hobo nikkan itoi shinbun

志ん朝さんのきれいな落語。糸井重里が語る、古今亭志ん朝師匠の話。
糸井重里が最も好きな落語家だと語る、3代目 古今亭志ん朝師匠。

DVD/CDボックス

『志ん朝三十四席』

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ブックレットで取材をお受けした糸井が、志ん朝さんへの強い憧れと、思い出を語りました。ブックレットに収まりきらなかった想いにどうぞ、こちらで触れてください。聴き手は、ライターで放送作家の和田尚久さん。落語にまつわる用語や噺の筋をまとめた、和田さん目線の解説と合わせてお楽しみください。

和田尚久さんのプロフィール

  • ご案内
  • 第一回きれいな落語
  • 第二回あとは年を取るだけで
  • 第三回ハードボイルド
  • 第四回ふだん着の芸
  • 第五回・あとがき 古今亭志ん朝という人

第一回 きれいな落語

和田
「ほぼ日」で、折にふれて落語の話が
出てくるのを拝見していますが、
志ん生さん、馬生さん、志ん朝さんという
美濃部一家の人々がいる中で、
糸井さんは、どなたから聴きはじめましたか。
糸井
もちろん志ん生さんです。
和田
やっぱりそうですか。
では(古今亭)志ん生やら、
(三遊亭)圓生(桂)文楽といたなかで、
「この人は!」という感じになられたんですか。
糸井
子どもの時からおもしろいなと
思っていたのが、志ん生さんですね。
それで、だんだん自分が小生意気になってくると
「圓生がいい」というふうになったり、
さらに落語を聴きだすと、
文楽が改めてよかったりするんですけど、
僕にとっての志ん生は「否定できない人」でした。
何があるとか、ないとかっていうものじゃなくて、
とにかく好きで、何度も聴いていた落語です。
それに、志ん生さんの音源は、集めやすいんですよね。

和田
ああ、確かにそうですね。
糸井
志ん生さんの音源って、
バレ噺ばっかりのものも含めて山ほどあって、
極端に言えば、ぜんぶ揃えられるぞっていうぐらい、
いっぱいあるんですよね。
それで、志ん生さんの息子である志ん朝さんは、
タレントさんとして知っていた時代もありました。
テレビでは『若い季節』や『サンデー志ん朝』に
スーツ姿で出ていましたが、
僕は、ぽろっと漏れ聞こえてくる程度の
志ん朝さんの落語がどうも気になるんです。
ああ、なんで気になったんだろう‥‥。
志ん朝さんの落語は、「きれい」なんですよね。
けっこう早い時期に、はじめてCDを見つけて、
『雛鍔』を聴いたら、それがとてもよかった。
志ん生さんのよさとはまた違って、
文楽さんを思わせる、きれいさがあったんですよね。

志ん朝さんの落語が本当にいいなって思うんだけど
志ん生さんほどにはレコードも出ていなくて、
なかなか触れる機会がありませんでした。
そう思っていた頃に、
偶然お寿司屋さんで志ん朝さんを
お見かけしたことがあるんです。
その時には、ちょっと恋心にも近いような、
憧れさせる魅力を感じたんですよね。
志ん朝さんは店の旦那と会話をしながら
お寿司を食べているだけなんですけど、
「横目で見たいな」という気持ちが湧きました。
でも、お互いに面識もないわけですから
挨拶するのもはばかられるぞという気もするんです。
ただ、一度お見かけしたことで、
落語を聴きに行かなきゃダメだと思ったんです。
でも志ん朝さんは当時、寄席にもあまり出ていなかった。
インターネットがなかった時代だったので、
情報もあまりなく、しばらくはそのままでいました。

それからしばらくして、
ナポレオンズのパルト小石さん
お会いするようになって、
「志ん朝さんの見る機会がなくて」と話したんです。
すると小石さんが「今度、いっしょの会に出ますよ」と。
これはもう、本当にうれしかった。
この機会を逃しちゃったら
ずっと見ないことになるぞ、という気持ちで
「行きます、行きたいです」とお願いをしたんです。


