糸井 |
ぼくは、山岸さんを尊敬していながらも、今まで、
お会いするのを、ある意味では遠慮していました。
ぼくは、勝ち負けの論理のなかで、
「で、オマエ、それで勝てるのかよ?」
と問われる立場でずっと生きていまして、
その立場を超越していたい気分が、自由のためには
すごくあるのですが、負けつづけるところでは、
生きていけなかったんですよね。
そこは、ぼくが、
研究を商売にしていなかったせいもあったけど。
だからこそ、ぼくは自分の自由のためには、
山岸さんの研究には個人として興味を持ってたし、
おもしろいなあと思って読んでいたのですが、
あまりにすぐにお会いしてしまうと、
『安心社会から信頼社会へ』で
書かれているような内容を、ぼくが過ごしてきた
勝ち負けの論理の中に取りこんでしまうという
可能性があると思っていたんです。
だから、お会いすることを遠慮していました。
今ぼくがインターネットでやろうとしたり
やれはじめていることというのは、
勝ち負けの中に閉じこもることを馬鹿らしいぞ、
と、自分として確信を持てたらいいだろうなあ、
というようなことですから、
今までぼくのしてきたこととは、
すごくジレンマがありますし・・・。
ですから、自分の体力と、
自分の体力を支えるチームを
どうやって作るのかが、ものすごく大切で。
たぶん山岸さんの研究室なんかでも・・・。 |
山岸 |
はい、まったくおんなじですね。
それについては、よく考えます。 |
糸井 |
おんなじですよね?
自分の体力を支える組織論って、
意外に出ていないんですよね。
どの本も、例えば意外と古いところで、
「心意気に感じた」だとかいうまとめ方だから。
そこの組織論のところで、もうすこし科学的に、
「組織論の山岸俊男」みたいな人が出てきたら
読みたいなあと思っていますけれども。
山岸さんも、そういう組織論を待っていますか?
それとも、今のままでも
しょうがない状態だ、と思ってますか? |
山岸 |
うーん、それはほんとに、
しょうがない状態ですよね・・・。
私自身もしょっちゅう失敗しますし、
で、一回失敗すると数年間沈滞するわけです。 |
糸井 |
うわあ、そうなんですか・・・。 |
山岸 |
そうですよ。
うまくいっていたのが、だめになる。 |
糸井 |
組織への信頼関係や動機といったものが、
絶えずないと、チームがうまくいかない、
あるいは、「休む」だとか「楽しむ」だとか、
そういうことも、組織論には絶対に必要ですから、
研究室やチームでリーダーシップを取る人は、
絶えずこういうところを考えていきますよね?
山岸さん本人は「研究好き」で、
「ワガママ = 研究」でいいのですが、
チーム全体を考えることは要るでしょうし・・・。 |
山岸 |
そうですね。
そこは、ずいぶん失敗もしましたね。 |
糸井 |
そうですか・・・。
そうなるともう、
キチガイを集めるしかないのかなあ、
とも思いますけど。あはは(笑)。 |
山岸 |
研究室を立ち上げたときは、
実際に、そうだったんですよ。
全員が新しく研究室を作る立場でしたから、
みんながキチガイのようなものでしたね。
その組織が一度できあがった後に、
難しくなりました。
研究室がそこにあるのが当たり前の中で
入ってくる人たちは、キチガイじゃないわけです。 |
糸井 |
おおっ、わかります。 |
山岸 |
そこで、おなじような状態で運営しようとしたら、
私は、失敗したという・・・。 |
糸井 |
そうとう、長い時間、
山岸さんの研究室は存続しているんですよね? |
山岸 |
いやいや、まだ10年ですね。 |
糸井 |
10年ですか。
10年のなかでも、やはり、
組織についての教訓がたくさんあると思いますが、
例えば、どんなことを思い出しますか? |
山岸 |
いやあ、やっぱりさきほどの、創業と、
創業からある程度軌道にのったときの転換ですね。
それは、すごく難しい・・・。
創業当時の頃には、私自身も、
一週間で毎日研究室におりまして、
朝の7時から夜の10時まで、ずっと居るわけです。
ま、今もある意味ではそうなんですけど。 |
糸井 |
はい(笑)。 |
山岸 |
で、最初作ったときには、
学生たちもみんなそうだったんですよね。
はじめはその雰囲気の中で、一気に研究をしてた。 |
糸井 |
何年くらいですか? |
山岸 |
3年ですね。 |
糸井 |
3年は続いたのですか?すごいなあ。 |
山岸 |
で、3年たったら・・・それが・・・ |
糸井 |
(笑)。 |
山岸 |
もう、やっぱり、だめになりましたね。 |
糸井 |
そこを3年は続いた理由って、おそらく、
企業体じゃなかったというのがあるでしょう。
つまり、ボランティア的なメンタリティがあって、
「好きだから研究やってるんだろ?」
という言い方がかなり成り立たせられる、
劇団のようなシステムですから。 |
山岸 |
そうかもしれないですね。 |
糸井 |
そこは、給料で雇った人間たちだったら、
ブーイングが起こりますよね。 |
山岸 |
ええ、とんでもなくなりますよ。
研究室を作ってしばらく頑張って、
ある程度、国内でも評価を受けられると、
もう、その評判で来る学生が出てきますから、
その時点で研究室の中身が変わってしまうんです。 |
糸井 |
「7時〜22時」じゃなくなりますよね?
