西川 | 『夢売るふたり』では、貫也の役を 二枚目で行くか三枚目で行くのか、 すごく悩んだんです。 |
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糸井 | 女性を次々とだましていく、 結婚詐欺をする男の役ですからね。 |
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西川 | キャスティングのとき、 女性スタッフの中ですごく意見が分かれました。 |
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糸井 | ほぉ、興味深いですね。 まず、阿部サダヲさん。 阿部サダヲさんは、おおもとは「二」です。 これはまず、前提ですよね。 |
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西川 | ‥‥それは糸井さん、 どうしてそう思われるんですか。 |
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糸井 | そういう札がついてるから。 おおもとは「二」で、 いい男だから俳優になった人だと思いますよ。 まあ‥‥本人はどういうふうに 自分を整理をしてるかわからないですけど、 ぼくらが見ると「二」ですよ、やっぱり。 |
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西川 | 私は阿部さんの魅力は、 「三」に見えて「二」なところだと思うんです。 てっきり「三」だと思っていたら、 芯のところから「二」が垣間見える。 だから女性がコロッとなるんじゃないかと。 |
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糸井 | あー、なるほどね。 |
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西川 | 外側も中身もどちらも「二」だと、 あんまりおもしろくないと思って‥‥。 でも、キャスティングを話し合っているとき、 大人の女性からは、 「道を歩いてるだけで ふっと振り返りたくなるような いい男にしたほうがいいんじゃない?」 という意見もありました。 |
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糸井 | 二枚目が好きですからね、やっぱり。 |
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西川 | たしかに、そうすると四の五の説明しなくてすむ。 「この男に言い寄られたらだまされるよ」 と納得させやすいし、 「奥さんが惚れ込んでいる」という設定も 伝わりやすいんでしょうけど‥‥ 最終的には私の好みにしました。 あんまり二枚目じゃない男のほうが、 「だまされてる」ことを むしろ感じさせないんじゃないかと。 |
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糸井 | いずれにしても重要なのは、 主役の奥さん、松たか子さんが、 夫の阿部サダヲさんを、 なんでそんなにも好きなのか。 観ている側に、そこの納得がいくことですよね。 |
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西川 | そうです、 里子が貫也にひかれるリアリティ。 |
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糸井 | ぼくはその納得が、 わりと早めにできちゃったんですよ。 |
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西川 | ほんとですか。よかった。 |
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糸井 | この男は真剣に私と対峙してるということを、 里子は受け止めてるんだと思う。 だから、火事のあとお金を出すじゃないですか。 あれはやっぱり、 私はこの人と一緒にいる、 と覚悟を決めた人の発想で、 ただ好きだとか惚れたとかいうレベルじゃない。 というのが、早い段階でわかったんです。 そうか、この良さが これからこの映画の軸になってくるんだと。 |
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西川 | うれしいです。 |
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糸井 | 観終わってから考えると、 あの役は阿部サダヲさん以外は なかったかなと思います。 でも一方で、 いわゆる二枚目を当てはめたらどうなるだろう と考えるのもたのしいんですよ。 たとえば役所広司さんだったら‥‥ とか思うと、また身の毛がよだつ(笑)。 |
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西川 | まさに役所さんはちょっと考えたんです。 |
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糸井 | 考えたんですか。 |
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西川 | そう、役所さんというのもおもしろいなと。 |
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糸井 | 観たいですよね。 |
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西川 | 観たいんです。 ただ、年齢がずいぶん設定よりも上なので、 役所さんには行かなかったですね。 |
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糸井 | あの方は候補になかったですか。 『ゆれる』の‥‥ |
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西川 | オダギリさん? |
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糸井 | オダギリさんじゃなくて‥‥ |
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西川 | 香川さんですか。 |
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糸井 | そう、香川照之さん。 |
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西川 | 香川さんは‥‥ないです(笑)。 今の香川さんは、 もはや『ゆれる』の頃とは違って、 観る人にとって「必ず何かしでかしてくれる人」 という期待値の高い人になっているから、 物語が始まる前から「この人何かするぞ」 っていう悪い感じが出ちゃうと思うんですよね。 |
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糸井 | なるほど。 たしかに、たくらみっぽいところが(笑)。 |
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西川 | むしろオダギリジョーさんをちらっと考えました。 二枚目のてっぺんとして。 あの人から、お店のカウンター越しに 優しいことを言われたら、 ぼーっとなっちゃうでしょう。 |
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糸井 | あー、あるかもね。 |
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西川 | ああいう人が家ではだらしなくて、 みっともなく奥さんに甘えてるという姿も、 見る価値があるかもしれないって思ったし。 |
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糸井 | あるいは、渡部篤郎さんぐらいの線は? |
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西川 | うーん‥‥ でも、渡部さんが パンツ一丁でひざ枕をされてたりしたら、 悪意を感じますよね、映画自体に(笑)。 |
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糸井 | なるほどねえ、 やっぱりグルッと回って 阿部サダヲさんになるようにできてるんだ。 |
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西川 | そういうことになりますね。 |
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糸井 | でも、脚本は今回も当て書きじゃないんでしょう? |
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西川 | 当て書きじゃないんです、ぜんぜん。 |
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糸井 | その意味では、 あのキャスティングはよくできたゲームっていうか、 1ピースでも変えたら ぜんぜん違うゲームになっちゃったでしょうね。 |
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西川 | そうなんです。 キャストがうまくはまらなかったら 進んでいけなかったと思います。 それと今回はとにかく、 松たか子さんに救われたという面が すごく大きかったんです。 どう転んでも堕ちないというか。 |
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糸井 | 松さんを中心に据えた映画なんだなっていうことは 観ていてすごく感じましたよ。 ほかの人だともっと暗さが出たでしょうね。 |
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西川 | はい。 |
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糸井 | あとは、鈴木砂羽さん。 あの方が出るシーンなんかは、 やっぱりちょっとクッと陰影が出ますよね。 |
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西川 | ええ、生っぽさっていうか、 そういうのが出ますね。 |
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糸井 | こういう人を配置しているから、 軽いコメディにならないんだなと思いました。 西川さんは軽コメディにするつもりは きっとないでしょうから。 とはいえ厳しさばかりを出してもきついので、 カウンターに だまされた女性をずらりと並べたりしますよね。 |
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西川 | (笑) |
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糸井 | ところどころにそういう 「これはファンタジーですよ」 というサインも出ているから、 安心して観られる。 |
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西川 | そうですねえ。 まあ、今回も救いのない話なので、 ときどきそういうところもないと。 |
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糸井 | きついですよね。 |
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西川 | そうなんです。 とにかくまあ、 松さんのキャスティングには‥‥ いろいろなところでも言ってるんですが、 ほんとに助けられました。 耐えられないんですよね、 松さんみたいに品がないと。 むき卵みたいにつるりとした、 あのお顔に助けていただきました(笑)。 |
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糸井 | お餅みたいですよねぇ(笑)。 (つづきます) |
2012-09-05-WED