「調理人としてではなく、
 経営者として仕入れるとしたら
 どういう食材を仕入れますか?」

これが、調理師学校の講師をしていたとき、
ボクが「利益を出すためのメニュー作り」
という科目の最初の講義で出した質問です。

調理人としてでなく、経営者として‥‥、
というのがその質問の重要なところ。
もっと単刀直入に言えば、
「おいしい料理」ではなく「儲かる料理」を作るためには、
どういう食材を使えばいいか、というコトになりますか。
調理師学校では、
おいしい料理をつくることは教えてくれても、
「料理を作って儲ける」ということは
なかなか教えてくれない。
だから、答えを出すのにみんな結構、難儀します。

答えは3つ。
まず最初の答え。

 安い食材を探すのではなく、
 値段が安定しているものを探しなさい!

利益を出すために、安い食材を使えばいい。
安く仕入れるために、
市場に行ったり産地までわざわざ足を運んだりと、
調理人はいろんな努力をするのですね。
市場に行くと、「今だけ安い」ものに出会える。
旬が終わって盛りの時期の野菜であったり、
潮の都合でたくさんとれた魚であったり、
つまり相場の都合で安くなるものが必ずある。
ただ、そういう素材が一ヶ月後も
そのまま安く手に入るかというと、
決してそんな保証はなくて、
だからいつも安く仕入れるためには
かなりの努力を必要とする。

価格が相場でそれほど変化しない食材がいくつかあります。
例えばお米。
あるいは小麦粉。
魚に比べて、牛肉だったり豚肉、鶏肉は
急に値段が変わることがない。
特に鶏肉。
飼育期間が短く、しかも工場のような場所で生産される。
その副産物とも呼べる玉子は、
日本の物価の優等生と呼ばれることもあるほど
価格が安定してもいる。
だから「米・鶏肉・玉子」と価格が安定している
3つの食材でできる「親子丼」を
名物メニューにするお店なんて、
儲けるためにはいいんじゃないの?
って、冗談めかして言ったりもした。
実際、親子丼でビルが建った‥‥、
なんて噂されるお店もあるから
完全な冗談とは言えないのかもしれないけれど‥‥


2番目の答えはこうです。

 長時間、品質が変わらず、
 だからロスにならないものを探しなさい!

飲食店は「始末な商売」と言われることがあります。
無駄を出さぬよう、食材を大切にすることが
儲けにつながる商売だ‥‥、というコトですネ。
昔から和食のお店が昼どきに、
お値打ち料理として提供する定食の
お膳の片隅にあしらわれることのある昆布の佃煮。
あれは大抵、出汁をとったあとの昆布を煮しめて作る。
無駄を出さぬという心意気と、
どんな素材でもおいしくできるという
技術と経験がなせる技。
飲食店から出る生ごみの多さ、少なさで
その店の技量がわかる、と言われた時代もありました。

ただもっと大胆に、
そもそもロスにならない食材をメインに
料理を作れば儲かる。
そう考えてメニューを作る飲食店が次々できた。
時間が経っても品質が変わらぬ食材。
例えば居酒屋で、干物を売り物にする店がある。
魚は足がはやい食材‥‥、だから鮮度が売り物ではある。
けれど、干物は比較的賞味期限が長い食材。
魚料理の花形と言われる刺身にしても、
青い魚がでてくるお店は鮮度管理が大変で、
あぁ、儲けるのがむつかしいお店だなぁ‥‥、
って心配になる。
郊外型の和食の大型店で、刺身といえばマグロの赤身に、
イカにエビという3点セットである理由。
どれもが凍らせても品質があまり変化しないから、
という理由なのです。

ちなみに、ファミリーレストランやファストフードの食材は
ほとんど凍った状態で厨房の中に保存されてる。
全国にあるとあるファミリーレストランの創業者は
「冷凍とはフレッシュの次に新鮮な状態である」
といって、さまざまな食材を冷凍化していった。
冷凍化をはかったことで、
食材のロスがなくなること以外のメリットも生まれました。
年中、同じ料理を作るコトが可能になった。
日本中、何百店とお店があっても、
どこでも同じような料理を作るコトも
可能になったのですネ。

儲けるならば冷凍食品‥‥、と。

 


ここまで言うと、教室の中の空気はすっかり冷めます。
だってあたかも
「君たちが今勉強していることは、
 儲かる料理を作るということには
 あまり役に立たないことなんだよ」
って言っているように聞こえる。
そんな講義をしているボクも、
なんだか気持ちが冷たくなってくるのです。

おいしいモノを売って
お客様をシアワセにするためにある飲食店。
調理する人やサービスする人が
シアワセになるための飲食店。
その両方のお店のあり方を
勉強しないといけないんですよ‥‥、
ってボクも含めて教室にいるみんなの気持ちを鼓舞して
最後の答えを言う前に、
大抵、授業の終わりを告げる鐘がなるのです。

さて休憩。
続きは来週、いたします。


2014-04-17-THU



© HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN