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花札・下の巻
花札のミステリアスデザインは
日本の長い歴史が生んだもの
ひとつの札がいろんな時代を
引きずっているのです |
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任天堂、というと
キューブ、64、ファミコンなどを
連想しますが
その歴史をひもとけば
ボードゲームや電子トーイなど、
じつにさまざまなものを
世に送り出しています。
それらの源流となるゲームの元祖、トランプと花札は
いまも任天堂の名前をつけて
売り場に並んでいます。
昭和46年に入社し、
トランプや花札をはじめ
さまざまな玩具のデザインを手がけてこられた
任天堂デザイナー第一号、
山田孝久さんのお話を伺います。
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山田孝久さん
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こんにちは、山田です。
花札はその名のとおり、
日本の花鳥風月が
暦にそって取り入れられた
美しい遊び札です。
1月は松に鶴
2月は梅にうぐいす…。
──花札って、すごくきれいですよね。
小さいころになんとなく遊んでいて、
きれいなものだなと思っていましたよ。
僕は家庭用のテレビゲームが世に出る前に
幼少期をすごした最後の世代ですが
学校で花札が流行ったことがありましたよ。
誰かが「これ、おもしろいぜ」なんて言って、
学校に持ってきて。
本を読んで、組み合わせを
一生懸命勉強した覚えがあります。
流行りましたか、学校でねえ。
子どものころに、親と一度や二度は遊んだ方が
多いんじゃないでしょうか。
お客さんが来たときなんかにね。
──あの、座布団の上でやる。
座布団の上で。
きゅっとやる(笑)。
ぱちーっていう、いい音がするんだよね。
──札に厚みがあって。
そうそう、花札は札が厚いから、
ひとセット分積み上げると
かさ高くなっちゃいますね。
札を片手で持てなくなるでしょう。
よほど手の大きい方でないと
うまくシャッフルできません。
──高さがあるわりには札が小さくて
つるつるしていますしね。
ええ。だから切れないんですよ。
この前、花札をシャッフルするいい方法はありませんか
という質問が来たんです(笑)。
2回に分けて切る方法もありますが、
札を裏向きにして机に全部出して、
がーっと混ぜるのがいちばんいい。
昔の麻雀みたいなかんじでね。
そんな話を20分ぐらい
電話でしたんです(笑)。
──そういう質問が
電話で来るんですね。
ものすごく多いんですよ、
正月あけぐらいが(笑)。
──やっぱり、お正月に遊ぶんだ。
「そういえばあったぞ、花札」
なんて言ってね。
そうなんでしょうね、きっと。
正月だからいっちょやってみるか、
てなもんでね。
でも、いまは核家族になってきていますから、
子どもたちが
おじいちゃんやおばあちゃんから教わる
なんていうことは
あまりないでしょうけど。
──家族で遊ぶと盛りあがるのに。
どうしてゲーム、テレビ、本、などと
遊びが人で分断されるようになったんだろう。
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古い地方札。復活しないかな
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「別製張貫」
がその証し
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ぼたんが下側に
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あかよろし、
と読む
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桜の名所、
吉野のこと
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これは藤に
ほととぎすです
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うぐいす
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秋には雁が
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いちばん派手
なのは鳳凰
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小野道風。
平安時代の人物 |
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そうですね。
