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花札・上の巻
地方札のデザインは
脳みそを直撃する! |
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任天堂、というと
キューブ、64、ファミコンなどを
連想しますが
その歴史をひもとけば
ボードゲームや電子トーイなど、
じつにさまざまなものを
世に送り出しています。
それらの源流となるゲームの元祖、トランプと花札は
いまも任天堂の名前をつけて
売り場に並んでいます。
昭和46年に入社し、
トランプや花札をはじめ
さまざまな玩具のデザインを手がけてこられた
任天堂デザイナー第一号、
山田孝久さんのお話を伺います。
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山田孝久さん
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こんにちは、山田です。
今日はいよいよ花札の登場ですね。
花札は、
種子島に流れ着いたポルトガル人から伝わった
「かるた」に
日本の花鳥風月を織りまぜて作られたものが
はじまりです。
時代は安土桃山。
「うんすんかるた」「天正かるた」などとして、
時代とともに親しまれ、
そのスタイルは変わっていきました。
そして、江戸時代中期に
現在の花札の原形ができたと
いわれています。
──あのしゃれたデザインには
やはり古い歴史があるんですね。
鉄砲伝来のときですから、いまから450年以上前。
現在の花札が完成したのはいつですか?
山田さんが入社したときには?
わたしの入社したころにはもうありましたよ(笑)。
花札のデザインが現在の型におさまったのは
かなり前のことです。
現在の花札は
もうデザインするところはありません。
これはいじりようがない、完成型です。
でも、長い歴史のなかで、
この型に行き着くまではいろんな変遷があって、
種類もいくつかあるんですよ。
このポスターをご覧ください。
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明治34年のポスター
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英雄のモデルは
西郷さん
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ナポレオンは大統領? |
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──これはかっこいい!
明治34年と書いてありますよ。
「任天堂製かるた主要商標」?
当時の商品ということですか?
そうです。
商品のラインナップというか、
パッケージや内容の見本をポスターにしたものです。
こんなものが明治時代にも
あったんですよね。
──「英雄」というパッケージのモデルは、
西郷隆盛ですね。
右上にあるのはいまでもよく見る「大統領」の
おおもとのパッケージですね。
でも、このモデルはナポレオンでしょうか……?
ナポレオンはほんとは
大統領ではなく皇帝ですよね(笑)。
ちょっといいかげんだ。
──下のほうに、特約大販売所と書いてあります。
これは特約店に配ったポスターなのですね。
おもちゃ屋さんのようなところの店頭に
貼ってもらうために作ったものですよね。
そうです。
契約している売店もありましたが、
当時は任天堂で直販もしていたらしいですね。
お客さんが直接買いに来られたんです。
──このポスター、
印刷に金と銀を使ってますね。
6色印刷ですよ!
特色やな。凝ってるな(笑)。
札の鮮やかな色が
普通の4色印刷では表現できなかったんですよ、
きっと。
こんな派手なポスターは、
いまではあんまりないよね。
──百人一首も載っていますね。
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明治34年の百人一首 |
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古いものだから、
いまの百人一首と絵柄が違いますよね。
このポスターをね、
新入社員の説明会のときに
みんなに見せるんですよ。
昔は、この会社はこんなことを
やっていたんだという(笑)。
──これを見れば
ぱっと歴史を感じることができますものね。
このポスターには
「各国向かるた種類見本」と
書いてあります。
これは、日本の各地方に向けた、という意味。
各地方の札がまわりに載っているでしょう。
これを地方札、というんですよ。
──ああ、こんなの見たことない。
札の下に地名が書いてありますね。
越後は越後用、伊勢は伊勢用。
それぞれの地方によって
遊ぶ札もルールも違っていたんですよ。
例えばこの「虫花」などは
京都や大阪で使われていた。
──思わず自分の出身地を
探してしまいます(笑)。
あ、駿河、あった。
「黒馬」だね。
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地方札。これは「黒馬」 |
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──ふむふむ、どれも地方の色が出ているような、
それぞれに濃いデザインですね。
筑前筑後って、九州ですか。おしゃれだなあ。
現在の花札に近いものもあれば、
数字が描かれているような札もありますね。
トランプみたいな札も。
ああ、これは株札です。
花札に似ているけど、遊びかたが違う。
数字で遊ぶんですよ。
オイチョカブと呼ばれる遊び方がありまして、
それ用の札なんですよ。
まあ、1から10までを設定すれば
花札を使っても遊べますけどね。
地方札や古い株札を
時代ものの映画で使わせてくれ、と
頼まれたことあります。
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株札。
トランプみたいだ |
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──はー、かっこいい……。
これTシャツにしたらいいのに。
ものすごくしゃれている。
株札はいまでも市販してますよ。
関西ではよく売れているんです。
──デパートで買えますか?
