HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN 中竹竜二×糸井重里 にわかラグビーファン、U20日本代表ヘッドコーチに会う。
5 素人だから選手に任せる。
糸井
素人監督の中竹さんだったから、
戦略を選手たちに聞いていましたが、
それって、選手たちに自ら考えさせて、
個人を鍛えていたともとれますね。
中竹
そういうことにしておきましょう(笑)。
でも、戦略、戦術は本当にわからなかったんです。
試合中も、ハーフタイムに選手から聞かれるんですよ。
「どうすればいいですか、こういうとき。
 上から試合を見ていて何かないんですか」って。
いや、僕には何もわからないし。
糸井
そうだったんですか。
中竹
本当にわからなかったんです。
そんな僕でも、ミーティングが得意だったんです。
学生の中に分析スタッフがいて、
前任の清宮さんが言っていたことをまとめていました。
その学生が3年間かけて清宮さんから奪った
ノウハウをフル活用したんです。
だから、自分の言葉じゃなくて、
その学生の出した分析を言うようにしていました。
糸井
清宮さんのデータを受け継いだわけですね。
中竹
僕には戦略や戦術が一切わからないけれど、
前職でコンサルティングをやっていたこともあって、
コミュニケーションやチームワーク、
チームプレーに関しての技術は、
圧倒的に僕の方が長けていると気づきました。
選手たちにビデオ映像を見せながら、
ミーティングしていたときに、こんなことがありました。

味方にパスしたときに前に落とす「ノックオン」の後に、
次のスクラムへ向かうまでの映像があったんですね、
それを20秒ぐらい流したんです。
「はい、これ。何が言いたいでしょう」って聞いても、
みんな、トンチンカンなことを言う。
選手同士で話すのを「チームトーク」と言うんですが、
選手たちにチームトークをしているか聞いたら、
自信満々に、当然やっていると答えるんです。
じゃあ、いつチームトークをしているのか聞くと、
ハーフタイムとか、トライをとった後だと返ってくる。

いやいや、大事なのは、
この、ノックオンになったパスミスの後なんです。
映像を見てみると、パスした人間とパスを受けた人間が、
どっちも、ふて腐れているんですよ。
パスした人間は「なんでお前、俺のパス捕んねえんだ」、
捕る方は「なんでこんな前に投げるんだ」と思っている。
そういう、明らかな不満顔が見えるんですね。
糸井
顔に出ているんだ。
中竹
結局、ふたりが何も話さずスクラムが始まって、
同じシーンがもう1回起こるんですよね。
チームトークしてるって言っているのに、
なぜこの場面でできないんだという話です。
ちゃんと面と向き合ってコミュニケーションを
とらないと、問題は解決できないんです。
肩と肩を揃えてコミュニケーションしないと、
本当の会話じゃないんですよ。
ここでやるべきは、パスミスをした後に、
「俺はいいと思ってパスしたんだけど、
 ちょっと前すぎたな、ごめん」と言うことです。
ひと言、「ごめん、どうだった」って言えたら、
「いやいや、いつもはそこに欲しかったんだけど、
 さっきはプレッシャーが来たから、
 ちょっと後ろに引いたんだよ」と返せますよね。
すこし話すだけで解決できるのに話さないんですよ。
きっと、レギュラー争いがかかっているから、
自分のミスだと思われたくないんでしょうね。
糸井
なるほど、自分が選ばれるかどうか。
中竹
そうですね。ミスしたらスタメンから外されるし、
よかったら、もう一回出られるわけです。
みんな、自分が評価されたいと思っているので、
ミスを自分のミスとしたくないんですよ。
でも、僕が指摘しているのは、
チームが勝つためにやっているのに、
なぜ同じミスをしているのか、ということです。

これはスキルの問題じゃなくて、
コミュニケーションの問題なんですよ。
選手たちにもあらかじめ、
「俺はスキルとか戦術とかわからないけど、
 コミュニケーションに関しては妥協しないから」
と伝えて、ミーティングや練習中も
選手たちにチームトークを意識させました。
コミュニケーションのとりかたに力を入れて、
戦略については得意じゃなかったので、
リーダーたちに戦略を出してもらっていました。
糸井
選手からの提案があるんですね。
中竹
実際に試合する選手たちに
戦略をプレゼンさせようと考えたんです。
試合前の大事なときに5人のリーダーが来て、
今度のフォワードはこうで、バックスはこうで、
とかいうのを、どんどん聞かせてくれます。
だから、練習中も選手たちはリーダーに質問するんです。
僕は後ろにいて、「そのとおり」とうなずくだけ(笑)。
ラグビーって、監督が試合中に指示できないので、
コミュニケーションに特化してよかったなと思います。
糸井
そうか、試合中に指示できないということが、
すごく中竹さんに合っていたんですね。

ところで、試合中の監督って、
マイクをつけて何か話していますよね。
あれは、誰と何をしゃべっているんですか。
中竹
あのマイクは、みなさん不思議に思いますよね。
5人ぐらいが持っていて、
ドクター、メディカルトレーナー、ウォーター、
そして監督が持っているんです。
糸井
たとえば、水を持っていけということですか。
▲選手へ水を運ぶ「ウォーター」の役割
中竹
そうですね。水を持っていったり、
ケガ人が出て、傷んでいないかと聞いたり。
糸井
あっ、そういうことですか。
中竹
紳士協定として、あのマイクを使って
戦略的な指示をしてはいけないとされていましたが
現在では、指示するのがふつうになりました。
糸井
スタッフ同士の連絡はするけれど、
サイン的なことは出せませんよね。
中竹
いや、スタッフを通してサインを出すんです。
今のテクノロジーでは10秒前の映像も見られるので、
コーチがビデオを見ながら、
どこが空いているとか全部言えてしまうので、
一番よく見える上から、
インカムを使って伝達するんです。
選手たちに近づけるウォーターの役割も、
昔はトレーナーがやっていましたが、
最近では、コーチが水を持つように変わってきました。
糸井
じゃあ、水を持っている人を見たら、
あの人は優秀なんだなと思った方がいいですね。
中竹
そうですね(笑)。
有名な人が意外と水を持っていったりしています。
▲水を渡しながら伝達もしているようです
糸井
ああ、すごいゲーム的ですね。
中竹
コーチ間の連携もけっこう大事なんですよ。
誰々に何々を伝えてくれというのを言うんですね。
褒めるといい選手には「今のキックよかったぞ」って、
誰々に言ってくれって伝えてもらうのも確認しますね。
糸井
そんなやりとりが聴こえたら、
たまらなく面白いでしょうね(笑)。
中竹
僕はあまり指示を出せないんですけど、
インカムを使ってよく聞きだすのは、
点を取られて集まっているときに、
「今のチームトークはどうか」「パニクっていないか」
「誰がしゃべっているか」といったことです。
遠くからじゃ見えない選手たちの雰囲気があって、
情報として、かなりもらっています。
糸井
ここでも、チームトークを重視しているんですね。
<つづきます>
2016-02-16-TUE