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ほぼ日 |
それでは先生、さっそくで恐縮なのですが
サメの一般的イメージと言えば、
まず、怖いということだと思うんです。
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仲谷 |
スピルバーグの『ジョーズ』って映画のせいで、
そんなイメージがついちゃってるね。
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ほぼ日 |
本当は、怖いサメばかりじゃないということは
先生の著書などで知ったのですが、
「怖いサメ」というのも、当然いますよね。
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仲谷 |
いますね。
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ほぼ日 |
たとえば「ベスト3」みたいなことでいうと、
どのあたりがランクインしてくるのでしょう。
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仲谷 |
なによりまず、ホホジロザメでしょう。 |
ネコ・パブリッシング『世界サメ図鑑』より
※クリックすると大きくなります。
和名:ホホジロザメ
目 :ネズミザメ目
科 :ネズミザメ科
英名:Great white shark
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ほぼ日 |
こ、この顔は‥‥いかにも怖い‥‥。
絶対に怒らせたくありませんね。
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仲谷 |
こいつが、もう、とにかくイチバンあぶない。
さっきの『ジョーズ』の主人公も、これだし。
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ほぼ日 |
あ、『ジョーズ』に出てくるのも、これですか!
あの音楽が鳴り出すと、ゾクッときますよね‥‥。
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仲谷 |
実際はあんな音楽はしないけどね。
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ほぼ日 |
先生、その点は、わかっております。
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仲谷 |
むしろ音もなくスー‥‥っとね。
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ほぼ日 |
あ、まさに『新宿鮫』の鮫島だ。
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仲谷 |
とにかく凶暴だし。
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ほぼ日 |
「とにかく凶暴」!
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仲谷 |
英語ではホワイト・デス(白い死神)だとか
マンイーター(人食いザメ)だとかって。 |
ネコ・パブリッシング『世界サメ図鑑』より
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ほぼ日 |
ははぁー‥‥。
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仲谷 |
からだも大きいんです。
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ほぼ日 |
どのくらいになるんですか?
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仲谷 |
最大で6メートル以上になるみたいですが、
あんまり捕獲できないから、
信頼に足る実測値がないのが現状ですね。
サメといえば‥‥というわりには
わかってないことが、けっこうあるんです。
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ほぼ日 |
へぇー‥‥。
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仲谷 |
まぁ、相当でっかいのは、たしかですし、
あるホホジロザメの胃からは
イルカが4頭も出てきたりとかね、かなりの大食い。
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ほぼ日 |
人を襲うのも、このサメが多いんですか?
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仲谷 |
そうですね。 |
ネコ・パブリッシング『世界サメ図鑑』より
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ほぼ日 |
なるほどー‥‥。ちなみに、サメの被害って
1年間にどれくらい、あるもんなんですか?
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仲谷 |
許可を得た科学者だけがアクセスできる
「国際サメ被害目録」というデータベースが
あるんですけれど、
それによると
「近年ではおそらく70〜100件のサメ事故があり、
そのうち5〜15人くらいの死者が出ているのでは」
と推測されていますね。
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ほぼ日 |
推測。
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仲谷 |
サメ事故が起こったって報告されないことも
あるでしょうし、
サメって、生態じたいにまだナゾが多いから
推測の域を出ないんですよ。
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ほぼ日 |
なるほど、なるほど‥‥わかりました。
それでは先生、第2位をお願いします。
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仲谷 |
イタチザメです。 |
ネコ・パブリッシング『世界サメ図鑑』より
※クリックすると大きくなります。
和名:イタチザメ
目 :メジロザメ目
科 :メジロザメ科
英名:Tiger shark
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ほぼ日 |
こいつは、どのようなやつで。
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仲谷 |
食べられるものなら何でも食べちゃうんですよ。
魚、甲殻類、イカ、タコ‥‥の他にも
カメとかウミヘビ、アザラシ、イルカ、クジラ‥‥。
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ほぼ日 |
ずいぶん、くいしんぼうですね。
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仲谷 |
それだけじゃなくって、
食べられないものまで、食べちゃうんですよ。
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ほぼ日 |
食べられないもの?
