三宅秀道さんプロフィール
「ほぼ日」社内で読まれたことをきっかけに、 糸井重里と対談させていただくことになりました。 根本の発想や興味が近い二人の話は 盛り上がり、互いに頷き合うことしきり。 未来の「はたらきかた」を予感させる話が さまざま飛び出しました。 「クリエイティブってどういうこと?」という話や 「就活」の話も、出てきます。 三宅さんの 中小の企業って、面白いんです。げんきな中小企業の社長や 下町の工場の職人さんたちと仲のよい 経営学者・三宅秀道(みやけ ひでみち)さん。 糸井重里が「まるで広告の人のよう」と漏らす 独自のアプローチ方法で 中小企業の研究や製品開発の調査をしてきました。
『新しい市場のつくりかた』
という本が
第6回 「マネー」より「バリュー」第5回 クリエイティブ、の勘違い第4回 「お猿」と「お猿」第3回 「大手病」から抜け出そう第2回 川下からのアプローチ第1回 モノが市場を変えていくもくじ
第1回 モノが市場を変えていく
糸井 『新しい市場のつくりかた』、
とても面白く読ませていただきました。
最初にうちの乗組員のシノダが読んで、
「とにかくものすごく面白かった」と。
それで、ぼくや社内の他のみんなも読んで。

シノダ
(ほぼ日)
読ませていただいて、
三宅先生が書かれていらっしゃることと、
糸井がふだん言っている話が
シンクロしていてびっくりしたんです。
「わ、こんなかたちで
 まとめていらっしゃる方がいるんだ」
と思って、読んだ次の日すぐに、
糸井やほかの乗組員たちにすすめたんです。
それでみんなも読んで
「たしかにつながってる。面白い」と。

三宅 ‥‥光栄です。ありがとうございます。



シノダ
(ほぼ日)
そんなこともあって
お二人に対談していただいたら、
とても面白いお話になるんじゃないかなと
思ったんです。

糸井 実際にぼくも本を読ませていただいて、
「そっか。自分はこの方法で考えてきてたんだ」
というところがたくさんあったんです。
三宅さんは経営学のほうから、ぼくは広告のほうから、
この本の考え方にたどりついていますけど、
スタート地点が違うだけで、道は同じ気がしたんですよ。

三宅 そんな、そんな。
ありがとうございます。

糸井 ぼくは広告業界の方が書いた、と言っても
おかしくない本だと思いましたよ。
たとえば、本に書かれている
「新しい商品がひとつ登場することで、
 その商品を中心に
 新しい文化が形作られていく」
といったようなことは、
まさしくぼくが広告で学んできたことなんです。
モノが、環境を変えていくんですよね。



三宅 そうなんですよね。
たとえばウォシュレットの登場によって、
それまでまったく意識されていなかった
「お尻を水で洗いたい」という文化が、
みんなに共有されるようになった。
さらに、
ウォシュレットを使うための電源が必要だから、
「家のトイレの中にコンセントが
 設置されるようになった」とか。

糸井 トイレの中にコンセントをつけるなんて
おそらくそれまで、
まったく発想されなかったことでしょうけど。

三宅 ウォシュレットが登場することで
新しい文化が切り開かれたんですよね。
それで、モノを作るときにも
そうした「モノをとりまく文化」のところまで
意識すると、もっといいんじゃない?
というのが、ぼくの考え方なんです。



糸井 そうですよね。
まったくそう思います。

‥‥三宅先生はもともと、
どのような研究をされてきた方なんですか?

三宅 ぼくは神戸出身なんですが、
小さいころから生活文化産業、
つまり「生活に密着したモノづくり」に
強い興味があったんです。
それで、大学院生のとき、
「神戸の地場産業を研究しよう」と決めました。

神戸の生活文化産業には
靴、洋菓子、真珠などがあるんですが、
靴は当時、革などのデータをとるのが
難しかったんですね。
また、ぼくは昔からこの体型だったので、
自分が洋菓子のフィールドワークなんてしたら、
早死にするぞと(笑)。
そんなこともあって、
真珠の産業の研究をすることにしたんです。

