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樹

 この春に発売され50万本を超えるヒット
 となった、話題のNINTENDO64ソフト
「ポケモンスナップ」
 制作した「ジャックアンドビーンズ」の
 開発秘話を満載してお届けしている、
 今回の「樹の上の秘密基地」。
 連載はこれが最終回になりました。


宮本さん、岩田さん、糸井による特別座談会の後編をお届けします。
(前編をまだ読んでないひとは、
「第5回」から見てくださいね)
ゲームに限らず、ものづくりに必要なことがこの座談会から見えてきます。
肩の荷をおろしたスタッフたちの声も、同時にお伝えしましょう。

 


(第5回の6)

「 特別座談会・今だから言えること」
 
〜 ものをつくるとは何か 後編 〜


糸井重里(以下糸井)
あのレールを作ったのは?

岩田さん:(以下岩田):
あれはね、ただ自由に歩き回れても、
っていう段階での、今の宮本さんのお話が
あった後の次のステップで、
2つくらい実験がなされてて、
そのうちのひとつだったんです。

宮本茂さん(以下宮本)
「もう、とことん、これで行け」
って。
「割り切れ」って言いました。

岩田:
当初ね、「こういうのも作ってみました」
みたいなものとして出てきたんですけれど、
宮本さんは「全部これにしろ」って
言ったんですよ。

糸井:
ああ。

宮本:
で、一時期、いかだが自分で漕げるように
なってて、ちょっと左右に動かせるようにも
なってたんですよ。
それも「全部割り切れ」(笑)。
そう言ったものの、抵抗あったんですよね、
あれ。

岩田:
結果的には、その名残で、多少左右に
行けるところもあったりするんですよね。
それも最終的には、ゲームの深みといえる
ものになったんだけど、
あの頃は、それが前面に出てきてて、
それこそ障害物をよけることなんかも
ゲームにしたりしてたんで。

宮本:
写真を撮るのが楽しいゲームなのに、
写真をたくさん撮ったらダメ、みたいな
システムになってたんで、
そんなんじゃダメだ、とかね。
彼らが一生懸命考えてるものを
ぶち壊すようなこと、言ってましたね。

岩田:
企画者には、ね。
宮本さんはそれがご専門ですから、
厳しいですから。
やっぱりね、専門には厳しくなるんですよ、
どうしても。
私がプログラマーに厳しいように(笑)。
「軽々しく、出来ない、って言うな!」
みたいな。


竹嶋 章 (たけしま あきら)
ディレクター

きっと今回の経験を、苦しいときに
思い浮かべるんだろう、ということは
思いますね。
僕は基本的に休むのが嫌いなんで、
早く次を、何かしたいですね

サッカーをやってるんです。
名古屋の前の会社でやってて、
こちらに来てからも、月に1回、
試合のために名古屋まで帰ってます。
こっちでずっと仕事ばっかりしてると
精神的に参っちゃうじゃないですか。
身体も全然動かさないし。
土曜日の朝とか夕方に行くんです。
日曜日が試合で、終わったらそのまま
帰ってきて、また月曜日。
それじゃ身体が辛くて、疲れて、
ダメなように見えるんですけれど、
そのほうが、逆に調子がいいんです。


宮本:
そやけど僕も、ディレクターをやってる
ときには、いじめられるんですからね、
みんなに。

僕自身のことでいうと、
けっこう鈍感なんかもわからないな。
わりと、どんなチーム、どんな境遇の
ところへいっても、それなりにやれるや、
とかっていつも思ってるんで。
こういうチームの体制だから、
こういうふうになっちゃうんですよ、って
いう考え方が、僕自身には、あんまり
ピンとこないんですよ。
どっちかっていうと、糸井さんの言ってた
「リーダーはそのうちに出てくるから」と
いう考え方は、ちっとも乱暴じゃない
って
思ってるほうなんで。
 

岩田:
私も、私自身のことで言えば、
そうだったんです。

糸井:
僕自身もそうだったんだけどさ。
話を聞くと、違うよね(笑)。

イトイ

町田武幸 (まちだ たけゆき)
デザイナー

終わってからずっと休んでました。
休み中は、ずっとごろごろして
ましたね。
開発期間中に見られなかった映画を
片っ端から見てやる、という予定を
立ててたんだけれど、いざ休みに
なったら、家のなかの細かいことを
やってしまって