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仲谷 |
木、ビン、衣類、石炭、
古タイヤ、太鼓‥‥。
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ほぼ日 |
あの、先生、すいません、あの。
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仲谷 |
ハト時計、車のナンバープレート、
なんか昔の人のヨロイ‥‥。
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ほぼ日 |
ヨロイ!?
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仲谷 |
「ほんとかなぁ?」なんて思うんだけど、
そんなのがお腹から出てきたって話も
実際、あるんですよ。
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ほぼ日 |
ははぁー‥‥。
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仲谷 |
なんで、そんなことになっちゃうのか。
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ほぼ日 |
木とかビンなら、まだわかりますけど、
太鼓とかハト時計とか、ヨロイって。
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仲谷 |
ねぇ。
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ほぼ日 |
なんらかの理由で、海に捨てられたものを
「バクッ!」といったんですかね。
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仲谷 |
ちゃんとした目もあるし、鼻もあるわけだから
食い物かどうか、わかるはずなんだけど。
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ほぼ日 |
そうですよね。
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仲谷 |
ただ、イタチザメをじっくり観察してみると、
彼らの口って、とにかくデカい。
それからね、「歯」がものすごく強いんです。
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ネコ・パブリッシング『世界サメ図鑑』より
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ほぼ日 |
ほほう。
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仲谷 |
つまり対応できるんですよ、やつらの歯なら。
あるていど、ヘンなモノでもね。
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ほぼ日 |
ヨロイでも‥‥。
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仲谷 |
まぁ、ヨロイとはまでは
言えるかどうか、わからないんだけど(笑)。
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ほぼ日 |
英語だと「タイガーシャーク」なんですね。
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仲谷 |
そうそう、この「タイガーシャーク」を
「トラザメ」と訳しちゃうと、
最大体長50センチくらいの
こんなちーっちゃいサメになっちゃうの。 |
ネコ・パブリッシング『世界サメ図鑑』より
和名:トラザメ
目 :メジロザメ目
科 :トラザメ科
英名:Cloudy catshark
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ほぼ日 |
じゃあ、トラザメは?
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仲谷 |
クラウディ・キャットシャーク。
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ほぼ日 |
トラがネコ‥‥ややこしいですね。
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仲谷 |
別に「ネコザメ」ってのもいますからね。
英語でジャパニーズ・ブルヘッド・シャーク。
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ネコ・パブリッシング『世界サメ図鑑』より
和名:ネコザメ
目 :ネコザメ目
科 :ネコザメ科
英名:Japanese bullhead shark
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ほぼ日 |
‥‥先生、ややこしいです。
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仲谷 |
じゃあ、もういちど整理して言います。
イタチザメが、タイガーシャーク。
トラザメが、クラウディ・キャットシャーク。
ネコザメが、
ジャパニーズ・ブルヘッド・シャーク。
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ほぼ日 |
ともかく、タイガーシャークをトラザメと
訳してしまうと、
とんでもない間違いを犯してしまうぞ、と
いうことですね。
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仲谷 |
そう。
トラザメも何でも食べちゃうタイプなんだけど、
イタチザメとは、くらべものになりません。
その昔、青森と函館を結ぶ青函連絡船の乗客が
ビールを飲んでるときなんかに、
おつまみの枝豆とかを、海に捨てちゃうでしょ?
そうすると、枝豆の皮が
トラザメのお腹のなかから出てきたりしてね。
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ほぼ日 |
なるほど、ヨロイと枝豆では大ちがいですね。
それでは先生、第3位をお願いします。
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仲谷 |
うーん‥‥その次となると悩むけど‥‥
やっぱりオオメジロザメかなぁ。 |
ネコ・パブリッシング『世界サメ図鑑』より
※クリックすると大きくなります。
和名:オオメジロザメ
目 :メジロザメ目
科 :メジロザメ科
英名:Bull shark
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ほぼ日 |
こちらも、かなりのコワモテですね。
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仲谷 |
英語でブル・シャークと呼ばれるだけあって、
体格もがっしりしてるし、
攻撃的で
何をしでかすかわからない牡牛
みたいなやつです。
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ほぼ日 |
ははぁ。
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仲谷 |
しかも、こいつの恐ろしいところは
淡水でも生息できること。
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ほぼ日 |
淡水というと‥‥川とか、湖とか?
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仲谷 |
そうです。
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ほぼ日 |
うわ!
