──
ちょっと映画からは離れますが
大三郎さんが
山伏になった経緯を、聞かせてください。
そもそも
東京でイラストレーターやっていたのに、
なぜ‥‥というところを。
大三郎
いちばんはじめは、完全な好奇心でした。
体験山伏的なものに応募したんです。
で、修行やってみたら、おもしろくて。
──
あの‥‥その「体験山伏」というのは、
ふつうの人が、
ふつうに体験できるものなんですか?
大三郎 ええ、申し込めば、誰でも。
──
どういうところが
おもしろかったんですか、山伏修行の?
大三郎
そうですね‥‥たとえば
何時間も山を歩きまわったあと
心身ともに
すっかりヘトヘトになったところへ
精進料理が出るんです。
ごはんと、おつゆと、
おかずが「タクアンだけ」の、ごはんが。
── うわー‥‥なんて質素。
大三郎 ぼく、タクアン嫌いなんですよ。
── え‥‥唯一のオカズなのに。
大三郎 でも、食べたら美味しかったんです。
── なんと。
大三郎
それまで、本気で嫌いだったので、
ほんとうに、びっくりしました。
──
「あっ、いま、オレ、
タクアンうまいって感じてる!」
‥‥みたいな?
大三郎
自分自身や、まわりの自然に対して、
そうやって
改めて発見することがいろいろあって、
それがいちいち、おもしろくて。
── カルチャーショック的な。
大三郎
そう、その他にも
何のために
こんな修行をするんだろうかと‥‥。
── たとえば、どんなですか。
大三郎
山伏を狭い部屋に閉じ込めて、
トウガラシ入りの
刺激性の煙で、ジリジリ燻すんですよ。
「南蛮いぶし」という秘法なんですが
これが、まさに地獄なんです。
── ‥‥何のためにそんなことを。
大三郎
何のために‥‥そういう修行なんです。
煙の中に大勢で閉じ込められて
苦しくて、涙が止まらなくて
意識が遠のいたりもするんですけど
その苦しみから開放されたとき、
新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込み、
生きるよろこびを実感できます。
── 山伏といえば、の「滝打ち」なども。
大三郎
もちろん、ひととおり、やりました。
で、体験山伏の最中には、
そんな苦しい思いをする意味について
とくに教えてもらえなかったので
帰ってから、
自分でいろいろと調べてみたんです。
── ネットとかで。
大三郎
いや、宗教学や人類学を研究している
大学教授のところに押しかけたりして。
── あ、そんなに本格的に。
大三郎
そうしたら、山伏って
「ものをつくる人」だったってことが
だんだん、わかってきたんです。
芸術や芸能にも関わりがあったりして。
── そうなんですか。
大三郎
東京でイラストレーターをしていた自分と
何か、どこかで重なっていると感じて
さらにハマっていきました。
羽黒だけでなく、関東各地や
紀伊半島の山伏修行にも参加したりして
現在にいたる、と。
──
修道士の人たちは
雪に埋もれたちいさな畑を耕したりとか、
自給自足の生活をしてましたが、
大三郎さんたちは、どうなんですか?
大三郎
修行中は「笈(おい)送り」と呼ばれる、
山伏の世話をしてくれる人がいて
ぼくらの食事を、つくってくれるんです。
── タクアンのごはん‥‥みたいなのを。
大三郎
そうですね、精進料理です。
まあ、修行ではなく、
個人的に山に入っているときなんかは
いろんなものを捕って食べたり。
── いろんなものって‥‥ドングリとか?
大三郎
ええ、木の実も拾って食べますけど
あとはヘビとか、カエルとか。
── わあ。
大三郎
どっちかっていうと、
カエルのほうが美味しいです、ヘビより。
で、カエルのなかでも
「食用」とされているウシガエルよりも
ヒキガエルのほうが、ぼくは好き。
── それは、煮たり焼いたり‥‥とか?
