糸井 | この映画の、 クランクインはいつでしたか。 |
大根 | ことしの4月30日ですね。 |
糸井 | で、クランクアップが? |
大根 | 6月の15日。 |
糸井 | まさしく、 「これをやってていいのだろうか」 という時期ですね。 |
大根 | ええ、そうです。 3月11日の地震のときにはちょうど、 助監督と打ち合わせをしていました。 シナリオの第6稿ができて、 それについて話しているときに地震が起きて‥‥。 まず思ったのは、 「飛ぶな、この映画」 |
糸井 | 思うでしょうね。 |
大根 | こんなことをやってる場合じゃない、と。 |
糸井 | 「飛ぶな」ですよね、まず思うのは。 |
大根 | いっしょにいた助監督に、 「この打ち合わせは無駄になるかもな」 と話したのを覚えてます。 |
糸井 | うん‥‥。 |
大根 | それで次の日、 プロデューサーに 「なくなりますよね」と電話をしたら、 「なに言ってんですか、やりますよ」って。 開口一番でした。 「この映画はぜったいにつぶしません」 そう言われて、 「あ、やるんだ」と。 |
糸井 | プロデューサーのその決意もすごいですね。 |
大根 | ですよね、あの時期での即断ですから。 で、やるとなったら、 目の前にあるシナリオを とにかくなんとかしなくちゃならない。 その時点での第6稿が、まったくだめで。 |
糸井 | そんなにですか。 |
大根 | ドラマ版のヒロインが登場するシーンを まだ残してたりするんです。 |
糸井 | そうか、元カノが(笑)。 |
大根 | すがってたんですよ、6稿まで。 でもそれを7稿でバッサリと。 |
糸井 | 切りましたか。 |
大根 | 切りました。 |
糸井 | 切れたんですね。 |
大根 | あのタイミングで、 なにかのスイッチが入ったんだと思います。 |
糸井 | 地震のニュースが流れているなかで そのスイッチが入った。 |
大根 | そうですね。 あとは明確に、 「ハッピーエンドにしよう」とも思いました。 |
糸井 | そうか、 その決意は、ぜったいにするでしょうね。 |
大根 | ‥‥この映画に関することで、 震災の話はあまりしないようにしてるんです。 でもやっぱり、まちがいなく、 あの地震があったからできた内容ではありますね。 |
糸井 | 観ていてそれをすごく感じたんですよ。 描いてることに根性があると思って。 で、ブレてない。 監督をはじめとしたスタッフ全員が はっきりと正面を向いて、 「これはいい映画だ」と言っている。 それが伝わってきたもんだから‥‥ ああ、地震が育てるっていうことも あるもんだなぁと思ったんです。 |
大根 | ありがとうございます。 |
糸井 | 「2011年のあの地震の年に、 『モテキ』っていう映画があってさ」 っていう話を、 ぼくはきっと何年か先に言ってますよ。 |
大根 | ‥‥ほんと、すごくほめられてますね(笑)。 |
糸井 | ほめさせてください、 おもしろかったんだから!(笑) |
大根 | 恐縮です。 |
糸井 | 役者さんたちはどうでした? やっぱり根性があったでしょう。 |
大根 | うん、ありましたね。 |
糸井 | ちなみにその時期うちのかみさんは、 NHKの朝ドラを撮ってたんです。 つけっぱなしのテレビのニュースを見ながら 収録に出かけていくわけです。 余震もまだ続いているのに、 平気に出かけてるようにさえ見える。 でも、平気なわけがないんです。 |
大根 | はい。 なにか、とにかく「待ってろよ!」という 気持ちで作りました。 |
糸井 | 現場では主人公の若い女優さんが、 一所懸命セリフを覚えているわけですよ。 なんだろう‥‥あの時期に、 ただただ、ひたむきにやることの大事さというか、 決意というか。 映画『モテキ』には確実にそれがありますよね。 |
大根 | あると思います。 |
糸井 | 意識してメッセージを入れたわけじゃないけど。 |
大根 | メッセージは入れてないです。 でも、明確に、ぜったいに、 真っ当なエンターテインメントにしようと、 そう思っていた部分はありますね。 |
糸井 | 「不謹慎」なんていう言葉も さんざん聞こえてくる時期につくるわけだから、 「不謹慎」と言われたら、 「どうぞ言ってください」 と応える覚悟がないと撮れない映画ですよね。 |
大根 | でも、その覚悟はやっぱり、 地震があったからできたわけで。 それまではずっと、 「これ、ドラマよりおもしろいのか?」 って悩んでましたから。 |
糸井 | そんなにジタバタしてたんですか。 |
大根 | 6稿とか、恥ずかしくて読み返せないです。 「墨さんの結婚式」 っていうシーンがあったんですよ。 墨さんが結婚することになって、 そこにドラマ版のヒロインたちが集まってくる。 |
糸井 | ああ‥‥そのシーンは決意がないですよね。 |
大根 | ないです(笑)。 |
糸井 | で、時間をつぶすには最高のカットが撮れます。 |
大根 | そう、そうなんです。 |
糸井 | そのテクニックで乗り切った場所は この映画にはまったくないでしょう。 けっきょくはみんなの決意だらけで。 |
大根 | はい。 |
糸井 | ぼくもね、そういう決意を ちょっとだけ持っているつもりなんですよ。 つまり、 「いま、ふざけるんだったら 俺はケツの穴を締めてふざけるぜ」みたいな。 |
大根 | なるほど。 |
糸井 | いやぁ、それにしても、 チームの決意や覚悟っていうものは、 ちゃんと映画にあらわれるものなんですねぇ。 すばらしいですよ。 (つづきます) |