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仲谷 |
ふつうのサメにとって真水は猛毒ですけど、
こいつは、まったくへいちゃら。
アマゾン川を4000kmも
さかのぼった場所で
見つかった記録がありますし、
沖縄の川で発見されたという話も。
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ほぼ日 |
川でこんなのに出くわしたら‥‥最悪ですね。 |
ネコ・パブリッシング『世界サメ図鑑』より
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仲谷 |
ミシシッピ川で人を襲ったこともあるらしい。
ともかく、
川で泳いでいたら襲われちゃうんですから、
注意が必要です。
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ほぼ日 |
ちなみに、この第3位の発表のときに
考えてらっしゃいましたけど、別のサメと迷って?
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仲谷 |
うん、ひとつはね、外洋にいるヨゴレってやつ。
あれもけっこうあぶないから。 |
ネコ・パブリッシング『世界サメ図鑑』より
※クリックすると大きくなります。
和名:ヨゴレ
目 :メジロザメ目
科 :メジロザメ科
英名:Oceanic whitetip shark
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ほぼ日 |
ヨゴレ。‥‥って、なんでまた、
そんな気の毒な名前になっちゃったんでしょうか。
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仲谷 |
ヒレの先が白っぽく汚れているように見えるから、
そう呼ばれてるみたいだけどね。
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ほぼ日 |
あ、なるほど。
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仲谷 |
第二次大戦中に、敵の魚雷で沈められた
米海軍インディアナポリス号の
たくさんの乗組員を
群れで襲ったのが
たぶん、こいつらだといわれていますね。
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ほぼ日 |
こんなのが、群れをなして‥‥恐ろしいですね。
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仲谷 |
もうひとつはシロワニってやつ。 |
ネコ・パブリッシング『世界サメ図鑑』より
※クリックすると大きくなります。
和名:シロワニ
目 :メジロザメ目
科 :オオワニザメ科
英名:Sandtiger shark
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ほぼ日 |
ワニという名前からして、すでに怖いです。
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仲谷 |
大きな口を半開きにして、
するどい歯をむき出しにして泳ぐ顔が
なんとも恐ろしいので、
水族館で、よく飼われているサメなんですが‥‥。
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ほぼ日 |
へぇー。
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仲谷 |
こいつらの子どもって、母親の子宮の中で
共食いをするんですよ。
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ほぼ日 |
は‥‥?
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仲谷 |
つまり、子宮内に発生した最初の子どもが、
他の子や卵を食べて成長し、生まれてくるわけ。
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ほぼ日 |
うわー‥‥。
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仲谷 |
夜行性なので
昼間はゆったり泳いでることも多いんですが、
見かけても、
決してちょっかいを出さないことですね。
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ほぼ日 |
はい、そうします。
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仲谷 |
まぁ、さんざんおどしてきましたけど、
国連の出版物によると、
人やボートを襲ったことが確認されているサメは
27種類だけなんです。
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ほぼ日 |
あ、そうなんですか。
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仲谷 |
400種くらいいるサメのうちの、27種類。
つまり大部分はおとなしいんです。
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ほぼ日 |
そこは、サメに対する大いなる誤解があると。
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仲谷 |
そうですね、「サメ=怖い」というイメージは、
間違っていると思います。
さっきのトラザメなんか、かわいいもんですから。
口のなかに手を突っ込んでも、ぜんぜん平気。
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ほぼ日 |
ははぁ。
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仲谷 |
気持ちイイくらいですよ。
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ほぼ日 |
ほ、ほんとですか‥‥?
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仲谷 |
もちろん、ホホジロザメやイタチザメなんかは
危険ですから、絶対近寄ったらダメです。
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ほぼ日 |
はい。
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仲谷 |
でも、サメって、それだけじゃなくって、
おとなしいのや、かわいらしいのや、
ひょうきんな顔してるのや、ほんとにいろいろ。
そのことは、知っておいていただきたいですね。
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体表面のザラザラで「大根がおろせそう」なところから
命名されたオロシザメ。つぶらな瞳がかわいらしいです。
ネコ・パブリッシング『世界サメ図鑑』より
和名:オロシザメ
目 :ツノザメ目
科 :オロシザメ科
英名:Japanese roughshark |