリカなんです。
糸井 うたがうやつは、死ね、ですよね。
原田 (笑)日本の場合はもっと
やわらかくて、象徴的じゃないですか。
そういうアメリカで
「Think different.」
って言っても、何言ってるの?と。
「Think different.」は商品でも何でもない。
企業メッセージを伝えるためだけに
何十億円も使う広告は、まあないですから。
糸井 昔、ぼくは80年代に、
「おいしい生活。」というコピーを書いたんです。
「8階にある宝飾品売場も、地階にあるたくあんも、
 欲しいという意味ではおんなじように価値がある」
というのが、そこにこめたメッセージでした。
それまでの「よりよい」生活に対して
「おいしい」生活を、という提案だったんです。
これ長持ちするなという気持ちで書いたのですが、
でも、長いこと
「その話、おいしいじゃん」
って、悪い意味で使われてしまっていました。
ぼくは、味覚の問題だっていうの思ったんです。
300円のやきそばだろうと、満貫全席だろうと、
おいしくないって言えば、
おいしくないじゃないですか。
値段じゃないんだっていうところ、
それをどういうふうに
いろんなケースで見ていくかを考えてて、
ほぼ日刊イトイ新聞っておもしろいのは、
井上陽水とひとりの女子高生が
おなじ立場なんですね。
原田社長と知らない営業マンも、おんなじ。
そのなかで、どっちがいいの?となったら、
原田社長が負ける可能性だって、
いつでもあるわけですよね。

ほぼ日には約束がひとつあるんです。
「著者の実績を書かない」っていう。
だから、著者紹介や登場人物のところに、
「今まで何してたか」っていうの、
何にも書いてないんですよ。
自分が今言いたいことだけがただ書いてある。
これが、思えば、
おいしい生活そのものなんだな、と思います。
たくあんと宝石をおんなじところに並べられる。
インターネットがなかったら、
これはできなかったんじゃないかな。
「朝、読、毎、ほぼ」って、
ぼくはしつこく言うんだけど、
朝日も読売も、うちとおんなじなんだよ、
伝えるという意味では。
そこのところが、ネットがはじまらなかったら、
やはり印刷物つくるために、
コストをかけて紙を手配する必要がある。
それじゃあ、何百万人に配れるかというと
絶対配れっこないですよね。
それなのに、今ひょっとしたら、「ほぼ日」は、
相当大きな会社のウェブサイトよりも、
お客さんでは勝ってるわけですよ。

数の勝ち負けとは思わないけども、
おんなじようにスタートできて、
おんなじ勝負をできる場というのが、
インターネットではじめてできた。
だから、このよろこびは、ものすごいですね。
これだから、原田さんがいろいろなときにおっしゃる、
人々のなかにパワーが分散していくという
イメージが生きてくる。

ただ、さっき言ってたように、
みんなにつくる権利があるんだけど、
じゃあやってみろっていうときに、
みんな「ぼくは小さい」ってスタートしちゃう。
これは、つらい。
ぼく、ホラ吹こうと思ったのは、
ウェブがあったからで、そこで
「ぼくは大きいんだ」
でスタートしたの。で、貧乏は本当なんで
「貧乏で大きいんだ」
という矛盾したイメージを、
インターネットではじめて出せたんですよ。
これはすごいことですよね。

(つづく)

2000-04-15-SAT

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