松本人志まじ頭。

第6回 僕がもうちょっと言ってもええんかな

糸井 でも、俺、松本家はねぇ、意外とその代理店のシステムに
近いところにあるような気がするんですよ。
松本人志をボス的に呼んだりしてないじゃないですか。
松本 してないですねぇ。
糸井 あれはすごいと思うね。
で、松本人志のこと平気でほったらかしにしとくし、
コーヒー飲みたかったら、自分で取るじゃないですか。
あのシステムがものすごく後で効くと思うんだよ。
あれは効く。
松本 あ、そうですかねぇ。
糸井 そのかわり、こわいのは、へたすると、
2番手、3番手のやつが“殿様”になると思うんだよ。
で、そのなかで妙な上下関係ができて、
本当の松本はえばってないのに、2番目の人が、
「おーい、そんなんやったら松ちゃん怒るでぇ!」
っていう姿になったら、あぶない。
松本 いや……、糸井さんはすごいです。
糸井 そお?
松本 (笑)そう思います。
というか、そうなりつつあります。
なるんですよねぇ。
これはどうなんでしょうねぇ。
だから、僕のやり方はまちがってるのかな? って
思うこともあるんですけどね。
もっと、えらそうにというか、
僕がもっと言ってもええんかなって
悩むこともあるんですよ。
糸井 わかる(笑)。
松本 怒るときはもっと怒らなアカンのやないかな
って思うときもあるんですけど。
でもこう来てしまったんでねぇ。
「最近、松本、えらい人に注意するようになったな」
となるのもねえ……。
糸井 今までも、小さい規模で言うと、
劇団とかぜんぶそうだったんですよ。
なるべくみんな平らにやろうぜ、って言っても、
その平ら同士のなかでのいさかいもあるし、
そのなかでの上下関係も、微妙にできるじゃない?
昔の小劇団はどうしたかっていうと、
たとえばの話、女の役者さんたちには、
座長が全部セックスするんですよ。ガマンして。
で、「みんなイイ子!」。
そういう苦労も聞いたことがある。

俺らの世界は、一緒に飲んだり、殴り合ったり……、
そんなことしてるヒマはないよね。
だから、その方法はダメなんですよ。
その方法で組織維持するだけでパンクするよね。
で、クリエイティブな時間がなくなる。

俺、ヒントはね、大きい意味で“宗教”だと思うんだよ。
で、「何さえ守ればいい」ということを
全員がわかってるチームがつくりたいんですよ。
あとは、金に走るやつがいてもいい。
エバりたいやつは、エバってもいい、となったときに、
「なんで?」って言ったら、
「何が幸せなの」というあたりの……宗教なんじゃないか。
そうすると「同じ宗教をもってたら、楽だよね」
ってとこに行っちゃうんで。
「みんな○○に入ろう!」って言ったら楽だよ。
でもそれはちがうんですよね。
微妙なバランスだと思うんですよ。

あとね、「辞めていい」っていうことが重要な気がする。
出入り自由。
ナンバー2がいなくなった、ごく自然に。
で、「新しいナンバー2でーす」っていうのが、たぶん、
次の会社のイメージかなあと思うんですよね。
会社というか組織の。
松本 いやあ、勉強になりますね。
糸井 俺も、いろいろ途中なのよ。
ウチのほうが松っちゃんとこよりビンボーだから、
もっとリアリズムなんだよ。
さっきだって、ほぼ日のスタッフに、
「夜起きてるとタクシー代かかるから、やめよう」
って言ってるんだもん、俺。
「これで30円もうかりました!」みたいな話がさあ、
深夜帰宅のタクシー代で消えたら、意味ないじゃん。
松本 (笑)。
糸井 まあそんなこと言うのもイヤだけど……、
でも「これでタクシー乗っちゃったらパアだよな」
ってわかる人と、一緒にいたいのよ。
松本 矢沢さんとこは、どうしてますかね。
糸井 永ちゃんとこは俺にも……、
こんど会ったらよく聞いてみようと思うんだけれど、
基本的に宗教ですよ、やっぱり。
永ちゃんが、絶対なんですよ。
で、ナンバー2にあたる人というのが、
すごく腰の低い人なんですよ(笑)。
松本 ほう……。
糸井 ぜんぜん偉くなりたくない人を、最初から呼んできたの。
おそらくね、俺、同じ立場だったら、
ほとんどの人が潰れると思うね。
Tさんっていう人なんだけれど、えらいと思うわ。
たとえば俺、今、綾戸智絵さんていうボーカリストの
ファンなんだけど、「ライヴ行きましょう!」って言ったら
Tさん、来てくれたんだけれど、
吉祥寺まで、バイクで来るのよ。
で、ライヴが終わって、俺は車で行ってたから、
「Tさん、帰る? どっちの道?」って言ったら、
「いや、僕、バイクなんで」って
ごく自然にバイクで帰るのよ。
外、雨ふってたのよ。

で、俺らは招待客なんだけど、ちゃんと予約してた客を、
ちゃんと座らせるんですよ。
綾戸さんのチームも手売りみたいなところから
スタートしてるから、お客さん大事にするところが
すごくしっかりしてるの。
で、俺らはドアのところに立って観てたんですよ。
ドアが閉じたり開いたりするたびにドアをよけて、
よーく観たいときにはドアの中に顔を入れたりして。
ウエイトレスが水割り運ぶときには、
「す、すいません」って通路つくりながら観たんだけれど、
その状態を「なんだよ!」って絶対に言わない人ですよ。
俺も言わないけれどTさんも言わないんですよ。
疲れたらただ自分でその場にしゃがむし、
Tさんのそういうところがカッコイイ。
でも、芸能って、それ許さないですよね。
松本 許さないですねえ……。

2000-01-05-WED

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