信頼の時代を語る。
山岸俊男さんの研究を学ぼう。

第2回 彼女と研究、どっちが大切なんだ?(笑)


昨日から、連載をはじめました。
社会心理学者の山岸俊男さんとdarlingの対談です。

(※今回は、少しだけ、対談中の
  時間軸をずらしてお届けいたします。

  対談の時間的には、
  後半に喋られた内容なんだけど、
  「ほぼ日」ではじめて山岸さんを見る方には、
  おそらく、今回お届けの対談部分が、
  「つかみ」に、格好の内容なものですから)

研究、広告、ゲーム、ページ制作などには、
チームでの活動が欠かせないのだけれども、
山岸さんも、darlingも、生産のための組織を、
どうしたいと思ってるの? どこで悩んでるの?
そういうような話になっていくところです。

研究きちがいの山岸さんと、
遊びきちがいのdarling。
どちらとも、イってしまえるような
組織を作りたいみたいなのだけど・・・?

肩の力を抜いて、読めるところだと思います。
チームリーダーをしたことのある人は、
わはははは、と共感してしまうかもしれません。
では、どうぞ、お楽しみください。



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糸井 ぼくは、山岸さんを尊敬していながらも、今まで、
お会いするのを、ある意味では遠慮していました。
ぼくは、勝ち負けの論理のなかで、
「で、オマエ、それで勝てるのかよ?」
と問われる立場でずっと生きていまして、
その立場を超越していたい気分が、自由のためには
すごくあるのですが、負けつづけるところでは、
生きていけなかったんですよね。
そこは、ぼくが、
研究を商売にしていなかったせいもあったけど。

だからこそ、ぼくは自分の自由のためには、
山岸さんの研究には個人として興味を持ってたし、
おもしろいなあと思って読んでいたのですが、
あまりにすぐにお会いしてしまうと、
『安心社会から信頼社会へ』で
書かれているような内容を、ぼくが過ごしてきた
勝ち負けの論理の中に取りこんでしまうという
可能性があると思っていたんです。
だから、お会いすることを遠慮していました。

今ぼくがインターネットでやろうとしたり
やれはじめていることというのは、
勝ち負けの中に閉じこもることを馬鹿らしいぞ、
と、自分として確信を持てたらいいだろうなあ、
というようなことですから、
今までぼくのしてきたこととは、
すごくジレンマがありますし・・・。

ですから、自分の体力と、
自分の体力を支えるチームを
どうやって作るのかが、ものすごく大切で。
たぶん山岸さんの研究室なんかでも・・・。
山岸 はい、まったくおんなじですね。
それについては、よく考えます。
糸井 おんなじですよね?
自分の体力を支える組織論って、
意外に出ていないんですよね。
どの本も、例えば意外と古いところで、
「心意気に感じた」だとかいうまとめ方だから。
そこの組織論のところで、もうすこし科学的に、
「組織論の山岸俊男」みたいな人が出てきたら
読みたいなあと思っていますけれども。

山岸さんも、そういう組織論を待っていますか?
それとも、今のままでも
しょうがない状態だ、と思ってますか?
山岸 うーん、それはほんとに、
しょうがない状態ですよね・・・。
私自身もしょっちゅう失敗しますし、
で、一回失敗すると数年間沈滞するわけです。
糸井 うわあ、そうなんですか・・・。
山岸 そうですよ。
うまくいっていたのが、だめになる。
糸井 組織への信頼関係や動機といったものが、
絶えずないと、チームがうまくいかない、
あるいは、「休む」だとか「楽しむ」だとか、
そういうことも、組織論には絶対に必要ですから、
研究室やチームでリーダーシップを取る人は、
絶えずこういうところを考えていきますよね?

山岸さん本人は「研究好き」で、
「ワガママ = 研究」でいいのですが、
チーム全体を考えることは要るでしょうし・・・。
山岸 そうですね。
そこは、ずいぶん失敗もしましたね。
糸井 そうですか・・・。
そうなるともう、
キチガイを集めるしかないのかなあ、
とも思いますけど。あはは(笑)。
山岸 研究室を立ち上げたときは、
実際に、そうだったんですよ。
全員が新しく研究室を作る立場でしたから、
みんながキチガイのようなものでしたね。
その組織が一度できあがった後に、
難しくなりました。
研究室がそこにあるのが当たり前の中で
入ってくる人たちは、キチガイじゃないわけです。
糸井 おおっ、わかります。
山岸 そこで、おなじような状態で運営しようとしたら、
私は、失敗したという・・・。
糸井 そうとう、長い時間、
山岸さんの研究室は存続しているんですよね?
山岸 いやいや、まだ10年ですね。
糸井 10年ですか。
10年のなかでも、やはり、
組織についての教訓がたくさんあると思いますが、
例えば、どんなことを思い出しますか?
山岸 いやあ、やっぱりさきほどの、創業と、
創業からある程度軌道にのったときの転換ですね。
それは、すごく難しい・・・。