買えますよ。
コンビニでも売っているところがあります。
花札と並べてね。
──東京ではあまりないかもしれない。
探してみよう。
ぜひとも欲しいです。きれいだもの。
遊びかたが全然わかんないですけど(笑)。
オイチョカブですから
9がいちばん強いっていう
ルールなんですけどね。
──昔の地方札でも
株札ぽいものと花札ぽいものがありますね。
現在の花札のもとになったものもありますが
雰囲気がちょっと違いますね。
和歌が書いてあったり。
描いてある鶴や鹿も
姿形が洗練されていないというか
格好悪いというか(笑)。
任天堂がこれまで作ってきた札の
アルバムがあるんですよ。
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現在の花札のもとになった
「八々花」
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和歌が書いてある「越後花」
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「目札」。
黒と赤のコントラスト
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「福徳」。
圧倒されるデザイン |
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──これもまた古いものですね。
実物が直接貼ってあるんですか。
これはすごい。
いいでしょ(笑)。
──こんなもの、図書館に行っても
古道具屋さんに行ってもないですよね。
まあ、ないでしょうね。
これは全部、実物を貼ったものですからね。
──「目札」。これも地方札の一種ですね。
きれいだなあ。
色はほとんど黒と赤だけですね。
あとは、金か銀かわからないけど、
ちょっと入ってますよね。
上にのっけたようなかんじでね。
ほんとに粋な色の入れかたです。
──うわ。
これは「福徳」という札ですね。
きれい、きれい!
「福徳」にはね、鬼の札があるんですよ。
かっこいいでしょう。
──かっこいい。
全体すべてがまるごと、かっこいいです。
デザインが、もう完璧ですね。
札1枚1枚に
意味があるんですか。
結局、数や記号を
デザインしているわけですからね。
そりゃもう、全部に意味があります。
──1枚を引き伸ばして
額に入れたいくらい、かっこいい。
このあたりの札は、
完成度が非常に高いデザインだと
思っています。
──誰が考えたんでしょう?
作者不明やろなあ(笑)。
──デザインを勉強しているひとが
これを見たら喜ぶでしょうね。
なんじゃこらぁ、と思うかもね。
ちょっと巷にはないですからね、
こういうものは。
──デザイナーの方に見せても
すごく感動すると思います。
デザインの要素として、すごく刺激的ですよ。
これは本当に
もうここでしか見られないものなんですか?
おそらくそうでしょう。
もう、これひとつしかないですからね。
旧社屋から運び出されたときに
どこに行ったかわからなくたって
揉めとったんやけど(笑)。
まあ結局、応接室に入れてあった。
──眠ってたんですね、ずっと。
眠ってた。
──こんなすばらしいものが……。
なんかもったいないな。
すごいものがあるぜ、見てみな、と
噂を流して、ですね(笑)。
あやしいですね(笑)。
この札は「伊勢」。
これなんか、ほんとに
いいデザインです。
これは九州の札。濃いねえ(笑)。
なんか、絵が脳みそを直撃してくるね。
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「伊勢」
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九州の「大二」
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「小松」
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昔は木版で印刷していた |
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──迫力ありますね。
いやぁ、すごいもん見せてもらっています。
そして、「小松」。
「小松」っていうのは、
遊びかたの本が出版されているくらい
有名な札ですよ。
──かっこいいー。
(この後、山田さんがアルバムのページをめくるたびに
かっこいい! と身悶える、が連続します。)
こうやって見ると、
現在の花札は、完成型なんでしょうけれども
頼りないかんじもしますね。
いまのは垢抜けてるよ(笑)。
スマートに洗練されている。
そのせいでいろんなことが浮き彫りになっていて
それはそれでおもしろみがあるんですけれども。
昔のはね、やっぱり
すごいものを感じます。
近代ですらない、
江戸をひきずっているデザインが
たくさんある。
そのひとつひとつに現代のわたしたちが
こんなにびっくりできるわけですからね。
すごいもんですよ。
──このアルバムに収められているものは
いちばん古くて明治時代ですよね。
そうです。創業が明治ですから。
最初の頃はトランプと同じように木版で、
1枚ずつ手刷りだったんです。
──株札はいまも印刷なさっているんですよね。
まさか、いまだに木版とか。
まさか(笑)。
フィルムを残していて、それを
起こし直したんです。
──カードゲームの歴史は
予想以上に深い。
こういう古い札を見て
興味を持たれる方も多いですよ。
デザイン的にも相当おもしろいでしょうし。
──だって、これはかなりすごいもん。
九州。
九州すごい(笑)。
どす黒い感じでね。
エネルギッシュやね。
ほんとに額装して飾るだけでも
充分いけるでしょう。
ちっちゃい1枚に
底のないパワーがあるね。
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見たこともなかった札の
完成された世界に
驚きの声をあげるばかり。
ただただじっと
見入ってしまい
時間の経つのを忘れてしまうほどでした。
さて、次回は
花札の謎に迫ります。
おたのしみに!
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2001-07-05
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