理由は器を手に取るか、
取らないかという習慣の差なのでしょう。
日本の料理は器を手に取り、いただく料理。
茶碗、汁椀。
大きなお皿は別として、
おひたしや酢の物のようなみずみずしい料理の入った
小さな鉢やお皿は手に取り、
持ち上げて口に料理を運んであげる。
ところが他の国では、
器を手にして食べるのはバッドマナーとされている。
例外なのは、中国の宴会料理。
大きな皿から、ひとり分として取り分けられた
小さな皿は、手にしても良い。
その気軽さが、中国料理を
宴会料理の花形のひとつにさせたのでありましょう。
ところがボクたちの店ではすべての料理をひとり、
一皿にキレイに盛って提供していた。
フランス料理の華麗さと、日本料理の繊細さ。
それと中国料理の力強さを融合させる。
それがテーマの料理作りでありましたから、
食器のほとんどはフランス料理用の洋食器。
だからお皿は持ち上げるようには出来ていない。
中国料理はあんかけ料理のような
トロミのついた料理が多い。
あるいは細かく刻んだ野菜まじりのタレをかけて
味わう料理も多かったりする。
どちらも箸で持ち上げるのがむつかしく、
しかもちょっとしたはずみにポタリとこぼれて落ちる。
お箸をお客様が使いなれてる日本のお箸に
替えたくらいじゃ、
テーブルクロスの染みを一掃することなんて
出来ない相談だった訳です。
あんかけのあんをたらさぬように、
背中を曲げて顔をお皿に近づける人。
掟破りの手盆で、おそるおそる料理を口に運ぶ人。
手盆。
お箸を握るのとは逆の手を、
箸の下に添えてお盆のようにして
料理をこぼさぬように食べる仕草。
あまりお行儀のよくない仕草と言われます。
もし料理が本当に手のひらに、
落ちてしまったらどうなるんだろう‥‥。
それをペロリとなめてキレイにするのか。
それとも、ナプキンで拭いとるのか。
実はボクらのお店のテーブルクロスの端っこの部分。
四隅がダランと垂れ下がっているその内側で、
料理のソースを拭いとった跡を何度か見たことがある。
あぁ、手盆の上に落ちたソースをキレイにするのに、
お前、役にたったんだねぇ‥‥、と。
ボクらのお店のテーブルの上。
そのセッティングを次のように変更しました。
プレースプレートの手前にお箸。
日本風の塗りの細めのお箸を
陶器の箸置きにのせ、そっと置き、
お皿の左に
フランス料理でソースをすくって食べるための、
先の平たいソーススプーン。
手盆の代わりにソーススプーンをセッティングした
中国料理のお店はおそらく、
後にも先にもボクらのお店しかないんじゃないかと
いまでも思う。
|