RPGなんかをやっていればわかるように、
より強い敵と戦うことで、より多い経験値を得られるのは
当たり前のことですよね。
主人公が、「強い敵と戦う」というリスクを負うことで、
それに見合った経験値、すなわち「その分強くなれる」
というリターンを得るわけです。
RPGの戦闘を例に出しましょうか。
「火炎」に弱い敵がいたとして、その敵と戦うときに
敵の弱点を掴んでいれば、適切に「火炎」を使いますよね。
結果として、より多くのダメージを与えることが出来ます。
これがいわゆる「ローリスクでハイリターンを得る」
という遊びです。
プレイヤーが考えた分、見返りが得られるというわけです。
このゲームはその考え方を拡大して作ったものなんです。
各キャラクターは長所と弱点がそれぞれにはっきりしていて
いかに長所を活かし、短所を補うかが重要です。
でもその考え方に偏りすぎると、
「初心者お断り」のゲームになってしまう可能性も
あるんですよね。
「リスクとリターン」の考え方だけでは、
ゲームは面白くならない、ってことでもあるんです。
なので、「アイテム」などの誰もが使えるものを
どう持たせるか。
それがゲームのバランスセッティングのうえで
とても大事なポイントでした。
レースゲームのように、
トップのクルマをわざと遅くするようなインチキは
したくない。
その反面、まったくの初心者と上級者のひとが対戦しても
楽しく遊べるようじゃなきゃいけないから。
ファルコンの一撃必殺パンチッ!
なるべくたくさんの友だちと遊んでほしいですね。
友だちとやるゲームですよ、これ。
ポケモンみたいに「おまえ何々集めた?」
っていうようなコネクションのしかたではないけれども、
このキャラってこうだよ、っていう情報の交換とか
いっぱい話しながら、対戦してもらいたいです。
なんたってこれは対戦のゲーム。
相手と戦って競い合っていくゲームなわけですからね。
まずはそこのところをしっかりと作ろうという考えで
作りました。
対戦を優先させた結果、「1人用」のモードについては
実現できなかったことも多いんですけれども。
例えば、「タイムアタック」を導入したことで
レースゲームみたいな要素もあるから、
1人でやるひとはクリアタイムを極めるっていう遊び方とか
お勧めします。
12キャラを全員クリアしたときには、
それまでのトータルタイムが表示されるように
なっていますから。
これって、かねがね「レースゲームにあればいいのになぁ」
って思っていたものだったんですが、
どこも出さないので(笑)、自分でつくりました。
友だちに自慢するときにも
「ネスが2分で、ヨッシーが3分で、」っていうよりは
「おれ、今トータル4分だよ」って言ったほうが
わかりやすいでしょ。
「こうやって遊べ!」っていう、遊び方のルールが
あるわけじゃないし、そんなものに従う必要も
ぜんぜんないわけです。
遊び方は自分たちでその都度決めていけばいいんだから。
説明書にもそのへんは少し書いたけど、
たとえば「王様プレイ」。
4人でチーム分けをして2人ずつの組にして、
そのうち1人は王様で、もう1人はナイトにする。
相手の王様を落としたほうの勝ち、とかね。
そしたら、ただの4人対戦じゃなくなるでしょう?
