森川幸人さんの 「カルシノの贈り物」奇妙なガンの話 「ほぼ日」立ち読み版
森川幸人さんインタビュー【後編】 本業、そして「在野の研究」のこと。
森川 CGに飽きてきたころ、
こんどはソニーがゲーム機を出すという
タイミングにぶつかったんですね。
そこでぼくのところに、
CGができるんだからという理由で
声がかかったんです。
ほぼ日 ゲームをつくったことは‥‥。
森川 なかったです。
ほぼ日 じゃあゲーム作りのノウハウは‥‥。
森川 まったくなかったです。
ほぼ日 勉強した?
森川 勉強もしてないです。
ほぼ日 じゃ、できる人を雇った?
森川 雇ってないです。
プログラマーもコンシューマゲーム作るの初めてだったし、
ぼくは世の中のゲームの常識がわからなかった。
けれどプレイステーションの立ち上げの頃って、
「今までにないゲームで楽しもう」
みたいな世の中の機運があったんです。
それでぼくが自由につくったゲーム
『がんばれ森川君2号』っていうんですけれど、
これが「今までにないタイプのゲームだ」
と、評価してもらえたんですね。
ほぼ日 それが現在の森川さんの仕事に
つながっているわけですよね。
では、そのゲーム作りという仕事とは別に、
絵本やアプリで、理科系の難しいテーマを
わかりやすく説明するということを
はじめたのは‥‥。
森川 それはね、AI(人工知能)を使ったゲームを
3つぐらい作ったときに、
「本を書きませんか?」っていう話が来たんです。
AIのことについては、もともと、
ゲームとは関係なく興味があったし、
ゲームを通じて蓄積したことを
忘れちゃうといやだったんで、
お引き受けしました。
それで完成したのが
『マッチ箱の脳』という本です。
ほぼ日 「ほぼ日」でも紹介させていただきました。
森川 これが人工知能関係の本では
いまでも記録が破られていないくらいの
ヒットになったんですね。
そうしたら出版社から、
「ほかのものも出しませんか」と。
でも人工知能については一通り
描いてしまったので、
「じゃあ、絵本はどうかな」って
提案をしたんです。
それが『テロメアの帽子』であり
『ヌカカの結婚』になるわけです。
ほぼ日 人工知能にしても、そういうことって、
ゲームの仕事とは別に、
好きで勉強していたことなんですね。
森川 そうそう。
そして、こういうふうに科学のことを
擬人化すると「伝わるぞ」ってことは、
自分のなかで確信があったんです。
というのは、科学のことには詳しくない
いわゆる「文化系」の女性に話すと、
とても面白がってもらえる!
ほぼ日 へえーっ!
それは「モテる」というような
意味だと考えていいんでしょうか(笑)。
森川 どうだろう?(笑)
たしかに「昔、ヤンチャでさ」なんて話、
ぼくはできないし、
「こんなに儲かってさ」みたいな話も
ぜんぜんないわけで、
ただ宇宙の話とか生物の話とかを
わりとわかりやすくすると、
意外とね、女の子にもウケがいいんですよ。
それを真に受けて、
「いけるかもしれない」って思って描いたんです。
ほぼ日 なるほどー。
森川 でもね、そういうものが世に出せたというのは
ほんとうにラッキーだったと思います。
いまの出版業界の現状だと
なかなか通らないと思うんですよ。
ほぼ日 そうかもしれないですね。
そんななかに、iPhoneとiPadが出て、
出版社でなくとも
「本」の中身をもつものが
つくれるようになった。
森川 うん。そこで今回は、
自分たちでつくろう、ということに
なったわけなんです。
ほぼ日 書き下ろしの最初のテーマが「ガン」、
タイトルは「カルシノの贈り物」。
‥‥なぜ、ガンを?
森川 ガンは、誰もが持ってるんですね。
細胞自体が100個や200個、
ガン化してるっていうのは、
もう誰でも起こってることなんです。
ほぼ日 えっ?
森川 別に外から細菌が来て感染したとか
そういうことじゃなくて、
自分の仲間たちが、分をわきまえずに
暴走してるだけの話で、
つまりそれは自分自身なんですよ、
そのあたりに興味を持ったんです。
ほぼ日 へえーっ。
森川 そもそもなんでそんなふうに
自分の中の自分が無謀になったかといったら、
生命が何十億年前に生まれたとき、
とても過酷な環境で
生き残るのが精一杯だったときの、
その生き延びる術の、荒くれだったパワーを、
潜在的に細胞は持っているんです。
それが、もう今の社会では必要ないのに、
出てきちゃう。
ほぼ日 うんうんうん。
森川 まぁ、本当に社会の荒くれだった人だと
思ったらわかりやすい。
「社会のガンだ」って言うけど、
まさにそういう感じなんですよ。
そして当時必要だったパワーが、なくなることはない。
ただ、押さえつけられて、今は必要なくて、
みんなそれぞれの役割り、
仕事があってね、協調して、
「社会のルールを守っていきましょうね」
っていうときに、たかが外れちゃった人たち。
で、結局は、集団、社会を壊しちゃって、
ゆくゆくはもう社会全体が壊れて、
自分が死んでしまう。
ほぼ日 人間社会と同じですね、構造が。
森川 そうなんですよ、本当にそう。
意外とそのことは知られてなくて。
そのガンが悪い人だとしたら、
それを抑える免疫側の人たちもいて、
丁々発止やるというかかわりもおもしろい。
そんな話です。
ですからガンの話とともに
免疫の話もちょっと入っています。
ほぼ日 ということで、その新作をいくつか、
「ほぼ日」で立ち読み版として
お届けくださるんですね。
森川 はい。販売する予定のiPhone、iPadの
アプリそのものではないですが、
かなり近いかたちで
「ほぼ日」読者のみなさんに
読んでいただけるように準備しました。
ほぼ日 どうぞ、よろしくおねがいします!
 
2010-10-05-TUE
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