大三郎
まあ、焼いたほうがいいかな。
パスタにからめたり。
──
パスタ‥‥。
東京でイラストレーターをやってたら
絶対にありえない食生活ですよね。
大三郎
ま、外へ出て行くのは好きでしたけど、
たしかに、
ヘビやカエルは捕って食べないですね。
ちなみに、ヒキガエルって
危険を察知すると、頭のうしろから
ガマの油を出すんですけど
いちど、ためしにペロっとなめてみたら
ベロが痺れちゃって大変でした。
──
ためさないでください。
そして、ないとは思いますが
念のため
「良い子はマネしないでくださいね!」
と、付け加えておきます。
大三郎
ヒキガエルは
魯山人も「美味い」って言ってたし、
シャキシャキしてて
濃厚な鶏肉みたいな味がするんです。
──
この際ですから、こわごわ聞きますが
「現地では貴重なタンパク源」
みたいによく言われる、虫さんたちは‥‥。
大三郎
食べますよ、イナゴとか蜂の子とか。
まる1日、コオロギを絶食状態にして
フンを出させて、
お湯で茹でたあとにすりつぶし、
クラッカーの上に乗せて食べたりとか。
──
‥‥「そこにクラッカーがある」
というのが、ポイントだと思いました。
大三郎
淡白でした。
塩コショウ、オイスターソースで
味付けをしたんですが。
──
大三郎さん、こっち方面の話になったら
俄然イキイキしはじめましたね。
大三郎
いや、山で食糧を獲るのって
基本的に、盛り上がるといいますか
ものすごく楽しいんですよ。
── 狩猟採集的な昂揚感ですか?
大三郎
やっぱり、
生きることに直結する行為だからだと
思います。
苦労して
ヘビとかカエルとかコオロギを捕って
不味かった、
今回は平気だとか言いながら、
人はみんな、生きてきたわけですし。
── なるほど。
大三郎
自然のなかで生きていくという、
その、ごくシンプルな暮らしが楽しくて
ぼくは、
山伏をやってるんだと思います。
── 一生、続けるんですかね?
大三郎 だと思いますけど。
──
さっき、修道院の人たちが
「一生、祈リ続けるのか」ということに
ぼくら、おののきましたが、
大三郎さんも「一生山伏」なんですね。
大三郎 あー‥‥それは、そうですね。
──
案外「いける」んじゃないでしょうか。
大三郎さんなら、もしかしたら。
大三郎
うーん‥‥どうでしょうか。
出てこれるなら、入ってみたいけど。
──
出てこれるなら、というのはつまり、
出てくること自体は自由ですが、
入る時点で
「私財をなげうたなければならない」
ことのハードルの高さも含めて。
大三郎
そう、でも、映画を観ながら
自分が、あそこで一生を過ごすことは
ないだろうと思いつつ、
でも、自分が絶対に送ることのない
別の人生があって
その一端に触れることができたことは
すごく愉快な体験でした。
── それも「のぞき見」的に。
大三郎 そうそう(笑)。
── 大三郎さんの場合、どこか共通点もあったり。
大三郎
そうですね。
自分のやっていることを
また別の角度から眺める視点が増えたようで
そういう意味でも、おもしろかったです。
──
最後に、たいへん正直に申し上げますと
このドキュメンタリー、
BGMもナレーションも入っていない、
ある意味、究極のドキュメンタリーですので、
人によっては少々、心地よい感じにも‥‥。
大三郎
なるでしょうね。
なにしろ、3時間ちかくありますし。
──
かくいう自分も、
何度か、その誘惑に襲われましたが
そのつど、
「これって現実なんだよな」と思ったら
ぐいっと目が開きました。
大三郎
あはは、たしかに。
同じような感じの「芸術映画」だったら
寝ちゃうかもしれないけど、
修道士たちの生活は
ぜんぶ、ほんとうのこと‥‥ですもんね。
──
毎日、23時半に起床することも、
私語が禁止で
藁のベッドとストーブしかない房で
過ごしていることも、
ほとんど何も所有していないことも、
ぜんぶ、ほんとうのこと。
大三郎 一生、毎日、祈り続けることも。
<おわります>
2014-07-14-MON
ドイツ人監督フィリップ・グレーニングが
フランスの厳格な男子修道院、
グランド・シャルトルーズ修道院に
撮影を申し込んだのは、1984年のこと。
「まだ早い」と断られたのですが
なんと「16年後」に「準備が整った」と。
ただし撮影にあたっては条件があって
音楽を入れてはならない、
ナレーションを入れてはならない、
照明を焚いてはならない、
修道院に入れるのは、監督ひとりだけ‥‥。
修道院も修道院なら
監督も監督だなあと思ったのが、
グレーニング監督、
そんな厳しい条件のもとで撮った映像を
5年もかけて完成させたということ。
上映時間2時間49分、
究極的な暮らしを営む修道士たちの姿が
ただただ、たんたんと描かれます。
静かに「すごいな‥‥」と思うこと多々。
たぶんきっと、
忘れない作品になるだろうと思いました。
(ほぼ日・奥野)
監督・脚本・撮影・編集:フィリップ・グレーニング
2005年|フランス・スイス・ドイツ|169分
配給:ミモザフィルムズ
2014年7月12日(土)より
東京・岩波ホール他全国順次ロードショー。