久保 | 今日の座談会は、 「愛と言うにはちょっと足りないもの」 って聞いたんですけど。 |
森山 | あ、そうでしたよね。 |
ハマケン | え? そうなの? 愛と言うには‥‥なに? |
糸井 | 「愛と言うにはちょっと足りないもの」 そういうテーマでお話ししましょうと、 前もってご連絡してたと思います。 |
ハマケン | あ、そうだったんですか。 すみません、ボーッとしてた。 |
久保 | わたし、それを聞いて、 ずっと下を向いてしまって。 いやー、愛かぁ。 まず「愛」があるのが前提っていうところで、 やっぱり糸井さんとは 話が合わないかもしれないって(笑)。 |
糸井 | いやいや、そうじゃないんです。 愛が前提じゃない。 ぼくは最近ツイッターをはじめて そこでも書いたんですけど、 要するに「愛」っていうのを 人々は言いすぎるってぼくは思ってるんです。 |
久保 | 言いすぎる。 |
糸井 | このマンガには、それがないんで。 |
森山 | たしかに。 |
糸井 | 愛にはちょっと足りないものしか描いてない。 |
久保 | ああー、そうか‥‥。 |
糸井 | いままでそういうのを見たことなかったんですよ、 マンガの中で。 だからこれはすごいなぁーと思って。 ものすごく複雑じゃないですか。 |
森山 | そうですよね。 |
糸井 | 「それは愛?」って訊かれたら、 「ちがうかもしれない」って思うもので 動いてるじゃないですか。 |
久保 | はい(笑)。 |
糸井 | で、よくよく考えてみたら、 女はみんなそうだと思ったんです。 愛じゃないかもしれないもので動いてる。 男はそこで間違うんですよ。 |
ハマケン | うーん。 |
糸井 | 「これが愛だ」とかね、すぐ思いたがる。 |
ハマケン | それはおもしろいっすね、 幸世が完全に勘違い。 |
森山 | 幸世は明確なものがないから‥‥ いや、もしかしたらあるのかもしれないけど、 ほんとにばぁーっと散らかってるから、 演技していて、整理しようと思うと 破綻するんですよ。 |
一同 | (笑) |
久保 | 申し訳ない(笑)。 |
森山 | いや(笑)、だから整理しないことにしたんです。 考えてみたら人ってそんなもんだっていうか、 「好き」って言った一秒後に 「きらい」って言っちゃうこともあるわけで。 そういうのを整理しようとすると破綻するから、 もう、そのまま場面ごとにやっていくというか。 |
糸井 | そういうふうにするしかないんでしょうね。 |
森山 | この前、いっしょに出演してる リリー・フランキーさんと話をしていて、 「結局この幸世という男は、 無自覚的にせよ嵐をつくりたいんだ」 っていうことになったんです。 |
ハマケン | へえー、そういう話してるんだ。 |
森山 | 嵐をいっぱいつくって、 海の上でバーッと嵐と嵐がぶつかって 最終的に一瞬こう、 ふっと、凪ぐ(なぐ)。 海が凪ぐ瞬間を求めてるんだよね、幸世は。 みたいな。 そんな感じになったんです。 |
糸井 | うん。 |
久保 | そっかぁ。 |
ハマケン | たしかに、そういう感じかも。 |
糸井 | ハマケンはどう? 愛を信じるタイプ? |
ハマケン | ‥‥愛は。 なんかこのマンガの感じだと思ってましたよ。 おれの人生は。 |
一同 | (笑) |
ハマケン | すいません、えらそうに。 ‥‥いやぁ、愛を信じるかって、 むっずかしい質問ですねえ。 |
糸井 | 歌の中にはいっぱい出てくるし、 ぜんぶ愛でまとめちゃうけど‥‥ そんなことはないよね。 |
久保 | わたしは歌を聞いてると、 拒否されてると感じることのほうが多いです。 モテない人の歌かと思いきや、 いつかぼくも結婚するとか、 急に自分とは違うと思わされたり。 なんか、愛を歌われたところで、 ぜんぜん自分と シンクロするものがなかったりとか。 |
糸井 | それはね、まさしくぼくの気持ちですよ。 |
一同 | え? |
久保 | そうなんですか? |
糸井 | うん。 ぼくはRCサクセションがすごく好きで。 |
久保 | はい。 |
糸井 | 忌野清志郎くんは詩人としても すばらしいと思うんだけど、 結局「キミ」がいるんですよ、いつも。 |
久保 | あー、そうそう、そこです! |
糸井 | どんなひどい目にあったって、 キミだけはわかってくれるとか。 その世界はそれで、もちろんすてきなんだけど。 |
久保 | はい。 |
糸井 | でも、ふつうは その「キミ」がなかなかいないんで。 |
森山 | そうか。 |
糸井 | で、ぼくはそれに対して、 『さんざんなめにあっても!』っていう歌を 歌ってもらったことがあるんです。 つまり、なんにもない、 おれを信じてる女もいないって状態で、 さんざんな目にあっても、という歌を。 ぼくが詞を書いて彼が歌ったんですけど、 そのときぼくはちょっとだけ、 「清志郎くんにはわかるもんか」 って思った(笑)。 |
一同 | わー(笑)。 |
ハマケン | すごい話ですね、それ。 |
久保 | いや、でも、そうですよね。 ものをつくるときって、そんな気持ちですよね。 |
糸井 | うん(笑)。 |
久保 | 描きながら、だれにもわかるもんか! バンッ!(扉を閉める仕草)みたいな感じで。 |
一同 | (笑) |
ハマケン | でた! |
糸井 | なんか、持ってますねぇ、扉を(笑)。 しょっちゅうお城にこもりますねえ。 (つづきます!) |
(C)「モテキ」久保ミツロウ/講談社 |