ほとんどゴロ寝状態でした。
一年前、子どもが生まれたんです。
まだ1歳にもならないんですが。
ゲーム作ってる時は、家に帰るのが
いつも夜中で、もう寝てるんで、
休みのあいだくらいは、たっぷり
子どもと遊んでます。

町田

 

 

宮本:
だから、けっこう民主主義がはびこる体制
なってたことが。

糸井:
いいなぁ
、民主主義がはびこる(笑)。

岩田:
なんだって「悪いのは民主主義だ」とか
言うんですからね(笑)、このひとは。
とんでもないですよね

宮本:
ほんとよね(笑)。
とんでもないよね
自由主義はいいけど(笑)。

岩田:
いや、宮本さんが言うのは、
ありとあらゆるもの作りの現場において、
民主主義が常にいちばん正しい方法なんじゃ
ない、ってことですよね。
間違った民主主義によって、
物事のペースが遅れたり、より時間を食う
ってことになるのが問題なんだってこと。

宮本:
無責任なひとの言い訳
に使われる。

糸井:
つまり、民主主義というよりは。

岩田:
ほんとは合議制ですね。多数決

糸井:
つまり、真実と関係ないところに、
より多くの利益が確保されるような
タイプの集団っていうの?
6割の人が正義になるっていう。
たくさん手を挙げたほうのひとが正しい
っていうことでしょ。

関森一紀 (せきもりかずき)
プログラマー

完全なるキャラクターものという
ゲームを作ったのは、
全く今回が初めてでした。
「ポケモン」って、ある意味では、
もう世界観が出来あがっちゃって
いますから、自分の手を加える余地が
ないんですよね。
けっこう厳しい世界だなというのを
実感しました

つまらないとか、そんなことでは
ないけれど、ポケモンであることで
出来ないこともけっこうあったんで。

関森

 

スナップ

 

宮本:
そうですね。
一番多いのは、何かの問題があったとき、
さんざんながながと議論した結果が、
「それについては、しょうがないと
いうことになりました」っていうやつね。
それって「何も議論せえへんかったのと
いっしょや」と言うんですよ、僕は。

糸井:
そのとおりや。

宮本:
「これだけでもせめてやりましょう」って
いう結論は出せへんのかって。
これがね、けっこう多いんですよ。
ゲームを考えるうえでも多いし、
改良していくうえでも多いし。

岩田:
やっぱり、「民主主義は正しい」って
小さい頃から刷り込まれてるじゃ
ないですか。
だからって別に、独裁国家がいいと
言っているわけじゃないですよ。

糸井:
「学級会主義」とでも言うのかね。

岩田:
でも、その学級会での多数決が真理か、
って言ったら、そんなことはないわけで。

宮本:
単純にほら、「悪者になりたくない」って
だけなんじゃないの。

糸井:
それって、「神のいるところでの平等」って
いうふうにもっていった場合には、
割と機能するんじゃないのかな?
民主主義って言うか、つまり、
「神様はそれを良しとしますか?」という
支柱があって、そこからの距離で
大勢が集まるから。

誰にも正しくて確かなことが分からない
ところで、「どう思いますか?」って
言っている限りは、機能しないですよね。

あと何より重要なのは、学級会で学んだ
ことって、コストがないんですよ。
コストとリスクが。

つまり、自分のところに被ってくる責任と、
自分への、自分の意見への投資がないから、
罪の意識もないから、なに言っても
いいんですよね。

岩田:
例えば、代案を出さないでただ否定する、
なんていうのは、その典型ですよね。
それがダメだっていうなら、代わりに
もっといい方法をなんかひとつ言えよ、
そうしたらダメだって言っていいよ、
っていうこととかね。

山本洋一 (やまもとよういち)
ディレクター

辛いこともあったけど、いいことも
あったという、とおりいっぺんな
言葉になってしまうけれど、
得たものは多かったですよね。

辛いことっていうのも、何かを得る
ためのひとつのきっかけだったし、
いろんな意味で強くなったと
思いますね、自分が

何があっても、俺は大丈夫かも
しれない、と思っちゃうくらい、
辛い時期もありましたけどね。
でも、今はまだ、ゲームという
物作りに対して、満腹感は感じて
いません。
もっといろんなことをやってみたい
という気持ちはありますよ。
これで勘弁してよ、という気持ちでは
ないですね。
とても面白かったです。
参加してよかったとも思ってますよ。