2対2だけじゃなくて、ときには3対1にするとか、
どちらかにハンディキャップをつけることもできます。
キャラクターもそれぞれの個性を広めにとったつもりです。
ただ、プリンだけははっきりと弱くしておきました(笑)。
全く勝てないほどではありませんが。
そういうキャラが、ひとつは欲しい、と思ったからです。
強いキャラばかり使って、ひとりだけ勝ち続けるというのも
なんかイヤなもんですよね。
そういうときに、このプリンはいいですよ、と。
ふっとばされやすいし、あんまり攻撃力とかもないかわりに
たとえば「歌う」っていう技があるんです。
これを出すと、敵が眠っちゃうんですよ。
4人で対戦しているときに相手にそっと近づいて
歌ったりすると、うっとうしくていいですよね(笑)。
カービィもたまらずねむねむ〜
時間がなくてあきらめたことのなかで、
今でもちょっと悔やんでるのは、
1人用モードのエンディングですかね。
スタッフロールしか出せなかったんですけど、
やっぱりキャラごとの違いは何か欲しかった。
今作っている海外版では、
キャラの絵を1枚ずつ差し込む予定です。
スタッフロールって責任表示だ、と僕は思っています。
映画の真似だとか言うひともいるけど、
そんな単純なことではなくて、
そのスタッフが何をどう担当したのか、
このゲームにどのように関わっているのか、ということを
ひとりひとり明らかにするもの、それがスタッフロール。
だから、ひとりずつの名前を
「ロックオン」できるようにして、
「タグ」をつけて、仕事の内容を表記したんです。
普通のゲームだと単なる肩書としての
デザイナーはデザイナー、プログラマーならプログラマー、
そのひとことで終わってしまうけれど、
僕はその人がこのゲームで何をしたかということを
きちんと書いておきたかったんです。
名前をロックオンすると画面右上にタグが
ええ、こういうスタッフロールの見せかたは
たぶん初めてだと思うんですけれど。
スタッフロールに出てくるスタッフ名は
ぜんぶで80人くらいでしょうか。
実際の開発スタッフは多いときで30人くらいかな、
プロパーでは20人ほどでした。
その他は各キャラクターのオリジナルにかかわった人々を
スペシャルサンクスの意味で出しています。
これ、ほんとは「カリブの海賊」みたいな趣向に
したかったんですよ。
プレイヤーがトンネルの中をライトで照らしながら
カタカタカタって走っていて、パッと上を見上げると、
誰々っていうように名前が浮かび上がってる、っていう。
しかも、そこにロックオンできて、打てて、当たると
その名前が砕け散る、ということを考えていたんです。
これはほんとにやったら面白かったと思うんだけど(笑)
スタッフロールにはすごい偉いひとの名前もあるわけで、
それを打ち砕くっていうのはちょっと(笑)・・・、ね。
Nintendo64もここにきて、
ある程度のソフトのラインナップは
揃ってきたと思います。
初期のころから「マリオ64」とか「ブラストドーザー」
「ウエーブレース」「パイロットウイングス」などなど、
それらのゲームが出るたびに、触って遊んできて、
自分がユーザーとしてそれぞれのソフトに感じたことを
この「スマブラ」には反映させたつもりです。
はじめて64の3Dスティックを触ったときに、
「あっ、このスティックはすごい!
このスティックには魔力が秘められてるようだ」
って思ったんですよ。
このスティックを操作することが
ちゃんと出来てるソフトだったら、
どんなゲームでも面白くなってしまうな、って思った。
そのくらいすごい!って。
それまでの操作が十字キーだけだったことに比べるとね。
でも、反面、スティックの操作そのものを
コンセプトとしたゲームも目についたんですね。
操作性が高まることが、ゲームの面白さに結びつけば
確かにいいんだけど、ゲームそのものの楽しさとか
面白さの本質からみたらどうなんだろう、と、
ひとりのユーザーとして感じる部分もありましたので。
今回、ぼくたちの作った「スマブラ」が、
Nintendo64のソフトのラインナップのなかで
どういう意味や位置にあるかというのは、
しばらく時間がたってから見えてくるものなんでしょう。
こうしてみるとネスもなかなか頼もしいぞ
今、「スマブラ」のホームページを
1人で作っています。
(編集部註:
というわけでホームページが完成しました。
その名も「スマブラ拳」!本気度高そうですよね。
はっきりいってすっごい情報量です。
先週金曜日のスタート直後からすでに大反響なのだそう。
さっそく見たいひとはココをクリックしてください)
開発が終わってからしばらくのあいだ、
雑誌のインタビューを受けたり、攻略本の監修をしたりして
「スマブラ」のプロモーション活動をしているときに、
ぼくなりに思うところがあったんです。
ゲーム専門誌向けの細かい技の説明などでは、
必要があればビデオを作ってお渡ししたり、
この「ほぼ日」の「もっと教えて」コーナーもそうですけど
「スマブラ」を深く知ってもらうための労は
惜しんでいないつもりです。
でも、言いたいことが全部言えるわけじゃないし、
雑誌にも情報を全部載っけてもらえるわけじゃない。
じゃ、足りないところやプロモーションしきれない部分は
自分でなんとかしなきゃいけないかなぁ、と思って。
「スマブラ」ってどんなゲーム?ってひとにも応えたいし、
「スマブラは買った、ものすごくやりこんでるよ」って
いうひとにも見てもらえて、
「あ、こういうことがあったんだ、これは知らなかったよ」
っていうものが提供できたらいいな、って思っています。
まだ「スマブラ」をやったことのないひとたち、
間違った情報だけで判断して、つまんなそうとかっていう
偏見や誤解を抱いてるような人たちにも、
「スマブラ」が持つ味や駆け引きの面白さを知ってもらう
ことをめざして作っています。
ぜひ、読んでみていただきたいですね。
言ってみれば、タダで配る攻略本のようなもの、かな。
内容の濃さにはもちろん自信あり!