冬の逗子へ、ひとりで行ったんです。
逗子の市民会館だったと思うんですけどね。
落語をやるにはちょっと広い会場でした。
そこで、他の方々が出ている間もずーっと、
僕は志ん朝さんを待っているんです。
そのときに、僕ははっきりと
「志ん朝さんが好きなんだな」と思えました。
ファンとかいうより、好きなんだなと思えたんです。
目をときめかせて見ていましたね。

そうするうちに、志ん朝さんの出番が来ました。
僕の記憶では、後ろが金屏風で、
薄い紫の色の入った着物を着ていたように思います。
ゆっくりと、すり足っぽく、
袖から、すこし前かがみに歩いてくる時間が
意外に長いんですよね。
好きだから、スローモーションに見えたのかもしれない。

世間から「スター」と呼ばれる人で、
後光が差すように見えたのは、
時どきの永ちゃんと、
あの時の志ん朝さんだけじゃないかな。
屏風のせいもあるかもしれないけれど
志ん朝さんが、輝いていたんです。
僕はもう、うれしくてしょうがないんですよね。

志ん朝さんが座って、始まったのが『船徳』です。
始まるとこれが、もう格好いいんです。
あまりに良すぎて、頭に入ってこないんですよね。
噺はもちろん知っているわけですから、
頭に入っていかなくても進んでいくわけですけど、
あぁいいな、よかったなという感覚がずっと続く、
不思議な時間を過ごせました。
それと、あの時の『船徳』はなぜか、
長い噺のように感じられましたね。
よし、まだ終わらないぞ、いいぞっていう気持ちでした。
その日は演芸会ですから、
他の方々のことも観ているはずなのに、
全部を忘れちゃうぐらい印象的でしたね。
たとえるなら坂東玉三郎さんとかが
踊っているときには、
観客がじっと黙って息を飲んで、
興奮を禁じられるような状態になりますが、
そのときの僕は、それに近かったんです。

(続きます)

2015-11-30-MON

高座に咲いた江戸の華、ふたたび

没後十年以上を経た今も、
絶大な人気を誇る昭和の名人、古今亭志ん朝。
若さあふれる1964年(26歳)から円熟期まで、
NHKに残された至芸の記録を初蔵出し!
志ん朝ファンはもちろん落語初心者も
満足の三十四席(CD11席、DVD23席)。

    <DVD 全8枚>

  • ■ DVD 1 収録時間 1:12:00

    「素人鰻」,「たがや」,
    「酢豆腐」

  • ■ DVD 2 収録時間 1:40:30

    「大工調べ」,「幾代餅」,
     イントロコメント「大山詣り」について,「大山詣り」

  • ■ DVD 3 収録時間 1:21:10

    「元犬」,「居残り佐平次」,
     イントロコメント「火焔太鼓」について,「火焔太鼓」

  • ■ DVD 4 収録時間 1:19:10

    「品川心中」,「唐茄子屋政談」,
    「四段目」

  • ■ DVD 5 収録時間 1:41:30

    「刀屋」,「付き馬」,
    「抜け雀」

  • ■ DVD 6 収録時間 1:14:10

    「坊主の遊び」,「愛宕山」,
    「風呂敷」

  • ■ DVD 7 収録時間 1:25:45

    「井戸の茶碗」,「宿屋の富」,「首提灯」
     コメント「首提灯」について

  • ■ DVD 8 収録時間 0:59:00

    「お見立て」,「お若伊之助」

    <CD 全5枚>

  • ■ CD 1 収録時間 1:13:06

    「替り目」,「干物箱」,
    「お化け長屋」

  • ■ CD 2 収録時間 0:56:51

    「船徳」,「明烏」

  • ■ CD 3 収録時間 1:16:38

    「あくび指南」,「花見の仇討」,
    「鰻の幇間」

  • ■ CD 4 収録時間 1:04:05

    「品川心中」,「大工調べ」

  • ■ CD 5 収録時間 0:42:48

    「抜け雀」
    (インタビュー付き)

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