続・はじめての落語。 立川志の輔ひとり会
志の輔×糸井重里対談! イベントについてはこちら!
第6回 その人だけの落語。
糸井 落語って、基礎知識がなくたって、
たのしめると思うんですよ。
だけど、人に落語をすすめるというときに、
いまは基礎知識のことを言いすぎる気がする。
冷静に基礎のことを伝えるよりも、
一生懸命に自分の好きな落語について話せば、
聞いてる人には伝わると思うんです。
志の輔 ああ、はい、はい。
糸井 いま、「ほぼ日」の日曜日の連載に
「虫博士たち。」っていう、
虫についてのコンテンツがあるんですけど。
虫って、夢中な人はものすごく夢中なんですね。
一般の人は虫の話なんか、しやしない。
でも、自分の好きな虫をひとつ、
一生懸命に語ってくれると、
おもしろいんですよ。
「アリジゴクは、こんなふうにして
 アリを捕獲してるんだよ!」
なんて語られると、それは基礎知識がなくても
十分におもしろいんですよ。
志の輔 ああ、そうなんですよね。
話自体がおもしろければ、
作法や話術はどうでもいいはずなんですよね。
本来、「その人の話がおもしろい」
っていうことは、
「間がいい」とか「調子がいい」
とかっていうことではなくて、
話している中身にあるはずなんです。
ところが落語家っていうのは、
「これは自分が考えた話じゃないんだけど、
 これを、いい間で、うまーくしゃべると、
 みんなが笑うんですよ」っていう、
技術に走ってしまうことがあって。
糸井 あああーー、なるほどね!
志の輔 その技術だけを重んじすぎると、
「あいつのあの声の高さはいいね」
というふうになってきたり、
「ああ、いい間だな」
ということになってしまうんです。
でも、それだけじゃないですよね。
うちの師匠(立川談志)なんかはやっぱり
演者がつくったことばであるとか、
独自のフレーズというものが
ものすごく好きなんですよ。
糸井 ああ、なるほど。


志の輔 たとえば、うちの師匠は
「三代目三木助が『へっつい幽霊』で
 『塀越しの話なんでぇ、
  間違ってたらごめんよ』
 っていうところの、
 ことば選びはいいねえ」
っていうことを言うわけです。
つまり、道具屋のへっつい(かまど)に
幽霊が出て、
それが噂になって客がこなくなったもんだから
道具屋の夫婦が
「あのへっついに1円つけて
 誰かにもらってもらおうよ」と相談をする。
それを塀のこっち側でやくざものが聞いていて、
道具屋に入っていって、言うわけです。
「塀越しの話なんでぇ、
 間違ってたらごめんよ」と。
この、ことばの選び方が、三木助ならではだと。
糸井 声の調子や、間ではなくて、
独自のことばの選び方についての
ことなんですね。
志の輔 そうなんです。
というのは、三代目の三木助っていうのは
本物のばくち打ちだったんです。
だから、やくざものの了見がわかるわけです。
そういう男が道具屋に入っていくときに、
ことばづらはキレイなんだけども
相手に有無を言わさぬ強さでもって
「塀越しの話なんでぇ、
 間違ってたらごめんよ」
と言う。すると相手は「は、はい」となる。
糸井 おもしろい(笑)。
談志師匠は、それが三木助ならではの
ことばだと知ってるんですね。
志の輔 ええ。
それは、ほかの人の落語には
ないセリフなんです。
やっぱり技術じゃなくて、
そういうものが重要なんですよね。
そういうものを重ねていくと、
その人だけの落語ができ上がるんです。
糸井 はい、はい。
志の輔 だって、古典だと、どう考えたって、
おおもとのストーリーは同じなんですから。
最初につくった、「作者不詳」の、
その人の噺なんですから。

(続きます!)

2005-12-01-THU
 
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