だって、ゲームをつくった本人が作るホームページですよ。
「スマブラ」マニアを自認するくらいのひとにも
必ず何かの発見があるようなページにしようと思ってるので
初心者のひとは難しいと思うところがあったら
適当に読み飛ばしてもらったって構わないから。
結局は、ゲームをプレイするのも、攻略本を読み込むのも、
ホームページまで覗いてコアな情報を入手しようとするのも
受け手側であるユーザーのやる気次第なんですよね。
やる気のある人にはそれなりのものをお返しできると
思います。
遊ぼう、遊び尽くしてやろうという気合いで臨まれることが
ゲームの作り手にとって何よりの喜びなのかもしれません。
これから、ですか?
ぼくは「ゲームに初めて触れる人の
アクションゲーム」が
足りないと思って、「カービィ」を考えました。
「短時間でわいわいと遊べるゲーム」が足りないと思って、
この「スマブラ」を考えました。
例えば、他のゲームクリエイターが、
「私は自分が遊びたいゲームを作ります」ということも
それはそれで実に正しい考え方だと思うのですが、
私自身は今あるゲームソフトとは違う方向をめざすことで
ユーザーをフォローし、また、開拓したいと思っています。
もっとも、目新しさよりは面白さ、であることは
もちろんですけれども。
「スマブラ2」ですか?
うーん・・・。
完成までにいろいろな抵抗があった企画でもあるので、
現時点ではおそらくシリーズ化はしないと思います。
ただ、企画者としてやり残したことはものすごく多くて、
尾を引いてることも事実です。
この「スマブラ」は、僕の頭のなかで描いた完成型の
60%ぐらい、でしょうか。
やはりユーザーのみなさんが望むゲームを作っていくのが
いちばんですから、「新しいスマブラ」を望むユーザーが
多ければ、手がけることもあるかもしれませんね。
ひと仕事終えた爽やかな笑顔
これを作っていたときはほんとうに忙しくて、
東京の実家に何カ月も帰れなかったので、
いつも一緒に遊んでた昔からの友だち連中にも
その間ぜんぜん会えなかったんですよ。
もう、十数年のつきあいという旧友なんですけど。
「スマブラ」が発売された直後に、
山梨まで用事作って遊びにきてくれたんですね。
で、さっそく、おまえが作った「スマブラ」をやらせてくれ、
ということになったんです。
ぼくの家で遊び始めたのが夜8時ころで、
それから延々とやり続けて、翌朝になってもまだやってて。
僕はさすがに途中で「もう寝ようよ」っていって、
先に寝たんですけどね。
昼ごろになって起きたら、友だちが寝てる部屋から
なんか音がしてて、覗いたらそいつまだやってた(笑)。
そんときにはじめて
ああ、作ってよかったなぁ、って思いましたね。
やり残したところもあったし、開発が終わってからも
いろいろと心残りなこともあったんだけど、
ほんと、報われたな。
友だちっていいものです。