やっぱり、血や汗や涙や、汚いものが
いっぱい詰まっているんで、
そういったものを感じながら、
「ほぼ日」の読者にはゲームを
さわって欲しいなと思います。
でも、子どもたちには、
きれいな部分だけを見せたい気持ちが
ありますけどね。

山本

 

 

スナップ

宮本:
前にあった議論なんですけど、
「マップは広くあるべきか?
狭くあるべきか?」みたいなことが
あったときに、一番支持されるのは
「ほどほどに」がいいんですよ。
けど、「ほどほどに」には
コンセプトがないやろ、と思うんですよ

このゲームのこのケースでは、
マップはちっちゃくあるべきか、
大きくあるべきか、まず決めろよ、って
いうような部分が、
あらゆる設計に言えることなんですよ。

糸井:
それは、それを先に気づいたリーダーが
1回その菌をばらまかないと、
ずーっと「ほどほどに」になるよね。

宮本:
そうですね。
あらゆるものがほどほどになって、
出来たときには「個性がないねえ」って
みんなに言われるんだよね。
それは、個性ないですよ。

岩田:
個性がないようにしたんだから。

タイダン

糸井:
野球の監督がさ、バントかヒッティングかを
選手に任せるっていうのが、
選手は一番困るんだって(笑)。
それって当たり前なんだけどさ。
「ボール球は打つな」とかさ。
訳のわからない状態で
選手を打席に立たせるっていうのと
同じでしょ。
だから、監督不在で野球をしている
みたいになるわけですよ。

そういうことを、学んで覚える機会って
ふだんないんじゃないのかな。
でも運動部やってたやつにはいるんだよな。
監督がきつかったりするし、
誰かリーダーがいて、そいつを中心に
まとまらないと、システムとして
機能しないから。
だから、運動部出身が便利なのは
そこなのよ。
学んだことがあるんだよね。
ただそれも、むやみな上下関係になると
困るんだよね。
「あの人のいうことは黒いものも白い」
っていうようなことになっちゃうと、
困るわけでさ。

宮本:
ああ、僕なんか、そう思われてるとこ、
あるからなぁ(笑)。
「さあ、ちゃぶ台をひっくり返しにくるぞ」
って言われてて(笑)、
「ほらほら、来るぞ来るぞ」って言って
みんなでちゃぶ台広げて置いてあるもん

ミヤモト

山本正宣 (やまもと まさのぶ)
デザイナー

今、野菜作るのに凝ってるんですよ
昨年やって感触をつかめたんで、
今年は土から作ってやってます。
マンションの1階に住んでるんで、
庭があるんです。
そこにプランターを置きまして。
郊外に引っ越しましたんで、そういう
こともできるようになりました。
肥料は自家製。 生ゴミから作るんですよ。
今はナスとかトマトなんか採れてます。

土を混ぜてる時って、無になれるんです。
陶芸なんかもすごくやりたいんですよ。 
3Dグラフィックやってる人って、
そう思う人が多いみたいですけどね(笑)。
いつもは作ったものが画面の向こうに
あるから自分の手で触れられないでしょ。
そのストレスがたまるみたいですね。
なんか手で触れることがしたい、
みたいな感じ、ね

山本

 

 

スナップ

糸井:
宮本さんって、やっぱりそういうふうに
思われてるのかなあ。

岩田:
多少はそういうことを言われているのを.
耳にしますよね。

宮本:
ね。
「ちゃぶ台をひっくり返しに来るぞ」って
言われてるから、こっちもしょうがないから
じゃ、ひっくり返してやろうか、って。

岩田:
「1回ひっくり返されないと、うちのは
終わらないですから」みたいな、ね。
みなさん、半分冗談、半分本気で
そう言ってますね。

 

 

スナップ


 

 


「ほぼ日」だから実現した、スペシャルな座談会、
みなさんいかがでしたか?
この3人が、ほんとのホンネでこんなにも熱く語ってくれて、
いろんな意味で参考になったひとも、きっと多いことでしょう。
次回、「樹の上の秘密基地」はちょっぴり模様替えして、
新しい企画でスタートします。
COMING SOON! お楽しみに!!


1999-6-20-SUN


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