2012-12-06-THU



西水 さまざまな方にお会いしてきて、
思うことなんですけれど。
糸井 はい。
西水 何世代も何世代も、
いろいろな理由から逆境におかれて
生活を乗り越えられた方々って、
ほんとうにすごいんです。
教育もなにも受けていない、
ものも読めない、書けない方々ですが、
だからこそ、
ものすごい叡智を持ってらっしゃって。
糸井 西水さんは、そういう方々にたくさん
お会いになってきたということですよね。
西水 その人たちに、助けられて、救われて。
‥‥救われましたよ。
その都度、都度、救われました。
糸井 そうでしたか‥‥。
西水 そうした人たちに会いながら私は、
「支援の中心に据えるべきもの」を
強く実感しました。
それは、
その人々にとっての「宝物」です。
糸井 宝物。
西水 「宝物」というのは、
彼らが持っているすばらしいもの全体です。
彼らの持つ可能性もそうですし、
土地を愛する気持ちもそう。
家族や、コミュニティの仲間たち。
もちろん思い出も、宝物です。
糸井 ええ。
西水 そうした「宝物」を軸にしながら、
決してそれらを損なうことなく
発展や復興を後ろから支えるのが、
「よそ者」にできる支援だと思うんです。
糸井 ああー、そうでしょうね。
西水 その後押しは、まったくお金のことではないんです。
「自分たちの力で村を作る」という意識を
しっかり持っている人々の場合は、
お金なんて目も向けませんから。
「お金は悪魔がよこすものだ」と考えます。
糸井 なるほど。
西水 その「後押し」の方法として
とても参考になるのが、
南アジア諸国のNGOに共通する
支援のやりかたなんです。
糸井 ほぉ、それはどんな方法なんでしょう。
西水 彼らがやることは、
「未来のリーダーを発掘して、育てる」ことです。
支援しようとするコミュニティから
未来のリーダーを見つけてきては、
半年から1年ぐらいの
「リーダーシップ養成塾」に入ってもらうんです。
糸井 へえー。
西水 具体的には、未来のリーダーたちを見て、
それぞれに足りないリーダーが持つべき‥‥
「ツール」とでも言えばいいでしょうか、
読み書きができなかったら「文字」を。
計算ができなかったら「算数」を。
人前で話せなかったら「スピーチ」を。
足りないツールを、徹底的に教えこむんですよ。
糸井 はああー、
そのやりかたはおもしろいですね。
西水 それは実際に、
とてもうまく機能もしています。
養成後、各リーダーたちには村に帰って
みんなすばらしい活動をするんです。
糸井 へええー。
西水 また、そうした養成をするNGOは、
ひとつの村の中に
男性、女性両方のリーダーを育てることも
非常に重視しています。
糸井 男性と女性では役割が違うということですか?
西水 多様性の視点からです。
村がうまくいくためには、
男性の目で村を見ることと、
女性の目で村を見ることの両方必要なんだと。
糸井 たいせつなことですね、それは。
西水 そういったNGOの仕事を見ながら
学んだことなんですけれど‥‥。
やっぱり人間、
誰しもリーダーシップ精神を持って
生まれてきているんですよ。
糸井 はい、はい。
西水 ですが、そのリーダーシップ精神は、
教育制度をはじめとした
人々が大人になっていくプロセスのなかで、
殻のなかに閉じ込められていることが
非常に多いんです。
糸井 ああ‥‥そうなんでしょうね。
西水 だからリーダーシップ養成塾というのは、
その「殻」を壊すための
手助けをする機関なんです。
卵があったときに、中がまだ未熟だとしても、
壊さないように注意しつつ
殻にひびを割ってあげるというか。
リーダーシップ精神というのは
いくら周りからの手助けがあっても、
最終的にはその本人が
自分で卵から生まれないとだめなので、
「自分で生まれる」ように手助けをするんです。
糸井 それはさきほどの「宝物」の話のようですね。
支援にとっていちばん大切なものは、
よそから持ってくることはできない、という。
西水 同じことだと思います。
地域コミュニティの発展というものは、
サポートすることはできるけれど
やっぱり根本的に
「自助自立精神」で動いていないと
だめなんですよ。
糸井 ですよね、そう思います。
西水 そうでないと、
「何年にもわたって成長が続く」とか、
「環境を壊さないよう成長する」とか、
いろいろな意味で持続性の高い
地域づくりはできません。
よそ者に頼る地域づくりというのは、
最終的にはモノだけが残って、
そのモノを破壊する方向に行ってしまうので。
糸井 ええ、ええ。
西水 ですから、もともとからいる
地域の中のリーダーを大切にして、
そのリーダーを中心に発展をすすめるというのは、
とても重要なことだと思うんです。
糸井 ああー、ほんとうに。
ほんとうに、そうなんですよねぇ。
(つづきます)
2012-12-06-THU






世界銀行副総裁という立場から、
つねに「現場」に根ざした「国づくり」を
推し進めてきた西水美恵子さん。
こちらは西水さんが、各国で向き合ってきた
改革や支援のことを書かれた1冊。
出会われてきた素晴らしいリーダーたちや
草の根の人々の話をはじめ、
胸に響く話が多数収められています。

英治出版、2009年4月発行 
本体1,800円+税



西水さんが、自身の体験から
考えてきたことや学んできたことを
書かれたのがこちらの本。
リーダーの姿勢やありかた、
働くということ、危機管理の方法など、
さまざまな発見があるとともに
西水さんのまっすぐな姿勢が
読む人に勇気を与えてくれます。

英治出版、2012年5月発行 
本体1,600円+税