第3回
男の通過儀礼。
糸井 続いては、いまだに兜町のにおいさえ漂わせる
「某経済新聞社」系の出版社にいる柳瀬さんですが。
(※柳瀬博一さんは、今年のはじめの「ほぼ日」の、
  こちらで「イトイ経済新聞編集長」として登場)
柳瀬 ええ、そこの雑誌部門の会社です。
入社して配属されたのは、
ビジネス雑誌で、
もうモロに新聞系編集部!
って感じでした。
会社に入ったのは1988年でして、
バブルが来るちょっと手前だったんですが。

編集部に配属されて、
オフィスに入ってまず思ったのは、
マンガやテレビで見ていたように、なんか、
部屋の上のあたりに、煙がたちこめてて・・・。
糸井 おお!(笑) タバコね。
柳瀬 朝いちばんなのに、すごい煙・・・。
泊りでソファにシャツ半分出して
寝てる人は、当然見かけましたよね。

当時は、まだ、
ワープロすらほとんどなかったんで、
みんな鉛筆で書いていました。
片手に煙草をこう持った感じで・・・。
みなさん、椅子をナナメにしながら、
並んで原稿を書いてるわけでして。

カタいビジネス誌だったんですが、
雰囲気的には、当時はまだ、
事件記者の世界だったんですよ。
大学出て、ビジネス雑誌の記者になって、
いきなり「男らしさ満載」の世界。

今、ぼくは38歳なんですが、
当時のデスクがそのぐらいの年齢です。
ただ、感じとしては、デスク、
ざっと今のぼくより10歳は老けてましたね。
その老けかたが、なんか、男くさかった。
糸井 あぁ、なんとなくわかる。
怒鳴ったり、原稿を破いたりという
ドラマで見るような世界は?
柳瀬 ありました。
糸井 (笑)ワクワクしてきたねぇ・・・。
柳瀬 ぼくが編集部に配属された初日、
いきなりデスクに、
「とりあえず原稿書け」
「あ、何を書けばいいんですか?」
「ここに電話しろ」
当時、原宿に
ヴィッテルアクア何たらクラブというものが
できたところだから、それを取材しろと。
ただし、時間がないから電話取材でイイぞ、と。
で、今日仕上げろ、と。

取材の仕方もぜんぜん知らないまま、
電話で取材して、まぁ、原稿を書いたんです。
17字×25行の原稿だったんですけど。

この原稿がですね、
まずデスクの前にキャップがいまして、
キャップは30歳くらいなんですけど、
この人のところを通るのに
7回ぐらい書き直しさせられまして。

まず、最初に見た時、
「何言いたいんだか、ワカらない」
と言われまして。

そのあと、
ダメ、ダメ、ダメ、ダメっていって
7回書き直させられて、
その間すでに4時間くらい経っていまして。
5時くらいから書いて、7回突っかえされて、
10時ぐらいにようやくキャップの関門を抜けて、
デスクんところに原稿持って行ったんですね。
糸井 うわぁ・・・。
柳瀬 40歳ちょい過ぎのデスクが、
これがまた、タバコを・・・いや、
「ヤニ」って言ったほうが合ってるかもしれない。
ヤニをくわえながら、低い声なわけですよ。
パッと原稿見て、
「オメェ、日本語ワカってねェみたいだな」
糸井 (笑)
柳瀬 「さっき7回書いたのは何だったんだ」
という心の叫びがあったんですけど、
それでそこから、デスクのところで
7回ほど、また、書きなおさせられまして、
その25行の原稿が、
結局夜中の1時半くらいに、ようやく
「じゃ、そろそろこれで、通すか」
っていうことになって・・・。
糸井 それでも「しょうがない」というレベル?
柳瀬 はい。
当時は鉛筆書きの原稿に
赤ペンで朱を入れられるんですが、
「おう、できたぞ」
とあがった原稿が、もう真っ赤っ赤。
25行の原稿のうち、ぼくのオリジナルの原稿で
残っていたのは、3行ぐらいだけでした・・・。
「合計14回も書き直して、それかよ!」と。
祖父江 よく数字を覚えてますねえ・・・。
糸井 いや、それだけやられたら、
よっぽど、覚えてると思うよ。
柳瀬 よっぽどぼくがヒドかったのか、
それとも、「そういう通過儀礼」だったのか。
どちらにしても、そういうのが
軟弱なぼくは、すごく苦手でしてねぇ。
糸井 はじめに、精神をボコボコに殴っちゃう、
みたいなことですよね。
柳瀬 そうです。
「ウエルカム・トゥー・ザ・新聞ワールド!」
みたいなそういう話は、けっこうありまして、
3〜4年経った先輩記者でも、
デスクと原稿をやりとりしていて、
何度やっても、通らないんです。そのうち、
「あんた、向いてないよ」
「窓あいてるから、飛びおりてイイよ?」
とか。