で、いざ研究をはじめてみると
真珠って「漁業」であり「手工業」でもある。
また、リングなどの鋳物と組み合わさって、
非常に「ラグジュアリーな商品」としても扱われる。
さまざまな産業にまたがっていたので
とても勉強になったんです。

糸井 たしかに、いろんな分野にまたがってますね。

三宅 そうなんです。
そして真珠を入り口に、
ジュエリーの世界の勉強をさせてもらいました。
これがまた面白くって、
ジュエリーって、ただ見本市に置いてあると
まったく価値がわからないようなものが
お洒落な箱に入って銀座のショーウィンドーに並ぶと
一気に10倍の値段になる、そんな業界で。

糸井 ああー。

三宅 それで、
ちょっと話がとぶようですけど
むかしダイヤモンドの宣伝で
「婚約指輪は給料3ヶ月分が相場です」みたいな
キャンペーンってありましたよね?

ぼくは修士のころ、
そのキャッチフレーズを「俺が考えたんだ」っていう
いま80才ぐらいのおじいちゃんに、
インタビューする機会があったんです。

糸井 あ、そうなんですか。

三宅 そうなんです。
あのキャッチフレーズのすごさって、
「給料3ヶ月分のダイヤ」というのはつまり、
高所得者も低所得者も、それぞれの立場で頑張れば、
あなたにふさわしいダイヤの婚約指輪が
買えますよ、というところだと思うんです。

糸井 はい、はい。
「比例配分される」という発想ですよね。

三宅 ええ。そして買う側からすると
「どんな人でも頑張れば買える」ということですけど、
販売するほうの視点であのフレーズを考えると、
「安いダイヤ」も「高いダイヤ」もさばける、
ということなんですよね。
ダイヤって「掘って」出るものだから、
いいものばかりは採れないらしいんです。
手に入れる過程で、
質の高いものも、そうでないものも混じってくる。
その採れちゃう原料を余さず商品化するために、
「婚約指輪は給料3ヶ月分が相場です」というのは
絶好のキャッチフレーズだったんですよね。

それで、ぼくは研究をはじめたばかりのとき、
その、キャッチフレーズを考えたおじいちゃんから
「最初に相場があったわけじゃなく、
 売るほうの側から相場観を提示したら、
 それが受け入れられたんだ」
という成功談を聞かされて。



糸井 ああー。

三宅 そこで、最初から
「商品の価値は、モノ単体で決まるのではない。
 文化や見せ方といった
 その商品をとりまく環境が深く関係しているんだ」
という考え方が、
はっきりと自分の頭に刻みつけられたんです。

糸井 その考え方が今の三宅先生の研究まで、
つながってらっしゃる。

三宅 そうなんです。
一般的に「製品開発」の研究者というのは
「商品の機能=商品力だ」というアプローチが
ほとんどなんですけど、
ぼくは、そのモノをとりまく
「文化」や「環境」まで込みで考えていきたいんです。

別の言い方をすると、
モノにはその製品の機能とともに
製品それぞれが持つ「物語」があって、
その「物語の魅力」が商品の価値と密接に関わっている。
だから、そのことまで含めて、製品の分析をしたい。

これまでの製品開発論では
「商品をとりまく環境は、研究範囲外だ」
みたいになっていたのですが、
そこを切り捨ててしまうのは、
ぼくにはどうもしっくりこなかったんです。
その付随する「物語」の部分だって、
明らかに商品の価値に含まれているわけですから。

糸井 そうですよね。
まさしくそう思います。
ただ、その説明は「商品力=商品の機能だ」
と思っている相手には、非常に難しいでしょうね。

三宅 だから、たとえば先ほどのダイヤの話しかり、
成功事例を紹介しても、
「そんなのはレアケースだよ」といった言われ方を
ずいぶんしてきました。
そこでこの本では、それらを全部レアケースだと
ひと言で否定されないように
事例の数をたくさん揃えたんです。

(つづきます)
2013-09-17-TUE




三宅秀道・著
(東洋経済新報社、2012年)

新市場の創造に成功してきた企業を
数多く見てきた三宅さんが、
新しいビジネスでの戦い方や、
企画発想のためのヒントを
わかりやすい口調で解いた一冊です。
こちらから「東洋経済オンライン」での
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