それに、学生さんですから、
恋愛とかも、当然あるでしょうから。
「彼女と研究どっちが大切なんだ」
みたいなジレンマも、当然ありますよね? |
山岸 |
(笑)いやあ・・それでずいぶん失敗しました。 |
糸井 |
(笑)絶対に、それはありますよね!
これは大きい話ですよ(笑)。
例えば、洗濯物がたまっちゃってるというだけで
研究の邪魔になりますから、生活もあるし・・・。
今、ぼくが一番悩んでいることは、
実はこの組織論についてなんです。
「一生懸命やりたい」という動機があっても、
生活を維持したいし遊びたいし楽しみたい・・・。
ぼくのチームは、今、遊ぶことそのものを
研究しているのですから、その時に遊びを忘れて、
「お前、7時22時で毎日やれよ!」というのは、
ぼくは自分に課すことでさえも、
ほんとうはおかしいんだと思っているんです。
それは、成果として目の前に見える研究で
3年間ぶんだけ内容が進展したとしても、
きっと、おかしいんだと思うんです。
研究漬けだけでは済まない、
寝がえりにあたる部分が自分の中に出ますから。
そこは、どんなに研究の好きな山岸さんでさえも、
あると思うんですよ。
その研究漬けのような中で、
自分が豊かでなくなる・・・それが、
当の「豊かさ」や「遊び」を考えている自分が
そうなってしまうのならば、そのムードは、
当然、チーム全体が共有してしまうわけだし。
きっと、おそらく3年間くらいは
「今は、戦争なんだ。つべこべ言ってられない」
という言い方で持つと思うのですが、
そのうちにチームの中から、
「・・・じゃあ、平和は来るんですか?」
という声が出てくるのかなあ(笑)。 |
山岸 |
(笑)私も、それで失敗したんだと思います。 |
糸井 |
いやあ・・・どこのチームもそうですよ。 |
山岸 |
やっぱり、大きく停滞したことがあって、
その原因を反省してみると、
「楽しくなくなる」んですね。
やってることが楽しいという雰囲気がなくなると、
もう、何やってもだめという・・・。 |
糸井 |
その兆候は、最初にご自分の中に現われますか?
それとも周囲からですか? |
山岸 |
どうだろう?・・・両方あると思います。 |
糸井 |
このへんは、わからないですよねぇ〜。
「停滞感」みたいなものを、まずは感じますよね?
それで、楽しくなくなってきて・・・。 |
山岸 |
だから、そのう・・・研究室に、
「仕方ないからやっている」みたいな雰囲気が、
どこかで出てきてしまうんですよねえ・・・。 |
糸井 |
うわあ・・・!
あははは(笑)。
痛ったいなあ、その話(笑)。
でも・・・・はい、そうなりますよね。 |
山岸 |
そういう雰囲気が出てくると、
「だめだなあ、これ、どうしたらいいかなあ」
と思って、まだ今も模索しているところですから。 |
糸井 |
今ベンチャーでチームを作っているところなんて、
みんなそういうことを模索してますよね?
そこに、インセンティブという言葉で
いろいろと経済的な仕組みを作ってみたり、
あるいは新興宗教的な理念で引っ張ろうとしたり、
チームの中で、文化的衣装を着なおすわけです。
「こんなにいいことをやってるんだよ」とか、
「景気づけに、祭りをやってみる」だとか、
そういうことをやってしまいがちなのですが、
それは・・・違うんですよね。
衣装を着なおしてしまうだけですから。
せっかく裸になってベンチャーではじめたことを、
別の衣装を着なおしてしまうのなら、違うと思う。
・・・でも、その時に、衣装のデザインが違うと
着る気になるということも、これはこれで、
実はあるんですよね。自分にもあるわけだから。 |
山岸 |
はい。
私自身に鑑みて、
組織を打開できることというのは、きっと、
本当におもしろいものを、新しく作ることです。
学生たちと一緒に新しく作ったり見つけたり、
そういうプロセスで「やっていくんだ」という
感覚を持てればいいと思うのですが・・・。 |
糸井 |
でも、そのプロセスにいる途中で
恋をしてる学生は、それ聞いていないですよね? |
山岸 |
(笑)うわあ〜っ!
・・・この話、おもしろいですね。 |
糸井 |
うん(笑)。すごくおもしろい。
この組織の研究は、その研究として、
誰か、きちんと本気でやっている人がいれば、
会いたいくらいですもん。 |
(明日掲載ぶんに、つづきます) |