しり (笑)
糸井 言うねぇ。
柳瀬 ワープロが普及したての頃は、
電源抜くと、データが消えちゃいましたよね。
「今書いてるオマエの原稿はダメだ。
 どんだけ書き直したってダメだ!」
ってブチッて電源を抜かれてぜんぶ消されたりとか。
「キミの原稿を見てると、目が腐るんだよねえ」
そういう世界だったんですよ。
その男くささ、好きなやつは好きなんでしょうが、
ぼくはけっこう苦手、というか(笑)

ただ、その一方で
こういうデスクが侠気あるんですよ。
自分の通した原稿は責任を持つというか、
どんなクレームが来ても、
「おう、クレームが来たら、
 ぜんぶオレに任せろ!」って感じでした。
糸井 そこで、「ホロリ」だ。
柳瀬 バンバン殴られた後だから、
そういうの、効くんですよね・・・。
ほとんど洗脳みたいですが。
糸井 カツアゲされた後、
「電車賃、持ってんのか?」と聞かれると、
ああ、いいひとじゃないかって思うという、
そのシステムだね。
「いいひと」でもなんでもないのに・・・。
柳瀬 ぼくのやっていたビジネスの方面って、
ほとんど男社会だけの仕事でして、
アシスタントの女性は何人かいるんだけど、
女性記者は一人しかいなかったし、
ぼくが配属されたころは、
「めずらしいから、女社長に取材に行こうか」
というくらい、男ばっかの世界でした。
マーケット男濃度が世間でいちばん濃そうな、
ほとんど、男子高みたいなとこだった。

だから、男はどういうものと言われると、
あまりにも毎日男だったから、
パッと、思い浮かばないぐらいで・・・。
比較対象としての「女の論理」が見えないぐらい、
同僚に女がいない世界だった。
今は、同じ雑誌に女性記者も10人単位でいるし、
ずいぶん違うと思うけど。

日々男っぽい空気で、
男の足のひっぱりあいだとか、
男の女々しさなんかも含めて、
男しかいないから、とりたてて
「男とは何だ?」なんて改めて思わない。

お酒も好きな人が、多かったです。
ほんと、血ヘドを吐くまで飲む人もいましたし。
糸井 (笑)やっぱり、飲む打つ買うなんですか?
柳瀬 新聞記者って割とカタいので
「買う」はぼくのまわりではなかったですけど、
「飲む」「打つ」のほうは、ありまくりですね。

「ヤナセ、原稿しあげとけよ」と言われて
こっちは原稿書いているんですが、
「じゃ、オレ、飲みに行ってくるから」
って飲みにいっちゃうんですね。

今から考えると、あの人たちは
よくあれで仕事をデキてたなと思うんですけど、
ほとんど真っ赤な顔をして、
「おう、デキたか?」
みたいに、夜中に帰ってくるわけですね。

「できました」と言うと、酔った目で原稿を見て、
「おい、ここの話、詳しく言うとどうなってる?」
って来るわけです。
あるメーカーの記事だったんですけど、
酔ってるのにポイントを突いた質問をされまして。
糸井 当たってるの?
柳瀬 当たっているんです。質問に答えると、
「オマエ、そこんとこがおもしろいんだよ。
 ちょっと待ってろよ・・・」
とダーッと赤字を入れてくわけですね。

で、1時間ぐらいして
赤字の入った原稿が戻ってきて、
「おう、じゃあ、あとはきちっとやっとけよ」
とまた飲みにいっちゃう。

改めて清書した原稿を読むと、
ツボを突いている原稿で、
「俺の原稿と全然違う! プロじゃん!」
しかも、原稿用紙の隅に
赤字をぐちゃぐちゃに入れて
書いていたのに、原稿の行数も
ほとんどピタッと収まっている。

もちろん、全員じゃないんですけどね。
なんか、そんな本宮ひろ志的な人が、
その頃は、何人もいたんです。
糸井 理屈は通っていないけど、
あることはあるんだなぁ、そういう世界。
柳瀬 過程のめちゃくちゃさと
アウトプットのよさにギャップがあるので、
そのギャップが、男くさかったですね。
糸井 あぁ・・・。
 
(つづく) 

次回掲載を、たのしみにしていてね。
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2003-02-27-THU


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