糸井 | 『新しい市場のつくりかた』、 とても面白く読ませていただきました。 最初にうちの乗組員のシノダが読んで、 「とにかくものすごく面白かった」と。 それで、ぼくや社内の他のみんなも読んで。 |
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シノダ (ほぼ日) |
読ませていただいて、 三宅先生が書かれていらっしゃることと、 糸井がふだん言っている話が シンクロしていてびっくりしたんです。 「わ、こんなかたちで まとめていらっしゃる方がいるんだ」 と思って、読んだ次の日すぐに、 糸井やほかの乗組員たちにすすめたんです。 それでみんなも読んで 「たしかにつながってる。面白い」と。 |
三宅 | ‥‥光栄です。ありがとうございます。 |
シノダ (ほぼ日) |
そんなこともあって お二人に対談していただいたら、 とても面白いお話になるんじゃないかなと 思ったんです。 |
糸井 | 実際にぼくも本を読ませていただいて、 「そっか。自分はこの方法で考えてきてたんだ」 というところがたくさんあったんです。 三宅さんは経営学のほうから、ぼくは広告のほうから、 この本の考え方にたどりついていますけど、 スタート地点が違うだけで、道は同じ気がしたんですよ。 |
三宅 | そんな、そんな。 ありがとうございます。 |
糸井 | ぼくは広告業界の方が書いた、と言っても おかしくない本だと思いましたよ。 たとえば、本に書かれている 「新しい商品がひとつ登場することで、 その商品を中心に 新しい文化が形作られていく」 といったようなことは、 まさしくぼくが広告で学んできたことなんです。 モノが、環境を変えていくんですよね。 |
三宅 | そうなんですよね。 たとえばウォシュレットの登場によって、 それまでまったく意識されていなかった 「お尻を水で洗いたい」という文化が、 みんなに共有されるようになった。 さらに、 ウォシュレットを使うための電源が必要だから、 「家のトイレの中にコンセントが 設置されるようになった」とか。 |
糸井 | トイレの中にコンセントをつけるなんて おそらくそれまで、 まったく発想されなかったことでしょうけど。 |
三宅 | ウォシュレットが登場することで 新しい文化が切り開かれたんですよね。 それで、モノを作るときにも そうした「モノをとりまく文化」のところまで 意識すると、もっといいんじゃない? というのが、ぼくの考え方なんです。 |
糸井 | そうですよね。 まったくそう思います。 ‥‥三宅先生はもともと、 どのような研究をされてきた方なんですか? |
三宅 | ぼくは神戸出身なんですが、 小さいころから生活文化産業、 つまり「生活に密着したモノづくり」に 強い興味があったんです。 それで、大学院生のとき、 「神戸の地場産業を研究しよう」と決めました。 神戸の生活文化産業には 靴、洋菓子、真珠などがあるんですが、 靴は当時、革などのデータをとるのが 難しかったんですね。 また、ぼくは昔からこの体型だったので、 自分が洋菓子のフィールドワークなんてしたら、 早死にするぞと(笑)。 そんなこともあって、 真珠の産業の研究をすることにしたんです。 で、いざ研究をはじめてみると 真珠って「漁業」であり「手工業」でもある。 また、リングなどの鋳物と組み合わさって、 非常に「ラグジュアリーな商品」としても扱われる。 さまざまな産業にまたがっていたので とても勉強になったんです。 |
糸井 | たしかに、いろんな分野にまたがってますね。 |
三宅 | そうなんです。 そして真珠を入り口に、 ジュエリーの世界の勉強をさせてもらいました。 これがまた面白くって、 ジュエリーって、ただ見本市に置いてあると まったく価値がわからないようなものが お洒落な箱に入って銀座のショーウィンドーに並ぶと 一気に10倍の値段になる、そんな業界で。 |
糸井 | ああー。 |
三宅 | それで、 ちょっと話がとぶようですけど むかしダイヤモンドの宣伝で 「婚約指輪は給料3ヶ月分が相場です」みたいな キャンペーンってありましたよね? ぼくは修士のころ、 そのキャッチフレーズを「俺が考えたんだ」っていう いま80才ぐらいのおじいちゃんに、 インタビューする機会があったんです。 |
糸井 | あ、そうなんですか。 |
三宅 | そうなんです。 あのキャッチフレーズのすごさって、 「給料3ヶ月分のダイヤ」というのはつまり、 高所得者も低所得者も、それぞれの立場で頑張れば、 あなたにふさわしいダイヤの婚約指輪が 買えますよ、というところだと思うんです。 |
糸井 | はい、はい。 「比例配分される」という発想ですよね。 |
三宅 | ええ。そして買う側からすると 「どんな人でも頑張れば買える」ということですけど、 販売するほうの視点であのフレーズを考えると、 「安いダイヤ」も「高いダイヤ」もさばける、 ということなんですよね。 ダイヤって「掘って」出るものだから、 いいものばかりは採れないらしいんです。 手に入れる過程で、 質の高いものも、そうでないものも混じってくる。 その採れちゃう原料を余さず商品化するために、 「婚約指輪は給料3ヶ月分が相場です」というのは 絶好のキャッチフレーズだったんですよね。 それで、ぼくは研究をはじめたばかりのとき、 その、キャッチフレーズを考えたおじいちゃんから 「最初に相場があったわけじゃなく、 売るほうの側から相場観を提示したら、 それが受け入れられたんだ」 という成功談を聞かされて。 |
糸井 | ああー。 |
三宅 | そこで、最初から 「商品の価値は、モノ単体で決まるのではない。 文化や見せ方といった その商品をとりまく環境が深く関係しているんだ」 という考え方が、 はっきりと自分の頭に刻みつけられたんです。 |
糸井 | その考え方が今の三宅先生の研究まで、 つながってらっしゃる。 |
三宅 | そうなんです。 一般的に「製品開発」の研究者というのは 「商品の機能=商品力だ」というアプローチが ほとんどなんですけど、 ぼくは、そのモノをとりまく 「文化」や「環境」まで込みで考えていきたいんです。 別の言い方をすると、 モノにはその製品の機能とともに 製品それぞれが持つ「物語」があって、 その「物語の魅力」が商品の価値と密接に関わっている。 だから、そのことまで含めて、製品の分析をしたい。 これまでの製品開発論では 「商品をとりまく環境は、研究範囲外だ」 みたいになっていたのですが、 そこを切り捨ててしまうのは、 ぼくにはどうもしっくりこなかったんです。 その付随する「物語」の部分だって、 明らかに商品の価値に含まれているわけですから。 |
糸井 | そうですよね。 まさしくそう思います。 ただ、その説明は「商品力=商品の機能だ」 と思っている相手には、非常に難しいでしょうね。 |
三宅 | だから、たとえば先ほどのダイヤの話しかり、 成功事例を紹介しても、 「そんなのはレアケースだよ」といった言われ方を ずいぶんしてきました。 そこでこの本では、それらを全部レアケースだと ひと言で否定されないように 事例の数をたくさん揃えたんです。 |
(つづきます) |
2013-09-17-TUE |