みんなでよってたかって
ひとつのゲームに集まるっていうことは
なくなってきたかもしれない。
あんまり宣伝もしないしね。
あらためて、いま「花札どう?」っていうのもね。
何かきっかけがあると、わからないけど。
ドラマで使われて、話題になることもあるかもしれない。
──もしキムタクか誰かがドラマで遊んでたら、
みんなの目にとまるかも。
「株札のデザイン、イケテルぜ」なんてセリフで(笑)。
古い地方札はほんとにかっこよかったですね。
驚きました。
ドラマでも何でも使ってもらって、
ぜひ再発してほしいですよ。
古い地方札は、
任天堂の社員でも見たことのない人が
多いと思うよ。
──いまの花札も美しいですけれども。
きれいだよ。だけど、
花札はひと組2,000円だから、高く感じるよね。
トランプなんかとくらべたら。
──そのぶん、作りが違うでしょう。
裏貼りしていますからね。
別の紙で札を
裏からくるんでいる。
──そうとう手のこんだものですよね。
この「別製張貫」という札で
特別な製法だ、ということを
アピールしているんです(笑)。
──必ず入ってる一枚ですね。
地方札からの連綿とした流れを知っていただければ
まあわかると思いますが
花札の表に描かれている絵も
それぞれ深い歴史を乗り越えてきたものばかりでね。
謎があったり意味があったりで
すごく奥深いんですよ。
だから、それなりにたくさん質問が来ます(笑)。
──僕も聞きたいことがあります(笑)。
眺めているとね、
あれ、なんでかなあ、と
思うことがたくさんありますよ。
まずはねえ
この蝶々の札ね。
「どちらを上にして見るのが正しいのか」。
この赤いかたまりは、雲なんですよ。
だから、蝶々が上になる。
──あ! 逆だと思っていましたよ。
赤いのは川なのかなあ、と。
花に蝶々が群がっている、というかんじでね。
正しく見ると、たしかに蝶々が優雅に見えますね。
「この赤い短冊にはなんて書いてあるの」という質問も
よくいただきます。
──「あのよろし」じゃないんですか。
「の」に見えるのは「か」の変体仮名なんです。
正解は「あかよろし」です。
意味はちょっとわからないんですけどね。
──なるほど、
「か」は「可能」の「可」だ。
桜の札は
「みなしの」?
「みよしの」です。
これは地名ですよ。
桜の名所、吉野の里のことなんです。
あとは
「これはなんの鳥だ?」という質問も
よくあります(笑)。
藤のバックに飛んでいるのは
ほととぎすです。
ほととぎすはカッコーとも言われる鳥ですよ。
梅にうぐいす、ススキに雁。
そして、桐に鳳凰です。
それからね、
「柳の下にいる人物は誰?」という質問も来た。
──かえるといっしょにいる、
傘をさした人ですね。
それは小野道風という、書家なんですよ。
小野道風は、
かえるが柳にジャンプしているのを見て
スランプを脱したというエピソードがあるとか……。
花札は、絵がなんとなくミステリアスに
見えるんでしょうね。
どうしてかな、と思わせる何かが
随所にあるんです。
それはきっと
この絵柄に至るまでの
長い歴史のせいなんでしょうね。
──なにしろ、はじまりは
安土桃山ですからね。
長い年月です。
そのなかで、越後花、奥州花、八々花など
さまざまな札を生んだわけです。
そして、いまの花札がある。
──古い札には、小野道風もなにも。
わからへん。なんだか、おらへん(笑)。
こうやって古い札と新しい札を並べてみると
デザインの移り変わりが見えてきます。
花や動物の位置も
すごくデザインされてきていますね。
──あらためてみるとかっこいいなあ、蝶々。
黒澤って感じですよねぇ(笑)。
象形文字から現在の文字に発達したように
株札にしろ花札にしろ、
だんだんと形のピントがはっきりしてきた
というかんじがします。
見ているとおもしろいね。
線が太くなったり細くなったり。
昔のデザインには、なにか
すさまじいものがあるけれどね(笑)。
現在の花札は完成型、とは言いましたが
カードゲームというのは
手でさわって、相手の表情を見て
直接の五感で楽しむものだから
これからもなくなることはないと思います。
このデザインが100年後はどうとらえられるのか。
「すごいぜ、この鶴怒ってるぜ」なんて
言われたりしてね(笑)。
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100年後も存在するであろう、花札。
年月を重ねるごとにその絵柄は
ミステリアスになっていくのだろうなあ。
100年後もやっぱり座ぶとんで、
お正月に、
というスタイルなのだろうか。
「そういえばあったぞ」と、
ちょっと引っぱり出して
遊んでみたくなりました。
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2001-07-18
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