- 糸井
- 素人監督の中竹さんだったから、
戦略を選手たちに聞いていましたが、
それって、選手たちに自ら考えさせて、
個人を鍛えていたともとれますね。
- 中竹
- そういうことにしておきましょう(笑)。
でも、戦略、戦術は本当にわからなかったんです。
試合中も、ハーフタイムに選手から聞かれるんですよ。
「どうすればいいですか、こういうとき。
上から試合を見ていて何かないんですか」って。
いや、僕には何もわからないし。
- 糸井
- そうだったんですか。
- 中竹
- 本当にわからなかったんです。
そんな僕でも、ミーティングが得意だったんです。
学生の中に分析スタッフがいて、
前任の清宮さんが言っていたことをまとめていました。
その学生が3年間かけて清宮さんから奪った
ノウハウをフル活用したんです。
だから、自分の言葉じゃなくて、
その学生の出した分析を言うようにしていました。
- 糸井
- 清宮さんのデータを受け継いだわけですね。
- 中竹
- 僕には戦略や戦術が一切わからないけれど、
前職でコンサルティングをやっていたこともあって、
コミュニケーションやチームワーク、
チームプレーに関しての技術は、
圧倒的に僕の方が長けていると気づきました。
選手たちにビデオ映像を見せながら、
ミーティングしていたときに、こんなことがありました。
味方にパスしたときに前に落とす「ノックオン」の後に、
次のスクラムへ向かうまでの映像があったんですね、
それを20秒ぐらい流したんです。
「はい、これ。何が言いたいでしょう」って聞いても、
みんな、トンチンカンなことを言う。
選手同士で話すのを「チームトーク」と言うんですが、
選手たちにチームトークをしているか聞いたら、
自信満々に、当然やっていると答えるんです。
じゃあ、いつチームトークをしているのか聞くと、
ハーフタイムとか、トライをとった後だと返ってくる。
いやいや、大事なのは、
この、ノックオンになったパスミスの後なんです。
映像を見てみると、パスした人間とパスを受けた人間が、
どっちも、ふて腐れているんですよ。
パスした人間は「なんでお前、俺のパス捕んねえんだ」、
捕る方は「なんでこんな前に投げるんだ」と思っている。
そういう、明らかな不満顔が見えるんですね。
- 糸井
- 顔に出ているんだ。
- 中竹
- 結局、ふたりが何も話さずスクラムが始まって、
同じシーンがもう1回起こるんですよね。
チームトークしてるって言っているのに、
なぜこの場面でできないんだという話です。
ちゃんと面と向き合ってコミュニケーションを
とらないと、問題は解決できないんです。
肩と肩を揃えてコミュニケーションしないと、
本当の会話じゃないんですよ。
ここでやるべきは、パスミスをした後に、
「俺はいいと思ってパスしたんだけど、
ちょっと前すぎたな、ごめん」と言うことです。
ひと言、「ごめん、どうだった」って言えたら、
「いやいや、いつもはそこに欲しかったんだけど、
さっきはプレッシャーが来たから、
ちょっと後ろに引いたんだよ」と返せますよね。
すこし話すだけで解決できるのに話さないんですよ。
きっと、レギュラー争いがかかっているから、
自分のミスだと思われたくないんでしょうね。
- 糸井
- なるほど、自分が選ばれるかどうか。
- 中竹
- そうですね。ミスしたらスタメンから外されるし、
よかったら、もう一回出られるわけです。
みんな、自分が評価されたいと思っているので、
ミスを自分のミスとしたくないんですよ。
でも、僕が指摘しているのは、
チームが勝つためにやっているのに、
なぜ同じミスをしているのか、ということです。
これはスキルの問題じゃなくて、
コミュニケーションの問題なんですよ。
選手たちにもあらかじめ、
「俺はスキルとか戦術とかわからないけど、
コミュニケーションに関しては妥協しないから」
と伝えて、ミーティングや練習中も
選手たちにチームトークを意識させました。
コミュニケーションのとりかたに力を入れて、
戦略については得意じゃなかったので、
リーダーたちに戦略を出してもらっていました。
- 糸井
- 選手からの提案があるんですね。
- 中竹
- 実際に試合する選手たちに
戦略をプレゼンさせようと考えたんです。
試合前の大事なときに5人のリーダーが来て、
今度のフォワードはこうで、バックスはこうで、
とかいうのを、どんどん聞かせてくれます。
だから、練習中も選手たちはリーダーに質問するんです。
僕は後ろにいて、「そのとおり」とうなずくだけ(笑)。
ラグビーって、監督が試合中に指示できないので、
コミュニケーションに特化してよかったなと思います。
- 糸井
- そうか、試合中に指示できないということが、
すごく中竹さんに合っていたんですね。
ところで、試合中の監督って、
マイクをつけて何か話していますよね。
あれは、誰と何をしゃべっているんですか。
- 中竹
- あのマイクは、みなさん不思議に思いますよね。
5人ぐらいが持っていて、
ドクター、メディカルトレーナー、ウォーター、
そして監督が持っているんです。
- 糸井
- たとえば、水を持っていけということですか。
▲選手へ水を運ぶ「ウォーター」の役割
- 中竹
- そうですね。水を持っていったり、
ケガ人が出て、傷んでいないかと聞いたり。
- 糸井
- あっ、そういうことですか。
- 中竹
- 紳士協定として、あのマイクを使って
戦略的な指示をしてはいけないとされていましたが
現在では、指示するのがふつうになりました。
- 糸井
- スタッフ同士の連絡はするけれど、
サイン的なことは出せませんよね。
- 中竹
- いや、スタッフを通してサインを出すんです。
今のテクノロジーでは10秒前の映像も見られるので、
コーチがビデオを見ながら、
どこが空いているとか全部言えてしまうので、
一番よく見える上から、
インカムを使って伝達するんです。
選手たちに近づけるウォーターの役割も、
昔はトレーナーがやっていましたが、
最近では、コーチが水を持つように変わってきました。
- 糸井
- じゃあ、水を持っている人を見たら、
あの人は優秀なんだなと思った方がいいですね。
- 中竹
- そうですね(笑)。
有名な人が意外と水を持っていったりしています。
▲水を渡しながら伝達もしているようです
- 糸井
- ああ、すごいゲーム的ですね。
- 中竹
- コーチ間の連携もけっこう大事なんですよ。
誰々に何々を伝えてくれというのを言うんですね。
褒めるといい選手には「今のキックよかったぞ」って、
誰々に言ってくれって伝えてもらうのも確認しますね。
- 糸井
- そんなやりとりが聴こえたら、
たまらなく面白いでしょうね(笑)。
- 中竹
- 僕はあまり指示を出せないんですけど、
インカムを使ってよく聞きだすのは、
点を取られて集まっているときに、
「今のチームトークはどうか」「パニクっていないか」
「誰がしゃべっているか」といったことです。
遠くからじゃ見えない選手たちの雰囲気があって、
情報として、かなりもらっています。
- 糸井
- ここでも、チームトークを重視しているんですね。
<つづきます>
2016-02-16-TUE