創業当時の頃には、私自身も、
一週間で毎日研究室におりまして、
朝の7時から夜の10時まで、ずっと居るわけです。
ま、今もある意味ではそうなんですけど。
糸井 はい(笑)。
山岸 で、最初作ったときには、
学生たちもみんなそうだったんですよね。
はじめはその雰囲気の中で、一気に研究をしてた。
糸井 何年くらいですか?
山岸 3年ですね。
糸井 3年は続いたのですか?すごいなあ。
山岸 で、3年たったら・・・それが・・・
糸井 (笑)。
山岸 もう、やっぱり、だめになりましたね。
糸井 そこを3年は続いた理由って、おそらく、
企業体じゃなかったというのがあるでしょう。

つまり、ボランティア的なメンタリティがあって、
「好きだから研究やってるんだろ?」
という言い方がかなり成り立たせられる、
劇団のようなシステムですから。
山岸 そうかもしれないですね。
糸井 そこは、給料で雇った人間たちだったら、
ブーイングが起こりますよね。
山岸 ええ、とんでもなくなりますよ。

研究室を作ってしばらく頑張って、
ある程度、国内でも評価を受けられると、
もう、その評判で来る学生が出てきますから、
その時点で研究室の中身が変わってしまうんです。
糸井 「7時〜22時」じゃなくなりますよね?
それに、学生さんですから、
恋愛とかも、当然あるでしょうから。
「彼女と研究どっちが大切なんだ」
みたいなジレンマも、当然ありますよね?
山岸 (笑)いやあ・・それでずいぶん失敗しました。
糸井 (笑)絶対に、それはありますよね!
これは大きい話ですよ(笑)。
例えば、洗濯物がたまっちゃってるというだけで
研究の邪魔になりますから、生活もあるし・・・。

今、ぼくが一番悩んでいることは、
実はこの組織論についてなんです。
「一生懸命やりたい」という動機があっても、
生活を維持したいし遊びたいし楽しみたい・・・。

ぼくのチームは、今、遊ぶことそのものを
研究しているのですから、その時に遊びを忘れて、
「お前、7時22時で毎日やれよ!」というのは、
ぼくは自分に課すことでさえも、
ほんとうはおかしいんだと思っているんです。

それは、成果として目の前に見える研究で
3年間ぶんだけ内容が進展したとしても、
きっと、おかしいんだと思うんです。

研究漬けだけでは済まない、
寝がえりにあたる部分が自分の中に出ますから。
そこは、どんなに研究の好きな山岸さんでさえも、
あると思うんですよ。

その研究漬けのような中で、
自分が豊かでなくなる・・・それが、
当の「豊かさ」や「遊び」を考えている自分が
そうなってしまうのならば、そのムードは、
当然、チーム全体が共有してしまうわけだし。
きっと、おそらく3年間くらいは
「今は、戦争なんだ。つべこべ言ってられない」
という言い方で持つと思うのですが、
そのうちにチームの中から、
「・・・じゃあ、平和は来るんですか?」
という声が出てくるのかなあ(笑)。
山岸 (笑)私も、それで失敗したんだと思います。
糸井 いやあ・・・どこのチームもそうですよ。
山岸 やっぱり、大きく停滞したことがあって、
その原因を反省してみると、
「楽しくなくなる」んですね。
やってることが楽しいという雰囲気がなくなると、
もう、何やってもだめという・・・。
糸井 その兆候は、最初にご自分の中に現われますか?
それとも周囲からですか?
山岸 どうだろう?・・・両方あると思います。
糸井 このへんは、わからないですよねぇ〜。
「停滞感」みたいなものを、まずは感じますよね?
それで、楽しくなくなってきて・・・。
山岸 だから、そのう・・・研究室に、
「仕方ないからやっている」みたいな雰囲気が、
どこかで出てきてしまうんですよねえ・・・。
糸井 うわあ・・・! 
あははは(笑)。
痛ったいなあ、その話(笑)。
でも・・・・はい、そうなりますよね。
山岸 そういう雰囲気が出てくると、
「だめだなあ、これ、どうしたらいいかなあ」
と思って、まだ今も模索しているところですから。
糸井 今ベンチャーでチームを作っているところなんて、
みんなそういうことを模索してますよね?

そこに、インセンティブという言葉で
いろいろと経済的な仕組みを作ってみたり、
あるいは新興宗教的な理念で引っ張ろうとしたり、
チームの中で、文化的衣装を着なおすわけです。
「こんなにいいことをやってるんだよ」とか、
「景気づけに、祭りをやってみる」だとか、
そういうことをやってしまいがちなのですが、
それは・・・違うんですよね。
衣装を着なおしてしまうだけですから。

せっかく裸になってベンチャーではじめたことを、
別の衣装を着なおしてしまうのなら、違うと思う。
・・・でも、その時に、衣装のデザインが違うと
着る気になるということも、これはこれで、
実はあるんですよね。自分にもあるわけだから。
山岸 はい。
私自身に鑑みて、
組織を打開できることというのは、きっと、
本当におもしろいものを、新しく作ることです。
学生たちと一緒に新しく作ったり見つけたり、
そういうプロセスで「やっていくんだ」という
感覚を持てればいいと思うのですが・・・。
糸井 でも、そのプロセスにいる途中で
恋をしてる学生は、それ聞いていないですよね?
山岸 (笑)うわあ〜っ!
・・・この話、おもしろいですね。
糸井 うん(笑)。すごくおもしろい。
この組織の研究は、その研究として、
誰か、きちんと本気でやっている人がいれば、
会いたいくらいですもん。
(明日掲載ぶんに、つづきます)

2000-11-24-FRI

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